「IO」と一致するもの

P-VINE - ele-king

 レコードにまつわるさまざまな取り組みを実現する「VINYL GOES AROUND」の発足、プレス工場「VINYL GOES AROUND PRESSING」の設立など、近年さまざまな挑戦をつづけてきたPヴァイン。ここへ来てまた新たなプロジェクトがアナウンスされている。
 ひとつは、スマートフォン向けアプリ「VINYLVERSE(ヴァイナルヴァース)」のローンチだ。あなたが持っている実物のレコード・コレクションをデジタルで管理できるのみならず、共有や売買まで可能な新しいサーヴィスとのこと。
 そしてもうひとつ、NFCチップが搭載された次世代レコードの開発だ。「PHYGITAL VINYL(フィジタル・ヴァイナル)」と名づけられたそれは、ブロックチェーン技術を活用し、これまでとは異なるレコード体験をもたらすものになっている模様。その第1弾として、人気の高いザ・ウドゥン・グラス・フィーチャリング・ビリー・ウッテンの『Live』が限定リリース、豪華特典も予定されている。
 Pヴァインが踏み出す新たな一歩に注目したい。

“Always with Your VINYL.” スマートフォンアプリ「VINYLVERSE」と次世代レコード「PHYGITAL VINYL」をリリース

インディーズ音楽シーンの草分け的存在である株式会社Pヴァインは、スマートフォン向けアプリ「VINYLVERSE(ヴァイナルヴァース)」と、ブロックチェーン技術を活用した次世代のレコード「PHYGITAL VINYL(フィジタル・ヴァイナル)」を開発しました。2024年12月25日よりベータ版からサービスの提供を開始いたします。

<レコードの新時代へ>
音楽を楽しむ環境が多様化する中で、一度は注目を失ったレコードが近年再び脚光を浴びています。私たちはレコード市場を活性化させる目的でVINYL GOES AROUNDを2021年に始動し、そのプロジェクトの一環として2024年にレコードプレス工場を立ち上げました。それに続いて、私たちはレコードに秘められた特別な魅力を活かしつつ、現代のテクノロジーと融合させ、新しい価値を創出することに挑戦しました。今回リリースする2つのプロダクトをご紹介いたします。

<VINYLVERSE(ヴァイナルヴァース)でできること>
「レコードの世界」を意味するこのアプリは、あなたの実物のレコードコレクションをデジタルで管理・共有、売買できる新しいサービスです。

コレクションの管理・共有とソーシャル機能
アカウント登録をすると各ユーザーのギャラリーが開設されます。実際のレコードのジャケットをアプリで撮影するだけで、簡単にデータベースから情報を検索してギャラリーに自分のコレクションを追加して披露することが可能です。ギャラリーを通して、他のコレクターをフォローしたり、気に入ったレコードに「いいね!」したりと、音楽を通じたつながりを楽しめます。

マーケットプレイス(2025年開始予定)
ギャラリーに追加したレコードをユーザー同士で売買できるマーケット機能も導入予定。実際のレコードショップがオンラインストアを簡単に開設することも可能です。

PHYGITAL VINYLという新しいレコードの認証機能と新しい音楽体験の付与
アプリによってPHYGITAL VINYLがブロックチェーンと接続し様々な機能をお楽しみいただけます。

<PHYGITAL VINYL(フィジタル・ヴァイナル)とは?>
フィジカルとデジタルを融合した次世代のレコードです。

所有の証明
レコードのレーベル面に貼付されているQRコードが印刷されたNFCチップを、アプリのカメラでスキャンすることで、ユーザーによる所有をNFTで証明できます。

新しいファン体験
所有者限定のギフトやイベント参加権などを後から受け取れたりするなど、アーティストとファンのコミュニティ形成に役立つ、新しい形の継続的なつながりを提供します。

