「E E」と一致するもの

DOMi & JD BECK - ele-king

 年末は今年リリースされた作品を振り返る時期で、『ele-king』誌でも今年の年間ベスト・アルバムのジャズ部門を選出した。そのなかにはいろいろタイミングがズレてしまってレヴューで取り上げなかった作品があり、リリースは夏頃となるがドミ&JDベックのデビュー・アルバムもその一枚だ。ジャケット写真を見てもおよそジャズ・ミュージシャンらしからぬ2人組で、とにかく若い。
 ドミ・ルーナことドミティーユ・ドゴールはフランスのメス生まれの22歳で、フランス国立高等音楽院卒業後にボストンのバークリー音楽院に留学。そのままアメリカへ移住して活動しているが、3歳でピアノ、キーボード、ドラムスの演奏をはじめ、5歳でナンシー音楽院に入学してジャズとクラシックを学びはじめたという才女だ。
 JDベックはテキサス州ダラス生まれの18歳で、5歳でピアノをはじめた後に9歳でドラムスに転向し、12歳のときには楽曲制作を開始している。10歳の頃にはエリカ・バドゥのバンドでドラマーを務めるクレオン・エドワーズや、スナーキー・パピーのドラマーのロバート・シーライト、ソウル・ミュージシャンのジョン・バップなどと共演し、その教えを受けているという早熟ぶりだ。共に幼い頃からその天才ぶりを謳われた神童である。

 ふたりは2018年にロバート・シーライトの誘いで、アメリカ最大の音楽イベントであるNAMMに出演する。最初の出会いとなったそれ以降も連絡を取り合うようになり、1ヶ月後にはエリカ・バドゥのバースデー・パーティーで再び共演し、ふたりは音楽制作と定期的な演奏活動をスタートする。カリフォルニアを拠点とする彼らは、2019年はサンダーキャットアンダーソン・パークなどのバック演奏に抜擢され、プログレッシヴ・ロック・バンドのチョンと全米ツアーもおこなった。ふたりの才能が認められるのにさほど時間は掛からず、ハービー・ハンコック、フライング・ロータスルイス・コール、ザ・ルーツといった名立たるアーティストとの共演が続く。
 YouTube上にも数々の動画をアップし、なかでも2020年に急逝したMFドゥームの『マッドヴィレイニー』へのトリビュート動画が、その凄まじい演奏テクニックもあって話題となる。2020年にはアリアナ・グランデ、サンダーキャットと一緒に出演したアダルト・スウィム・フェスティヴァルで、サンダーキャットの “ゼム・チェンジズ” の演奏が大きな反響を呼び、ブルーノ・マーズとアンダーソン・パークが組んだブギー・ユニット、シルク・ソニックのシングル曲である “スケート” を共同で作曲。こうしてアルバム・デビュー前からドミ&JDベックは大きな話題となっていた。

 そして2022年の4月、アンダーソン・パークが〈ブルーノート〉傘下に設立した新レーベルの〈エイプシット〉から、ファースト・シングルの “スマイル” をリリース。続いてアンダーソン・パークをフィーチャーした “テイク・ア・チャンス” や “サンキュー”、“ワッツアップ” などシングルを次々発表し、ファースト・アルバムの『ノット・タイト』をリリースと、2022年はドミ&JDベックにとって怒涛の進撃となった。
 『ノット・タイト』はドミ&JDベックが自身でプロデュースをおこない、アンダーソン・パーク、サンダーキャット、ハービー・ハンコックとこれまで共演してきた面々に加え、スヌープ・ドッグ、バスタ・ライムズというラッパー陣、カナダのシンガー・ソングライターのマック・デマルコ、現在はドイツのベルリンを拠点に活動するジャズ・ギタリストのカート・ローゼンウィンケルなど、多彩なゲストを招いた作品となっている。ドミはキーボード、ヴォーカル、JDはドラムス、ヴォーカルを担当するほか、ミゲル・アトウッド・ファーガソンがストリングスとそのアレンジで参加する。

 アルバムはクラシックの室内楽を思わせる “ルーナズ・イントロ” で開幕し、そのままJDのテクニカルなドラミングが圧倒的な “ワッツアップ” へと繋がっていく。“ルーナズ・イントロ” はクラシックの素養もあるドミならではの楽曲だ。“スマイル” はJ・ディラ以降のヨレたビートによるヒップホップ感覚、スクエアプッシャーエイフェックス・ツインなどのドリルンベースなどの要素を注入したフュージョン作品で、ロバート・グラスパー以降の新世代ジャズをさらに更新した、言わばZ世代のジャズ。
 サンダーキャットの歌とベースをフィーチャーしたAORジャズの “ボウリング” は、ほのかに漂うブラジリアン風味がパット・メセニーとトニーニョ・オルタの共演を彷彿とさせる。“ナット・タイト” でもサンダーキャットはベースを演奏し、ミゲル・アトウッド・ファーガソンのストリングスも加わる。JD、サンダーキャット、ドミのドラム、ベース、キーボードのソロの応酬が聴きごたえ十分。全体的にはとてもテクニカルでプログレ的な楽曲なのだが、不思議と難解さはなくてどこかポップでさえあるところがドミ&JDベックの持ち味である。

 マック・デマルコが歌う “トゥー・シュリンプス” は、クールで抑えたヴォーカルに幻想的なドミのコーラスがまとわりつく。チック・コリアのリターン・トゥ・フォーエヴァーを現代にアップデートしたようなナンバーだ。“ユー・ドント・ハフ・トゥ・ロブ・ミー” はドミとJDがデュエットするナンバーで、浮遊感のある不思議なメロディ・ラインが印象的。アメリカのジャズっぽくもなく、かといってイギリスやヨーロッパのジャズでもなく、通常のジャズの文脈から外れた個性的な作品。フライング・ロータスの〈ブレインフィーダー〉周辺らしい楽曲かもしれない。
 ハービー・ハンコックがピアノとヴォーコーダーで参加する “ムーン” は、およそ60歳もの年齢の開きがある両者による夢のような共演が実現。ハンコックがこうした若い世代と難なく共演するところが凄く、そんなハンコックと対等に渡り合える技術や感性を持つドミ&JDベックの才能の証でもある。“テイク・ア・チャンス” ではアンダーソン・パーク、“パイロット” ではアンダーソン・パーク、バスタ・ライムズ、スヌープ・ドッグらと共演し、ジャズの枠に収まらないドミ&JDベックの音楽性の広がりを表現。カート・ローゼンウィンケルと共演する “ウォウ” は、ジャズというより限りなくプログレに近いような超絶技巧のフュージョン。“スペース・マウンテン” や “スニフ” も同様で、アドリブの発想が自由で天才的。ファースト・アルバムでこの完成度、20歳前後という若さや伸びしろがあるふたりがこの先どんな進化をしていくのか、末恐ろしさを感じさせる。

