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Formation Look At The Powerful People Warner Bros. / ホステス |
いま、ロンドンでインディ・ロック・バンドをやることのリアリティとは何だろうか。デビュー・アルバムを放ったばかりのフォーメーションに訊きたかったのは、ある意味でこれに尽きると言っていい。グライム全盛と伝えられるいまのロンドンにあって、バンドを選択することはけっして簡単ではないのではないか。しかもフォーメーションは、移民の子であるリットソン兄弟の双子が中心になっているのを筆頭として人種的な構成は多様で、その身にまとったタトゥーとストリート・ファッションからは今風の行儀のいいおぼっちゃんバンドという印象を受けない。彼らはストリートを知っているようだし、一見何かに逆らっているように見える。では何に?
ヘヴィなベースラインと裏拍を意識したドラミング、そこに乗っかってくるカウベルやコンガといったパーカッション、そして多彩な音色によるシンセの色づけを個性とするフォーメーションの音は、ヒップホップやファンクから影響を受けたエクレクティックなダンス・ロックだ。それは「分断」がキーワードとして取り沙汰される現在のUK(と、世界)に懸命に逆らっているようにも見える……。
が、じつは、その折衷性はザ・クラッシュの時代から連綿と続いてきたUKバンドの伝統でもあり、「らしさ」でもある。またその上で、サウンドの複雑さに比してあくまでストレートにキャッチーなメロディで開放感を謳歌するフォーメーションは、何かに無理矢理逆らうのではなく、自分たち「らしさ」を自然に伸び伸びと放っていることがよく聴けば理解できる。持っている個性を生かすためには、本来多様なジャンルの受け皿となり得るロック・バンドがフィットしたということなのだろう。そうした衒いのなさが彼らの魅力であり、そのことがよく伝わってくる取材であった。
多くのロンドンっ子たちが口にするように、若くて金のない連中にとってかの街はますます住みにくくなっているようだ。移民であればなおさらだろう。だが、フォーメーションはそのことを嘆いたりわめいたりするのにエネルギーを使わず、ダンサブルで情熱的な音を鳴らしながら隔たりなく他者と繋がろうとする。その屈託のない前向きさこそが、フォーメーションのグルーヴの源である。
怒りから生まれるポジティヴなエネルギーってあると思うんだ。壁にパンチする代わりに僕たちは音楽をやってるんだ(笑)。 (マット)
■東京の街はもう見ましたか?
マット・リットソン:ああ、昨日着いて、原宿と新宿を見たよ。
■ロンドンと東京とどんなところがいちばん違うと思いますか?
ウィル・リットソン:たくさんありすぎるよ!
マット:規模がロンドンよりとにかく大きいよね。
ウィル:東京はひとが親切だし、安心感のある街だと思うよ。
■ロンドンのミュージシャンに話を訊くと、いまはとにかくジェントリフィケーションの問題がキツいと話してくれることが多いんですね。何もかも高くなっていて、若者が暮らしにくいと。あなたたちもバンドをやっている上で苦労を感じますか?
ウィル:うん、すごく感じるね。
■音楽をやるのも厳しい?
ウィル:演奏するための楽器がまず買えないんだよね。寄付をもらうこともできるんだけど、申請して認めてもらうためにはきちんとした書類を提出しないといけないし、審査が厳しい。若いうちはキャリアもまだないから、それをもらうのは大変だね。
マット:音楽を作ったり演奏したりする場所もないしね。
■バイオを見るとガレージで演奏していたと書いてあるのですが、そういう環境も影響していますか?
ウィル:ああ、そうだね。母親のガレージで演奏していたよ。
マット:リハーサル・スタジオに通ってたんだけど、お金が払えなくてね。
ウィル:まあでも、ジェントリフィケーションだけじゃなくて、金がないっていうのは誰にでもあることなんだけどね(笑)。
■なるほど。おふたりは音楽的な家庭で育ったのですか?
マット:親がミュージシャンだったってわけではないんだけど、父親がレコード・コレクターだったからね。
ウィル:あと母親も音楽好きで、僕たちに音楽を習わせようとクワイアに入れたりしていたね。
自分もそうだし、友だちや家族もそうなんだけど、みんなタトゥーが好きで同じ模様を入れてたりするから、その繋がりという意味でタトゥーをフィーチャーしたんだ。 (ウィル)
■いまイギリスでは社会的階層によって聴く音楽が分離しているという話も聞くのですが、あなたたちもそんな風に感じることはありますか?
