Home > Interviews > interview with KANDYTOWN - 俺らのライフが止まることはないし、そのつもりで街を歩く
東京・世田谷を拠点に十代から集まった仲間同士によって結成され、総勢16名のメンバーを擁するヒップホップ・コレクティヴとして活動する KANDYTOWN。インディペンデントでの活動を経て、2016年にグループとしてのファースト・アルバム『KANDYTOWN』にてメジャー・デビューを果たし、それと並行して各メンバーのソロ活動も精力的に展開してきたことで、日本のヒップホップ・シーンの中で、KANDYTOWN の存在感は年を追うごとに加速度的に存在感を増している。
2019年に入って、EP「LOCAL SERVICE」によって久しぶりに作品リリースを再開した彼らが、ついに完成させたセカンド・アルバム『ADVISORY』。KANDYTOWN の熱心なファンであれば、前作同様に東京という街や彼らの仲間を思う気持ちがこもったラップの中に彼らのクールで普遍的な魅力が伝わってくる一方で、ソロ活動を経ての個々の確実な成長が、アルバム全体に溢れていることを感じ取ることができるだろう。
今回のインタヴューでは、今回のアルバム『ADVISORY』のメイン・プロデューサーである Neetz と、もうひとりのプロデューサーでもある Ryohu (ふたりともラッパーとしても複数の曲に参加)、さらにある意味、本作の MVP とも言える Gottz の3人に参加してもらい、アルバム制作の過程を中心に語ってもらった。行間から溢れてくる KANDYTOWN のファミリー感も含めて、彼らの生の声をぜひ聞いて欲しい。
■3年前に前作『KANDYTOWN』をリリースして、それ以降、それぞれソロでの作品も積極的にリリースしてきましたが、思い描いていたプラン通りという感じでしょうか?
Ryohu:そうですね。漠然とファーストを出した後に、ソロをやっていこうっていうのはあったので。KANDYTOWN だけでやっていくよりも、ソロでちゃんと力を付けて、それが KANDYTOWN に返ってくるのが理想だし。だから、ソロでやっていくのも大事だっていう話もしてたんで。だから、思い描いていた通りにはなっていったかなって。特に Gottz なんかは2枚もアルバムを出して、こんな立派になられて。
Gottz:(笑)
■今年5月の渋谷 TSUTAYA O-EAST でのワンマンであったり、フェスへの出演とか、個々での活躍するフィールドも大きくなっていって、オーディエンスの反応自体も大きなものになってると思うんですけど、実感としてはいかがですか?
Ryohu:知ってもらえるようになって、聞いてくれる人が増えた分、やっぱりどこに行っても盛り上がってくれて。昔よりは多くの人が楽しんでくれてるのは感じていますね。
■今年2月にはEP「LOCAL SERVICE」をリリースしていますが、今回のアルバム『ADVISORY』の話が出てきたのはどの辺りのタイミングだったのでしょうか?
Neetz:「LOCAL SERVICE」が出た後に、Zepp でのライヴ(今年11月に行なわれる Zepp Diver City と Zepp Osaka Bayside での公演)をやろうっていう話になって。それに向けてアルバムを作ろうっていう話になって。
■アルバムの方向性などについて話したりはしたのでしょうか?
Ryohu:Neetz に「ビート、よろしく!」ぐらいな感じでしたね。とりあえず1曲やって、2曲、3曲って、ビートを作り始めようって。
■つまり、アルバムをどういう形にするっていう話はせずに?
Neetz:かっちり話し合ったっていうのはあんまりしなかったと思いますね。とりあえず音を作って、みんなに聞かせて。ひとつずつ曲を作っていった感じですね。
「これを俺にやらせてくれなかったら、二度と Neetz と喋んない」っていうくらいの勢いで。「やりたいから、やらせて」みたいな逆オファーもしたっすね。(Gottz)
■過去のインタヴューでも KANDYTOWN はビート先行っていう話をされてましたけど、今回のアルバムに向けて、ビートのイメージなどはありましたか?
Neetz:Zepp でライヴをやるっていうのは決めてたんで、とりあえずはデカい箱(会場)で鳴らすためのサウンドを意識して、ビートは作っていって。それぞれのビートに合う、KANDYTOWN のメンバーを選んでハメていくっていう作業をしましたね。
■ビートを作った時点で、誰がラップするっていうのも決めていったと?
Neetz:定まってないのもいくつかありましたけど、大半の曲は自分で事前に決めました。ファースト・アルバムのときは、そういうことはあんまりしなくて、みんなにビートを投げて、それに誰かが乗っかってくれるっていうやり方が多かったけど、今回は指定してっていうのが多かったと思いますね。
■ビートを作りながら、誰がラップするのかを自分で見えるようになったっていうことでしょうか?
