「ズリ」と一致するもの

10 Selected Ambient / Downbeat Releases in 2020 - ele-king

 2020年のほとんどを、僕はロンドンの自分のフラットで過ごした。コロナ禍による二回に及ぶロックダウン(都市封鎖)や、それに準ずる段階的外出規制によって、イギリスに住む者の行動はかなり制限されていた。2月までクラブやライヴ・ヴェニューへ行っていたのが別の世界の出来事のように感じられるほど、自分の生活スタイルも変わった。運動のため頻繁に外出するようになったり、自転車で遠出するようになったり、人混みへ注意を払うようになったり。自分が4年ほど住んでいる街を違った視点から見る機会が増えた。
 今年自分が聴いてきた音楽を振り返ってみると、ダンス・ビートよりも、アンビエントやダウンビートと呼ばれる作品が多い。変わりゆく周囲の環境と自分との関連が放つ何かを理解するうえにおいて、頭やケツをバウンスさせる運動神経よりも、隙間がある音に消えていく感覚の方が研ぎ澄まされていくのかもしれない(と言いつつも、年末の紙エレで選んだエレクトロニック・ダンスたちには心底感動させてもらった。アンズのNTSレディオでのヘッスルオーディオ・スペシャルセットを聴くといまも涙が出そうになる)。
 というわけで、今回のサウンド・パトロールは、いわゆるダンス系ではないものを10作品選んだ。もちろんここに載っていない素晴らしい作品もたくさんある。これは自分の独断で選んだ作品リストに過ぎないが、2020年という音楽シーンである種の停止ボタンが押された一年とはなんだったのかを振り返るきっかけになれば幸いである。2年前と同様にフィジカルで持っているものを中心に選び、以下、テキストと写真とともに掲載する。

Kali Malone - Studies For Organ | Self-Released

 アメリカはコロラド出身で現在はストックホルムに拠点を置くパイプオルガン奏者、電子ミニマリスト、カリ・マローンの去年出たサード・アルバム『The Sacrificial Code』は、非常に多くの関心をひいた。この自主リリースされたカセット作品『Studies For Organ』は、去年作品のリハーサルとしてレコーディングされたもので、2017-18年の間にストックホルムとヨーテボリで録音されたと帯にはある。再生してみて驚いたのが低音の力強さである。その屋台骨の上でミニマルに展開されるメロディーは、スザンヌ・チャーニらシンセシストたちが描いてきたサウンドスケープと重なる部分があるかもしれない。不断なく動いていた旋律が変化をやめて持続のみに切り替わるエンディングに息を呑んだ。サラ・ダヴァチやカラーリス・カヴァデイルの活躍を鑑みるに、現代の電子音楽シーンにおけるパイプ・オルガンの存在感は増している。この「呼吸をしない怪物」が現在においてサウンドに内胞しているものを感じる機会が今後も増えていくのかも。

Alex Zhang Hungtai & Pavel Milyakov - STYX | PSY Records

 まさかのコラボレーションである。LAのサックス奏者、アレックス・チャン・ハンタイ(aka ダーティ・ビーチズ)とモスクワの電子作家、パヴェル・ミリヤコフ(aka バッテクノ)がタッグを組み、後者が今年新設したレーベル〈PSY X Records〉からリリースされたのが、このアンビエント作品『STYX』だ。フォーマットはカセット(とデータ)で、テープはモスクワのミリヤコフから直接届いた(彼は今作のミックスとマスタリングも手掛けている。ミリヤコフは自身のプロダクション技術をサブスクライバーに提供する試みも最近スタートした)。オクターバーなどのエフェクターを駆使したミリヤコフのギターとAZHのサックスが、朝焼けのような美しいテクスチャーを生んでいる。モジュラー・シンセが作り出すアグレッシヴなグリッチとサックスの掛け合いなどもあり、単なるアンビエント作品の範疇にもとどまっていない。半透明の青いケースに包まれたカセット・ケースのデザインも秀逸。化学記号のようなシンプルなタイトルは、音の物質性へとリスナーを誘い込む。

Lisa Lerkenfeldt - A Liquor of Daisies | Shelter Press

 オーストラリアはメルボルンを拠点に活動するリサ・ラーケンフェルドは、自身のデビュー・アルバム『Collagen』を、バルトローム・サンソンとフェリシア・アトキンソンが率いる〈Shelter Press〉から今年の8月に出していて、6月に先行する形で同レーベルからカセットでリリースされたのが今作『A Liquor of Daisies』である。アルバムは持続するシンセ、金属的テクスチャー、ディストーション・ドローンなど、手法面で多彩。それに対して、このテープ作は同じピアノのモチーフをループ+電子音というシンプルな構成ではあるものの、モチーフを変調させて驚きを生み、分厚い壁から高原を吹き渡る風のような音へと徐々に変化するエレクトロニクスが、39分48秒を永遠へと変化させる。この呼吸の長さが、LPよりもこのアルバムを特別なものにしている。ジャケットには「ゼロクライサム・ヴィスコサムへの詩、永遠のデージー(註:両方ともオーストラリアの花)、多様な祈る者たちと機械のためのプロポーザル」とある。なお、このカセットのバンドキャンプでの売り上げのすべては、ブラック・ライヴス・マター運動の一環として、オーストラリアのアボリジニ支援団体へと寄付された。

Jon Collin & Demdike Stare - Sketches of Everything | DDS

 2月、僕はロンドンのカフェ・オトで二日に渡って行なわれたデムダイク・ステアのライヴへ行った。そのときのライヴ・リハーサルがカセットになった『Embedded Content』が素晴らしいというのは、別冊紙エレの家聴き特集でも書いた。その次の彼らのリリースになったのが、このランカシャー出身で現在はスウェーデンに拠点を置くギタリスト、ジョン・コリンとのコラボレーション作品『Sketches of Everything』で、さらに連作となる形でカセット『Fragments of Nothing』も出た。フォークやブルースを電子的に自由解釈したコリンのギターを、DSがリヴァーヴやエコーで空間にちりばめ、それがフィルターでねじ曲げられ、カモメの音が遠くへと運んでいく。ジャケットにはコリンの家族写真アーカイヴが借用されていて、ある種、記憶がテーマになっていることは間違いない。ここには憑在論的ホラーではなく、「ああ、昔こういうことがあったよね」という単純な回想が音になっている優しさがある。冒頭10分のなんと綺麗なことだろうか。

Pontiac Streator - Triz | Motion World

 ポンティアック・ストリーターはフィラデルフィアを拠点に抽象的なビートとアンビエントを世界にドロップしている。その生態はアンダーグラウンドに潜っているため、サブスクにはコンピ参加以外作品がなく、流通が少ないレコードかバンドキャンプでその作品にアプローチするしかない。他にもいくつかグループでの名義があり、『Tumbling Towards A Wall』という傑作を今年発表した同じくフィラデルフィアのアンビエント作家ウラ・ストラウスとはアルバム『11 Items』を去年リリースしている。今作『Triz』はソロとしては2作目のアルバムにあたる。彼の作るビートは、LAのようにコズミックではなく、ロンドンのようなハードなホットさがあるわけでもなく、そのアンビエンスはベルリンのようにダークでグリッチィでもない。彼は自分の音を持っている。リズムはアメーバのように俊敏さ柔軟さを兼ね備え、ベースは鼓膜に息を吹きかけるように流れ、ベリアルのようにどこかから採取された音声が滑らかにこだまする。最後の曲名は “Stuck in A Cave” であり、抜けられない洞窟にいるものの、鳥の声が聞こえてくる。困難にいるときでも、想像力は外に向くことができる。ここには希望がある。

Experiences Ltd.

 ベルリン拠点のプロデューサー、シャイ(Shy)はスペシャル・ゲストDJやフエコSとのゴースト・ライド・ザ・ドリフトなどの名義で活動している。彼は〈bblis〉や〈xpq?〉のレーベルを通して、いわゆるアンビエントやダウンテンポという既存ジャンルの両地点の間を漂う楽曲を紹介してきた。それに加えて彼が2019年に開始した〈Experiences Ltd.〉は、今年に入り、頭一つ抜けた力作を続々とリリースした。フィラデルフィアのウラ・ストラウスのウラ名義『Tumbling Towards A Wall』は、テープ・ループで劣化してくような淡いベールに包まれたテクスチャーを、ピアノなどのサウンド・マテリアルのループや重低音で色づかせ、3~5分ほどの長さの楽曲で8つの異なる光景を描いた傑作である。彼女がベルリン拠点のペリラ(Perila)と組んだログ(LOG)はよりクリアなテクスチャーのもと、肉声などを取り込み、異なる角度から静寂へとアプローチ。他にレーベルからは、ニューヨークのベン・ボンディや、日本のウルトラフォッグも参加しているプロジェクト、フォルダー(Folder)といったトランスナショナルな人選が続いている。2020年最後のリリースになったカナダのナップ(Nap)による7インチ「Íntima」は、90年代のアブストラク・ビートがよぎるなど、レーベルが今後もそのカタログを変形させていく可能性を示唆している。なお、レーベル・リリースのマスタリングの多くを手掛けているのは、デムダイク・ステアのマイルズ・ウィテカー。