Watson - ele-king

 日本語をいかにリリックとラップで操るか──その一点の革新性において、日本語ラップが大きな転換期を迎えた。これは、KOHH 以来となる大きな変化と言えるだろう。『ele-king vol.30』掲載、2022年ベスト・アルバムについてのテキスト(12月27日発売)で、私は次のように記した。「2022年は、Watson の年だった。雑多なサウンドがひしめくフェーズへとシーンが突入しているからこそ、圧倒的な強度のリリックとラップを矢継ぎ早にドロップし続けた彼が、シンプルに勝者である」と。先日、早くも今年2枚目となるアルバム『SPILL THE BEANS』を発表したばかりの Watson だが、そもそも春にリリースされた『FR FR』すらいまだ十分に語られていない。すでにヘッズの間では確固たるプロップスを築き上げているこのラッパーに対し、尽くされるべき言葉はあふれている。

 以前から “18K” といった曲で垣間見えていた彼のクリエイティヴィティがいよいよ結実した『FR FR』は、次々に繰り出されるラップの集積が、カットを積み上げ延々とフィルムを回し続ける映写機のような技巧で生み出されている。この忙しなくオーヴァーラップし続ける映像的なラップこそが彼のオリジナリティだ。と同時に、映画のごとく移りゆくその描写には、日本語ラップに脈々と受け継がれてきたあらゆる断片も観察できる──RHYMESTER の鋭い一人称、キングギドラの体言止め技法、BUDDHA BRAND のナンセンスな言語感覚、 SEEDA のユーモア──それらすべてを。

 1曲目の “あと” から、センスが猛威をふるっている。「金と/あと/知名度/あと/お化粧/加工/が上手い女の子」というリリックから「あと」をタイトルに抜き出す感覚が斬新だ。めくるめくラップを次々に発していくスタイルを、「あと」という一言でサクッと象徴させる軽やかさ。一方で、「踵踏まない大事に履く靴/靴 今トヨタ プップ/No new friends 今ので十分/あの子気になるおれのクリスマス/その日も見えない所skill磨く」というお得意のリズミカルなリリックによって「毎日磨くスニーカーとスキル」(Lamp Eye “証言”)といったクラシックへさり気なくオマージュを捧げることも忘れない。

 映写機のごとく回り続ける技巧が最も機能したのは “BALLIN” である。言葉をころころ転がすような早口と叙情的なメロディが同時に奇襲するこの曲は、「辞めたタバコ好きだったナナコ/徳島サッカーのみな産む赤ん坊/ピカソじゃないパブロの真似/古着買ったTommy/そからballin黒髪でもballin/簡単に思い浮かぶ絵/最終は俺が勝つgame」というラインで、パラパラ漫画を彷彿とさせるシーンの転換が見事になされる。さらにはそのような場面展開が、ただことばの次元に留まるのではなく運動となってイメージを喚起する点が Watson の独自性であろう。たとえば、“DOROBO” の「夜書く汗と けつ叩く歌詞を/前行く為でしょ 人間足ついてる2本/関係ないパンパン膨らませるお下がりの財布も/プレ値がパンパンついた服着るおれ丁度いいサイズを」というライン。ここで「人間足ついてる2本」という映像的なリリックを差し込んでくる才能には、ひれ伏すしかない。この2本の足は “I’m Watson” で「金なくって乗れないタクシー都合いいよ俺には/歩きながら書いてるリリック1年前の俺21」というリリックに接続され、見事なモンタージュを見せる。“Living Bet” における、「持つペンが手首につける腕時計」や「枯れる事知らないタトゥーの薔薇」というラインも同様である。耳にするすると飛び込んでくる発音が「腕時計」や「薔薇」というイメージとして立ち上がり視覚へと昇華されるさまは、極めて立体的な視覚性に満ちている。

 そもそも、ラップのスキルが桁違いではないだろうか。ハッキリとした活舌が基盤にあるのはもちろんだが、“DOROBO” での「ZARA menのジャケット」「PRADA」など、炸裂する巻き舌が楽曲を随所でドライヴさせる。音程を上げることで高揚感を効果的に演出する技も見事で、同じく “DOROBO” での「なけなしの金」や “I’m Watson” での「チョップ」「パーティ」など、メロディアスなラップのなかでもさらに強弱をつけることで各シーンを映し出すカメラが躍動し続ける。

 群雄割拠のラップ・シーンにおいて、いま、高い技術を持ったラッパーは数多くいる。しかし、ここまでスキルフルで独創的でありながらも模倣を促すようなチープさを感じるラップは、それこそ KOHH 以来と言えるだろう。もちろん、その間に LEX や Tohji といった素晴らしい演者もいた。ただ、LEX のラップの新規性はフロウの多様さにあり、Tohji のラップの革新性はラップというフォーム自体の解体作業に宿っている。一方で Watson のラップは、「誰もが真似しやすくゲームに参入しやすい」民主性に則っており、その点で KOHH が『YELLOW T△PE』とともに現れた2012年以来、約10年ぶりにゲーム・チェンジャーとして抜本的にルールを変える力を秘めている。

 私は『FR FR』を聴き、随所に用意されたユーモアへ宿る哀愁についてチャールズ・チャップリンを連想せずにはいられなかった。この徳島の若きラッパーが膨大なカットを積み上げ延々と回し続ける映写機によって映し出すのは、「裁判所で泣くママ治すZARA menのジャケット/先輩かばってももらえない約束のお金/これで稼いで贅沢させるマジ/友達にvvsあげたい」といった、哀しみに支えられたユーモアである。ここには、チャップリンの『街の灯』のような、普遍的なドラマ性を支える必死の運動がある。