Neetz:そうですね。ソロ・アルバム(『Figure Chord』)のときにも自分でラッパーを指定したんですけど、結構、悩んで作ったんで。その辺りの成果が今回のアルバムにも反映させられたのなかって思います。
ソロをやることによって、その人のラップの良さがより分かるからね。(Neetz)
そう。漠然と「何を作ったら良いんだろう?」って思うよりも、メンバーのことを理解した上で作れる。(Ryohu)
■今日、お話を伺っている3人は、それぞれ今年に入ってからもソロでの作品をリリースしていますが、ソロ活動が今回のアルバムにも大きな影響を与えていると思いますか?
Ryohu:確実に大きいと思いますね。ソロでやった分、KANDYTOWN でアルバムを作るっていうのは作りやすかった。ひとりで作品を作るとなると、例えば1曲作る場合にも全部自分でやることが多いと思うんですけど、KANDYTOWN のアルバムを作るならば、近い仲間がいて、「ちょっとワン・ヴァース蹴ってみてよ」みたいのも簡単にできて、そっからトントン拍子で作っていける。
■サウンド面で今回はトラップ的な要素が入ってきていますが、そういう部分では前作からかなり幅が広がった印象があります。すでに Neetz 君のソロ・アルバムでもトラップはやっていましたが、そういったサウンドもやるようになった理由は何でしょうか?
Neetz:単純に昔と作っている環境が変わってきたっていうのもあるし、ドラムのスネアとかキックとか選び方も、どの音がハマるかっていうのも分かってきたと思うんで。成長っていうか分からないですけど、そういうのが分かってきたのかなっていうのは思います。
■こちらの勝手な推測なんですけど、KANDYTOWN の中で Gottz 君のソロって、KANDYTOWN の幅を広げるっていう意味で、結構大きいのかな?って思っていて。
Ryohu:確実にデカいと思います。
Neetz:デカいですね。
■トラップを取り入れたサウンドの部分にも Gottz 君のソロが影響しているのかな?と思ったんですが、いかがでしょうか?
Neetz:サウンド面でもちょっとは影響があると思いますね。
Ryohu:それこそ、O-EAST でのEP(「LOCAL SERVICE」)のリリース・パーティのときに、合間に Gottz と MUD の時間を設けたんですけど。そこでのライヴにおける爆発力っていうのがハンパなくて。自分たちも楽しめるし。その楽しさに味をしめたっていうのがあるかもしれませんね。
Gottz:いままで KANDYTOWN でやる場合、普通に好きだけど、自分のソロでは使わないようなビートっていうのが多かったんですけど、今回は自分のソロでも使いたいようなビートが多くて。3曲目の“Last Week”とか“Slide”とかもそうですけど、ああいうビートが俺はいちばん大好物なんで。っていうか、「これを俺にやらせてくれなかったら、二度と Neetz と喋んない」っていうくらいの勢いで。「やりたいから、やらせて」みたいな逆オファーもしたっすね。
Neetz:(笑)
Gottz:実は俺は3年前のアルバム(『KANDYTOWN』)の自分をあんまり認めていなくて。あんまりやれてなかったし、自分的にはダメだった。ヴァース数も少ないし、ライヴでも演る曲も少ないし。そこでクサることはできたけど、じゃあ、ソロでカマしてやれば良いじゃんっていう開き直りで。俺みたいなやつでも、ソロ・アルバムを出せるチャンスがあったんで。〈P-VINE〉から『SOUTHPARK』を出させてもらって。そうやって独り立ちして、発言権のある人間として帰ってこれたのは良かったかなって。
■今回のアルバムでの個々の参加曲数をカウントしたら、Gottz 君が最多(15曲中8曲)ですよね?
Gottz:そうですね。けど、それはたまたまというか。俺と同じくらいヴァースを録っている人もいたんですけど、俺は1曲も削られなかったっていうだけで。そこがいちばんデカいですね。
Neetz:Gottz はソロ・アルバムを2枚出して、ソロでライヴもやって。Gottz のライヴは客が物凄く盛り上がるから、単純にスゲえなって。やっぱり、そこからの影響っていうのはありますね。
■実力でメンバーを認めさせたと?