ウィル:そんなことはないんじゃないかな。
マット:以前はあったかもしれないけど、いまはそんなことないと思うよ。
■ワーキング・クラスや貧しい若者たちがいまロンドンで聴いている音楽は圧倒的にグライムだって話も聞くんですけど、そんなこともないんでしょうかね?
マット:うん、そうだね。グライムの作り手はやっぱり貧しいところから出てきていると思うけど、聴き手はワーキング・クラスやアンダークラスに限られているわけじゃないと思う。
■いっぽうで、バンド音楽はどうでしょう?
マット:バンドもそうだと思う。
ウィル:つまり、どの階級のひとが作ったかは問題じゃなくて、いまみんなが気にしているのは、その音楽が正直であるかどうかなんだよね。グライムにしてもインディ・バンドにしてもメジャーなポップスにしても、自分たちが作りたい音楽を作っているかが重要で。そうじゃなくて、何か決まったものになろうとしている音楽にはみんな惹かれないからね。グライムは作り手の真実が感じられるから、強いコネクションを感じるリスナーが多いんじゃないかな。
■では、フォーメーションのリスナーも特定の階層や人種に限られていないのでしょうか?
ウィル:そうだね!
■なるほど。では話題を変えて、“ラヴ”のヴィデオを見るとタトゥー文化がフィーチャーされていますよね。
ウィル:そうだね。
■これはどういった意図によるものなのでしょうか?
ウィル:タトゥーってイギリスではワイルドなイメージがあると思うんだけど、“ラヴ”のヴィデオでは自分たちの周りのひとたちとの繋がりや愛を表現しているんだよ。自分もそうだし、友だちや家族もそうなんだけど、みんなタトゥーが好きで同じ模様を入れてたりするから、その繋がりという意味でタトゥーをフィーチャーしたんだ。
■ちなみにあのヴィデオでは本当に入れてるんですよね?
ウィル&マット:そうだよ! (と言って腕のタトゥーを見せてくれる)
■ほんとだ(笑)。クール! たとえば僕もタトゥー文化に憧れはあるんですけど、日本ではまだまだ反社会的なものだというレッテルを貼られることも多いんですよ。反抗的なイメージをタトゥーに持たせたかったっていうことはないですか?
ウィル:そんなことはないよ。イギリスでは日本よりもタトゥーが受け入れられていると思うし、みんな普通に入れてるからね。
■ただタトゥーのことは置いておいても、フォーメーションのイメージって反抗的なところがあるとは思うんですよね。
ウィル:うーん、わからないけれど、それはイメージ戦略というよりは音楽から来ているものだと思うんだよね。アグレッシヴだったりダークだったり……そういうものが力になってる。自分たちがワルだとか犯罪者だとかって言いたいわけではなくて(笑)、音楽を通じて反抗を表現しているのかもしれない。
■なるほど。フォーメーションって言葉もいいと思うんですよ。奇しくも去年ビヨンセが“フォーメーション”という曲でとても評価されましたけど、いま、連帯というイメージを持っている言葉なのかなと。あなたたちはフォーメーションという言葉にどんな意味を込めましたか?
ウィル:それはビヨンセのヴィデオと同じだよ。僕たちもフォーメーションという言葉に連帯という意味を持たせたかった。ただ、あの曲で僕たちはインターネット上では埋もれてしまったんだけどね(笑)。
■(笑)ちなみにそのビヨンセやケンドリック・ラマーは、政治的な態度としてもアメリカで評価されていますが、共感するところはありますか?
マット:グレイトだよ。ケンドリック・ラマーは素晴らしいよね。70年代のヒップホップは、政治や世のなかのことに触れながら自分が思うことをまっすぐに伝えようとする意志があったけど、そのあと扱うトピックがつまらないものになっていった傾向があると思うんだよね。いまそれが戻ってきて、まさに彼らがやっていると思うんだよ。
ウィル:そうだね。ヒップホップは自分たちのあり方を提示してきた音楽だけど、彼らはいまそれをやってるよ。
■ただいっぽうで、若い音楽リスナーがそういったUSのヒップホップやR&Bばかり聴いて、イギリス発の音楽をあまり聴かないという風にも聞くんですけど、そういった実感はあまりないですか?
ウィル:そうは感じないかな。僕はいま28歳なんだけど、自分たちの世代は分け隔てなくいろいろな音楽を聴いてるひとが多いと思うよ。イギリスではアデルやゴリラズが世界的に成功しているし、みんなそのことを誇りに思っているんだ。僕たちはたくさんの音楽の良いミックスを聴いているんだよ。
■なるほど。ただゴリラズにしても、世界の音楽を貪欲に取り入れていますよね。フォーメーションもUSのヒップホップやアフリカの音楽など、たくさんの音楽から影響を受けていますが、そんななかでも、自分たちはイギリスのバンドだとアイデンティファイしているのでしょうか?
