ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Golem Mecanique - Siamo tutti in pericolo | ゴーレム・メカニーク
  2. Bon Iver - SABLE, fABLE | ボン・イヴェール、ジャスティン・ヴァーノン
  3. Knxwledge & Mndsgn ──〈Stones Throw〉からノレッジとマインドデザインが揃って来日、東京・福岡・大阪・名古屋をまわります
  4. SEEDA ──およそ13年ぶりのアルバムをリリース、完全受注生産でCD+Tシャツのセットが発売
  5. Nujabes Metaphorical Ensemble & Mark Farina ──ヌジャベスの音楽を未来につなげるイヴェント「flows」、会場ではマーク・ファリナのミックステープが先行販売
  6. Brian Eno ──ブライアン・イーノのジェネレイティヴなドキュメンタリー映画が東京・名古屋・大阪でも上映決定
  7. Sherelle - With A Vengeance | シュレル
  8. downt ──ニュー・シングル「AWAKE」が配信でリリース
  9. 型破りの夜 - ──Zoh Amba、アコースティック・ギターを手に
  10. interview with Primal 性、家族、労働  | プライマル、インタヴュー
  11. Columns R.I.P. Max Romeo 追悼マックス・ロミオ
  12. interview with Nate Chinen 21世紀のジャズから広がる鮮やかな物語の数々 | 『変わりゆくものを奏でる』著者ネイト・チネン、インタヴュー(前編)
  13. あたらしい散歩──専門家の目で東京を歩く
  14. Soundwalk Collective & Patti Smith ──「MODE 2025」はパティ・スミスとサウンドウォーク・コレクティヴのコラボレーション
  15. Jefre Cantu-Ledesma - Gift Songs | ジェフリー・キャントゥ=レデスマ
  16. 別冊ele-king VINYL GOES AROUND presents RECORD――レコード復権の時代に
  17. Seefeel - Quique (Redux) | シーフィール
  18. Actress - Grey Interiors / Actress - Tranzkript 1 | アクトレス
  19. Black Country, New Road - Forever Howlong | ブラック・カントリー、ニュー・ロード
  20. DREAMING IN THE NIGHTMARE 第2回 ずっと夜でいたいのに――Boiler Roomをめぐるあれこれ

Home >  Interviews > interview with Ravi Coltrane - 母アリス・コルトレーンの思い出

interview with Ravi Coltrane

interview with Ravi Coltrane

母アリス・コルトレーンの思い出

──ラヴィ・コルトレーン、インタヴュー

小川充    通訳:渡瀬ひとみ   Jul 21,2021 UP

アリス・コルトレーン入門のための10枚

選・文:小川充

1. John Coltrane, Alice Coltrane / Cosmic Music
Coltrane Recording Corporation (1968) → Impulse! (1969)


※ジャケは〈インパルス〉盤

ジョン・コルトレーンの死の翌年に発表された作品で、彼が生前に録音した2曲と死後にアリス・コルトレーンが録音した2曲を収録。ファラオ・サンダース、ラシード・アリらコルトレーン・グループ最終期のメンバーも参加。タイトルどおり宇宙をテーマに掲げ、それを曼荼羅になぞらえたインド密教や古代エジプトの宇宙観に彩られる。音楽的にはフリー・ジャズと形容できるが、“The Sun” におけるアリスのピアノの深遠で孤独な美しさは筆舌に尽くしがたい。

2. Alice Coltrane / Huntington Ashram Monastery
Impulse! (1969)

アリスがハープの演奏をはじめたのはジョン・コルトレーンの死後に放ったソロ第1作の『A Monastic』(1968年)からで、第2弾となる本作ではラシード・アリ、ロン・カーターとのトリオ編成で、レコードのA面でハープ、B面でピアノをメインにフィーチャーした構成。全体的にモード奏法に則った演奏で、トリオというシンプルな編成だからこそ万華鏡のように煌めくハープの演奏が際立つ。ヒンディー教の改宗名となる “Turiya” や “Ashram” “Jaya Jaya Rama” など、ヒンディーやサンスクリット語のタイトルやワードが用いられのはこのアルバムからで、彼女がインドの精神世界に没入していく様子がうかがえる。