 Watson の時代が来た。日本語ラップの新たなスクリーンが幕を開けたのだ。

Johnnivan - ele-king

 考えてみるともうほとんど洋楽/邦楽という言葉を使わなくなったしあまり意識もしなくなったのかもしれない。
 THEティバのアルバムを聞いてそのままにしていた僕の Spotify のアルゴリズムは続けてサウス・ロンドンのダンス・ロック・バンド、PVA の曲を流して、そしてその後に東京のインディ・バンド、Johnnivan の曲を流すようなそんな提案をしてくる。サブスク時代になりジャンルの仕切りも場所の境界線も曖昧になっていっていろいろな国で活動する人たちの音楽がなんとなく地続きというか隣にあるようなそんな感覚になってきているようにも思える。アーティストへの還元率の問題など、輝く未来がはたしてそこに広がっているのかと考えなければいけない部分もあるが、テクノロジーの発達によって手段が増えて音楽を聞くという行為がまた少し変わりつつあるのではないかと感じている。過去のバンドの曲とも容易に比較できるようになって、だからこそその違いや共通項がより一層気になるのかもしれない。共通した空気を持ちながらもどこか違って、その違いがその時々でことさら魅力的に思えたり心をくすぐるスウィートスポットに入ったり。そんなことをぼんやりと考えながら間に挟まった自動再生をそこで止め、今度は自ら操作して何日か前に聞いて良いと思っていた Johnnivan の2ndアルバム『Give In!』をまた最初から聞く。

 Johnnivan は東京の大学で出会い結成された日米韓のメンバーからなる多国籍なバンドだ。2020年の 1st アルバム『Students』から2年のインターバルを置いてリリースされたこの『Give In!』は前作から進んだ Johnnivan の新たな形が詰め込まれている。トーキング・ヘッズやLCDサウンドシステムのようなバンドに影響を受けたというルーツは健在だけど、このアルバムには前作よりも懐が深くなりガチガチに固めずにリラックスしているような、聞いていてその音楽のなかに浸り漂うことができるような遊びがある(狭い部屋での出来事からより広いスペースを持った木々に囲まれた湖畔に出たようなそんな印象だ。ジャケットの青に引っ張られているのかもしれないが水の上に浮かんでいるようなそんな感じもしている)。同じく〈DFA〉に所属するバンドに強く影響を受けていると思しき PVA のデビュー・アルバムと比べるとだいぶ柔らかく、あるいは〈Heavenly〉のウェスト・ヨークシャー出身のバンド、ワーキング・メンズ・クラブの 2nd アルバムと比較してもどこか祝祭的でユーモアも感じられる。これは Johnnivan がシンセサイザーをメインのアクセントとして使い組み合わせ、軽やかに揺れるこのアルバムの雰囲気を作り上げているからなのではないかと思うのだけど、ダンス・ミュージックとギター・バンドを混ぜたような音楽を一様に指向しつつもそれぞれアウトプットが異なっているのが面白い。
 『Give In !』に収録されている “Spare Pieces” やその後の “Table for Two” の流れは〈DFA〉のバンドというよりむしろ00年代後期に活躍したスウェーデンのエレクトロ・ポップ・ユニット、タフ・アライアンスのことが頭に浮かぶくらいだ。祝祭感を生み出す音像にひねりを加えたポップでユーモラスな展開、それでいながら影を抱えたバランスとニュアンスが絶妙で、この表現の仕方が Johnnivan の 2nd アルバムの特徴なのではないかと思う。80年代のポップ・ソングを感じるシンセの音とギターで引っ張る “No One is Going to Save You” ですらもその裏で孤独や焦燥、自傷というネガティヴな感情を抱え込んでいて、それらの重い感情がポップ・ソングのなかに混ぜ込まれている。アルバム終盤の “Forever”、“Otherwise” などは音楽的にも暗さを残しているけれどそのビートでもってゆるやかに体を揺らす。そこにあるのは絶望ではなくて過去に起こったことを見つめる視点だ。悲しみの強い発露ではなく現状に対する大きな怒りでもない、だからこそ音楽に体をゆだね思考を漂わせることができるのだ。これこそが Johnnivan のこの 2nd アルバムの魅力なのではないかと思う。そしてこの感覚が新鮮に心地よく響く。

 次の曲に繋がる誰かの曲、そして行動、地続きのようにも感じることのできるインターネットの世界のなかで、こんな風に比較が簡単にできるようになったからこそより一層何を見、何を受け取り、それをどう表現しているのかというのが気になるようになってきた。そこからどう変わっていくのかが気になるし、その周辺でどんなことが起こるのかと考えてワクワクする。これは半年前にオランダのバンド、ア・フンガスのレヴューにも書いたことだけど、それと同じことがここ日本でも起きているのではないかとそんな気配を感じている。UKやUSのインディ・シーンと接続するような違った国のバンドたち、その共通した部分と異なった部分が性質を変える差異を生みだし、刺激し、空気を作り、それが自然と心を躍らせるのだ。

ele-king vol.30 - ele-king

■特集:エレクトロニック・ミュージックの新局面

表紙・巻頭インタヴュー:Phew
インタヴュー:ロレイン・ジェイムズ

コロナ以降激変するエレクトロニック・ミュージックの新たな動向を追跡、
今後10年の方向性を決定づけるだろう音楽の大図鑑!

シーン別に俯瞰するコラム、ディスクガイド、用語辞典、日本の電子音楽の新世代、ほか

■2022年ベスト・アルバム特集
20名以上のライター/DJなどによるジャンル別ベスト&個人チャート、編集部が選ぶ2022年の30枚+リイシュー23枚で2022年を総括!