未来への展望
将来的にはメタバースなどの仮想現実との連携を視野に入れ、オンラインでもオフラインでも楽しめる音楽体験を拡張します。

<PHYGITAL VINYL第一弾リリースのご案内>
世界的なヴィンテージ・レコード市場で高い価値を持つ、THE WOODEN GLASS featuring BILLY WOOTENによる『Live』を、PHYGITAL VINYLの第一弾リリースとしてこのたび限定リリースいたします。購入してアプリでスキャンを行った所有者には豪華な追加特典のご提供を予定しております。

<アプリをダウンロードして、新しい音楽の世界へ!>
VINYLVERSEをダウンロードして会員登録するだけで、あなたのレコードコレクションを美しく管理し、音楽ファン同士のつながりを広げることができます。さらに、PHYGITAL VINYLでアーティストとの特別な体験も手に入れられるのです。私たちと一緒に「音楽の未来」を体感してください!

3年前にたくさんのレコードが世界中の皆様に届くようにという願いを込めてVINYL GOES AROUNDチームが発足しました。
この間、細々とではありますが熱狂的なヴァイナル支持者の期待に応えるべく、レコードのみならず、Tシャツやシルクスクリーン仕様のハンドメイドのエクスクルーシヴ商品そしてele-kingを通しての書籍やウェブでのコラムなど、ヴァイナルにかかわる様々な企画をしてまいりました。
今春にはVINYL GOES AROUND PRESSINGというレコード・プレス工場を設立しました。少しずつレコードと音楽とカルチャーが大好きな皆様に我々のヴァイナルに対する想いが届いていればと思っております。

VINYL GOES AROUND発足当初より、我々はヴァイナルが好きな人たちが集うコミュニティーの形成を目指しておりましたが、この度、VINYL GOES AROUNDによる新たなプロジェクト「VINYLVERSE」を開始することになりました。
ヴァイナル好きが自身のコレクションをデジタルの棚(「デジ棚」と呼んでください)にアーカイヴしキュレートすることで、世界中の人々やレコード店とつながりを持つことができ、そして、そこに集まった様々なレコードを手にできるマーケットプレイスへと発展していくことを目指すサービスです。

併せて、少しだけレコードの未来に向けた試みにもトライしております。

まずは、自分のレコードをVINYLVERSEのデジ棚にアーカイヴしてみることから始めてみませんか?
まもなくPヴァインは50周年を迎えようとしております。
我々が掲げてきた「THE CHANGING SAME ~変わりゆく、変わらないもの~」というバリューの元、これからも音楽文化の伝統を大切にしながら、テクノロジーと融合した新しい価値をお届けします。

たくさんのレコードが世界中の皆様に届くように ~Vinyl Goes Around~

株式会社Pヴァイン
代表取締役社長 水谷聡男

ios App Store
Android Google Play
VINYLVERSE Webサイト
THE WOODEN GLASS featuring BILLY WOOTEN『Live』販売ページ

aus - ele-king

 昨年2023年、15年ぶりの新作『Everis』をリリースした東京出身のエレクトロニカ・アーティストのアウス(ヤスヒコ・フクゾノ)が、前作から僅か一年にして、はやくも新作アルバム『Fluctor』を私たちの元に届けてくれた。
 前作『Everis』ではモダンなエレクトロニック・ミュージックを展開し多くのアウス・ファンを喜ばせてくれたが、本作『Fluctor』はストリングスやピアノなどを用いたクラシカルな音楽性を展開する。どうやら映像作品につける音楽がベースになったようで、そこから自身のピアノと高原久実のヴァイオリンを中心としたクラシカルな室内楽へと再構築していったらしい。美しい響き、メロディが横溢し、彼の作曲家・編曲家としての才能が十二分に展開したアルバムといえる。
 ゲストにはエスパーズ(Espers)のメグ・ベアード、アンビエント・アーティストとしても知られるジュリアナ・バーウィックを迎え、くわえて旧東ドイツ出身のピアニスト/作曲家ヘニング・シュミート、マンチェスターのチェロ奏者ダニー・ノーベリー、グリム、横手ありさ、元シカーダのユニス・チュン(Eunice Chung)など、ポスト・クラシカル界隈の名手が多く参加している。