Vladislav Delay | Bandcamp Subscription

 今年僕が最も聴いたプロデューサーはヴラディスラフ・ディレイことサス・リパッティである。〈Chain Reaction〉諸作をコンパイルした『Multila』のリマスター、ソロ作『Rakka』とスライ&ロビーとの『500-Push-Up』、マックス・ローダーバウアーとの『Roadblocks』、ルオモ名義の『Vocalcity』リマスターなど、力強いリリースが今年は続いた。いま、彼はバンドキャンプで自身の作品のサブスクリプション・サービスを行なっている。この機会に彼のキャリアを聴き込んでみようと思い、僕は現在それをサブスクしている。月10ユーロでVD名義の作品ほとんど全てが非圧縮音源でダウンロードできるうえ、サブスク限定の音源発表も毎月ある。フィンランドの孤島に建つスタジオで、グリッチ・ノイズからフットワークにいたるあらゆる音像を、毎朝早起きしてリパティはせっせと作り、自然とジャズ、読書からインスピレーションを受けている(まるで村上春樹である)。あるインタヴューによれば、リパッティはオシレーターとフィルターでできることの限界に早い段階で気づいたらしい(といっても充実したユーロラックのセットを使用している)。そして向かったのはダブである。その可能性をミュージック・コンクレートやテクノ以外のリズムへ切り開いた点において、彼は当初つけられたベーシック・チャンネル・フォロワーという枠を超えて自身のスタイルを確立した。改めて、すごい作家である。グリッチの空間化を極めた『Anima』(2001)と高揚感溢れるリズム&サウンドの “Truly” のリミックス(2006)は同じ宇宙に存在しえるのだ。

Suzanne Ciani - A Sonic Womb: Live Buchla Performance at Lapsus | Lapsus Records

 ブクラ・シンセサイザーを駆使し、電子音楽からピンボールの効果音に至るまで、70年代から歴史的な仕事をしてきたシンセシスト/作曲家、スザンヌ・チャーニ。彼女の昨今の電子音楽シーンにおける再評価は、デザイナー/DJ、アンディ・ヴォーテルが共同設立者に名前を連ねる〈Finders Keepers〉からの2016年作『Buchla Concerts 1975』にはじまる。それ以降、彼女はブクラ200eを抱え世界をツアーし、コンサートとトークによる教育を通し、いまもなお音を合成する意義を説いている。今作は2019年のバルセロナでのコンサートの録音であり、70年代にチャーニが使用していたシーケンサーを発展させた即興演奏を聴くことができる。往年のチャーニ作品で使われているアルペジエーターの旋律が、ステレオの左右を拡張せんとばかりに旋回し(オリジナルは左右ではなく四方の異なるスピーカーを使用したクアドロフォニック)、スネア化した短波ノイズが連打されるとき、客席から歓声が上がる。今作の開始と終わりには波の音がある。ただ理想化しているだけかもしれないけれど、あなたがブクラで作る波の音はなぜかとてもオーガニックに聞こえるんです、という2016 年のレッドブルミュージック・アカデミーの受講生の質問に、チャーニはシンプルに「それは複雑だからです」と答えている。楽曲が生む興奮に加え、独自の発振回路を持つブクラでオシレータとフィルターを入念に組み合わせて生まれる彼女の波の音は、自然を人間の側から思考する重要な事例でもあるのだ。

Drew McDowall - Agalma | Dais Records

 70年代から90年代にかけて、コイルやサイキックTVの長年の共作者、あるいはそのメンバーとしても知られる、スコットランド出身で現在はブルックリンを拠点に置くドリュー・マクドウォル。近年はモジュラー・シンセを表現メディアの主軸においている。2年前に出た、同じくニューヨーク拠点のモジュラー・シンセシスト、ヒロ・コーネとのEP「The Ghost of George Bataille」が示唆していたかのように、ソロとしては5作目の『Agalma』は、数々の客演が目白押しになっている。ともに実験的シンセシストであるカテリーナ・バルビエリロバート・アイキ・オーブリー・ロウとの共同作業において、逆行するサウンドや加工された肉声が、ハープなどの異なるマテリアルとともに、あらゆる方向から飛び交ってくる。先に書いたカリ・マローネの参加曲は、とぐろを巻くようなベースと左右の空間を埋め尽くすリードが、オルガンと奇怪に絡み合う。ヴァイオリンやダブルベースといった楽器も今作には多数散りばめられている。ノイズ/エクスペリメンタルの若手として知られるバシャー・スレイマン、エルヴィン・ブランディや、カイロのズリとの共作や去年のデビュー作『Dhil-un Taht Shajarat Al-Zaqum』で頭角を現したサウジアラビアのシンガー、ムシルマ(MSYLMA)らが参加したLP盤の終曲は、楽器とエレクトロニスのオーケストレーションとヴォーカルが圧巻のシンフォニーを見せる。ギリシャ語で彫像を意味する「agalma」が各楽曲の番号とともに割り振られた今作は、曲ごとに異なるサウンド・フォームを模索している。一貫して広がる暗さに引きずり込まれ、聴くことを止めることができない傑作だ(レコードは手に入れるタイミングを逃してしまった……)。

Burial + Four Tet + Thom Yorke - Her Revolution / His Rope | XL Recordings

 最後はウワサのアレ。ロンドンの三つのレコ屋がこの12インチの入荷を告知した翌日に在庫をチェックしたところ、すべての店舗ではソールドアウトになっていた。限定300枚だしな、と諦めていたところ、その一週間後にとあるレコ屋のサイトを眺めていたら、どういうわけか入荷していて入手することができた。フォー・テットが自身のレーベル〈Text〉から、それまでのデザインとは異なる黒ラベルで発表したベリアルとの最初のコラボ12インチ「Moth / Wolf Club」が出たのが2009年。そこにトム・ヨークが加わった「Ego / Mirror」が2011年、そして翌年には再び2人に戻って「Nova」をリリースしている。今回の曲調は前回のようにハウスではなく、減速したツーステップでもなく、いわゆるダウンテンポと括られるスローなビートになっている。これまでもそうであったように、今作にもベリアル的なクラックル・ノイズが散りばめられ、フォー・テット的な色彩を加える流浪のシンセ・リードがあり、どこからか現在に回帰してくるサンプリングが澄んだ情景を生む。ヨークの声はトラックの前面に出ているというよりは、キックによって区切られる間隔でこだましているかのよう。レコードのランナウト(曲とラベルの間)に「SPRING 2020」とあるので今年になって録音されたものなのだろうか。であるならば、ヨークの歌詞が放つ、犠牲がともなう革命、完璧な自己破壊といったモチーフは、パンデミックやブレグジットとも時代的に呼応しているのかもしれない。それが透き通るようなトラックのなかで鳴っている。2021年、この12インチ はどのように聴こえるのだろうか。

Various Artists - ele-king

 ジョージ・フロイド事件から1ヶ月も経たない6月22日に〈プローディガル・サン〉という聞きなれないテクノのレーベルから『Black Lives Matter Compilation』というアルバムが出たので、仕事が早いな〜と思って聴いてみると、全13曲、どれひとつとしてブラック・ミュージックの影響を受けていない曲ばかりだった。これにはいささかたじろいでしまった。その時はふたつの解釈ができると思った。ブラック・ライヴス・マターというワードを利用して自分たちに注目を集めようと思ったか、もしくは今回のブラック・ライヴス・マターにはブラック・ミュージックに影響を受けていないミュージシャンやプロデューサーにも賛同者を集めるほど力があったということ。もしかするとその両方だったのかもしれないし、それこそ正解はわからない。そして、そのような多義性を許さない確固としたブラック・ライヴス・マター支援のアルバムをつくったのは〈プラネット・ミュー〉だった。わざわざ〈ミュージック・イン・サポート・オブ・ブラック・メンタル・ヘルス〉というレーベルが設立され、それがそのままタイトルとなったチャリティ・アルバムが7月3日にリリースされている。どこにも〈プラネット・ミュー〉とは記されていないので、主体はBEAMやブラック・スライヴといった支援団体が集まって設立したレーベルなのかもしれないけれど、マイケル・パラディナス夫妻を筆頭に同アルバムの8割近くを〈プラネット・ミュー〉の契約プロデューサーとその周辺の人脈が占めていることを考えると実際の制作は〈プラネット・ミュー〉が動いたとしか思えない。オープニングはスピーカー・ミュージック、続いてリアン・トレナー、J・リンやエルヴェに混ざって〈プラネット・ミュー〉からアルバムが予告されているジョン・フルシアンテはポリゴン・ウインドウみたいな曲を提供。ボクダン・レチンスキーやビアトリス・ディロンといった〈ミュー〉以外のプロデューサーではウラディスラフ・ディレイとAGF(このふたりも夫婦)もテンションの高い曲を提供し、とくに今年すでに4枚のアルバムをリリースしているウラディスラフ・ディレイは飛び抜けた出来の曲を提供している。逆に言えば最後の方にまとまっている〈プラネット・ミュー〉の新人らしき3組の曲をカットして全25曲にすればかなりな名盤であり、〈プラネット・ミュー〉が現在、何度目かの絶頂期にいることを刻印した傑作となったことだろう。しかし、チャリティ・アルバムというのはそういうものではない。『Music In Support Of Black Mental Health』は訴えている──世界的な黒人嫌悪による心理的なダメージから彼らが立ち直れる手助けをしたい、と。日本でも大坂なおみに対するバッシングの言葉がこんなに強く大量に出てくるとは思わなかったし、大阪や渋谷で行われたブラック・ライヴス・マターのデモに向けられた言葉の数々もひどかった。おかげで『Music In Support Of Black Mental Health』は身近な問題として聴くことができるアルバムとなった。あまりに内容が良いため、聴いている理由を途中で忘れそうになってしまうけれど。
(編注:三田氏のこの原稿は、大阪なおみが全米オープン優勝/決勝戦前に書いています)

