Home > Interviews > interview with The Temper Trap - スタジアムのロック兄ちゃんたち'16
The Temper Trap Thick As Thieves Infectious / BMG / ホステス |
コートニー・バーネットが今年2月に行われたグラミー賞の主要部門である「最優秀新人賞」にノミネートされたことはここ日本のインディ・ロック・ファンの間でも大きな話題となり、ツイッターでも授賞式の模様は全世界どこでもリアルタイムで実況された。彼女はまた独特の異彩を放っているが、その他にも、ハイエイタス・カイヨーテ、フルームなど、オーストラリア出身の新世代アーティストたちの活躍が止まらない。そしてザ・テンパー・トラップのヴォーカルのダギー・マンダギも「オーストラリアン・バブルかもね」と表現していたが、快進撃の先陣を切ったのこそが、まさしく彼ら、ザ・テンパー・トラップだった。
彼らの2009年のデビュー作『コンディションズ』は世界で累計100万枚以上を売り上げ、YouTubeの再生回数にいたっては2000万回以上という記録を残している。グラストンベリーやロラパルーザなど主要フェスへの出演を含めた全世界ツアーも経験し、英米以外の新人としてじゅうぶんすぎる成功を収めた。
いま音楽においてはインディとメジャーの垣根も、国境も、時差も、まったく関係ないに等しく、情報速度差なく世界中でヒットが共有されていくことは珍しくない。では、アーティストはその環境の変化の速度に付いていけているのだろうか? 今回インタヴューに答えてくれたダギーとジョセフはとても穏やかな口調ながら揺るぎない信念を目の奥に光らせ、「とにかく俺たちは好きな音楽をやるだけ」とばかりにその身を委ねているようだった。しかし、オーストラリア出身のアーティストの名を挙げ、「オーストラリアのアーティスト同士はお互い助け合いたいね」とさらりと地元シーンへの愛も見せる。変化の速度に呑まれることなく、ごく自然にアイデンティティを保持しながら、静かに勇敢に世界へと漕ぎ出している。
セカンド・アルバムで実験的なサウンドに挑戦し、バンドとしては少し迷っていた時期やメンバーの脱退を乗り越えて、今作「シック・アズ・シーヴス」は制作された。長年のツアー・メンバーであったジョセフ・グリーアを正式メンバーに迎え、あらためて絆を強めた彼らは、兄弟のように親密であることを表すタイトルをニュー・アルバムに冠し、いまや世界で活躍するスタジアム・ロック・バンドとなったという使命感にあふれるように、スケールの大きい楽曲を展開している。
垣根なく自由に世界を漂えるいまだからこそ、ザ・テンパー・トラップのような誠実なアーティストにとってはかえって帰属意識やバンドの結束が高まる場合もあるのかもしれない。「オーストラリア出身の」という説明はもはや世界で活躍する彼らにとって不要なようでいて、やはり彼らの重要なエッセンスであるし、「シック・アズ・シーヴス」とあらためてバンドの結束を表明することも、やはり彼らにとっては必要なことだったのだ。
インタヴューの日にはブルース・スプリングスティーンの着古したTシャツを着ていたダギー。世界的にヒットしていてもけっして急に小綺麗になったりしていないごく普通のロック好きな隣の兄ちゃんといった風貌だったが、中身もきっとデビュー時とあまり変わらずそのままに、今日もどこかでスタジアムを熱狂で包み込んでいるのだ。
■The Temper Trap / ザ・テンパー・トラップ
オーストラリアはメルボルン出身。2005年に結成。2006年にオーストラリアでEPデビュー。世界デビュー前から英BBCの注目新人リスト「Sound of 2009」やNME「Hottest Bands of 2009」に選ばれ、2009年には彼らのために復活した〈インフェクシャス〉再開第一弾バンドとして契約。世界デビュー作『コンディションズ』をリリースし、同年夏にはサマーソニック09出演のために初来日、秋には東京と大阪での単独公演を行なうため再来日を果たしている。2012年、かねてよりサポート・ギターを務めてきたジョセフ・グリーアが正式メンバーとして加入し、新たに5人組となって制作されたセカンド・アルバム『ザ・テンパー・トラップ』をリリース。その後ギタリストのロレンゾの脱退を経て16年、4年ぶりとなる新作『シック・アズ・シーヴズ』を完成させた。同年8月には7年ぶりとなるジャパン・ツアーも決定している。
メンバーはDougy Mandagi(ダギー・マンダギ / vocals, guitar)、Jonny Aherne(ジョニー・エイハーン / bass guitar, backing vocals)、Toby Dundas(トビー・ダンダス / drums, backing vocals)、Joseph Greer(ジョセフ・グリーア / keyboards, guitar, backing vocals)
タイトルは、もともとは聞こえがよかったからっていう理由だけで付けたんだけど、忠誠心、兄弟愛という意味もあって。(ジョセフ)
■新作のジャケとタイトルのコンセプトは?