 多くのゲストが参加している『Fluctor』だが、前作以上に「作曲家アウス=ヤスヒコ・フクゾノ」の側面が全面的に展開したパーソナルな音楽作品のようにも感じられた。旋律、響き、音、残響。そのすべてに彼の美意識と意志が流れている。
 それは何もクラシカルな作風だからというわけではない。そうではなくて、ここには音楽家の耳と魂のありうようがピュアに展開されているように感じられたからだ。アウスの旋律と和声の感覚がまるで透明な水のように展開しているのだ。
 その意味では前作以上に2006年のエレクトロニカの名盤『Lang』を聴いたときの印象に近いものがあった。もちろん本作にビートは入っていないし、グリッチ的な音響処理も最小限だし、なによりサウンドが異なる。それなのに『Lang』を聴き終えたような感覚を持ったのだ。なぜだろうか。
 それは本作に満ちた透明な光のような「清涼感」にあったように思える。本作はクラシカルでミニマルな作風・サウンドゆえにアウスの本質である「透明な清涼感」が全面化しており、それゆれ彼のエレクトロニカ・サウンドの代表作『Lang』に横溢していた「清涼感」と共振するような感覚を得たのである。
 もちろん同様の感覚は15年ぶりの新作でもあった前作『Everis』にもあったが、より混じり気の少ないクラシカルな編成の本作には、彼の作曲家としての本質が、まるで透明な結晶のように全面に出たのではないかと想像してしまうのだ。

 1曲目 “Another” が流れだした瞬間、その澄んだ響きに恍惚となってしまう。2曲目 “Dear Companion” はメグ・ベアードをヴォーカルに迎えたピアノとヴォーカルと弦によるしっとりとした美しいフォーク・ミュージックだ。シンプルなポスト・クラシカル風ではあるが、弦楽器のレイヤーの感覚にエレクトロニカを経由したサウンドを聴き取ることができる。
 3曲目 “Stipple Realm” は一転して軽快かつミニマルなピアノの旋律から始まる。そこに細やかなサウンドが折り重なり、エレクトロニカとクラシカルが融合されていく。
 4曲目 “Silm” も同様にミニマルなピアノに微細な音響と弦楽器が美麗に折り重なっていく曲。ピアノと弦によるアンサンブルに環境音や高音域の電子音がレイヤーされていく。その精密にしてエモーショナルな音楽世界は、まさにアウスの音楽だ。

 以降全12曲、アルバムはピアノと弦楽器と電子音の繊細なレイヤーと大らかな旋律を反復することで展開する。じっと聴きこんでいくと音楽による本当の「安息と平和」を感じ取ってしまう。世界中探してもこれほど穏やかな音楽は稀ではないか。
 もちろん現実から目を背けているわけではない。悲しいことや辛いことがある世界を十二分にわかった上で(彼の奏でる旋律には微かな悲哀がいつも流れているのだから)、アウスは、穏やかな安息を心から希求している。
 その意味で本作を代表する曲は、ジュリアナ・バーウィックが参加した6曲目 “Circles” ではないかと思う。まるで聖歌隊のようなジュリアナ・バーウィックのコーラス、美しさと安息と喜びと微かな悲哀が入り混じる美しい弦の旋律、澄み切ったピアノの和声、電子音がドラマチックに折り重なり、聴き手の感情を音楽の波の中に連れて行ってくれる。
 この6曲目以降、アルバムは次第に現実から浮遊するように音はよりシンプルにミニマムになっていくだろう。そして12曲目 “Ancestor” でアルバムが穏やかに幕を閉じるのだ。聴き終えたものは、まるで耳が浄化されたような感覚を持つだろう。
 この浄化してくれそうなほどの「清涼感」こそ、アウスの音楽の本質ではないかと私は思う。これは彼の音楽すべてに共通する。音楽の形式は変わっても、長い時を経ても、その本質は変わらない。彼の音楽には類稀な清涼感がある。純粋さと言い換えてもいい。本作にはそれがもっとも美しい形として結晶しているように思えた。これから長い時間をかけて多くの人の耳と心を潤してくれる作品となるだろう。