目次

特集:エレクトロニック・ミュージックの新局面──2020年代、電子音楽の旅

インタヴュー Phew (野田努)
Phewについて──生きることを肯定する、言葉の得も言われぬ力 (細田成嗣)
インタヴュー ロレイン・ジェイムズ (ジェイムズ・ハッドフィールド/江口理恵)

ディスクガイド
2020年代エレクトロニック・ミュージックの必聴盤50
(髙橋勇人、三田格、河村祐介、yukinoise、デンシノオト、ジェイムズ・ハッドフィールド、野田努、小林拓音)

2020年代を楽しむためのジャンル用語の基礎知識 (野田努+三田格)

コラム
ジャパニーズ・エレクトロニック・ミュージックの新時代 (ジェイムズ・ハッドフィールド/江口理恵)
ベース・ミュージックは動いている (三田格)
2020年代を方向づける「ディコロナイゼーション」という運動 (浅沼優子)
音楽は古代的な「魔法」のような存在に戻りつつある (ミランダ・レミントン)
暴力と恐怖の時代 (三田格)

2022年ベスト・アルバム30
2022年ベスト・リイシュー23

ジャンル別2022年ベスト10
エレクトロニック・ダンス (髙橋勇人)
テクノ (猪股恭哉)
インディ・ロック (天野龍太郎)
ジャズ (大塚広子/小川充)
ハウス (猪股恭哉)
インディ・ラップ (Genaktion)
日本ラップ (つやちゃん)
アンビエント (三田格)

2022年わたしのお気に入りベスト10
──ライター/アーティスト/DJなど計23組による個人チャート
(青木絵美、浅沼優子、天野龍太郎、大塚広子、岡田拓郎、小川充、小山田米呂、河村祐介、木津毅、柴崎祐二、杉田元一、髙橋勇人、つやちゃん、デンシノオト、野中モモ、ジェイムズ・ハッドフィールド、二木信、細田成嗣、Mars89、イアン・F・マーティン、Takashi Makabe、三田格、yukinoise)

「長すぎる船旅」の途上で歌われた言葉──2022年、日本のポップ・ミュージックとその歌詞 (天野龍太郎)
2022年は大変な年でした (マシュー・チョジック+水越真紀+野田努)

Cover portrait: Masayuki Shioda
Collage: Satoshi Suzuki

オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧
amazon
TSUTAYAオンライン
Rakuten ブックス
7net(セブンネットショッピング)
ヨドバシ・ドット・コム
Yahoo!ショッピング
HMV
TOWER RECORDS
diskunion
紀伊國屋書店
honto
e-hon
Honya Club
mibon本の通販(未来屋書店)
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丸善/ジュンク堂書店/文教堂/戸田書店/啓林堂書店/ブックスモア
旭屋書店
有隣堂
くまざわ書店
未来屋書店/アシーネ

Jeff Mills - ele-king

 ジェフ・ミルズがなんと、ディオールの音楽を手がけている。12月4日に発表された「2023年フォール メンズ コレクション」は、「Celestial」と題され、ギザの大ピラミッドを背景に近未来的に演出されているのだけれど、デザイナーのキム・ジョーンズがセレクトしたミルズの楽曲群がアフロフューチャリスティックな要素をつけ加えている(最初のみサバーバン・ナイト“The Art of Stalking”)。トラックリストは下記よりご確認を。

Tracks include:

Suburban Knight / The Art Of Stalking *
X-102 (Jeff Mills) / Daphnis (Keeler’s Gap)
Jeff Mills / Microbe
Jeff Mills / A Tale From The Parallel Universe
Jeff Mills / Gamma Player
Jeff Mills / Resolution
Jeff Mills / Step To Enchantment (Stringent Mix)
Jeff Mills / The New Arrivals

*The Art Of Stalking by Suburban Knight courtesy of Transmat Records

 ちなみにミルズは11月25日に新作EP「Extension」をリリースしたばかり。そちらもチェックしておきましょう。


Label: Axis Records
Artist: Jeff Mills
Title: Extension

Format: EP
Release Format: Vinyl & Digital
Release Date: November 25, 2022
Cat. No. AX109
Distribution: Axis Records

TRACKLIST
A: Rise
B1: The Storyteller
B2: Entanglement

axisrecords.com/product/jeff-mills-extension-ep/


 このNY連載も早いもので(パンデミックの間はお休みしましたが)134回目。ボツもあるので150回ぐらいコラムを書いているが、そのなかにはなんどか同じ話題を書いたこともある。6年前、私はVol.83にてNYのあるレコード店が閉店する話を書いた。そのお店、〈アザー・ミュージック〉のドキュメンタリーが先日、日本でも公開された。
 私はコラムにも書いたように、お店が閉店する日のインストアに行って、一緒に街をセカンドラインのごとく練り歩いた。そして、バワリー・ボールルームで小野洋子さんとヨ・ラ・テンゴ、サイキック・イルズを見るという素晴らしい1日を共有することができた。そのときは将来ドキュメンタリー映画ができるなどとは思っていなかったけれど、このレコード・ストアが存在したことは次世代へと伝えていくべきだとは思っていた。つい最近は、エレファント6(2022年11月10日リリースThe Elephant 6 Recording Co.)のドキュメンタリー映画も完成している。〈アザー・ミュージック〉もそうだが、こちらも00年代のUSインディ・ミュージック・シーンの貴重な記録となっていることだろう。

 さて、〈アザー・ミュージック〉が存在した90年〜2000年代は、今日のようなデジタル社会ではなかった。まだアナログ時代なので、アメリカに不慣れだった私も紙の地図を片手に街を歩く日々だった。そんな私は、初めてNYに到着すると空港から直行で〈アザー・ミュージック〉に行ったものだった。なぜならレコード店には、私に必要な情報が揃っている。どんな街でもそれは同じだ。店にあるフライヤーでその日の夜のライヴ情報を得て、店員が推薦する音楽を聴いたり、おいしい食べ物やおすすめのお店などその土地の情報を教えてもらったりする。
 ちなみに私が初めて来たアメリカの都市は、ボルティモアで(アニマル・コレクティヴ、ダン・ディーコンの出身地ですね)、初めて見たショーがカーディガンズとパパス・フリータスのショーだった(その時期日本はスウェディッシュ・ポップが大流行)。たまたまその日に入ったレコード店にフライヤーがあって、店員に「このショーに行きたいんだけどチケットはここで買える?」と聞いたら、「直接会場へ行け」と言われた。行ったらチケットは売り切れで、結局そこにいたダフ屋から買った。正規の値段は$5だったが、ダフ屋は$10(千円ちょっと)。許せる範囲だった。
 しかもその晩見たショーは感動の連続だった。パパス・フリータスとは直接話すことができたし、レコード店で買った7インチにサインももらった。カーディガンズのニーナ嬢には、「良かったよ!」と言ったら「サンキュー」とスマイルを返してもらった。憧れのバンドを見れたし、話せたし、うれしさで舞い上がってしまい(そしてショーの安さに驚き)、アメリカに引っ越すことを決めてしまった。その日、レコード店に行ってなかったらショーには行かなかった(あることも知らなかった)。やはり、レコード店にはマジックがある。