ジョセフ・グリーア:ドラマーのトビーがタイトルを選んだよ。もともとは聞こえがよかったからっていう理由だけで付けたんだけど、忠誠心、兄弟愛という意味もあって。ちょうどメンバーが脱退してから初のアルバムでもあったし、よりメンバーの絆が深まったり忠誠心が強くなったりしている時期だったということもあって、偶然に意味合い的にもつながったと思う。ジャケットに関しては、ベースのジョナサンがハロウィンときに街中で撮ってインスタグラムに上げていた写真だよ。これを“シック・アズ・シーヴス(Thick As Thieves)”のシングルのジャケットに使って、僕たちの写真をアルバムのジャケットに使おうと思っていたけど、この写真(今作のジャケット)のほうが兄弟というイメージも強いので、これをアルバムに使おうということになったんだ。
■ジョセフがサポートから正式加入するきっかけは?
ジョセフ:2008年、デビュー・アルバムの『コンディションズ』のときにツアーのサポート・メンバーになって、2011年か12年頃のセカンド・アルバムの時期に正式に加入した。その頃はまだギターにロレンゾがいたから、僕はキーボードをメインに演奏していたけど、彼が脱退したのでギターになったんだ。ツアー・メンバーだった頃からいっしょに時間を過ごしていたので、その頃からオフィシャル・メンバーのような感覚ではあったよ。
■今作ではスタジアムでのライヴの光景を想像させる、アンセミックでさらにスケールの大きい楽曲が多いと感じました。インディから着実に積み重ね、だんだんと動員も増え、ライヴの規模が大きくなっていったことも曲作りに影響しているのでしょうか。
ダギー・マンダギ:ありがとう! 原動力になるというのはもちろんあるけど、何より演奏していて、曲を作っていって楽しいから自然とそうなることが多いんだ。この曲は会場が盛り上がってくれるだろうな、というのも想像したりもするけど、まずは自分たちが演奏していて気持ちがいいというのが最初にあるよ。
■歌詞はパーソナルなもの? それともフィクション?
ダギー:両方だね。ほとんどはパーソナルな経験にもとづいたものだけど、たとえば今回のアルバムで11曲めの“オーディナリー・ワールド”なんかはすべてフィクションのストーリーだよ。
■影響を受けたアーティストにプリンスをあげていますが、彼の魅力や影響は自らの音楽にどのように反映されていると思いますか?
ダギー:最初の頃はプリンスを参考にしたりヴォーカルのスタイルを彼のように意識していたというのもあったけど、彼の本当に素晴らしいところというのは自分の好きなことをやって自分でアートを生み出しているところだと思うんだ。誰かに言われてやるのではなく、自分でスタイルを作り出しているよね。そういう姿勢こそ彼の魅力だと思うので、テンパー・トラップとしてもそのようにやっていけたらな、と思っているよ。
女の子のために曲を書いたりはしないからなあ~。冗談だけどね(笑)。(ダギー)
■映画「(500)日のサマー」であなた方の“スウィート・ディスポジション”が使用されたことについてですが、あの映画は見ましたか?
ダギー&ジョセフ:もちろん見たよ!
■どうでしたか?
ダギー&ジョセフ:う~ん、まあ女の子向けの映画だよね(笑)。
■曲が使用されることになった経緯は?