12月のジャズ - ele-king

 先月はムラトゥ・アスタトゥケとフードナ・オーケストラとの共演作を紹介したが、今月もそうしたレジェンド級アーティストの新作が登場した。正確に言えば未発表レコーディングなのだが、ラップの元祖とも言えるポエトリー・リーディング集団のラスト・ポエッツと、アフロビートのオリジネーターである故トニー・アレンとの共演作である。録音は2018年で、『Understand What Black Is』を遺作としてラスト・ポエッツのジャラール・マンスール・ナリディンが死去した後に、残されたメンバーであるアビオダン・オイェウォレとウマー・ビン・ハッサンがブライトンにあるプリンス・ファッティのスタジオに赴き、そのときレコーディングをしていたトニー・アレンとセッションをおこなったというものである。当時のトニーのバンドであるエジプト80にはコートニー・パイン、カイディ・テイサン、ジョー・アーモン・ジョーンズらが参加し、ロンドンのアフロ・レゲエ・バンドであるスーズセイヤーズがホーン・セクションを固めていた。


E王

The Last Poets feat. Tony Allen & Egypt 80
Africanism

Africa Seven

 2018年と言えばサウス・ロンドンのジャズ・シーンが注目を集めはじめた時期で、そうした中にいたジョー・アーモン・ジョーンズがトゥモローズ・ウォリアーズ(ジャズ・ウォリアーズ)の先輩格にあたるコートニー・パインや、ウェスト・ロンドンのブロークンビーツ・シーンでも活躍してきたカイディ・テイサン、そしてモーゼス・ボイドエズラ・コレクティヴなどに多大な影響を与えたトニー・アレンと会したという非常に興味深いセッションである。ジョー・アーモン・ジョーンズやエズラ・コレクティヴはヒップホップやグライムの要素を持つ作品もやっているが、そうした点ではラップの元祖であるラスト・ポエッツとの共演も彼にとって大きなものだったろう。レゲエやダブのエンジニアとして名高いプリンス・ファッティのスタジオというのも面白く、『Understand What Black Is』はかなりレゲエに傾倒した部分もあったが、コートニー・パインにしろ、ジョー・アーモン・ジョーンズにしろ、レゲエやダブの影響も大きなアーティストであり、UKのジャズ、レゲエ、ヒップホップが集積したようなセッションだったと思われる。

 基本的に新曲をやるのではなく、“This Is Madness”、“When The Revolution”、“Gash Man”、“Niggers Are Scared Of Revolution” など、ラスト・ポエッツの過去の代表曲を再演するものとなっている。かつて公民権運動ともリンクしていたラスト・ポエッツの作品には人種差別などを痛烈に批判したメッセージが込められていて、近年のブラック・ライヴズ・マター運動とも重なり、改めて彼らのやってきたことは再評価されるべきと思うのだが、この『Africanism』のリリースにはそうした意義もある。そして、“This Is Madness” に顕著なように、トニー・アレンの叩き出す強烈なアフロビートとラスト・ポエッツのメッセージはとても相性がよい。そもそもトニー・アレンもフェラ・クティと共にナイジェリアの軍事警察に対抗するべく音楽活動をおこなっていたわけで、そうしたレベル・ミュージックとしての同志が共演したセッションだったと言える。