3. Alice Coltrane featuring Pharoah Sanders and Joe Henderson / Ptah, The El Daoud
Impulse! (1970)

ジョン・コルトレーン後継者の最右翼だったファラオ・サンダース、それに並ぶ存在のジョー・ヘンダーソンというサックス奏者2名を迎えたアルバムで、ステレオの右チャンネルにファラオ、左チャンネルにジョー・ヘンを配した録音となっている。インド哲学やヒンディー教への帰依を示す “Turiya & Ramakrishna” がある一方、ジャケットのデザインや “Blue Nile” のように古代エジプト文明をモチーフとする曲もある。その “Blue Nile” は神秘的なハープとフルートに導かれるモーダルなスピリチュアル・ジャズの傑作。

4. Alice Coltrane featuring Pharoah Sanders / Journey In Satchidananda
Impulse! (1971)

前作に続いてファラオ・サンダースと組み、ラシード・アリ、セシル・マクビーという強力なリズム・セクションを擁した〈インパルス〉時代の最高傑作。ビート詩人のアレン・ギンズバーグも師事していたインテグラル・ヨガのグル、スワミ・サッチダナンダとの交流に触発されて作った作品で、タンブーラなどインドの古典楽器も交えた演奏がおこなわれる。特に表題曲でのハープとタンブーラによるラーガを取り入れた演奏は、アリスによるスピリチュアル・ジャズとインド音楽の交わるひとつの到達点と言える。

5. Alice Coltrane With Strings / World Galaxy
Impulse! (1972)

大規模なストリングス・セクションとの共演で、アリスはピアノ、オルガン、ハープ、タンブーラ、パーカッションなどをマルチに演奏するほか、オーケストラ・アレンジもおこなっている。自作曲も演奏するが、ジョン・コルトレーンの代表曲の “A Love Supreme” と彼の定番演奏曲であった “My Favorite Things” もやっている。その “My Favorite Things” では前半のオルガンを中心としたサイケデリックで混沌とした演奏から、後半の壮大なストリングスに彩られた世界へと昇華していく様がドラマティック。

6. Joe Henderson featuring Alice Coltrane / The Elements
Milestone (1974)

ジョー・ヘンダーソンとの再共演で、アリスはピアノ、ハープ、タンブーラなどを演奏。周りをチャーリー・ヘイデン、マイケル・ホワイト、レオン・ンドゥグ・チャンクラー、ケネス・ナッシュら猛者が固め、火・空気・水・土という世界の物質を構成する四元素から名付けられた4曲を収録。土着的なアフロ・ジャズの “Fire” やドープなジャズ・ファンクの “Earth” などはジョー・ヘンのカラーが強い作品で、アリスにとってはある意味で異色作とも言えるが、彼女の参加作の中でもっともブラック・ジャズ、スピリチュアル・ジャズ色の強い作品でもある。“Air” はアリスならではのインド音楽とフリー・ジャズのエクスペリメンタルな邂逅と言える。

7. Devadip Carlos Santana & Turiya Alice Coltrane / Illuminations
Columbia (1974)

ラテン・ロック・バンドのサンタナのリーダーであるカルロス・サンタナとの共演作。ジャズ勢とのコラボをいろいろ行うカルロス・サンタナだが、ジョン・コルトレーンの熱烈なファンでもあり、その未亡人のアリスとの共演が実現した。サンタナのメンバーのほか、ジャック・ディジョネットやデイヴ・ホランドなどマイルス・デイヴィスのグループで活躍してきた面々が参加。カルロス・サンタナはアリスについて「至高で独創的な音楽家」、「自身にとってストラヴィンスキーやレナード・バーンスタインのような存在」と高く評価しており、彼女のスピリチュアルな啓示がカルロスの精神を高みへと導き、彼の作品中でもっとも信仰心に満ちたアルバムとなった。“Angel Of Air” や “Angel Of Water” など、ストリングスを用いた壮大で高揚感に満ちた世界が展開される。

