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三田格   Sep 14,2020 UP

 ジョージ・フロイド事件から1ヶ月も経たない6月22日に〈プローディガル・サン〉という聞きなれないテクノのレーベルから『Black Lives Matter Compilation』というアルバムが出たので、仕事が早いな〜と思って聴いてみると、全13曲、どれひとつとしてブラック・ミュージックの影響を受けていない曲ばかりだった。これにはいささかたじろいでしまった。その時はふたつの解釈ができると思った。ブラック・ライヴス・マターというワードを利用して自分たちに注目を集めようと思ったか、もしくは今回のブラック・ライヴス・マターにはブラック・ミュージックに影響を受けていないミュージシャンやプロデューサーにも賛同者を集めるほど力があったということ。もしかするとその両方だったのかもしれないし、それこそ正解はわからない。そして、そのような多義性を許さない確固としたブラック・ライヴス・マター支援のアルバムをつくったのは〈プラネット・ミュー〉だった。わざわざ〈ミュージック・イン・サポート・オブ・ブラック・メンタル・ヘルス〉というレーベルが設立され、それがそのままタイトルとなったチャリティ・アルバムが7月3日にリリースされている。どこにも〈プラネット・ミュー〉とは記されていないので、主体はBEAMやブラック・スライヴといった支援団体が集まって設立したレーベルなのかもしれないけれど、マイケル・パラディナス夫妻を筆頭に同アルバムの8割近くを〈プラネット・ミュー〉の契約プロデューサーとその周辺の人脈が占めていることを考えると実際の制作は〈プラネット・ミュー〉が動いたとしか思えない。オープニングはスピーカー・ミュージック、続いてリアン・トレナー、J・リンやエルヴェに混ざって〈プラネット・ミュー〉からアルバムが予告されているジョン・フルシアンテはポリゴン・ウインドウみたいな曲を提供。ボクダン・レチンスキーやビアトリス・ディロンといった〈ミュー〉以外のプロデューサーではウラディスラフ・ディレイとAGF(このふたりも夫婦)もテンションの高い曲を提供し、とくに今年すでに4枚のアルバムをリリースしているウラディスラフ・ディレイは飛び抜けた出来の曲を提供している。逆に言えば最後の方にまとまっている〈プラネット・ミュー〉の新人らしき3組の曲をカットして全25曲にすればかなりな名盤であり、〈プラネット・ミュー〉が現在、何度目かの絶頂期にいることを刻印した傑作となったことだろう。しかし、チャリティ・アルバムというのはそういうものではない。『Music In Support Of Black Mental Health』は訴えている──世界的な黒人嫌悪による心理的なダメージから彼らが立ち直れる手助けをしたい、と。日本でも大坂なおみに対するバッシングの言葉がこんなに強く大量に出てくるとは思わなかったし、大阪や渋谷で行われたブラック・ライヴス・マターのデモに向けられた言葉の数々もひどかった。おかげで『Music In Support Of Black Mental Health』は身近な問題として聴くことができるアルバムとなった。あまりに内容が良いため、聴いている理由を途中で忘れそうになってしまうけれど。
(編注:三田氏のこの原稿は、大阪なおみが全米オープン優勝/決勝戦前に書いています)

 同じくチャリティ・アルバムで内容的によく出来ていると思ったのが『Nisf Madeena(半分都市)』。レバノンで起きた爆発事故の犠牲者を支援するためのもので、チュニジアの音楽雑誌「Ma3azef」が発行元。ディーナ・アブドルワヒドがブレイクして以来、チュニジアのクラブ系もエジプトやウガンダに続こうという気運の表れという面もあるのだろう。『Nisf Madeena』は多くがアラブ系のプロデューサーで占められ、キュレーターもブルックリンのマスタリング・エンジニア、エバ・カドリ(Heba Kadry)が務めている。彼女もエジプト系で、ジェニー・ヴァルやホーリー・ハーンドンの仕事で知名度を上げた存在。坂本龍一、ビーチハウス、ビヨーク、バトルズ……と、そのリストはどこまでも続く(飼っている犬の名前はイーノ!)。オープニングはなぜかチリ系のニコラス・ジャーで、怒りに満ちたオープニングの『Music In Support Of Black Mental Health』とは対照的に、静かに悲しみが浸透していく始まり。リスナーをレバノンの事故現場に招き寄せ、最初はそこで立ち尽くすしかないという気分にさせる。2曲目から4曲目にかけてユニス、イスマエル、ズリとエジプト勢が続き、甲高いパーカッションの響きがどれも耳に残る。続いてケニヤ(現ウガンダ)のスリックバックは意表をついてザラついたインダストリアル・ドローン。直前にリリースされた『Extra Muros – Kenya』でも作風の幅を一気に広げていたので、この人はいま、いい意味で予想がつかない注目のプロデューサーとなっている。イタリアからスティル(ドラキュラ・ルイス)による妙なブレイクビーツを挟んで再びエジプトのアヤ・メトワリィによるアラビック・チル・アウト。ガーディアンに「謎」と評された才能で、あの強烈なヴォイス・パフォーマー、ダイアマンダ・ガラスの弟子だそうです。アル・ナセルはパレスティナのヒップ・ホップ系、インダストリアル色を薄めたディーナ・アブドルワヒドに続いてブルックリンからファーティン・カナーンによる瞑想的なチャンバー・ポップ、さらにはロンドンからエジプト系イギリス人のFRKTLが60年代風のハードなエレクトロアコースティックをオファー。ほかにバーレンのサラ・ハラスやクウェートで育ったファティマ・アル・ケイデリ(生まれはセネガル、現ベルリン)による様々な種類のアンビエントと、アラビック・クラブ・ミュージックの様々な位相が存分に楽しめ、最後は爆発のあったレバノンからとても平穏なチル・アウトというアンサー(?)も。レバノンの爆発事故はそれ以前から続いていたインフレの責任を取る意味もあって現政府が退陣するほどのインパクトだった。爆発に巻き込まれた人だけでなく、生き残った子どもたちのPTSDも深刻だそうで、『Nisf Madeena』の収益はベイルートの様々なコミュニティに届けられるそうです→https://simsara.me/2020/09/03/ma3azef-nisf-madeena/。それにしてもカルロス・ゴーンはスゴいところに逃げたよなー。そして、世界中の人が彼のマネをしてマスクをすることになるとは思わなかっただろうな……。

三田格