ダギー:マネージャーの友だちがその映画の音楽担当と仲がよくて、監督も僕らの曲のファンだということで話が持ち上がったんだ。自分たちがその映画を好きかどうかは関係なく、映画で使われることによって自分たちの曲がより多くの人に知られるきっかけになったのでとてもいい経験だったよ。
■サマーのような奔放な女の子ってどう思う?
ダギー:でも今の女の子ってみんなそうなんじゃない(笑)!? 日本の女の子は違うかもしれないけど。
■きちんと曲のことが理解されて使用されていると思いましたか?
ダギー:曲とシーンがつながっているかというとそうでもないかもしれないけど(笑)、キャリアにとってプラスにはなったと思うよ。
■あなた方の曲の中には、繊細さやフェミニンな部分も含まれているように感じますが、どちらかというと違和感があると。
ダギー:女の子のために曲を書いたりはしないからなあ~。冗談だけどね(笑)。ソフトだったりフェミニンな要素はたしかにあるかもね。何も考えない商業的な歌詞というのではなく、意味のあるものだからこそ繊細さがあるように思われるのかもしれないね。
僕らが幸運だなと思うのは、オーディエンスの幅が広くて、15歳から60歳までいろんな人がいるんだよね。(ジョセフ)
■ローリング・ストーンズのフロントアクトをつとめたと思うのですが、その経緯は?
ダギー:まあ正直ブッキングされて、という感じなんだけどね(笑)。だからそこまで自分たちの中ですごく大事件というほどではなかったんだけど、最初で最後かもしれない、いい経験だったよ。一夜だけだったので何か学んだとかもあまりないんだけどね。
■ローリング・ストーンズといえば存在そのものが「ロック」とも言えると思いますが、あなた方には自分たちもそのロックというものを引き継ぐ存在であるという意識や、あるいはそれを前進させていきたいというような考えはありますか?
ダギー:もちろんストーンズから影響は受けているし大好きなバンドだよ。彼らのようにブルース・ロックンロールという感じに僕らがなろうとは思っていないけど、たとえば僕らの今回のアルバムでも“シック・アズ・シーヴズ”だったり7曲めの“リヴァリナ(Riverina)"はそういうストーンズのようなブルース・ロックの要素が全面に出ている曲でもあると思う。バンドをはじめた頃はよりそういう音だったけど、逆にいまはそれがより薄れて変化してきていると思うよ。
■それは昔といまでオーディエンスが変わったからでしょうか?
ジョセフ:僕らが幸運だなと思うのは、オーディエンスの幅が広くて、15歳から60歳までいろんな人がいるんだよね。それは変わらないし、今回のアルバムも幅広く受け入れられる音楽だと自分たちでは思っているよ。
The Temper Trap - Fall Together (Official Audio)
■同郷のコートニー・バーネットはグラミーにもノミネートされたりと世界的に注目を浴びていますが、あなた方はいまでも地元のインディ・シーンを意識していたり刺激を受けたりしますか?
ダギー:自分たちはそういうシーンも把握しているし、コートニー・バーネットもそうだし、フルームやテーム・インパラなどのオーストラリアのアーティストが国際レベルで活躍するのはすごく素晴らしいことだし、誇りに思うよ。オーストラリアのシーンから世界に出ていくのを互いにサポートしたいという気持ちもあるよ。
■同じオーストラリアでもシーンとしては違うと思いますか?
ジョセフ:オーストラリアのバブルみたいなものもあるけど、自分たちは独特の音楽をやっていると思うし、ルーツは同じかもしれないけど、7~8年前まではロンドンに住んでいたのでそこまで意識はないかな。
■7年ぶりの来日公演もありますね。日本で楽しみにしていることはありますか?
ダギー:食べ物だね!
ジョセフ:ファーストのときに来日してとても気に入ったからまた来たいと思っていたけどセカンドのときは来れなかったから、今回はまた来れるということで興奮しているよ。
ダギー:あ、でもウニは苦手だな(笑)。
取材・文:岩渕亜衣(2016年6月08日)