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デマルコ自身の打ち明けるところによれば、彼のロール・モデルはジョナサン・リッチマンであり、それはリッチマンが生涯を通してとても楽しい時間を過ごしたように思われるからだ、という。これを読んだときは、なんとも切なく悲しい気持ちがした。少しでもマック・デマルコの音楽を聴いたことのある人間なら、この述懐が非常に逆説的なものであることに気づかざるをえないだろう。
ヴァンクーバーのシンガー・ソングライター、マック・デマルコ。彼の基本的なフォームはギターの弾き語りであり、楽曲のスタイルもシンプルでレトロなポップ・ソングだ。しかしわずかにグラムっぽいフィーリングがただよっていて、そこを踏み石にかなり強烈な耽美性が立ち上がってくる。それは彼が男色的な意匠を好んで用いるということや、トリック・スター的な振る舞いが目立つということばかりを指すのではない。耽美の極限には死がある。デマルコの歌にはこの意味でつねに拭いがたく通常の生の世界からの疎外感があり(逆に、死との境界が見えているあたりにやっと彼の生があるのだろう)、デカダンスがあり、傷が摩滅したような無感覚がある。こんなにも生きていない歌を歌う人間が、ジョナサン・リッチマンをなぞるというのはどうにも残酷な仕儀ではないか。
じつのところ、個人的にはこうした虚無性への理解がなく、どのようなリアクションをとるべきかの用意がない。平たく言って苦手だ。だから本作『2』も前作もずっと敬遠してきたのだが、今回年末号の『ele-king』を作りながら、若い人びとがこの作品を年間ベスト・アンケートで推しているのを目にし、聴きなおすことにした。なぜ彼なのか。何が心を引くのか。どうしてアリエル・ピンクではなかったのか?
一種のナルシシズムや弱さの露出をかっこいいと感じる感性が(男性には)あるのかもしれない。デマルコの音は〈キャプチャード・トラックス〉のいち側面であるややUK寄りなマナーを引きつつも、シットゲイズなどローファイ新世代として気炎をあげた〈ウッジスト〉らのど真ん中を行くようなプロダクションに支えられている。そのままなら、ダックテイルズのエクスペリメンタリズムや、〈ノット・ノット・ファン〉のエクストリームなヴァイブへとつながっていくだろう。この地平では筆者もまったく違和感なく聴くことができる。しかし、歌うたいとしてマック・デマルコのアイデンティティがあることは疑いがない。彼の歌を好きだというのは、おそらく彼のことが好きなのだろう。負のヒロイズムのようなものがたしかに彼の肢体からも立ちのぼっている。好みの問題でしかないが、ここにくると、やはりよくわからなくなった。冒頭のエピソードを知ることができたのはよかった。"オンリー・ユー"だけで聴いたつもりになるのは、いかにももったいない。彼のファンの人、こんどお話ししましょう。
橋元優歩