 話は前後するが、私が初めてひとりで行った街はロサンゼルスだった。日本から近いし、ショーがたくさん見れると思った。LAが歩いて移動できないことなんて知らなかったほど、無謀ではあったが。しかし、たまたま取った安いホステルがハリウッドにあって、そのホステルから歩いて5〜10分のところに〈ノーライフ〉というレコード店があった。滞在中はずっとそこに通った。フライヤーをチェックして、コーヒーを飲みながらソファーに座ってたくさんのCDを聞いた。店員も毎日来る日本の女を覚えてくれたようで、向こうから「今日はこのショーがあるよ(自分のバンドだったりする)」とフライヤーを渡してくれるようになった。やがてビーチ・ウッド・スパークのメンバー(当時ストリクトリー・ボールルーム)と仲良くなって練習に連れていってもらったり、ブライアン・ジョーンズ・タウンのメンバーの家に遊びに行ってミンストレルズというバンドを紹介してもらった(彼らはLAショーのコーネリアスのオープニングでプレイした)。〈ノーライフ〉には多くのLAローカルなバンドを教えてもらった。たくさん知りすぎてレーベルを立ち上げるまでになった。ミンストレルズも私のレーベルからも作品をリリースしている。
 こんな風に、レコード店がなかったら私はレーベルをやらなかったし、そもそもアメリカに引っ越すこともなかった。私はアセンス、ミネアポリス、シカゴ、シアトル、ポートランド、サンフランシスコ、プロヴィデンス、ボストン、オースティンなど、アメリカの小さな大学街を5年ほど放浪していたが、初めてその街に着いたら最初に行くところは決まってレコード店だった。そこで地元の情報、おすすめのレストランや洋服屋、別のレコード店、音楽会場やバンドまでたくさん教えてもらったし、友だちも増えた。

 〈アザー・ミュージック〉は1995年、タワー・レコードの向かいに開店した。タワーにはない「他の=other」ミュージックを扱うということで店名は決まった。私の〈アザー・ミュージック〉の過ごし方は、まずは入ってフライヤー・コーナーでショーやイベントをチェックする。そして、どんなCDやレコードが面出しされているのか店内をぐるっとし、スタッフのお勧めコーナーを見る。雑誌コーナーもむらなくチェックしたり、こんな感じで長い時間を過ごした。自分の執筆していた雑誌やレーベルのCD、レコードなどを置いてもらったりもした。このレコード店では、本当に多くの時間を過ごしたものだった。私のレーベル〈コンタクト・レコーズ〉の最初のコンピレーションCDのカヴァーは〈アザー・ミュージック〉の店内だった。反射鏡(防犯鏡?)が店内にあり、そこに写った画像だが、インディ・ミュージックのコンピレーションのカヴァーとしてばっちりに思えた。
 私は、人が少ない朝の時間に行くようにしていた。あるとき店員が音楽をかけていて「これは誰?」と聞くと、自分の音楽やレーベルの音源を試し聞きするためかけていただけだったこともあった(笑)。〈アザー・ミュージック〉の店員はみんなクリエイティヴな活動をしていたし、お店は、いろんなプロジェクト誕生の土壌にもなっていた。ドキュメンタリー映画を作ったのも元お客さんだ。ディレクターの2人はここで出会って結婚して家族を築いている。オーナーのジョシュの奥さんもここの店員だった。私の担当者は、最初はフィル(現デッド・オーシャンズ)、スコット(パンダベアとJaneというバンドをやっていた。DJ)、ジェフ(ヴィデオ・グラファー)、ダニエル(アーティスト)だった。
 〈アザー・ミュージック〉はジャンルの分け方も独特だった。レコードやCDは、ただ「IN」と「OUT」のふたつだけに分かれていた。「IN」がインディで「OUT」がそれ以外。「OUT」のなかにはジャズやアンビエント、グローバル。ミュージックなどがあった。

 デジタルな現代ではレコード店に行かなくても地元の情報はすぐに手に入るようになった。欲しいレコードがあればインターネットで検索すればいいし、たくさんの情報が瞬時に手に入る。しかし、それでもレコード店はなくならない。この連載のVol.132「NYではレコードのある生活が普通になっている」でも書いたが、〈アザー・ミュージック〉がクローズしてからもNYにはたくさんのレコード店がオープンしている。ただ、〈アザー・ミュージック〉の時代はデジタル社会の現代では体験できない、特別なアナログな一体感があった。仕事が終わったらレコード店に行って休みの日もレコード店に行く。たわいもない話をし、友だちがいたら紹介しあい、新しい音楽に出会える可能性があることにわくわくした。地元の人が集まってのデジタル上では味わえない体験、私たちが〈アザー・ミュージック〉から学んだこうしたコミュニティ感は、この先も継承されていくべきものだ。

 私は最近、1か月に1回ブッシュウィックのミードバーで「たこ焼き」を焼きながら音楽イベントをオーガナイズしている。面倒な手続きはなくライヴ・ミュージックやDJができるので、若い人から年配までやりたい人が自由に参加するイベントになっている。友だちが友だちを呼んで、たくさんのミュージシャン、アーティスト、ファッション・デザイナー、ヘアドレッサー、アニメーター、ダンサーなど参加してくれている。次回で63回目、3月で6周年を迎えるが、レギュラーも増えているし、とりあえず来る人も増えているのでブッシュウィックのなかでひとつの小さなコミュニティを築いていると感じられるようになった。
 こうした小さなイベントのようなものは他でもあるはずだ。オンライン上にもあるかもしれない。好きな音楽の話だけで仲良くなれる。このコミュニティ感は〈アザー・ミュージック〉から引き継いだものだ。かつては、〈アザー・ミュージック〉がNYインディの大きなコミュニティの代表だったが、今日では小さい〈アザー・ミュージック〉型コミュニティがたくさんあるのではないだろうか。

 〈アザー・ミュージック〉が閉店して6年が経った。いま私たちはコロナ時代を生きている。仕事もなくなり、野菜や卵、スーパーマーケットにあるものの値段が上がり、外食もチップの率が18%から25%が平均になるなどお金がかかる世界になった。NYはそのせいで精神状態が不安定な人が多くなって、治安が悪化している。未来はいったいどうなるのかと不安が多い今日この頃だ。〈アザー・ミュージック〉のドキュメンタリーを見ると、しかし大事な物はそこにあると改めて確認することができる。こんなに幸せな気持ちになれるドキュメンタリーを見ない手はないというのが私の意見です。
 ご存じのように、〈アザー・ミュージック〉は実店舗は終わったが、オンライン・ストアはあるカム・トゥギャザーというレコード・フェアを1年に1回開催してもいる