8. Alice Coltrane / Eternity
Waner Bros. (1976)

〈インパルス〉から〈ワーナー〉へ移籍しての第1作で、チャーリー・ヘイデン、ジェローム・リチャードソン、ヒューバート・ロウズ、サンタナのアルマンド・ペラザらと共演。時代的にはジャズのフュージョン化が進んでいた時期で、アリスの音楽にもさまざまなスタイルとの融合が見られる。そのひとつがエキセントリックな電化ジャズ・ファンクの “Los Caballos” で、パーカッシヴなラテン・リズムとアナログ・シンセ内蔵オルガンが入り乱れた演奏は圧巻。アリスのアグレッシヴさが表われた貴重な録音と言えよう。“Spiritual Eternal” や “Spring Rounds From Rite Of Spring” における映画音楽のようなスケールの大きいオーケストレーション・アレンジも光る。“Om Supreme” はゴスペルとソフト・ロックが出会ったような不思議な混声コーラスを聴かせる。

9. Alice Coltrane / Transcendence
Waner Bros. (1977)

以前のジャズ・ミュージシャンたちとのセッションから打って変わり、インドの伝統楽器の演奏者、ストリングス、コーラス隊を交えるほかは管楽器、リズム・セクションなどが入らない異色の編成で、アリスも鍵盤類やハープ、タンブーラなどを多重録音する。アリスのマルチ・クリエイター、トータルなサウンド・プロデューサーぶりが発揮された作品であり、インド音楽へのさらなる傾倒が伺える。ニューエイジ・ミュージックやヒーリング・ミュージックへ進む分岐点となったアルバムだ。ハンドクラップとコーラスで綴る “Sivaya” はインド風ゴスペルと言うべきか。

10. Alice Coltrane / Translinear Light
Impulse! (2004)

2007年に没したアリスにとって生前最後の録音となったアルバム。息子のラヴィ・コルトレーンがプロデュースとテナー・サックスなどの演奏で参加し、さらに弟のオーラン・コルトレーンもアルト・サックスを演奏する。ほかにチャーリー・ヘイデンやジャック・ディジョネットなど長年に渡る共演者も参加。“Blue Nile” や “Jagadishwar” など自身の代表曲の再演のほか、“Walk With Me” や “This Train” などゴスペルや民謡も演奏する。表題曲や “Blue Nile” などに見られるように全体的にモーダルな演奏で、ラヴィの演奏も父、ジョン・コルトレーンを彷彿とさせる。アリスとしては1960年代の原点の時代に立ち返ったような作品集と言えよう。

質問・文:小川充(2021年7月21日)

123

RELATED

Profile

小川充 小川充/Mitsuru Ogawa
輸入レコード・ショップのバイヤーを経た後、ジャズとクラブ・ミュージックを中心とした音楽ライターとして雑誌のコラムやインタヴュー記事、CDのライナーノート などを執筆。著書に『JAZZ NEXT STANDARD』、同シリーズの『スピリチュアル・ジャズ』『ハード・バップ&モード』『フュージョン/クロスオーヴァー』、『クラブ・ミュージック名盤400』(以上、リットー・ミュージック社刊)がある。『ESSENTIAL BLUE – Modern Luxury』(Blue Note)、『Shapes Japan: Sun』(Tru Thoughts / Beat)、『King of JP Jazz』(Wax Poetics / King)、『Jazz Next Beat / Transition』(Ultra Vybe)などコンピの監修、USENの『I-35 CLUB JAZZ』チャンネルの選曲も手掛ける。2015年5月には1980年代から現代にいたるまでのクラブ・ジャズの軌跡を追った総カタログ、『CLUB JAZZ definitive 1984 - 2015』をele-king booksから刊行。

INTERVIEWS