 同じくチャリティ・アルバムで内容的によく出来ていると思ったのが『Nisf Madeena(半分都市)』。レバノンで起きた爆発事故の犠牲者を支援するためのもので、チュニジアの音楽雑誌「Ma3azef」が発行元。ディーナ・アブドルワヒドがブレイクして以来、チュニジアのクラブ系もエジプトやウガンダに続こうという気運の表れという面もあるのだろう。『Nisf Madeena』は多くがアラブ系のプロデューサーで占められ、キュレーターもブルックリンのマスタリング・エンジニア、エバ・カドリ(Heba Kadry)が務めている。彼女もエジプト系で、ジェニー・ヴァルやホーリー・ハーンドンの仕事で知名度を上げた存在。坂本龍一、ビーチハウス、ビヨーク、バトルズ……と、そのリストはどこまでも続く(飼っている犬の名前はイーノ!)。オープニングはなぜかチリ系のニコラス・ジャーで、怒りに満ちたオープニングの『Music In Support Of Black Mental Health』とは対照的に、静かに悲しみが浸透していく始まり。リスナーをレバノンの事故現場に招き寄せ、最初はそこで立ち尽くすしかないという気分にさせる。2曲目から4曲目にかけてユニス、イスマエル、ズリとエジプト勢が続き、甲高いパーカッションの響きがどれも耳に残る。続いてケニヤ(現ウガンダ)のスリックバックは意表をついてザラついたインダストリアル・ドローン。直前にリリースされた『Extra Muros – Kenya』でも作風の幅を一気に広げていたので、この人はいま、いい意味で予想がつかない注目のプロデューサーとなっている。イタリアからスティル(ドラキュラ・ルイス)による妙なブレイクビーツを挟んで再びエジプトのアヤ・メトワリィによるアラビック・チル・アウト。ガーディアンに「謎」と評された才能で、あの強烈なヴォイス・パフォーマー、ダイアマンダ・ガラスの弟子だそうです。アル・ナセルはパレスティナのヒップ・ホップ系、インダストリアル色を薄めたディーナ・アブドルワヒドに続いてブルックリンからファーティン・カナーンによる瞑想的なチャンバー・ポップ、さらにはロンドンからエジプト系イギリス人のFRKTLが60年代風のハードなエレクトロアコースティックをオファー。ほかにバーレンのサラ・ハラスやクウェートで育ったファティマ・アル・ケイデリ(生まれはセネガル、現ベルリン)による様々な種類のアンビエントと、アラビック・クラブ・ミュージックの様々な位相が存分に楽しめ、最後は爆発のあったレバノンからとても平穏なチル・アウトというアンサー(?)も。レバノンの爆発事故はそれ以前から続いていたインフレの責任を取る意味もあって現政府が退陣するほどのインパクトだった。爆発に巻き込まれた人だけでなく、生き残った子どもたちのPTSDも深刻だそうで、『Nisf Madeena』の収益はベイルートの様々なコミュニティに届けられるそうです→https://simsara.me/2020/09/03/ma3azef-nisf-madeena/。それにしてもカルロス・ゴーンはスゴいところに逃げたよなー。そして、世界中の人が彼のマネをしてマスクをすることになるとは思わなかっただろうな……。

Fools - ele-king

 リスナーを親しみやすく快適な世界に連れて行き、開放性と好奇心の深い感覚を維持しながら、発見されていない何かを探求する──レーベルからこんな風にセルフ・プロモーションされたらもう書くこともないのだが、2020年の奇妙な時期に、これほどポジティヴで好奇心を誘う作品がリリースされて耳に届いたことは幸運だった。
 部屋で音楽を楽しむしかないとき、アムステルダムの〈Music From Memory〉のカタログは、アンビエント、ニュー・エイジ、圧倒的熱量でしかなし得ない発掘音源、また、それに呼応するような新譜でもって、好奇心と共にぼくたちを甘美なサイケデリアに導いてくれた。グリズリー・ベアのドラマーであるクリストファー・ベアのソロ・プロジェクト『Fool's Harp Vol. 1』は、極まったホームリスニングと孤独のなかによく浸透してくれる、〈Music From Memory〉の新たなマスターピースに他ならない。

 2012年『Shields』のリリース後、メンバー感の距離をおいたというグリズリー・ベアが、2016年に再集合して、2017年にリリースした『Painted Ruins』は、インディ・ロックと呼ばれているなかでもっともリズムのエッジが効いた作品のひとつだった。絶対トニー・アレン好きでしょ、では済まされないアフロのロックへの取り込み方が絶妙で、例えば“Four Cypresses”は、アフロビート的リズムをエンジンにして、そこに集まってくるようなシンセとギターが相俟ってビルドアップしていくというアフロ的陶酔から、ロック的展開も忘れずにいきなり超ロックなフィルのあとちゃんとサビになだれ込んでいくあたり、プレイはもちろん曲の根幹にもアフロの要素がさりげなく入り込んでいて独特の質感を得ている。“Aquarian”のやたら長いアウトロもそれだけでアフロぽいが、8ビートでも気持ちよさそうなギターリフに対してアフロビート的ドラムが続くのも痛快。そもそも、このドラマーは、8ビートを叩かせてもリズムを把握する空間がめちゃくちゃ大きくて、気持ちいいしどこか変わっている。例えば、“Mourning Sound”では、それがよくわかる。再集合でのお互いのアイデアからはじまったものが、次なるアイデアで融解し、バンドサウンドを勝ち得ているかのようなロマンを感じて、そのリズムアイデアの発信にドラマーが関与していないわけもなく、また純粋にドラミングの魅力にも溢れていたので、そのとき強くクリストファー・ベアの名前を刻んだのだが、Foolsとしてさらに正体を暴いてくれた。

 2019年の夏に6週間の期間を設けて、各楽器を自分で録音して、そこに即興で音を重ねながら作った今作品は、アルバムというよりミックステープに近いという。「一連の楽器の探求を行い、直感に従い、何が形になるかを見ながら、一時的に別の世界に移動して音楽に関連性を感じさせる瞑想的で自己反映的な性質を発見していった」というようなことを自身のインスタグラムで見受けたが、素直に受け取ってよいほどに、孤独な作業に対してムードは重くなく、遠くで鳴っている音を、丁寧にたぐり寄せているかのようなサウンドスケープは、「発見されていない何か」に思えてくる。楽器探求のあり方としてこれほど刺激的なところもそうだし、アンビエント的でありながらリズムのもつ少し強引な力が生き生きと働いていて、リスナーを強要せずにスピーカーの前から離さないというところもあまり他の作品で出会わない魅力かもしれない。
 #1“Rintocco”のアンビエントらしい心地よい音の切れ間から、#2“Source”でコンガが登場してウーリッツァーと揺蕩うあたり、曲間までも機能しながら、たしかにリスナーを開放的な空間へ運んでくれるし、曲の後半で絶妙なところでドラムが登場する感覚は、たしかにミックステープのようでもある。あまり、ネタバレしても仕方ないのだが、その後も作品通してアンビエント的でありながら、ちょうどよいところでリズムがでてくる感じがニクい。#9“Thanks”は、アンビエントとクラブミュージックの親和性をどことなく感じられて、同じく〈Music From Memory〉からリリースされているJonny NashやKuniyukiさんと少し重なる部分もあった。7拍子が気持ちよい#11“Nnuunn”は、少しノンスタンダードぽさもあって親しみやすい。孤独のなかで作られたこの作品は孤独のなかにあって、親しみやすく、よく響く。
 タイトルにVol.1とあるだけに、Vol.2にも期待です。レコードの豊穣な音質を、贅沢に小さい音で聴きながら待ちましょう。