Various - ele-king

 W杯で日本に負けたスペインのエンリケ監督が試合後のインタヴューに答えているのを観ていたら「日本には失うものがなかったから」とかなんとか話していて、それって、最近どっかで聞いた言葉だなーと思っていたら、ああ、山上容疑者を「無敵の人」と評していた人たちの理屈だったと思い出した。そっかー、サッカーの日本代表と山上容疑者はどちらも失うものがなく、それで思い切ったことができたのかーとサッカーファンでも山上ファンでもない僕は簡単に納得しちゃうのであった(野田努から火炎放射機のような反論が飛んで来そう~)。デビューして間もないプロデューサーというのも、まあ、何をやってもまだ失うものは何もないわけで、ブリストルのグランシーズ、リーズのイグルー、そして日本のアベンティスに加えてナゾのフスコ(Hussko)、ナゾナゾのクレメンシー、ナゾナゾナゾのユッシュ(Yushh)といった無名の新人たちを集めた『To Illustrate』というコンピレーションも内容が実に思い切っていて、これがなかなかに素晴らしかった。彼らに加えてレーベル・オーナーであるファクタとK~ローン、そしてフロリダからニック・レオンと韓国からサラマンダも曲を寄せ、タイトルは『(例を挙げて)説明する』と付けられている。え、何を説明するの?と思ったら「まだ名前のついていない音楽」とのことで、それはレゲトンにインスパイアされたクラブ・ミュージックだったり、トリップ・ホップ・リヴァイヴァルやUKベースがいずれもBPM100前後のゆっくりとしたテンポで展開されている現状を例証していくというコンセプトだという。あえてジャンル名はぶち上げませんよということでしょう。それは賢明なやり方です。名前をつけると、いらない人のところにまで飛んでいってしまうから。

 なるほどゆったりとしたグランシーズ “Sun Dapple(木漏れ日)” で幕を開け、そのままR&Bに着想を得たというファクタとK-ローンの共作 “Kiss Me, Can't Sleep” へ。今年、フエアコ・Sの大阪ツアーをサポートした日本のアベンティスもダンスホールをふわふわにした “Bicycle” で同じヴァイブレーションを持続させ、同じくダンスホールを暗いモードで聞かせるフスコ “Two Nights In Peter's Bog”、少し目先を変えてファニーな要素を加えたイグルー “Rockpool Pool Party” へ。いつものアンビエントではなく、水中にいるようなダブステップのサラマンダ “κρήνη της νύμφης” から比較的長いキャリアを持つニック・レオンはマイアミ・ベースをUKベースに変換したとインフォーメイションには書いてあったけれど、僕にはゴムとアマピアノの中間に聞こえる “Separation Anxiety” を(この人は昨年リリースした「FT060 EP」が素晴らしい)。続いてレゲトンにダブのエフェクトを加えまくったヘンツォ “Whirlpool Vanish” とカンがダンスホールに取り組み、そのテープが水浸しになったようなクレメンシー “Girl Food” (この人も一昨年の「References」が妙な余韻を残している)。最後は再びレーベルー・オーナーのファクタがユッシュと組んだ “Fairy Liquor” で、ダンスホールを柔らかくリスニング・タイプに仕上げたもの。そう、半分ぐらいは〈Warp〉の『Artificial Intelligence』ダンスホール編とか、そんな感じのことをやっていて、これをやったところで失うものは何もなさそうなものばかり。

 〈Wisdom Teeth〉というレーベルは10年近く前にベース・ミュージックのレーベルとしてスタートし、これまでにレーベル・オーナーのK-ローンとファクタ以外にロフト(アヤ)やパリスピエツォやトリスタン・アープと、かなり痺れるメンツを揃えてきたレーベルであるにもかかわらず、その人たちをまったく起用せず、彼らが考える新しい傾向を「例証」するコンピレーションとして新顔ばかりを集めてきた。K-ローンが2年前にリリースしたデビュー・アルバム『Cape Cira』やファクタが昨年リリースした『Blush』にももちろん通じるものはあり、まっすぐに進んだ結果が『To Illustrate』だということなのだろう。緊張感あふれるこの世界をもっと柔らかくしたい。彼らのそんな願いが僕には通じた1枚です。

Pantha Du Prince - ele-king

 憂鬱だ。個人的に最近大きく動揺したニュースは、宮台真司襲撃事件とイランでの蜂起の弾圧だった。前者については犯人の動機が不明な以上、それが言論にたいする攻撃なのかどうかはまだわからないわけだけれど、暗い気持ちになるのは避けられない。ただただ宮台さんの恢復を祈るばかりの毎日……。後者については、当局を非難しているのが(民衆だけでなく)世界最大の軍事力を保有する合衆国でもあるという(ロシアとおなじ)図式を思い浮かべてしまって、頭がくらくらしてくる。下からも上からも横からも暴力の嵐が吹き荒れる2022年、ぼくらはいったいどうしたらいいのでしょう。
 音楽の長所のひとつは、一時的にその世界へと逃げこめるところだ。ドイツのパンサ・デュ・プリンスことヘンドリック・ヴェーバーは、大変な時代を生きるぼくたちを、さまざまな苦悩から解放してくれる。世界じゅうがイラクに釘づけになっていた2000年代前半は、他方でフォー・テットのようなフォークトロニカだったり、アクフェンやヴィラロボスのようなミニマル勢がトレンドを形成した時期でもあった。あれもある種の逃避だったのだろう。2004年にファースト・アルバム『Diamond Daze』を送り出したパンサ・デュ・プリンスは、いまでも当時の時代精神を継承しようとしているのかもしれない。

