Home > Interviews > Interview with Ryu Okubo - 「もう進化しないで!」
ただいま絶賛個展開催中の新進気鋭のイラストレーター、オオクボリュウ(通称ドラゴン)をつかまえて話を訊いた。
90年代のある時期までは、新しいモノは新しいモノだった。しかし、新しいモノが必ずしも新しくはない。少なくとも90年代のある時期までは新しいモノが昔のモノよりも面白かった。しかし、新しいモノが必ずしも面白くはない。そんな現代の申し子であるこの若者は、構えることなく、いつも会うときと同じように話してくれた。
本当にそうですよ。絵に関してもそうですもん。これ以上の進化はしなくてもいいというか。でも古いものが好きなんじゃなくて、時間が経っても残る普遍的なものが好きなんです
■ドラゴンくんと初めて会った頃に、ルーツを教えてくれたよね。水木しげるからすごく影響を受けたって。
ドラゴン(以下、D):この間、三田さんと水木さんのお葬式に行ったんですよ。
■ヒップホップと水木しげるっていうのが、ドラゴンのユニークなところじゃない?
D:『ele-king』の文章、素晴らしかったですよね。ああいうキャッチコピーにこれからしようかな(笑)。
■そもそもドラゴンが絵を描きはじめたきっかっけって、漫画だったんでしょう?
D:でも僕は音楽が好きだったから、最初のきっかっけは映画の『イエロー・サブマリン』ですよ。母親に見せられたんですよ。
■えー(笑)!
D:それが小1とかですね。いまでもビートルズは好きなんですよ。音楽がやっぱり良かったですよね(笑)。
■リアルタイムの音楽よりもそっちなんだね?
D:当時流行っていたものも聴いていましたけどね。でもビートルズはずっと好きですよ。
■日本語ラップもすごく詳しいでしょう。リアルタイムじゃないと思うんだけど、キングギドラの『空からの力』の曲名が順番通りに全部言えるじゃない?
D:あれはクラシックだからみんな言えるんじゃないかな(笑)。でもそれは僕の性格もあると思いますよ。調べ癖がヒドいというか。つまみ食いしないで何でも全部いってみるというか。
■じゃあ最初は絵というよりも音楽だったんだね。
D:そうかもしれないですね。
■能動的に音楽を聴きはじめたときに、自分の転機になったものは?
D:ビートルズを聴くようになる前に2年間アメリカにいたことがデカいです。4、5歳のときで、マイケル・ジャクソンがすごく流行っていました。『ヒストリー』が出たときですね。当時の4、5歳のアメリカ人はマイケル・ジャクソンを聴いていたんですよ。子供たちはヒップホップを聴いてませんでしたね。トライブとか流行っていたのかもしれないんですけど、子供の耳に入ってくるのは、マイケル・ジャクソンでした。
■その体験が自分のなかの文化的方向性の何かを決めてしまったの?
D:そうでしょうね。ノーマルな状態にマイケル・ジャクソンが入ってきたわけですもんね。
■それでビートルズを聴いたと。
D:日本に帰ってきてビートルズですね。日本語ラップは流行っていたときに聴きました。リップ・スライムとか、キック・ザ・カン・クルーとか。僕の世代はみんな聴いていますよ。それが小6から中1にかけてのとき。
■「あがってんの? さがってんの?」って。
D:あれがスーパーで流れていて、お母さんにキック・ザ・カン・クルーのアルバムを買ってもらいましたね。当時はエミネムも流行っていました。D12とか。
■懐かしい。エミネムの『8マイル』も流行ったよね。
D:あの頃って、ハードな曲でもみんな聴いていましたよね。ちょっと変な時代でしたよね。だってキャッチーじゃないのに、アメリカみたいにわけもわからず聴いていたんですから。
■じゃあ中学から高校にかけての思春期に大きな影響を与えたものって何?
D:一番影響を受けたのはザ・フーなんです。
■な、なんなんだよ〜、それは!
D:本当に好きで。ヒップホップは聴いていたんですけど、高校1年生のときに、『トミー』を先生に借りて、映画にものすごく感動しちゃって。そこから3年くらいはあの辺の音楽を聴いていましたよ。ビートルズより後のバンドといいますか。ぼくはいまでもああいうバンドが来日したら見に行きますよ。キンクスとかも、リーダーのレイ・デイヴィスがソロで来日したときもフジロックで見ました。
■90年代もそうだったけど、ドラゴンくん世代だとタワーレコードとかで、旧譜とかも普通に手に入るもんね。逆にいうと、古い音楽と新しい音楽が同じように売られてしまっているところもあるからね。例えば、いま流行っている新しい音楽を買うくらいだったら、再発されたフーを買うって感じ?
D:本当にそうですよ。絵に関してもそうですもん。これ以上の進化はしなくてもいいというか。
■それは要するに、いいものが出尽くしているから?
D:そうなんですよ。ピカソとかすごく好きですけど、あそこまでいっているから見栄えとしてはあのまんまでいいかなと。
■でも自分でカタコトをやったり絵を描いたりする上でさ、すでに過去に素晴らしいものがあるのに、そこで自分が出ていくというのは矛盾じゃない?
D:そうですよねぇ……。いつも考えてはいるんですけど。
■「新しさ」とはなんだろう?
D:最近思っているのは、パーソナルになることっていうか。
■「新しさ」って必要だと思う?
D:この展示の感じでいうと、見栄えに関しては新しいことをしている意識はないです。本当にキャンパスに絵の具を使って書くだけというか。キャラクターに関しても、新しいものを生み出しているつもりも全然ないんです。白くて丸いキャラクターっているでしょう? キャスパーとか、スヌーピーとか。ああいうスタイルってあると思うんですよ。それにのっとっているというか。でも今回の扱っている「アイフォンを落として割っちゃった」みたいな、最近のひとの悩みというか、それはキャスパーの時代にはありませんでしたよね。ピカソの時代にももちろんない。だから別に外見に関して新しい素材を使うとかそういう気持ちはないですけど、そういうパーソナルな部分を意識していますね。音楽に関しても似ているかみしれません。リヴァイヴァルっていくらあってもいいけど、その時代のひとがやっていて、そのひとのパーソナルなところが出ていれば、俺は面白いかなと思います。
聞き手:野田努 (2016年4月15日)
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