Neetz:そうですね。この人はそれをやって。そうなると、今回のアルバムにも入れたくなるから、結果的に曲数が増えてきた。
Ryohu:あと、ソロをやることによって、その人のやりたい音楽性とかが分かるじゃないですか。一緒にやってても分からないことも多々あるし、昔のイメージで止まっちゃう場合もあるだろうし。俺はビートメーカーも兼任してるんで、「Gottz だったらこういうのが良いのかな? Neetz だったらこういうのが良いのかな?」って、何となくその辺のイメージもしていて。そういう意味で、ソロがあると、ビートを作る側としても「ここに Gottz を入れたら面白くなるんじゃないかな?」とかっていうのができるんで。
Neetz:ソロをやることによって、その人のラップの良さがより分かるからね。
Ryohu:そう。漠然と「何を作ったら良いんだろう?」って思うよりも、メンバーのことを理解した上で作れる。今回のアルバムで Neetz が「このビートにはこのラッパーが乗って欲しい」ってイメージできてるのも、そこが理由のひとつになっていると思います。
YUSHI君に関しては、ヴァースをやっている人たちが、それについて言っているかもしれないし、また別のことを言ってるかもしれないし。それはヴァースをやっている人、それぞれの気持ちだと思うんですよね。(Neetz)
■具体的にアルバムの制作がスタートしたのはいつ頃でしょうか?
Ryohu:2月14日に「LOCAL SERVICE」をリリースして、その後、2月20日に Neetz のソロ・アルバムが出て。それまで Neetz が自分のことで精一杯だったので、それが終わって3月に入ったくらいから、Neetz が KANDYTOWN のビートを少しずつ作り出して。9月くらいに全体のミックスとマスタリングが終ったので。だから、5、6ヶ月くらいかかりましね。
■約半年間の制作で15曲、さらにボーナストラックを合わせるとかなりのボリュームですね。
Ryohu:Neetz が頑張ってくれました。
■ちなみにアルバムの中で最初に作った曲は覚えていますか?
Neetz:何だろう?
Gottz:“Take It”じゃない?
Neetz:あっ、そうだ!
Gottz:最初に KIKUMARU がラップ書いてたんだよね? それで俺はゲームしながら、KIKUMARU に耳元でラップされて、「こういう感じなんだけど、どう?」って。「あ~」って聞き流してて。
Ryohu&Neetz:(笑)
Gottz:その20分後くらいに俺もリリックを書き出して、パッと書いたのがあれだったと思う。「Gottz のほうが勢いあるからワン・ヴァース目で良いっしょ?」みたいに Neetz が言ってくれて。
Neetz:そうだったね。先に KIKUMARU が録ってたけど、Gottz の勢いが良かったからワン・ヴァース目とツー・ヴァース目を入れ替えたんだ。
Gottz:その後に MUD がフックを入れてみたいな流れで。
■あの曲の「違うママから生まれたけど、俺らブラザー」とか、「ララバイ」と「儚い」で韻踏んでるところとか、結構パンチラインになってて好きです。
Gottz:ありがとうございます。でも、本当にあんまり考えずに書いてて。
■それが逆に良かったんでしょうね。
Neetz:本当に勢いですね。
■そこから1曲1曲作っていって、全体のムードができていった感じでしょうか?
Ryohu:そうですね。何曲かごとに誰かが勢いをつけてくれると、みんなも「おっ、来たか!」みたいな感じになって、周りも作ろうっていう気になってくる。何もしないときは、本当にみんな何もしなくなっちゃうんで。
■今回のアルバムの中でキーになった曲はどれでしょうか?
Neetz:とりあえずリード曲で行こうみたいな感じだったのは“HND”と“Last Week”で。
Ryohu:もう録っている段階でわりと、そういう話が出ていて。
Neetz:最初、一発目に“HND”でシングルを出そうっていうのは決めていて。ビートができた時点で、これ一発目かなっていう話をした気がする。それで、みんなのヴァースを乗っけて。
Gottz:多分、俺が最初に言った気がするんだよね。ビートがなんかもう KANDYTOWN っぽいし、「これが一発目で良いんじゃない?」って。Neetz のビートの中でもまだ誰も触ってすらいなかったときに、俺は自分では絶対にラップしないけど、「これ格好良いじゃん!」ってずっと思っていて。それで、Neetz の家で「これなんじゃない?」みたいに言ったんじゃないかな?
Neetz:それ覚えてる。感触を窺うために、ビートをみんなに聴かせるタイミングがあって。それで Gottz が言ってくれたっていうのはある。
Gottz:MUD がやったら間違いないから、「とりあえず MUD でしょ!?」みたいな。やっぱり、安定感が彼にはあるんで。それで MUD が入れてから、BSC と DIAN もリリックを書いて。
■これは単純にリリックの中に「羽田エアポート」って出てきたから、「HND」っていうタイトルに?
Neetz:そうですね……としか言えないですね(笑)。最初にタイトルを聞いても意味分かんないでしょうけど。
取材・文:大前至(2019年10月30日)
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