 ミニマル・ハウスを基調とする彼の音楽が大きな注目を集めたのは、〈Rough Trade〉からリリースされた3枚目『Black Noise』(2010)だった。パンダ・ベア(アニマル・コレクティヴ)やタイラー・ポープ(LCDサウンドシステム/チック・チック・チック)の参加が象徴しているように、ダンスとインディ・ロック双方のシーンへの訴求に成功した同作──リミックス盤にはモーリッツ・フォン・オズワルドやフォー・テットをフィーチャー──をもって、パンサ・デュ・プリンスの音楽はひとまずの完成を見たと言っていい。やさしい4つ打ち、ベルや木琴の乱反射、鳥の鳴き声や流水のフィールド・レコーディング、透明感に安心感……清らかな音響に磨きをかけるのと並行して彼は、以降、次第に「自然」のテーマを追求していくことになる。
 たとえばハウス・ビートを脇に追いやり、一気に瞑想性を高めた前作『木々の会談(Conference Of Trees)』(2016)は、植物や菌類からインスパイアされたアルバムだった。そこで描かれる自然は人間に乱暴をはたらく脅威ではなく、人間がそうであってほしいと期待する自然、われわれに落ち着きや安らぎ、癒しを与える存在だった。

 ふたたび4つ打ちが多く導入された新作『ガイア(地球)の庭』も、この星が持つ「自己制御システム」から触発されているという。プレス・リリースでは「マインドフルネス、そして自分の周りで起こっていること、自分の中で起こっていることに対して高い意識を持つこと」の重要性が説かれていて、なにやらニューエイジ臭が漂っているけれども、サウンド自体はそこまで極端にスピっているわけではないので、たんに「(気候変動に)気づきましょう」くらいのニュアンスかもしれない。
 川のせせらぎや鳥の声をふんだんに散りばめた冒頭 “Open Day” を経たのち、2曲目 “Crystal Volcano” でアルバムは早くもひとつの頂点に到達する。ダニエル・ラノワ風のシンセの波、さえずる鳥にマリンバ──あるいは終盤の “Liquid Lights” できらきらと舞い転がる高音パートを聴いてみてほしい。安楽の極みである。ジャンベなどのパーカッションに光を当てた “Mother Drum” も、アフリカンな気配はそぎ落とし、メディテイティヴな音世界を構築している。どの曲も仕事や家事、受験勉強などですさんだ生活を送っている者たちを、美しき桃源郷へと導いてくれること間違いなしだ。
 本作を聴いていると、いっさいの悩みから解放されたような気分を味わうことができる。12月11日、目前に迫った来日公演でもきっと、パンサ・デュ・プリンスはぼくたちを大いに逃避させてくれるにちがいない。

Tomoyoshi Date - ele-king

 アンビエント作家の伊達伯欣が傑作と名高い『Otoha』以来のソロ・アルバムをリリースする。タイトルは『438Hz As It Is, As You Are [あるがまま、あなたのままに]』。
 どういうことなのか、以下、伊達本人からの説明をお読みください。

 

 このレコードは、母方の祖母の姉(*)の家にあった1950年代につくられたDiapasonのアップライト・ピアノで録音されました。そのピアノは、70年に渡る引越しと調律を経て、今は我が家のリビングにあります。大量生産前のピアノで板も厚く、音の響きが良いのですが、ネジや衰えてきた基盤を交換しなければすぐに緩んでしまうため、調律ができなくなってしまいました。そこで調律師さんと相談した結果、一番緩んでいる、絞めることのできないネジに巻かれている弦の音に、全体の調律を落とすことで全体を合わせていくことにしました。「As it is(それがあるがままに)」

*山田美喜子:1964年に現代邦楽の日本音楽集団を結成し、世界で初めて琵琶を五線譜にした演奏者・指導者。

 夏に調律した際には、少し無理をして442kHzで調律をしたのですが、冬の調律は438kHzにしました。これからこのピアノは、物質の老朽化と共に、年々ピッチが下がっていきます。僕は朽ちていくピアノを弾いて、その時だけにしかできない音楽を、録音し続けていこうと思っています。

 レコードに針を落としたその時、その場で音が生まれ、その針の周りの空気や温度・湿度によって音は常に変化します。その音はさらに、聞く人の生活のすべてに影響を与え、その人の身体と精神の周波数に影響を与えます。一度発生した音の影響は永遠に減衰しながらも、この世の中に残っていくものです。

 438kHzの調律で製作されたこの作品は、聴く人のその時の気分や周波数に合わせて、好きな速度でピッチを調整してもらうことを念頭に作成されました。45回転のレコードを少し早く回せば、このピアノを442kHzに蘇らせることもできます。33回転の早めでも、遅めでも、あなたの好きなように回転数を調整してください。僕は録音したピアノの音が引き伸ばされた音がとても好きで音楽製作を続けています。今作も原曲より遅くしたピアノの音のほうが気に入っています。ゆっくりしたいときはゆっくりとした音楽で、あなたの周りの空間や生きものたち、あなた自身の身体と精神のピッチを調整してみてください。「As You Are(あなたのままに)」
 
 
 アルバムは2022年12月19日にフランスの〈laaps〉からリリースされる。bandcampはこちらから

Tomoyoshi Date
438Hz As It Is, As You Are [あるがまま、あなたのままに]
laaps


JAGATARA - ele-king

 JAGATARAのCDがリマスタリングされて再発される。今回はOTOの強い要望により、新たに久保田麻琴(ex.裸のラリーズ、久保田麻琴と夕焼け楽団、サンディー&ザ・サンセッツ 他)によってリマスタリングされている。すべて限定生産。発売は、2023年1月25日、江戸アケミ永眠から33年目の命日。詳しくはこちら(https://www.110107.com/jagatara2023/4)を参照ください。

 今回再発されるのは以下の5枚。

〈JAGATARA 2023 CD REISSUES〉

完全生産限定盤
2023.1.25 IN STORE
発売元:ソニー・ミュージックレーベルズ
●紙ジャケット/高品質Blu-spec CD2仕様
●2023年版最新リマスタリング by 久保田麻琴
ソニーミュージック特設サイトURL
https://www.110107.com/jagatara2023/


JAGATARA/BEST OF JAGATARA~西暦2000年分の反省~
Original release: 1993.2.24
CD: MHCL-30791~2(2枚組) / ¥4,400 (tax in)

江戸アケミ死後の1993年にリリースされた2枚組ベストアルバム。“財団法人じゃがたら”時代のシングル曲「LAST TANGO IN JUKU」に始まり、キャリア全時代から代表曲が選ばれているが、随所にアケミのライヴMCやモノローグも挿入され、オリジナルとはまた違った聴感を残す。またDisc 1:5~8、Disc 2:1は1989年ニュー・ミックス。

