Home > Reviews > Album Reviews > Johnnivan- Give In!
考えてみるともうほとんど洋楽/邦楽という言葉を使わなくなったしあまり意識もしなくなったのかもしれない。
THEティバのアルバムを聞いてそのままにしていた僕の Spotify のアルゴリズムは続けてサウス・ロンドンのダンス・ロック・バンド、PVA の曲を流して、そしてその後に東京のインディ・バンド、Johnnivan の曲を流すようなそんな提案をしてくる。サブスク時代になりジャンルの仕切りも場所の境界線も曖昧になっていっていろいろな国で活動する人たちの音楽がなんとなく地続きというか隣にあるようなそんな感覚になってきているようにも思える。アーティストへの還元率の問題など、輝く未来がはたしてそこに広がっているのかと考えなければいけない部分もあるが、テクノロジーの発達によって手段が増えて音楽を聞くという行為がまた少し変わりつつあるのではないかと感じている。過去のバンドの曲とも容易に比較できるようになって、だからこそその違いや共通項がより一層気になるのかもしれない。共通した空気を持ちながらもどこか違って、その違いがその時々でことさら魅力的に思えたり心をくすぐるスウィートスポットに入ったり。そんなことをぼんやりと考えながら間に挟まった自動再生をそこで止め、今度は自ら操作して何日か前に聞いて良いと思っていた Johnnivan の2ndアルバム『Give In!』をまた最初から聞く。
Johnnivan は東京の大学で出会い結成された日米韓のメンバーからなる多国籍なバンドだ。2020年の 1st アルバム『Students』から2年のインターバルを置いてリリースされたこの『Give In!』は前作から進んだ Johnnivan の新たな形が詰め込まれている。トーキング・ヘッズやLCDサウンドシステムのようなバンドに影響を受けたというルーツは健在だけど、このアルバムには前作よりも懐が深くなりガチガチに固めずにリラックスしているような、聞いていてその音楽のなかに浸り漂うことができるような遊びがある(狭い部屋での出来事からより広いスペースを持った木々に囲まれた湖畔に出たようなそんな印象だ。ジャケットの青に引っ張られているのかもしれないが水の上に浮かんでいるようなそんな感じもしている)。同じく〈DFA〉に所属するバンドに強く影響を受けていると思しき PVA のデビュー・アルバムと比べるとだいぶ柔らかく、あるいは〈Heavenly〉のウェスト・ヨークシャー出身のバンド、ワーキング・メンズ・クラブの 2nd アルバムと比較してもどこか祝祭的でユーモアも感じられる。これは Johnnivan がシンセサイザーをメインのアクセントとして使い組み合わせ、軽やかに揺れるこのアルバムの雰囲気を作り上げているからなのではないかと思うのだけど、ダンス・ミュージックとギター・バンドを混ぜたような音楽を一様に指向しつつもそれぞれアウトプットが異なっているのが面白い。
『Give In !』に収録されている “Spare Pieces” やその後の “Table for Two” の流れは〈DFA〉のバンドというよりむしろ00年代後期に活躍したスウェーデンのエレクトロ・ポップ・ユニット、タフ・アライアンスのことが頭に浮かぶくらいだ。祝祭感を生み出す音像にひねりを加えたポップでユーモラスな展開、それでいながら影を抱えたバランスとニュアンスが絶妙で、この表現の仕方が Johnnivan の 2nd アルバムの特徴なのではないかと思う。80年代のポップ・ソングを感じるシンセの音とギターで引っ張る “No One is Going to Save You” ですらもその裏で孤独や焦燥、自傷というネガティヴな感情を抱え込んでいて、それらの重い感情がポップ・ソングのなかに混ぜ込まれている。アルバム終盤の “Forever”、“Otherwise” などは音楽的にも暗さを残しているけれどそのビートでもってゆるやかに体を揺らす。そこにあるのは絶望ではなくて過去に起こったことを見つめる視点だ。悲しみの強い発露ではなく現状に対する大きな怒りでもない、だからこそ音楽に体をゆだね思考を漂わせることができるのだ。これこそが Johnnivan のこの 2nd アルバムの魅力なのではないかと思う。そしてこの感覚が新鮮に心地よく響く。
次の曲に繋がる誰かの曲、そして行動、地続きのようにも感じることのできるインターネットの世界のなかで、こんな風に比較が簡単にできるようになったからこそより一層何を見、何を受け取り、それをどう表現しているのかというのが気になるようになってきた。そこからどう変わっていくのかが気になるし、その周辺でどんなことが起こるのかと考えてワクワクする。これは半年前にオランダのバンド、ア・フンガスのレヴューにも書いたことだけど、それと同じことがここ日本でも起きているのではないかとそんな気配を感じている。UKやUSのインディ・シーンと接続するような違った国のバンドたち、その共通した部分と異なった部分が性質を変える差異を生みだし、刺激し、空気を作り、それが自然と心を躍らせるのだ。
Casanova.S