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interview with Wendell Harrison Photo by Julie Pincus

interview with Wendell Harrison

音楽の楽園=デトロイトから、ウェンデル・ハリソンがファラオ・サンダースとサン・ラーの思い出を語る

取材:野田努    通訳:青木理恵 Sep 08,2026 UP

私は昔から政治には関心があったし、いまも政治的な人間だ。政治で何が起きているのかも意識している。でも、いま起きていることは70年代にも起きていたし、50年代にも起きていた。ただ、いまはもっと激しくなっている。規模も大きくなっている。でも私はそれを何世代にもわたって見てきたから、以前よりは受け止められるようになった。もうこの歳だから、何にでも巻き込まれるわけにはいかない。生きていくためには、自分自身を調和のとれた状態にしておかなきゃならないんだ。ファラオ・サンダースみたいにね(笑)。

1970年代よりも現代が良い時代だとは思えません。とくにあなたにとっては、現在のイスラエル政府のネタニヤフ首相とトランプ大統領との親密な関係は、ただならぬ憤りがあると思います[*ウェンデルさんはサン・ラーと同様、70年代はブラック・ヘブライ運動からの影響も少なからずあったはず]。そんななかで、音楽はどのようなものであるべきだと思いますか?

ウェンデル・ハリソン:音楽は、真実に忠実であり続けることだ。真実を伝え続け、自分が信じるものを演奏する。いろんな仕掛けや流行に惑わされちゃいけない。私は教育者だから、基礎や歴史をとても大切にしている。だから、話題になるための仕掛けとして音楽を作ることはないんだ。つまり、スタジオに入って「これをやれば売れるだろう」と考えて作るんじゃない。自分にとってスピリチュアルな意味で正しいと思えるからやるんだ。社会的な意味でも、スピリチュアルな意味でもね。
 じつを言えば、いま起きていることは、50年代、60年代、70年代とそれほど変わらない。政治だって世界中どこでも同じようなものだよ。私はもう6つか7つの世代を生きてきたけど、結局は同じなんだ。人は自分のものではない土地を欲しがる。自分のものではないものを欲しがる。征服しようとする。そういうことだよ。だから、それがわかったら、ミュージシャンとして大切なのは、そういうものに振り回されず、自分自身に忠実でいることだ。そして自分のスピリットのなかにあるものを音楽にする。私には、自分が正しいことをしているのか、間違ったことをしているのかを教えてくれるだけのスピリットが自分のなかにある。だから、表面的なものは作れないんだ。
 人生にはいつだって緊張と喜びがある。緊張と喜び。その両方がある。だから音楽にもそれが反映されるんだ。
 あなたの質問はとても重要だね。深くて、本質的な質問だ。きちんと答えようとしたら1年かかるよ(笑)。
 私は昔から政治には関心があったし、私はいまも政治的な人間だ。政治で何が起きているのかも意識している。でも、いま起きていることは70年代にも起きていたし、50年代にも起きていた。ただ、いまはもっと激しくなっている。規模も大きくなっている。でも私はそれを何世代にもわたって見てきたから、以前よりは受け止められるようになった。もうこの歳だから、何にでも巻き込まれるわけにはいかない。生きていくためには、自分自身を調和のとれた状態にしておかなきゃならないんだ。ファラオ・サンダースみたいにね(笑)。穏やかでいること、謙虚でいること。できる限りそうありたい。食べるものにも気をつけている。もうベジタリアンではないけど、肉はほとんど食べないよ。
 ファラオと初めて会った頃はベジタリアンだった。60年代だね。でも旅をするようになると、その食生活を続けるのが難しくなった。それから運動もたくさんする。ジムにも通って、みんなと一緒に身体を動かしている。

通訳:来月で84歳でしたよね? すごいですね。

ウェンデル・ハリソン:だから血をちゃんと巡らせておかないとね。ジムへ行って身体を動かして、血流を保つ。それから指も動かし続ける。演奏するためにね。指が動かなくなったら、もうおしまいだよ(笑)。それに歩くことも大切だ。そして、自分の周りにはなるべく前向きで、何かを学ぼうとしている人たちにいてもらう。私はいつも何かを教えているけど、教えることで私自身も学んでいるんだ。若い人たちからいろんなことを教えてもらっている。彼らがどう考えるのか、どうやって物事をするのかをね。そして私は自分のやり方を彼らに教える。音楽だけじゃなく、私がどう生きているのか、自分なりの生き方も含めてね。

