Home > Interviews > interview with Shintaro Sakamoto - 坂本慎太郎、新作『物語のように』について語る
歌詞が難しいなと思って、コロナになってますますですけど。インストの音楽だったらできるかもしれないけど、歌詞がある曲をわざわざリリースするときに、どんな言葉を歌うとしっくりくるかが難しくて。
■サウンド・プロダクションで、今回テーマはありました? 僕はちょっと、清志郎と細野(晴臣)さんがやったHISを思い出したりもしました。あれも歌謡曲的な、あるいはフォーク・ロックの雑食性と突き抜けた感じがあって。
坂本:ぼくは、けっこう、ロックっぽく……
■ロックっぽく?
坂本:いま聴いて格好良く聞こえるようなエレキギターの感じとかを出したいなと思ったんですけど。ソロになってからはあんまりエレキギターを全面に出してこなくて、比重が少なかったので。世の中的にもエレキギターの立場が悪くなってるので。
■ギターの音がクリアに聞こえていますよね。
坂本:あとは、オールディーズっぽい感じとか、アメリカン・ポップスの感じとか、ロカビリーの感じとか、サーフ・ギターとか……そういう感じは昔から好きだけど、今回はちょっと多めかもしれないですね。
▲:サーフ・ロックぽいといえば、4曲目のギターはなにを使ってるんですか?
坂本:ジャガーですね。中村(宗一郎)さんの。
■SGの音じゃないですもんね。5曲目は?
坂本:えーと、わからない(笑)。
■ご自分のSGだけじゃなくて、いろいろ使ってる、と。
坂本:メインは中村さんのジャガーかもしれないですね。
▲:そういうところで、サウンド的には昭和35年代感というか、60年代前半の感じがありますね。
坂本:60年代前半は好きですね。
■どうしてそのコンセプトが?
坂本:前から好きだし、さっき言った、モヤモヤしたのを突き抜けていく感じのイメージがあるんですね。キラキラして。
■"愛のふとさ"なんかはボサノヴァっぽいですよね。
坂本:この曲だけなんか違うんですよね。こういうのも1曲あっていいのかなと思って。これもデモ・テープのなかに入ってて、でもロックぽくないし、テイスト違うかな、と思ったけど、まあいいか、と。
一同:(笑)。
■今回のアルバムでは、僕の好きな曲のひとつだけど。
坂本:うん。曲としてはすごく良くできたかな、と。
■あと、1曲目のレゲエっぽい感じもいいなぁ。
坂本 レゲエっぽいですか?
■レゲエっぽいよね?
▲:ホーンの入り方とか、初期のダンス・ホールっぽいですよね。なんでトロンボーン入れようと思ったんですか?
坂本:それは西内(徹)さんが……。
■あのトロンボーンはすごいハマってたね
坂本:このトロンボーンは僕のアイデアですけど、2曲目のホーン・セクションは西内さんが考えてて、トロンボーンとサックスでやりたいというから任せて。で、スタジオにKEN KENと来て、1曲目はまだ途中段階で歌詞もなかったんだけど、この曲にも入れたらいいな、と思って、その場で。
▲:1曲目ってトラックとしてはワン・コードでやってるんですか?
坂本:ワン・コードですね。
▲:Cのワン・コードですよね。そのうえでリズムが変わっていく。
坂本:リズムがシャッフルのリズムと、エイトのリズムの2種類あって、リズム・ボックスがシャッフルになってて、リフが8ですね。
▲:ものすごく気持ち悪いですよね(笑)。でもその気持ち悪さに気づく人もどれだけいるのかな。
坂本:すごいねじれた感じにはなっていて、フワーっというのはスティール・ギターの音なんですけど、あれがシャッフルの周期で出てくるのでリフとズレて、ちょっと変な感じになっています。
▲:私は、こういうことをロバート・ワイアットとかがやりそうだなと思いました。すごく面白い。ところで、フジロック以降、ライヴはやってないんですか?