Moses Sumney - ele-king

 パレットの片方には真っ黒な絵の具、もう片方には真っ白な絵の具をたっぷり出して、それらをゆっくりと混ぜていく。できるだけゆっくり、ゆっくり、もう少しゆっくりと……。そうやって出来上がった「グレー」は単色ではなく、無限のグラデーションを生み出している。
 モーゼス・サムニーのセカンド・アルバム『GRÆ』は黒と白が混ざった色としての「グレー」を巡るコンセプト作だが、それはちょうど彼自身の存在への問いでもある。ガーナ系アメリカ人としてのアイデンティティを持ち、ニーナ・シモンとよく比較される「フェミニンな」ハイ・トーン・ヴォイスで、ソウルとインディ・ロックとチェンバー・ポップが入り混じった音楽のなか、ロマンスとエロスの境界が溶けた地点の情動を歌う……。それは彼のなかにある多層性や複雑さをさらに撹拌する作業であり、ブラックの男性であることから世間に貼られるレッテルを丁寧に鮮やかに剥がすことでもある。個々のアイデンティティが強く問われたことで2010年代なかばに生み出された傑作がケンドリック・ラマーの『To Pimp A Butterfly』のような「黒い」アルバムだったとすれば、黒人男性のアイデンティティの揺らぎを音楽に白い絵の具を混ぜることで繊細に封じこめたフランク・オーシャンの『Blonde』を通過し、2017年にデビュー・アルバム『Aromanticism』をリリースしたモーゼス・サムニーはさらにその先を模索しようとしている。

 ごく初期にグリズリー・ベアのクリス・テイラーのレーベル〈Terrible Records〉から7インチを出していたり、スフィアン・スティーヴンスと共演したりしていることが象徴的だが、インディ・フォーク/ロック界隈との繋がり、なかでもオーケストラル・ポップや室内楽の要素がその音楽に入っていることがモーゼス・サムニーの個性であり強みだ。それらは一般的に「白い」とされているものなのかもしれないが、あらかじめ彼のソウル・ミュージックと溶け合っていた。そもそもがとてもマージナルな存在で、たとえば音楽性は異なれど、ンナムディと並べてみると現代的なムードが感じられるのではないだろうか。
 『GRÆ』はそんなモーゼス・サムニーの抽象的な折衷性の奥ゆきを深めたアルバムで、前作からもっとも洗練されたのが「ゆっくり」という感覚、そのスローなタイム感であるように思う。ダブル・アルバムとなった本作は、室内楽フォークやソウル/ゴスペルの要素が基盤になっているのはこれまでと同様だが、ジャズ、エレクトロニカ・ポップ、オーケストラル・ポップ、さらにはノイズ・ロックを取りこみ、それらを余裕のある間合いで扱うことによってスムースに聴かせる。アルバムのオープニングにおいて、荘厳なストリングスとスポークン・ワードとスペーシーなシンセ・サウンドが重なる “Insula” から “Cut Me” へとイントロダクションがまず見事で、けっして性急なテンポにならない “Cut Me” はフレーズの細やかなクレッシェンドやコーラスとアンサンブルの重なりの妙味で魅せるチェンバー・ソウルである。ジャンルを折衷するために異なる要素を無理にぶつけず、丁寧に並べてしなやかな歌声で繋いでいく。メロウかつ甘美にドリーミーな “In Bloom” を挟んでシングル “Virile” に至るころには、インディ・シーンの要人ロブ・ムースが手がけたストリングスとパワフルなバンド・アンサンブルによってダイナミックなサウンドの広がりを聴かせるが、あくまで余裕のあるスピード感でじっくりとエモーションを高めている。2枚組といえど通して1時間少しとじつはそんなに長いアルバムではないのだが、1枚聴き通すころには壮大な音楽トリップをしたような充実感を味わえるのは、この、ゆったりとした展開によるところが大きい。

 その “Virile” では「男らしさを誇張しろ/お前は間違った考えを持っている、息子よ」とある種反語的に繰り返されるが、典型的な男性性の抑圧のモチーフがアルバムには散見できる。黒人男性にかかる男らしさのプレッシャーはアメリカにおいてとりわけ強く、それは白人目線からの性的な期待を内面化したものであることが昨今指摘されているが、モーゼズ・サムニーは黒人男性である自分の男性性と女性性の「グレー」なゾーンを探求しているようだ。アメリカで生まれた彼は幼少期に一度ガーナに家族とともに移住し、しかしそこでのコミュニティに馴染めなかった経験があるというが、したがって彼のなかにあるアンビヴァレントな感覚はルーツと現在という点にも及んでいるだろう。『GRÆ』にはダニエル・ロパティン(ほんとにどこでも名前を発見できますね)をはじめジェイムス・ブレイクサンダーキャット、ジル・スコット、FKJ などなど30名以上のゲストが参加しており、それが本作の音楽性の拡張に貢献していることは間違いないのだが、それでも中心として表現したかったのはモーゼス・サムニーそのひとのなかの複雑さだったように思う。(サムニーも参加した)レーベル・メイトのボン・イヴェールによる『i, i』がやったような異なるアイデンティティ(人間)の共存と融和ではなく、個人のなかに潜っていくことでひとりの人間のなかに宿っているはずの多様性を発見するというあり方だ。だから、とろけるようにジャジーなソウル・ナンバー “Colouour” も、それこそグリズリー・ベア的にフォークとクラシックが熱狂的に交わる “Neither/Nor” も、淡いコーラスがひたすら心地いい室内楽フォーク “Polly” も……すべて、サムニーのなかにあるグレーのグラデーションなのである。
 2枚目にあたる “Two Dogs” 以降はとりわけフルートやハープの調べによって天上的な響きを増していき、その陶酔感を高めている。そこではサムニーの存在を通してルーツと現在、男性性と女性性、アヴァンとポップ、肉体と精神、黒と白……の境目がなくなっていく。そしてその「なくなっていく」ことが聴く者の快楽になるのである。「二面性」などというものはないと言わんばかりに。弾き語りフォークの小品 “Keeps Me Alive” やジェイムス・ブレイク参加の “Lucky Me” のミニマルなアンサンブルを通過したあとにやってくる、“Bless Me” のクライマックスはただただ圧倒的だ。
 ブレス・ミー、わたしを祝福せよ。『GRÆ』のまばゆい美しさと甘美な陶酔は、単純に切り分けることのできない人間の内面の複雑さや、そのグラデーションのなかを変容していくことを祝福していることによって生まれている。

Tohji - ele-king

 2019年、大きな話題を集めたラッパーの Tohji が、人気曲“Rodeo”のMVをサプライズで公開している。USのユーチューブ・チャンネル No Jumper からのリリースで、監督は“aero”のMVも担当していた Havit Art。今年の活躍を締めくくりつつ、来年のさらなる飛躍を期待させてくれるような、なんとも勢いのある動画に仕上がっている。

ECM Listening Lounge - ele-king

 今年で〈ECM〉が設立50周年を迎える。ジャズのみならず、さまざまな音楽を送り出してきた同レーベルの魅力をより幅広い層へと届けるべく、dublab.jp が新たにイヴェントをスタートする。その第1回が Veronique にて開催。ナヴィゲイターを務めるのは原雅明で、第二部では DJ KENSEI が〈ECM〉音源のみを使ったセットを披露するとのこと。詳細は下記より。

Aphex Twin Live Stream - ele-king

 本サイトの告知にあったように、日本時間で9月15日(日)の午前6時からライヴ配信がスタートしたリチャード・D・ジェイムズのDJ。少しだけ観るつもりが、レオ・アニバルディだ、バング・ザ・パーティだとじょじょに沸き立っているうちに、結局、最後の客出し部分までぶっ通しで観てしまった。どうせそんなやつらばかりなんでしょうけれど。次の日は近所の中華屋で……ま、いっか。

 2年前のフィールド・デイではスタッターなリズムでスタートし、全体に実験的な曲が多く(チーノ・アモービとかマーク・フェルとかクラウドはかなり辛そうで)、とてもフロア・フレンドリーといえるような内容ではなかったし(https://www.youtube.com/watch?v=nzvLiwUK3R8)、12年にはロンドンのバービカン・ホールでミュジーク・コンクレート風のアート・インスタレイションを着席スタイルでやったりしていたので(https://www.youtube.com/watch?v=jVvLf0vJJ9s←最後のジェスチャーが……)、彼らしさはあるとはいえ、RDJでもここまでバリバリにアカデミックなモードになるんだなと思っていたこともあり、あまりストレートな展開は期待していなかったのだけれど……あれ、なんか聴いたことあるな、なんだっけな、これ……と、結論からいうと、最初の1時間は89年か90年にリリースされた曲がほとんどで、これは、94年に初めて日本に来たときとかなり近いDJだと思い当たった。2回目、3回目とどんどんダメになっていったRDJのDJとは比較にならないほど初来日のDJは2日とも素晴らしいものだったので、そのときとメガドッグで来日した際のDJはいまだに特別な思いがあったのである。あのときの記憶がどんどん蘇ってきた。