通訳:あなたから学べることは本当にたくさんあります。

ウェンデル・ハリソン:そう、それが私のやり方なんだ。そして、自分が何者であるかに忠実でいること。それがとても大切なんだ。


 「おい、エレキング、良い記事を書いてくれよ」と、ウェンデルさんは最後に笑った。
 最新作『Love Is Every Where - Tribute to Pharoah Sanders』には、彼の長年のパートナー、Pamela Wise[*デトロイトにおける“Women in Jazz”の象徴]をはじめ、ムーディーマンのレーベルから自作を出し、デトロイトのテクノ/ハウス・シーンで活躍するニッキー・OことSky Covingtonも参加している[*まさに “Love Is Everywhere”で歌っているのが彼女だ]。というか、ニッキー・Oが実力派ジャズ・シンガーであったことを初めて知った。ほかにも地元の腕利きのジャズ・ミュージシャンたちが演奏している。

 取材のなかで話題にしたなかったが、本人が言うように、ウェンデルさんは アンジェラ・デイヴィス[*政治活動家、学者]に捧げた“Angela's Dilemma”なる曲を演奏する極めて政治的なアーティストで、 “さよなら福祉(Farewell to the Welfare)” などという曲を書くような社会派でもある。だからこそ、『Love Is Every Where』を聴いていると、とても平和な気持ちになれるのだろう。
 それから、この音楽の安らかな空気感は、ウェンデルさんがこの取材で繰り返したように、ファラオの「控え目さ」に由来していると思われる。言うまでもないことだが、ここに演奏されている曲には、皿洗いをしていた頃から人生をともにしていたウェンデル・ハリソンのなかのファラオ・サンダースが生きているのである。


高名なジャズ・シンガーにしてパートナー、パメラ・ワイズと
Photo by Julie Pincus


 さて、最後にもう少しお付き合いを。

 関根アヤさんは、現在、自分のレーベル〈Double Strut〉を拠点に作品を発表している。ぜひ、こちらも聴いて欲しい。(『Junk Jazz』がお薦め)
 アヤさんは大阪生まれだが、10代をシンガポールで過ごし、大学はボストン(バークリー音楽大学)、卒業後はニューヨークで働きながら音楽活動をしていたという国際派。ニューヨーク時代には、パニック・スマイルなんかと交流があり、ロック・バンドで演奏している(バンドのメンバーのひとりは、後にDCPRGに加入)。じつはけっこう長いキャリアのあるミュージシャンなのだ……というか、50を過ぎた日本人女性が泣く子も黙るあの地でジャズをやっていることが、ぼくにはすごいとしか言いようがない。しかも、運転免許もないのにデトロイトで活動できているなんてことは、ほとんどアクロバティックな行動力と言える!

 彼女のデトロイト・ジャズに関するエッセイはここで読める。ぼくが言いたくてもうまく言えなかったことをみごとに表現している内容なので、ぜひ読んでほしい。以下、要約します。
 「ここには、信じられないほど自由で、純度の高い音楽がある。誰にも媚びず、マーケットに最適化されることもなく、ただ音楽そのものの力で存在している。ミュージシャンたちは自らレーベルを立ち上げ、作品をリリースし、コミュニティ内で支え合いながら活動を続けている。その姿勢は、かつての Tribe Records に象徴されるような、デトロイト独自の精神を今も引き継いでいる。(…)しかし同時に、その強さは “内側で完結してしまう構造” も生んでいる。あまりにも質が高く、コミュニティが成立しているがゆえに、外へ広がる導線が弱い。私はこれを、ある種の “現代的な鎖国状態 ” だと感じている。歴史的に見ても、デトロイトは1967 Detroit Riot 以降の社会変化や産業の衰退により、多くの人材が流出し、 “衰退した都市” というイメージを背負ってきた。しかし実際には、その過程で商業性から解放された、極めて純粋で実験的な芸術環境が残ったとも言える。私には、この環境が “天国” のように見えるし、常に至福の状況だ。夢に見た場所。こんな場所があったなんて! なぜならここには、音楽が本来持っているはずの自由と必然性が、当たり前のように存在しているからだ。一方で、日本やシンガポール、さらにはニューヨークのような都市では、音楽は常に市場・制度・評価軸の中で位置づけられ、ここまで無垢な状態で存在することは難しい。だからこそ私は、このギャップを埋める必要性を強く感じている。デトロイトには、世界に提示されるべき音楽と純粋さがある」
 『Love Is Every Where』は、そういう場所で生まれた音楽作品なのだ。

ファラオ・サンダース、および彼の盟友でジャズ/ブルース・ヴォーカリストのレオン・トーマスの楽曲が甦る。フィル・ラネリンの “He The One We All Knew” ほか、ソニー・クラークやホレス・シルヴァーら曲も演奏。不良老人/不良中年/不良青年/不良女子の荒んだ心もこれを聴いていると晴れるというもの。まさにスピリチュアル・ジャズ!


Photos by Julie Pincus

取材:野田努(2026年9月08日)

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