坂本:その後に福井のフェスに出ただけですね。
▲:これ(アルバム)が出たあとはツアーは予定されているんですか?
坂本:ツアーというほどじゃないですけど、東京とか大阪とかではやりますね。
▲:いまはだいぶライヴもやりやすいですよね。
坂本:ただ、俺もあんまり人混みに行きたくないから、来てくれとは言いづらいですね。人のライヴとかでぎゅうぎゅうだったりすると、行くの怖いので。それが染み付いてて。マスクしない人がワーワーやってるところに行きたくないって思っちゃうから。そういう状況で自分がやるのも抵抗あるし、どこからが安心でどこからがやばいという線引きは難しいんですけど、なんとなくあるじゃないですか。まあ大丈夫そうだな、とか、ここはちょっとやばいから早く出よう、とか。そういうことをどうしても考えちゃうんで。
■模索しながらやるしかないみたいな。
坂本:あと、俺はそもそもライヴやりたくなかったから。でもやりだしたら楽しいや、と思ってたんですけど、ライヴをやれなくなっても元に戻るだけというところあるんですよね。
■海外からオファーが来ると思うんですけど、それは行かないようにしてるの?
坂本:アメリカは延期の延期で今年の6月だったんだけど、それはこっちからキャンセルしましたね。
▲:まだ不安だということで?
坂本:あのーすごい赤字になりそうで。例えばもし隔離とかになっちゃうと……。
▲:隔離は自腹ですもんね。
坂本:全部補償してくれるわけじゃないから。向こうの滞在費とかこっちで払わなきゃいけなくなるし、お客さんも来るかわからないし。向こうでメンバーとかスタッフとかが感染して隔離というときにどうしていいかわからないし。
いまはライヴをやれば楽しいし、いい感じでやれるならやりたいけど。どういう場所でやるか、というのも関係してくるな、と思います。円安で飯も高いしね。
▲:レコードの輸入盤もますます高くなりますね。海外の配信は多いですか?
坂本:まあ多いですよ。ブラジルが多いんですよ。サンパウロとか。ブラジルで人気のあるO Ternoというバンドと一緒にやったから、それ繋がりだと思います。
▲:今回のアート・ワークは何かメッセージはあるんですか?
坂本:いや……とくにない、と言っちゃうと終わっちゃうか(笑)。
一同:(笑)。
坂本:まあこういう感じがいいかな、と思って。
■坂本君にとって、いま希望を感じることってなんですか?
坂本:希望を感じること。うーん……(長い沈黙)。
■乱暴な質問で申し訳ないですけど。
坂本:うーん、なんですかね? なんかありますか?
■酒飲んで音楽聴いて、サッカー観たり……、これは希望じゃないか(笑)!
坂本:個人的なことで真面目に言うと、いい曲を作ることには制限がないじゃないですか? 何となくでも、こういう曲が作りたいというのがある限り、それに向かって何かやる、ということは制限ないから、それはいいな、と思う。あと、楽しみで言えば、酒飲んで……みたいな、それくらいしかない(笑)。でも作品作っておかないとね。良い作品作っておけば、しばらく酒飲んでてもいいかな、と。それなしだとちょっと飲みづらいというか。
一同:(笑)。
■自分を律してると。
坂本:ほぼ冗談ですけど。でも、時代が変わって、世界の境界線が音楽においてはなくなっているので、曲を出すとタイム・ラグなく外国の人も曲を聴いてくれるじゃないですか。で、直接リアクションがあったりするし。
■ぼくも海外の人から感想を言われるのは、昔はなかったので、嬉しいですね。そういう文化の良きグローバリゼーションというのはあるよね。
坂本:悪い方もいっぱいあって、インターネットとかだとそっちが目立つじゃないですか。でも普通にラジオで最近買ったレコードかけると、その本人からコメントきたりとかありますね。それは昔とは違うかな、やっぱり。
▲:たしかにそれは希望かもしれないですね。
取材:野田努(■)+松村正人(▲)(2022年5月19日)