マット:強く意識はしているわけではないかな。
ウィル:そこが重要だとは思っていないんだ。
マット:僕たちは世界中のオーディエンスと繋がりを持ちたいからね。
■意識してユニヴァーサルなものを目指している?
ウィル:いや、と言うより、どこの音楽を取り入れるかよりも、自分たちのパーソナルな部分を取り入れるほうが僕たちにとっては重要なんだ。そうなると自然とロンドンの文化や歴史はにじみ出てくるとは思う。自分たちの家族の歴史だとかね。
■なるほど。では、ロンドンの文化のどういったところにもっとも繋がりを感じますか?
ウィル:音楽のヴァラエティそのものだね。
マット:ロンドンはマルチ・カルチュラルな街だから、そこがいちばん僕たちの音楽に反映されていると思う。
■いまおっしゃったように、フォーメーションの音楽にはたくさんの要素が入っていますよね。楽器の数も多い。なぜ4分間のポップ・ソングのなかにたくさんのものを入れるのでしょうか?
マット:自分たちが聴いてきた音楽っていうのは本当に多様で、そのぶんたくさん選択肢があるんだよ。それを詰め込むしかなかったんだ(笑)。
ウィル:やりすぎて複雑になりすぎているところもあるかもしれないけど……ファースト・アルバムだし、とにかくいろんなことにトライしたかった。エキサイティングなものにしたかったしね。
■なかでも、とくにパーカッションが目立っているのがフォーメーションの特徴ですよね。よくカウベルが挙げられますけど、それだけじゃなくてタンバリンやコンガも効果的に使われてますね。パーカッションはフォーメーションの音楽にとってどのような意味を持つのでしょうか?
ウィル:パーカッションはものすごく大事なんだ。ドラムで基本的なグルーヴを作っていくんだけど、タンバリンやコンガでアクセントをつけていくようにしていて。というのは、パーカッションっていうのは昔から触れてきたから、もはや自分たちの一部なんだよ。僕たちには使う必要があるし、そういった側面を出していくことは僕たちにとってすごく重要なことなんだ。
■ディスコやハウスからの影響もありますか?
ウィル:いや、僕にとってはアフリカ音楽やオーケストラ音楽からの影響が強いんだ。僕の好きなドラマーがクラーベとアフリカ音楽の関連性についての本を書いているんだけど、それもすごく読んだしね。
■そうなんですか。アフリカ音楽とはとくにどういったところにコネクションを感じますか?
ウィル:僕たちの家族がガーナ出身なんだ。
■ああ、なるほど。ルーツという意味が大きいんですね。
ウィル:そうなんだよ。
■パーカッションが目立つこともあって、ファーメーションの音楽はリズムとベースが中心でとてもダンサブルですが、なぜダンス・ミュージックであることが重要だったのでしょう?
マット:みんなの身体を動かしたいからだよ。そうやってオーディエンスの反応を見るのはすごく楽しいことだし、みんなが楽しんでいる姿を見るのは嬉しいね。
■やっぱりライヴはみんな踊りまくるって感じですか?
ウィル:その通りだよ(笑)。
■あと、ギターがなくてシンセが中心にあるのもバンドとしてユニークですが、どうしてシンセだったのですか?
ウィル:バンド・メンバーにギターを弾けるやつがいなかったから……。そこはシンプルな理由なんだ(笑)。
■ははは。ただ、それにしてもシンセの音色がすごく前に出てるなと思うのですが、シンセのどういうところが好きですか?
マット:シンセはあらゆるサウンドを作ることができるからね。ギターってやっぱりギター・サウンドになっちゃうから――
ウィル:ペダル使えばいろいろできるじゃん。
マット:そうなんだけど、シンセはスケールが全然違うよ。いろいろな音色を出せるのが魅力なんだ。
■シンセ・サウンドという意味で、誰かからの影響はありますか?
ウィル:(即答で)ナイン・インチ・ネイルズ。
■ああ、なるほど。
ウィル:あとはYMOだね。
マット:YMOはいいね。
■おお、本当にいろいろな音楽から影響を受けているんですね。
どんな理由であっても誰に対しても、繋がりを感じられないことが僕はすごく嫌なんだ。誰かと繋がりを持つということがすごく大事だと思っているから (ウィル)
■ではまた話題を少し変えて、(ザ・ストリーツの)マイク・スキナーが監督した“パワフル・ピープル”のヴィデオについて訊きたいのですが。あれはどういう経緯でできたものなんでしょうか?