 前半はビザーレ・インク(後のチッキン・リップス)やデプス・チャージの変名であるジ・アクタゴン・マンなど〈Vinyl Solution〉周辺の人脈が大量に投入され、これらとスネアの音や刻み方がまったく同じレニゲイド・サウンドウェイヴやフューチャー・サウンド・オブ・ロンドン、あるいはグレーター・ザン・ワンの変名であるジョン&ジュリー「Circles」に808ステイト「Cubik」のリフをカット・インしたり、ホーリー・ゴースト・インクやDJドクター・メガトリップ(サイキックTV)といった癖が強すぎる連中に「Sueño Latino」をパクったシャドウズ・Jと、イギリス愛に満ち満ちた選曲で(いま風の流行り言葉でいえば「Throwback British Techno」セット?)、テクノという呼称が定着する前のブリティッシュ・ブレイクビートとカテゴライズすればいいのか、それこそリチャード・D・ジェイムズが頭角を現したことで葬り去られてしまった人たちの曲がこれでもかと並べられた感じ。これにユーロ・テクノや〈Nu Groove〉、あるいは定番ともいえるアンダーグラウンド・レジスタンスも織り交ぜて、まさかのポップ・チャートからクオーツやD–シェイクまでシームレスにミックスされ(あるいは独自にドラムを足して)、これにノスタルジーを感じるなという方が無理であった。つーか、「Techno Trance (Paradise Is Now)」なんて普通かけないよな~。当時、エレキング界隈でD–シェイクなんかかけようものなら……いや。

 意外にも初来日のDJがまざまざと蘇ったのは前半のクライマックスで、ここからは最近の曲が続き、ユージ・コンドウ「Chambara」で少し焦らせるような時間をつくった後に、ジョージア(グルジア)からHVLによる昨年の「Sallow Myth」を始め、ズリ、スタニスラフ・トルカチェフ、カツノリ・サワと、最近の曲をベースとした流れに。なお、カツノリ・サワとユージ・コンドウはときにタッグを組んで活動する京都のプロデューサー。後半はRDJ自身の曲も多くなり、限定リリースが話題となった『London 03.06.17』から「T16.5 MADMA」だとか、user18081971名義でサウンドクラウドにアップした曲も。自分の曲がうまく使えるのは当たり前だろうけれど、『Selected Ambient Works Volume II』から「Stone In Focus」を(スクエアプッシャーの未発表だという曲に)被せるタイミングはやはり絶妙でした。11分に及ぶライヴ・セットは軽いドラミングからアシッド・ベースを加え、シカゴ・アシッドに憂いを含んだメロディを地味に展開させつつ、ブレイクを挟んでデトロイト・スタイルに調子を強めたり。初来日のときには「Quoth」を4回連続でかけて、それらがどれも違う曲に聴こえるという離れ業もやっていたので、そのような展開がなかったのはちょっと残念でしたが。

 後半はVJもかなり派手になり、ボリス・ジョンソンの変顔ではやはり歓声が高くなったり。そして、最後の30分はもう何をやっても受けまくり。ドラムン・ベースを基調に(95年の曲が3曲も)、かなり無茶な曲(これもスクエアプッシャーの未発表曲だそう)でもクラウドは食らいついている。チル・アウトはカレント・ヴァリュー「Dead Communication」ときて、約2時間のセットは終了。エンディングのめちゃくちゃがまたカッコよく、これも初来日のときよりはあっさりだったかも(やはり歳をとったか)。Reddit(アメリカの2ちゃん)にはRDJの隣でマニピュレイターを操作しているのは奥さんだという書き込みがあったけれど、そうなんだろうか? 確かに女性のようには見えたけれど。

 ところで音楽ファンではない人にRDJというイニシャルを書くと、「ロバート・ダウニーJrですか?」と言われてしまいます。皆さん、ご注意を。

 なお、見逃した人は〈Warp〉の公式サイトで観ることができます。
 https://warp.net/videos/1088517-aphex-twin-london-140919

ユーチューブのAphex Twinチャンネルにアップされた曲目リストは以下の通り。

https://www.youtube.com/watch?v=5yQRp4j2RQM

0:00:00-0:02:31 sounds, intro
0:02:32-0:07:10 RB Music Festival 2019 - London trk1 ("unreleased afx”)
0:06:23-0:10:01 Leo Anibaldi - Muta B2
0:07:23-0:12:29 [+ live drums by afx]
0:10:01-0:11:07 [+ vocals and melodies]
0:11:06-0:13:56 Quartz - Meltdown (remix?)
0:13:27-0:15:45 Equation- The Answer (Frankie Bones Long Division Mix)
0:14:28-0:16:55 Bang The Party - Rubba Dubb (Prelude)
0:16:16-0:19:11 Renegade Soundwave - The Phantom (It's In There)
0:17:34-0:20:26 [+ sounds, drum break]
0:19:58-0:23:53 The Octagon Man - Free-er Than Free
0:23:36-0:26:28 Shadows J Hip This House (The Leon Lee Special)
0:25:50-0:28:00 Exocet - Lethal Weapon
0:27:43-0:31:03 D-Shake - Techno Trance (Paradise Is Now)
0:30:32-0:32:53 John + Julie - Circles (Round And Round) Hyperactive Mix
0:31:55-0:32:58 [+ additional drums]
0:32:43-0:34:21 The Unknown - Put Your Fuckin Hands In The Air
0:34:08-0:37:39 Trigger - Stratosphere
0:37:20-0:40:41 The Future Sound of London - Pulse State
0:40:03-0:42:10 2 Kilos ? - The Dream
0:41:47-0:46:40 GESCOM- D1 (+manipulation)
0:45:28-0:47:48 Psychic TV - Joy
0:46:51-0:49-37 The Holy Ghost Inc - Mad Monks On Zinc
0:49:37-0:52:12 Underground Resistance - UR My People
0:52:02-0:56:09 Bizarre Inc. - Plutonic
0:55:14-0:58:44 Ye Gods - Becoming
0:57:19-0:59:46 Hound Scales - A Clique of Tough Women [Yuji Kondo Remix]
0:59:30-1:02:37 Yuji Kondo - Chambara
1:01:11-1:06:02 HVL - Sallow Myth
1:04:29-1:07:15 Martyn Hare - Is This Happening?
1:07:05-1:09:12 [+ live, 'aggressive'?]
1:08:34-1:12:18 user18081971 - Fork Rave
1:11:02-1:14:10 Aphex Twin - T16.5 MADMA with nastya+5.2 (+live elements
1:12:56-1:15:51 The Octagon Man - Vidd
1:15:23-1:18:41 ZULI - Trigger Finger
1:17:58-1:20:10 Stanislav Tolkachev - Disposable Killer
1:19:19-1:20:38 Katsunori Sawa - Pluralism
1:20:27-1:22:43 AFX - Umil 25-01 (live version?)
1:22:44-1:26:46 [RB Music Festival 2019 - London trk2 "mini live set" (pt1)]
1:26:47-1:28:50 [RB Music Festival 2019 - London trk3 "mini live set" (pt2)]
1:28:50-1:30:49 [RB Music Festival 2019 - London trk4 "mini live set" (pt3)]
1:30:50-1:33:47 [RB Music Festival 2019 - London trk5 "mini live set" (pt4) lush]
1:33:48-1:37:45 [AQXDM - 12 November (unreleased)]
1:37:14-1:41:04 Unknown Artist - Untitled (GBBL01 A1)
1:39:45-1:43:16 [Squarepusher - Unreleased]
1:41:27-1:45:18 Aphex Twin - Stone In Focus
1:44:25-1:48:39 DJ SS - Black
1:47:04-1:51:09 Torn - Dance On The Bones
1:50:07-1:54:19 The Higher - Stick 3
1:52:20-1:55:56 Fusion - Truth Over Falsehood
1:55:18-1:57:04 Chatta B - Bad Man Tune
1:56:45-1:59:33 Current Value - Dead Communication (feat DR & Lockjaw)
1:59:08-1:59:43 . . . - avearro
1:59:44-END [live modular noise]

*それぞれのタイムをクリックすると、曲別に聴くことができます。

Technics 7th in Tokyo - ele-king

 ヴァイナルとターンテーブルを愛するすべての人たちに朗報だ。DJカルチャーに多大な功績を残しながらも9年前に製造終了となっていた Technics の名器 SL-1200MK シリーズ、たとえばテクノ好きのあいだではリッチー・ホウティンとジョン・アクアヴィヴァによって設立され、スピーディ・Jやケニー・ラーキンといった才能を送り出してきたウィンザーのレーベル〈Plus 8〉の名が、同シリーズのピッチ・コントローラーの値に由来することはちょっとした豆知識になっているけれど、なんと去る5月24日、同シリーズ11年ぶりの新モデル SL-1200MK7 が発売となった。
 これを記念し、明後日6月5日 DOMMUNE にてスペシャル・プログラムが緊急配信。アナログをメインとするDJたちが一挙に集結する。第1部のトーク・パートには宇川直宏、DUB MASTER X、Technics の開発担当者である三浦寛らが出演し、SL-1200MK7 の魅力を徹底的に解剖。第2部のDJパートでは MURO、DJ EMMA、Mighty Crown、DJ KOCO a.k.a.SHIMOKITA、Dazzle Drums と、錚々たる面子がプレイする予定となっている。しかも通常3時間のDJタイムがこの日は4時間とのことで、見逃すと後悔する一夜になりそうだ。詳細は下記よりご確認を。

https://www.dommune.com/reserve/2019/0605/

SL-1200MK7 発売記念!!
DOMMUNE にてスペシャル番組配信が決定!!