 Disc 1
1. LAST TANGO IN JUKU*
2. でも・デモ・DEMO**
3. BABY**
4. クニナマシェ**
5. 裸の王様
6. もうがまんできない
7. ゴーグル、それをしろ
8. 都市生活者の夜

Disc 2
1. みちくさ
2. つながった世界 FUCK OFF!! NOSTRADAMUS
3. ある平凡な男の一日 A DAY IN THE LIFE OF A MAN
4. 中産階級ハーレム―故ジョン・レノンと全フォーク・ミュージシャンに捧ぐ― MIDDLE CLASS HARLEM
5. SUPER STAR?
6. そらそれ(MANTLE VERSION)
7. HEY SAY!*
*…財団法人じゃがたら **…暗黒大陸じゃがたら


暗黒大陸じゃがたら/南蛮渡来
Original release: 1982.5
CD: MHCL-30793 / ¥2,750 (tax in)

“暗黒大陸じゃがたら”名義で1982年バンド自身のレーベルUGLY ORPHANからリリースした1stアルバム。初期からのパンク的要素とのちの黒人音楽~アフロ要素が混在し、闇雲なパワーと危うさを孕んだ本作は、発表と同時に国内の代表的なロック・メディアから高い評価を受けた。本作のジャケット・デザインは再発の度に変更され全部で4種あると言われるが、今回のCDは初回発売盤LPに準拠している。Track 9、10はLP未収録。

1. でも・デモ・DEMO
2. 季節のおわり
3. BABY
4. タンゴ
5. アジテーション
6. ヴァギナ・FUCK
7. FADE OUT
8. クニナマシェ
9. 元祖家族百景
10. ウォークマンのテーマ


JAGATARA/裸の王様
Original release: 1987.3.25
CD: MHCL-30794 / ¥2,750 (tax in)

“JAGATARA”として初のオリジナル・アルバムとなる2nd。アケミの精神的不調による休養を経て、前作『南蛮渡来』から5年後の1987年にバンド自身のレーベルDOCTOR RECORDSから発表された。ファンク・ナンバーを中心に長尺曲4曲で構成され、“和製アフロビート”と呼ばれるスタイルを確立した作品。
本作のジャケット・デザインは色違いで数種類存在するが、今回のCDは初回発売盤LP(青色)に準拠している。

1. 裸の王様
2. 岬でまつわ
3. ジャンキー・ティーチャー
4. もうがまんできない


JAGATARA/ニセ予言者ども
Original release: 1987.12.10
CD: MHCL-30795 / ¥2,750 (tax in)

『南蛮渡来』、『ロビンソンの庭』(山本政志監督映画サントラ)に続いて1987年3枚目のアルバムとなった作品で、バンド自身のレーベルDOCTOR RECORDSからリリースされた。収録全4曲すべてアンセムと呼ばれるほどの充実度を誇り、ますます冴えわたるアケミの詞作と共にアフロ/ファンクを血肉化した安定期のバンドの自信漲る演奏を堪能できる。これが彼らのインディ時代最後のアルバムとなった。

1. 少年少女
2. みちくさ
3. ゴーグル、それをしろ
4. 都市生活者の夜


JAGATARA/それから
Original release: 1989.4.21
CD: MHCL-30796 / ¥2,750 (tax in)

満を持してBMGビクター(当時)から1989年にリリースされたメジャー第1作。ジョン・ゾーン、ハムザ・エル・ディンら海外勢も含む多数のゲストが参加。一部録音とミックスをパリで行い、ミキシング・エンジニアにはゴドウィン・ロギー(アスワド、キング・サニー・アデ他)を起用。音楽的にはカリプソ、ヒップホップ、フォーク等の要素も交えた多彩にしてゴージャスな作風となったが、後の瓦解の予感も忍ばせる。CDデザインは初回発売盤LPに準拠している。前回CD発売時未収録だったシングル曲「タンゴ(完結バージョン)」を追加収録。

1. TABOO SYNDROME いっちゃいけない症候群
2. GODFATHER 黒幕
3. BLACK JOKE 気の効いたセリフ
4. CASH CARD カード時代の幕開け
5. つながった世界 FUCK OFF!! NOSTRADAMUS
6. ある平凡な男の一日 A DAY IN THE LIFE OF A MAN
7. 中産階級ハーレム―故ジョン・レノンと全フォーク・ミュージシャンに捧ぐ― MIDDLE CLASS HARLEM
8. ヘイ・セイ!(元年のドッジボール) HEY SAY!
9. タンゴ(完結バージョン) TANGO (COMPLETE VERSION)


JAGATARA Profile
1979年、江戸アケミ(vo)を中心に“エド&じゃがたら”として活動開始。その後“財団法人じゃがたら”“暗黒大陸じゃがたら”等改名を重ね、1986年頃より“JAGATARA”に固定。初期のライヴではアケミがステージ上で全裸になり流血、ニワトリやヘビを食いちぎる等の奇矯なパフォーマンスが一般誌でも報道され悪名を馳せる。1981年のOTO(g)加入前後よりシリアスに音楽を追求する姿勢に方向転換。アケミの精神的不調による活動休止(1984~86)を挟み、1989年『それから』でBMGビクター(当時)よりメジャーデビュー。その後も旺盛なライヴ/レコーディング活動を展開したが、その矢先の1990年1月27日、アケミが不慮の事故で急死し、活動休止。その後もナベ(b)、篠田昌已(sax)とメンバーの物故が続くが、OTOを中心に存命メンバーが折に触れて集結しライヴを行う。アケミ他界から30年目となる2020年1月、“Jagatara2020”として新曲を含むCD『虹色のファンファーレ』を発表、豪華ゲストを多数交えて敢行した復活ライヴは大反響を呼んだ。その後コロナ禍により活動休止を余儀なくされたが、2022年夏には橋の下世界音楽祭(愛知県豊田市)に出演、2年半ぶりのライヴ復帰を果たした。

 *おことわり
JAGATARAがかつて発表した楽曲の一部には、現在では不適切と思われる歌詞内容を含んでいるものがあり、お客様によっては不快に感じられることがあるかもしれません。しかし、それらは当時の時代背景の中で、ヴォーカリストの故・江戸アケミをはじめとするJAGATARAのメンバーが、弱者・マイノリティーの立場から真摯に生み出した表現であることを鑑み、当時の内容のままで発売いたします。ご了承ください。

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