マット:レーベルのひとと彼が友だちだったんだ。マイクがミュージック・ヴィデオを撮りたくていろんなレーベルにアプローチしていたらしいんだけど、自分たちもちょうどヴィデオが必要で、たまたまそのタイミングが合ったんだよね。それでレーベルが繋いでくれたんだ。
■ヴィデオを撮る前は、あなたたちにとってマイク・スキナーってどういう存在でしたか?
ウィル:もう大ファンだったよ。
マット:もともと大好きだったけど、仕事をいっしょにしてからこんなにも賢いひとなんだって気づいたんだ。
ウィル:ひとに対しての知識がすごくあったのが印象的だったな。
マット:ヴィデオを撮る前に何度か電話でアイデアを話したんだけど、彼の声もすごくユニークなんだよね。ザ・ストリーツのラップを聴いてるような気分だったよ(笑)。
■それはいいですね(笑)。彼とヴィデオについてどういったことを話し合ったのでしょうか?
マット:インディ・バンドのためのグライムのヴィデオを作ろうというのがコンセプトだったんだ。
■ああ、なるほど。
マット:ただグライム・アーティストをコピーするんじゃなくて、グライム風にバイクに乗った連中を撮るっていうか――
ウィル:本当に即興的にバンドの姿やモーターバイクを撮って。そこで自然に起きることに任せたんだけど、それがすごく楽しかったよ。あんまり計画的なものではなかったんだよ。
■ちなみになんですが、ザ・ストリーツのアルバムではやっぱりファーストがフェイヴァリットですか?
ウィル:うん、やっぱり『オリジナル・パイレーツ・マテルアル』だね。本当にユニークで、最初に“ハズ・イット・カム・トゥ・ディス?”を聴いたときはラジオが壊れたと思ったよ(笑)。ディジー・ラスカルもそうだけど、他のラップとは全然違ったよね。
■ほんとそうですね。“パワフル・ピープル”というのも強い言葉ですが、歌詞にある「マイ・パワフル・ピープル」というのは誰のことを指しているのでしょうか?
ウィル:自分が繋がりを感じられるすべてのひとのことを指してるんだ。どんな理由であっても誰に対しても、繋がりを感じられないことが僕はすごく嫌なんだ。誰かと繋がりを持つということがすごく大事だと思っているから、そんな意味を込めて「マイ・パワフル・ピープル」と呼びかけているんだよ。
■なるほど。フォーメーションの音楽には怒りはあるのでしょうか?
マット:あるね。怒りから生まれるポジティヴなエネルギーってあると思うんだ。壁にパンチする代わりに僕たちは音楽をやってるんだ(笑)。たとえばリーズですごくいいショウができたことがあるんだけど、ショウの前は何もかもうまくいってなかったんだよね。プラグインやら何やらがちゃんとできなくて、開始も遅れてみんなイライラしながらステージに立ったんだけど、その苛立ちがうまく機能してベストなショウができたんだよ。そういうエネルギーは僕たちの曲にあると思う。
■曲のなかでは、何に対する怒りが込められているのでしょうか?
マット:いや、音楽に関しては怒りと同じエネルギーがあるというだけで、何か特定のものに怒っているわけではないんだ。
■なるほど、わかりました。では、フォーメーションの音楽からはストリートで生きるという態度を感じるのですが、いっぽうで、現在のインターネット・カルチャーについてはどんな風に感じていますか?
ウィル:あんまりいいとは思えないよね。いろんなひとが繋がれるという意味では便利なんだけど。たとえばフェイスブックなんかでも、みんなが自由にできるのはいいことなはずなのにかえって争ってるんだよね。フェミニズム対アンチ・フェミニズムとかね。僕はそういうところはどうかと思うな。
■フォーメーションってあんまりフェイスブックが似合わない感じしますもんね(笑)。
ウィル:そうだね(笑)。
マット:僕はソーシャル・メディアも嫌いじゃないよ(笑)。どう使うかなんだよね。
ウィル:まあ、地球の裏側のひととも話せるしね。使い方を間違えなければすごく機能するものではあるんだけどね。
■その通りですね。では時間なので最後の質問なのですが、バンドの現在の最大の野望を教えてください。
マット:日本に戻ってくることだね。
(一同笑)
マット:あとはやっぱりセカンド・アルバムだね。今年にはもう出したいと思ってるんだ。
■おお。どんなセカンドが理想ですか?
ウィル:ファーストとまったく違うものだね!
取材・文:木津毅(2017年6月07日)