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90年代前半のUSヒップホップ・シーンを代表するグループ、Leaders Of The New School のメンバーとしての活動を経て、その後、ソロ・アーティストとして20年以上に亘って活動を続けてきた Busta Rhymes が通算10作目として8年ぶりにリリースしたアルバム『Extinction Level Event 2: The Wrath of God』。タイトルにある「2」という数字が示す通り、このアルバムは「世界の終焉」をコンセプトに掲げて1998年にリリースされた3rdアルバム『E.L.E. (Extinction Level Event): The Final World Front』の続編的な作品でもある。本来であれば、このタイトルで2013年頃にはアルバムをリリースする予定であったそうであるが、改めてレコーディングを重ねた上でこのタイミングに本作をリリースしたのは新型コロナウイルスによって世の中が大きく変化したことが影響しているのは言うまでもなく、骸骨にマスクというアルバム・カヴァーも見事に2020年という年をヴィジュアルで表現している。
オールタイムで言えばヒップホップ・シーンの中で最もテクニカルなラッパーのひとりにも挙げられる Busta Rhymes であるが、少なくともアルバム前作、前々作あたりの頃はアーティストとしてのピークはとっくに過ぎていて、悪い意味でのベテラン感さえ漂っているようにも感じられた。しかし、2014年にリリースされた Q-Tip とのコラボレーションによるミックステープ『The Abstract Dragon』はそんな空気を一変させ、Busta Rhymes のラップの本質的な部分であるテクニカルかつエンターテイメント性の高さを強くアピールすることに成功し、その流れは本作にもダイレクトに反映されている。
その象徴とも言える一曲が、Kendrick Lamar をゲストに迎えた “Look Over Your Shoulder” だ。Nottz がプロデュースを手がけた、Jacksons 5 の代表曲 “I'll Be There” を大胆にサンプリングしたトラックも素晴らしすぎるこの曲だが、Michael Jackson のヴォーカル・パートを絡めながら展開する Kendrick Lamar と Busta Rhymes とのマイクリレーが実にスリリング。この曲でふたりはヒップホップ/ラップをテーマにリリックを展開していくのだが、実に巧みな比喩を織り込みながら、ラッパーとしての自らの優位性とヒップホップに対する絶対的な愛情を説き、凄まじいフロウとライミングによって聞く者を圧倒する。ラッパーとして間違いなく現時点最高ランクに位置する Kendrick Lamar に対して、Busta Rhymes は互角に勝負を繰り広げており、キャリアを重ねたことによる説得力の高さでは上回っているようにも感じる。
ゲスト参加曲で言うと、ネイション・オブ・イスラムの創始者の名前をタイトルに掲げた “Master Fard Muhammad” での Rick Ross との貫禄あり過ぎるマイクリレーも圧巻で、他にも Anderson .Paak(“YUUUU”)、Q-Tip(“Don't Go”)、Mary J. Blige(“You Will Never Find Another Me”)、Mariah Carey(“Where I Belong”)、Rapsody (“Best I Can”)と実にバラエティに富んだ豪華なゲスト・アーティストたちとの共演も大きな聞きどころ。「世界の終焉」というアルバム・コンセプトやカヴァー・ヴィジュアルのダークさとは裏腹に、エンターテイメントとしての部分の完成度も非常に高く、Bell Biv DeVoe “Poison” をモロ使いした “Outta My Mind” での最高な弾けっぷりには、Busta Rhymes のキャラクターの良さが充分過ぎるほど反映されている。
往年の Busta Rhymes ファンはもちろんのこと、彼の全盛期を知らない人にもぜひ聞いてほしいアルバムだ。
大前至