世界中のレコード・ファン、ターンテーブリスト達が絶大なる信頼を寄せるターンテーブルが Technics SL-1200MK シリーズ。このターンテーブルが Hip Hop、クラブシーンに果たしてきた役割と功績は見逃せない。まさにこの優れたターンテーブルがあったからこそDJカルチャーが隆盛したと言える、そんな名器なのだ。しかし2010年に製造終了となり、世界中のターンテーブル・ファンから再発売を熱望されていたが、ついに5月24日に新モデル SL-1200MK7 が発売となった。

この発売を記念して DOMMUNE でアナログをメインにしたDJたちが集結するスペシャル・プログラムの緊急配信が決定。

出演は、今年1月のラスベガスでのお披露目イベント「Technics7th」でもプレイし話題になった DJ KOCO A.K.A SHIMOKITA、レゲエ界からは世界ナンバー・ワンの Mighty Crown の Masta Simon と Sami-T の2人、King Of Diggin こと MURO、Nagi と Kei Sugano による注目の男女ユニット Dazzle Drums、DJとして長いキャリアを誇る DJ EMMA というこの夜でしか有りえないジャンルを超えて選ばれた超豪華DJ陣が登場する。しかもこの夜は、通常3時間がDJタイムだが、この夜は4時間枠。
つまり前半のトークセッションは1時間に短縮だが、逆に濃い内容となる。Technics のターンテーブル開発担当、三浦氏に加え、リミキサーやエンジニアとして様々な機材を使いこなす DUB MASTER X も登場し、発売された SL-1200MK7 を解剖、また今年1月にラスベガスのベラージオ・ホテルで行われ DOMMUNE と BOILER ROOM で全世界配信され話題となったパーティー「Technics7th」の数百枚の写真から選んだフォト・ドキュメントや映像を交えたリポートも行われる予定。

【番組概要】
■番組名:Technics 7th in Tokyo
■日時:6月5日(水)19:00-24:00
■出演
1部(トーク):宇川直宏、DUB MASTER X、三浦寛(Technics)、石井志津男ほか
2部(DJ PLAY):DJ KOCO a.k.a.SHIMOKITA、Mighty Crown、MURO、Dazzle Drums、DJ EMMA
■配信サイト:DOMMUNE(https://www.dommune.com
※配信時間にPC/スマートフォン等からURLにアクセス頂ければ無料でご覧いただけます。

MURO
日本が世界に誇る King Of Diggin' こと MURO。「世界一のDigger」としてプロデュース/DJでの活動の幅をアンダーグラウンドからメジャーまで、そしてワールドワイドに広げていく。現在もレーベルオフィシャルMIXを数多くリリースし、国内外において絶大な支持を得ている。新規レーベル〈TOKYO RECORDS〉のプロデューサーにも名を連ね、カバーアルバム『和音』をリリースするなど、多岐に渡るフィールドで最もその動向が注目されているアーティストである。
毎週水曜日25:30~ TOKYO FM MURO presents 「KING OF DIGGIN'」の中で、毎週新たなMIXを披露している。

DJ EMMA
1985年よりDJを始め、東京各所のナイトクラブで数々のパーティーを成功させる。1994 年に「GOLD」と契約。クローズするまでレジデンスとして活躍、そのアグレッシブなプレイによって土曜日をまとめあげ、東京中の遊び人(ナイトリスト)たちに決定的な存在感を知らしめた。1995年にはDJプレイに留まらず音楽制作を開始。川内タロウと共に「MALAWI ROCKS」を結成する。同年〈NIGHTGROOVE〉より発売された12inchシングル「Music Is My Flower」が世界的ヒットを果たす。同じく1995年から発売され、日本を代表するMIX CDとなった『EMMA HOUSE』は、24bitマスタリングというMIX CDの枠を超えた徹底的な音作りとダンスフロアの雰囲気を閉じ込めた作品として好セールスを記録。2014年新たな活動を始めた〈NITELIST MUSIC〉から、日本発のACID HOUSE 『ACID CITY』を発売。〈HEARTBEAT〉から2年連続リリースとなったMIX CD 『MIXED BY DJEMMA vol.2』と共にダブルリリースツアーを全国15ヶ所で行う。常にダンスフロアと HOUSE MUSIC を中心に新しい音楽を最高の技術でプレイし続けるスタイルは KING OF HOUSE と呼ばれる。
2016年には活動30周年を記念した『EMMA HOUSE XX~30th Anniversary~』を〈ユニバーサルミュージック〉よりリリース。
2017年、プロデュースユニット NUDE 名義で「NO PICTURE (ON MY PHONE) feat. ZEEBRA」をリリースし、さらには最新作『ACID CITY3』を10月にリリースするなど、DJ及びプロデューサーとして精力的に活躍中。

Mighty Crown
1991年横浜で結成され、今では日本代表のみならず世界のレゲエアンバサダー/カルチャーアイコンとして活躍するダンスホールレゲエサウンド。
2017年11月にはボブマーリーファミリーの主催するカリブクルーズ船上でのサウンドクラッシュで3連覇を果たし、18年7月にはサウンド界のチャンピオンズリーグともいえるジャマイカでの世界大会 WORLD CLASH 20th Anniversarry で優勝を果たす。これまでに8つの世界タイトル、11回の優勝経験をもつ唯一無二の存在である。
観客を煽るMCと、曲をプレイする SELECTOR (いわゆるDJ)からなるチームとして、曲のメッセージ、音楽のパワーを倍増させてフロアに伝える彼らのスキルは随一。選曲やMCの妙で誰が一番観客を盛り上げるかを競う「サウンドクラッシュ」という音の戦いにおいても、早くから国内外で積極的に取り組み、1999年NYで行われた「WORLD CLASH in New York」で優勝。アジア人初のサウンドクラッシュ世界一の称号を勝ち取った。
以降は単に日本代表というだけでなく世界屈指のサウンドとして北米、カリブ諸島、ヨーロッパなど、海外各地を沸かし続けてきた。11個の世界タイトルを獲得し、トロフィーの数だけでなく、世界中にファンとリスペクトを増やし続けている。レゲエのメッカ、ジャマイカにおいても、サウンド文化の貢献者として表彰されるなどその存在と功績はジャンルを越え評価されている。
メンバーは設立からのメンバーである MASTA SIMON と SAMI-T の兄弟に加え、SAMI-T のNY修業時代に知り合い MIGHTY CROWN に加入したファンデーション担当の COJIE、そして MIGHTY CROWN 第二の拠点であるNY在住の NINJA。それぞれの得意分野を生かして単独でも活躍している。
国内外のクラブプレイ、レゲエフェスなどへの出演の他に、“信念とスタイル、そしてスキル”を持つアーティストとして、ジャンルを超え、ハイ・スタンダード主催の《AIR JAM》やモンゴル800 主催の《What A Wonderful World》などロックフェスのクラウドをもレゲエサウンドの手法と MIGHTY CROWN のスキルを活かして盛り上げている。また、人気ドラマ『HiGH&LOW』のサントラや般若、ANARCHY といった HIP HOP アーティストの作品にアーティストとして参加、イベント、レーベル、ブランドプロデューサーなどその進化はとどまることを知らない。

DJ KOCO a.k.a. SHIMOKITA
世界中のバイナルディガー達を圧倒させる選曲と、時折魅せるスリリングなテクニックで、オーディエンスを魅了する。これまでに、7インチのみでのライブミックスなど、数々のMIX作品を出し続けている現在進行形のヒップホップDJ。ファンク、ソウル、ディスコ、レゲエなど様々なジャンルの45'sを使い、ヒップホップ的な解釈で見せる彼のプレイは海外DJ達からも高い評価を受ける。現在、アジアでも活躍しながら、DJ Scratch がブルックリンから配信するDJパフォーマンスのストリーミングサイトで、「ScratchVision Tokyo」と題して定期に出演している。

Dazzle Drums
Nagi と Kei Sugano の2人組ユニット。それぞれが90年代からDJ活動を開始。ダンス/ハウスクラシックスを軸に幅広い選曲で新譜を織り交ぜプレイする。
2005年より楽曲制作を開始。〈King Street Sounds〉、〈Centric Music〉、〈Tony Records〉、〈Nulu Electronic〉、〈Tribe Records〉、〈BBE Music〉などこれまで数多くの海外レーベルからリリースを重ね、Danny Krivit、Joaquin Joe Claussell、Louie Vega、Tony Humphries、DJ Nori、DJ Emma や Tim Sweeney らがプレイし、幅広いDJからの評価を獲得。2010年、自主レーベル〈Green Parrot Recording〉を始動。2014年、1stアルバム『Rise From The Shadows』をリリース。2016年、Louie Vega ファミリー Anane Vega のレーベル〈Nulu Electronic〉から2ndアルバム『Concrete Jungle』をリリース。同年7月 Gilles Peterson 主宰、南フランス Sete で開催される《Worldwide Festival》に出演、12月 Ray-Ban x Boiler Room に出演。2017年、Mix & Compilation CD 『Music Of Many Colours』をリリース、同名のパーティーを Contact で始動。同年7月ヨーロッパツアー、10月アムステルダム ADE 出演。2018年7月2度目の《Worldwide Festival》出演を皮切りにヨーロッパ5ヶ国6都市をDJツアー。レギュラーパーティーは毎月第二日曜日夕方開催 Block Party @ 0 Zero。

DUB MASTER X
一発で彼の音と分る個性的な音作りをするが、そのバランス感覚は絶妙で、歌謡曲からクラブのフロアーを揺るがす音作りまで何でもこなすサウンド・エンジニア&DJ&クリエイター。ごく初期の Mute Beat 時代からダブ・エンジニアとして参加し、全ての作品に参加。Mute Beat 解散後は Remixer やレコーディング・ライブミックスエンジニア、DJとして活躍。「Dub Wa Crazy」シリーズで7インチ・シングルを10枚リリース(のちに全曲を収録した同名の2枚組CDをリリース)。92年にはファースト・アルバム『Dub Master X』を皮切りに『Dub Master X II』『Side Job』をリリース。また藤原ヒロシとの Luv Master X 名義のアルバム『L.M.X』も93年にリリース。Dub wa Self Remix シリーズを始めアンダーグラウンドでの活動をしながら00年には『Dub's Music boX』を、2009年には『Dub Summer Pop』をリリース。2010年には鬼才リミキサーユニット Moonbug に加入。2015年、盟友朝本浩文の事故をきっかけに集まった仲間達と DUBFORCE を結成。
リミックス・ワークとして浜崎あゆみ、倖田來未、Every Little Thing、globe、鈴木亜美、Do As Infinity、華原朋美などの〈エイベックス〉作品を多く手掛ける傍ら、ヤン富田、いとうせいこう、Pizzicato Five、ムーンライダーズ、The Blue Hearts、コレクターズ、キリンジといった玄人好みのミュージシャンの作品も多数制作。既に本人でさえ数え切れないほどの作品に関わっている。
PAエンジニア・レコーディングエンジニア・リミックス・プロデュース・アレンジ・プログラミング・DJ・舞台音響等々、アーティストサイドとスタッフサイドの両方を理解する希有な存在でもある。
2010 年頃より初心に立ち返り気持ちの良い音を探求すべくライブPAエンジニアを主戦場として活動中。Deftech、SUGIZO、柴咲コウ、m-flo、かせきさいだぁ、小島麻由美、MORE THE MAN、SOUR、KanekoNobuaki、POLARIS、柴田聡子、BASSONS、木根尚人等のFOH を担当している。

Lee Gamble × Renick Bell - ele-king

 さまざまなスタイルを解体しながら折衷し、独創的な音楽を創造するプロデューサーのリー・ギャンブル、この2月に〈Hyperdub〉より最新EP「In A Paraventral Scale」を発表したばかりの彼が、3年ぶりとなる東京公演を実施する。会場は渋谷 WWW X で、WWW のレジデント・パーティ《Local World》の一環としての開催だ。ズリキシにと、最近ノりにノっているギャンブル主宰の〈UIQ〉だけど、同レーベルからリリース経験のあるレニック・ベルが今回の共演相手を務めるとのことで、彼の「アルゴレイヴ」がいかなるものなのか確認する絶好の機会でもある。5月最終日は WWW X へゴー。

Local X3 World Lee Gamble

超越のハイパー・レイヴ! UKエレクトロニックの鬼才 Lee Gamble (UIQ) が〈Hyperdub〉移籍後、初の東京単独公演を WWW X にて開催。共演に自身のレーベル〈UIQ〉からリリースした Renick Bell が登場。追加ラインナップは後日発表。

ジャングル、レイヴ、テクノ、アンビエントを超越したハイパー・コンクレートな作風でサウンド・デザイナー、ジャングリスト、コンポーザー、DJとして活動、エレクトロニックの名門〈PAN〉や〈Hyperdub〉からのリリースを軸にアートとクラブ・シーンをまたぎながら着実なキャリアを重ね、また近年のエレクトロニック・ミュージックにおいて大きな潮流へと発展した“脱構築”のパイオニアとしても名高いロンドンの鬼才 Lee Gamble がコンテンポラリーなエレクトロニック/ダンス・ミュージックを探求する WWW のレジデント・パーティ Local World に登場。ローカルからプログラムをリアルタイムに書き換えながらアルゴリズミック・パフォーマンスを行うコンピューター・プログラマー/電子音楽家、日本在中の Renick Bell が出演し、アルゴリズムとレイヴの混合語「アルゴレイヴ」と自ら名付ける、アルゴリズムによって作られたリズミックな即興音楽を披露。90年代クラブ・ミュージックの解体と合成から生成されるハイパー・レイヴなクラブ・ナイトが実現する。追加ラインナップは後日発表。

Local X3 World Lee Gamble
2019/05/31 fri at WWW X

OPEN / START 24:00
ADV ¥1,800@RA | DOOR ¥2,500 | U23 ¥1,500

Lee Gamble [UIQ / Hyperdub / London]
Renick Bell [UIQ / Halcyon Veil / US/JP] - LIVE
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詳細:https://www-shibuya.jp/schedule/011107.php
前売:https://jp.residentadvisor.net/events/1258078


Lee Gamble [UIQ / Hyperdub / London]

英バーミンガム出身、現在はロンドンを拠点に活動する Lee Gamble。ジャングル、テクノ、レイヴ、アンビエントを超越し、サウンド・デザイナー、ジャングリスト、コンポーザー、DJとして抽象的で近未来的な作風で鬼才の名を恣にしている。ベルリン〈PAN〉からジャングルを解体した話題作『Diversions 1994-1996』や名作『KOTCH』含む3作を発表し、2017年に Kode9 の〈Hyperdub〉から『Mnestic Pressure』をリリース。複雑で抽象的な電子音楽プロデューサーとしてのみでなく、常に新鮮な楽曲をダンス・フロアに提供する傑出したDJとしてカルト的な地位を築いた。その後もビジュアル・コラボレーターの Dave Gaskarth とA/Vショー「Foldings」を行い、またロンドン現代オーケストラとの共演、これまでに ICA London,、Southbank Centre、MoMa PS1、Tate Modern、Sonar Festival、Berghain, WWW in Tokyo, MMCA Seoul、Fabric、Ministry of Sound、Sonar Festival、Unsound Festival、Oval Space、Village Underground、Mutek Festival、Old Granada Studios、Dimensions Festival and The Empty Gallery in Hong Kong 等様々な場所で活動の幅を広げている。近年、新しい才能を発掘すべく自身のレーベル〈UIQ〉をスタート。日本在中の Renick Bell、N1L、Lanark Artfax、Zuli、Nkisi 等、実験作品をリリース。最近では〈Hyperdub〉より3部作となるアルバム『In A Paraventral Scale』の第1部がリリースされる等、旺盛な活動が続いている。

https://soundcloud.com/leegamble

Renick Bell [UIQ / Halcyon Veil / US/JP]

アメリカ出身日本在住のプログラマー/電子音楽家。オープンソースのソフトウェアを使用してライブコーディング、即興演奏、およびアルゴリズムの合成を研究。Cask、Haskell やプログラミング言語を用いたライブコーディングによって演奏した作品やパフォーマンスを行い、これまでに〈UIQ〉、〈Halcyon Veil〉、〈Seagrave〉から実験的な作品をリリースしている。

https://soundcloud.com/renick

Nkisi - ele-king

うちゅうろん【宇宙論】
宇宙の起源・構造・終末などについての理論の総称。宇宙を対象とした自然学として哲学や宗教の重要部門をなすが、現在では現代物理学的・天文学的研究をいう。コスモロジー。

 と、『スーパー大辞林 3.0』には載っている。リー・ギャンブルのレーベル〈UIQ〉から、去年のズリ『Terminal』に続くレーベル史上2枚のアルバム『7 Directions』を発表したプロデューサーの意図は、自らがここ数年リサーチを重ねてきたアフリカのバントゥ・コンゴのコスモロジーに着想を得たサウンドの構築にある。
 作り手の名前はアルファベットで「Nkisi」と書いて「キシ」と読む(本人に確認したので間違いない)。「Nkisi」とは、中央アフリカ、コンゴに伝わる、魂が宿るとされるオブジェクトのことである。その名前を自らに宿した作り手の本名は、メリカ・ゴンベ・コロンゴ(Melika Ngombe Kolongo)という。コンゴ出身でベルギーのルーヴェンで生まれ育ち、6年ほど前からロンドン在住。

 アメリカ、ヴァージニア州リッチモンドに拠点を置くチーノ・アモービ、南アフリカのケープ・タウンのエンジェル・ホとともに彼女が2015年に立ち上げたレーベル、あるいは世界に散らばる表現者たちの共同体である〈NON Worldwide〉は、アカデミックな理論、詩、ファッション、チャリティ活動まで様々な表現を横断しまくることによって、音楽シーンに「黒い」衝撃を与え続けている。
 レーベル設立当初のコンセプトをいくつかあげてみれば、「脱中心」、「反バイナリー構造」、「アフロ・ディアスポラ」など、アカデミアで主に使用される言葉が散りばめられている。〈NON〉には中心的リーダーや拠点がなく(脱中心)、白や黒、男と女、正義や悪、といった二元構造(バイナリー)の破壊を希求し、そのパワーの構成員は、奴隷制以降世界に離散していたアフリカにルーツを持った者たちだ(アフロ・ディアスポラ)。よって、〈NON〉は2017年の『Paradiso』で脚光を浴びたアモービのレーベルなどとされることがあるが、それは検討外れであり、個である構成員がその共同体を作り上げている(むしろ、アモービによれば〈NON〉の初期コンセプトの多くを考案したのはキシらしい)。

 キシのここ数年の動きを整理してみる。2015年の〈NON〉の第一弾コンピに “Collective Self Defense”を、2018年の第二弾コンピには “Afro Primitive”を発表している。ソロワークでは、2017年に〈Rush Hour〉傘下の〈MW〉からEP「Kill」を、2018年には〈Warp〉傘下の〈Arcola〉からEP「The Dark Orchestra 」をリリース。そのどれもが高い評価を得ていて、去年の英誌「Wire」年間ベスト・アルバムには「The Dark Orchestra」がEPとしてランクインした。キシの影響元である、ドゥーム・コアやガバがミニマリズムを媒介し、オリジナリティを作り出しており、彼女のDJスタイルにある凶暴性と高速性は、深夜のロンドンのフロアで多くを惹きつけている。
 近年、ロンドンの大学で心理学系の修士課程を修了したキシは写真家やインスタレーション・アーティストとしても活動しており、2018年にはロンドンのギャラリー、アルカディア・ミサで『Resonance (Forced Vibration)』サウンドとオブジェクトを用いた個展を開催している (https://arcadiamissa.com/resonance-forced-vibrations/)。
 そのインスタレーションでもテーマになっていたのが、『7 Directions』も基づいている、冒頭のバントゥ・コンゴのコスモロジーだ。また今アルバムはアフリカ研究の権威であるキムワンデンデ・キア・ブンセキ・フーキオ(Kimbwandende Kia Bunseki Fu-Kiau。著書に『African Cosmology of the Bantu-Kongo: Principles of Life and Living』など)に捧げられている。個展の説明や、先日ロンドンのブリープのポップアップ・ストアで開かれた「Wire」主催のトーク・イベントでの発言によれば、その宇宙の捉え方において、時間は直線系ではなく円系であったり、「見ること」は「聞くこと」であったりと、西洋近代の「宇宙」のあり方とはまったく違うことがわかる。

 今作『7 Directions』はタイトルが示す通り、7曲のトラックで構成され、曲名には「Ⅰ~Ⅶ」の数字が割り振られている。曲順通りに展開していく従来のアルバムの概念をフォローしているというよりは、別々の方向を向いた7つのオブジェクトが序列なく並存している様子が思い浮かぶ。今作のレコード盤のラベルには、レコードの回転方向である「右」とは逆の方向を向いた矢印が、自身の名前をあしらったダイアグラムとともにプリントされており、時間感覚の非論理性が増大されている。特定のコスモロジーを示したダイアグラムはコスモグラムと呼ばれるが、このラベルはそれに該当するだろう。ドレクシアが過去を前方向に押し進め続けているように、キシの円循環は右向きに左の指針を歩む。西洋のコスモロジーが音を立てて崩れていく。そして、そのサウンドとともに聴くものはアフロの宇宙に包まれる。


【『7 Directions』のレコード盤のラベル】

 “Ⅰ”は、ヨハン・ヨハンソンの劇伴を思わせる、霧のかかったフィルターで減退していく持続音ではじまる。同様のアンビエンスのもと、その背後では太鼓が鳴り響き、異なったモチーフのドラムが徐々に追加されていく。メインテーマのシンセとともに、TR-707的タムのビートと、スティックが、プリミティヴな循環を穏やかに描いていく。
 BPMは140に保たれたまま、“Ⅱ”はテープ・ディレイ的な反響音とともに開始。10分にも及ぶトラックの内部において、前半部は楽曲のリズムの骨組みが示されたあと、中盤から一定音を保持したロングトーンのシンセが階層化し、序盤の楽曲構造に最終部では回帰、音像はフェードアウトする。
 “Ⅲ”では速度が上昇し、ここに至るまでに示されたものと類型のリズムを通過したのち、1:44からガバ的な4/4キックが投入される。キシのDJセットで展開される高速のヴァイオレンスへと、自身の音楽的ルーツを提示するようにして、『7 Direction』は接続されてもいるのだ。
 “Ⅳ”では遠方から群衆が攻めてくるのが予感されるようなキックが冒頭で鳴り響き、50秒経過したあと、50-60ヘルツ音域の低音が倍増された低音ドラムが合流し、聴く者の身体を大いに揺さぶる。深いディレイと淡いディストーションがかかったテクスチャーの2種類のメロディ・モチーフが交互に入れ替わって現れる。低域のブレイクはほとんどなく、ドラム・パートの抜き差しが巧妙に行われる。変化と持続と低域の破壊力という意味では、今作最高のダンス・チューンだと断言できるだろう。
 再生される前から楽曲が開始していたことを示唆するようにフェードインではじまる“Ⅴ”は、淡々とループされるモチーフに、断続するスネアがリズムに表情をつける。終部のパーカッションの連打から、シンセ・オンリーのアウトロに息を飲む。
 “Ⅵ”でビートはバウンシーに跳ね上がり、これまでのシンセ・モチーフとの類型がここでも示される。ハイファイにシンセサイズされたパーカッションと衝突を繰り返すスティックがブレイク部分で展開する合奏が、キシ流のダブを彩っている。
 漂流するコードと広域へと押し上げられた金属音で開始する“Ⅶ”では、それぞれが別のリズム軸で進行する歪んだスネアと絃楽器のフレーズが交互に現れ、時にその二つが重なり見事なポリリズムを生む。このアルバムでの標準速度とも言えるBPM140代でトラックは進行し、決して遅くはないスピードであるものの、散発するシンセとポリリズムによって、身体が吸収するその速度感は緩やかになる。僅かなスネアと低域ビートを残し、アルバムは構成上終わりを告げる。

 最近ではベルギー時代の〈R&S〉からリリースされたアフロトランスをフェイヴァリットに挙げているキシだが、典型的なダンス・ミュージックのスタイルは、今作に高い強度を持ったパーカッションの大群に追いやられている。ハイハットもなければ、定位置のスネアもクラップもなく、ビート間のブレイクもほぼない。けれども先日公開された『RA』での彼女のミックスを聴けば明らかなように、『7 Direction』の楽曲はガバやトランスとの混成も可能な潜在性に満ち溢れている。
 現代思想の文脈を鑑みれば、人類学者のフィリップ・デスコラやエドゥアルド・ヴィヴェイロス・デ・カストロがアマゾンやアジアのコスモロジーから存在論的転回を起こしたように、我々の宇宙観の「外部」には「内部」を転覆させるような、あるいはその内外の境目など曖昧であることを示唆するような可能性に満ち溢れている。ここではその分析に踏み込むことはできないが、オルタナティヴが無いかのように見える昨今において、多元的な世界を感じる意味を『7 Directions』は日々の視点にも与えてくれるのではないか。

 『ele-king vol.22』のインタヴューで述べられているように、理論を応用し、文化や政治、エコロジーを表現するチーノ・アモービのインスピレーションは日常からやってくる。先日のトーク・イベントでは、それを踏まえた上で「日々の生活はあなたのコスモロジーのどこに位置していますか?」と僕は本人に質問した。彼女によれば、アフリカのコスモロジーは日常の「普通」を疑う自分に妥当性を与えてくれるものだ。コンゴからやってきた両親のもとで、ヨーロッパ社会で育つことは、日常に生活に常に疑問を持つことの連続だったとキシは答える。友人や家族がグローバルに散らばるディアスポラな世界を生きる彼女は、「国境などなくなってしまえばいい」とも力強くいう。キシの日常生活とは異なる宇宙を行き来するメタフィジカルな交差空間だ(彼女のサウンドクラウドに上がっているトラック“Deconstruction of Power”のタグは「metaphysics」だ!)。その意味で『7 Directions』は、異なる宇宙の境目で現代を生きる彼女の宇宙観を示すコスモグラムであるとも断言できるだろう。

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