E王

Sun Ra Arkestra
Lights On A Satellite

In+Out

 サン・ラー・アーケストラの草創期からのメンバーで、サン・ラー亡き後のおよそ30年に渡ってバンド・リーダーを務めるマルチ・リード奏者のマーシャル・アレンが、今年5月に100歳を迎えた。100歳という高齢ながら現役で演奏活動をおこなうことが信じられないことなのだが、その誕生日からおよそ半年後、個人名で初のソロ・アルバムとなる『New Dawn』をリリースする(予定では来年2月頃)ということだから全くもって驚かされる。そんなマーシャル・アレンの生誕100年を祝ったトリビュート的なアルバムが『Lights On A Satellite』である。サン・ラー・アーケストラとしても今年6月にニューヨークで録音された新作アルバムであり、マーシャル・アレン以下、アルト・サックス奏者でアレンと共にバンドのアレンジャーを務めるノエル・スコット、テナー・サックスのジェイムズ・スチュワート、フレンチ・ホルンのヴィンセント・チャンセイ、トランペットのマイケル・レイ、セシル・ブルックス、ベースのタイラー・ミッチェル、トロンボーンのデイヴ・デイヴィス、ロバート・ストリンガー、パーカッションのエルソン・ナシメント、ギターのデイヴ・ホテップ、ヴァイオリンとヴォーカルのタラ・ミドルトンなど、前作『Living Sky』(2022年)や前々作『Swirling』(2020年)と同じようなラインナップとなっている。

 表題曲は1960年代からの楽団のレパートリーで、『Fate In A Pleasant Mood』(1965年)、『Art Forms Of Dimension Tomorrow』(1965年)、『Live In Paris At The Gibus』(1973年)、『Live At Montreaux 1976』(1976年)などで度々録音されてきたサン・ラー代表曲のひとつ。『Swirling』でも演奏していたほか、クラブ・ジャズ世代にはトゥー・バンクス・オブ・フォーがカヴァーしたことでも知られる曲だ。美しいバラード・タイプの曲で、ほとんどワン・フレーズのメロディをアーケストラが重層的に重ね合わせていく。シンプルに統一された楽曲構成であるが、その循環されるフレーズの中で奏者たちの即興性やアイデアが積み重なり、壮大なドラマが展開される。“Friendly Galaxy” も1960年代からの代表曲で、『Secret Of The Sun』(1965年)や『Disco 3000』(1978年)などに収録された。スペイシーなSEを交え、サン・ラー・アーケストラらしい宇宙旅行へ誘うような楽曲となっている。マーシャル・アレンの100歳を祝うにふさわしいラインナップと言えよう。


Richard Spaven
Sole Subject

Fine Line

 リチャード・スペイヴンにとって『Sole Project』は、2020年にリリースしたサンデューンズとの『Spaven x Sandunes』以来、久々のアルバムである。この間は、アルファ・ミストの『Bring Back』(2021年)、クラークの『SUS Dog』(2023年)、ロイル・カーナーの『Higo』(2024年)などのレコーディングに参加するなど、ジャズに限らず幅広く活動していた。また、盟友のギタリストであるスチュワート・マッカラムやジョーダン・ラケイなどが参加したEPの「Spirit Beats」(2022年)をリリースしているが、これなどはドラマーというより人力ビートメイカー的な視点に立ったものである。このEPにはラッパーのバーニー・アーティストとコラボした曲もあり、よりクラブ・サウンドを意識した内容となっていたのだが、『Sole Project』もそうした延長線上にあるビート・クリエイター的なアルバムと言えよう。

 参加メンバーはスチュワート・マッカラムのほか、ネイティヴ・ダンサーなどで活動してきたキーボード奏者のサム・クロウ、ブラジル系のパーカッション奏者でダ・ラータなどで長年活動してきたオリ・サヴィル、アルファ・ミスト、ロイル・カーナー、ジョーダン・ラケイらの作品に参加するトランペット奏者のジョニー・ウッドハムといった面々で、シンガーのナタリー・ダンカンやネイティヴ・ダンサーのヴォーカリストだったフリーダ・ツアーレイ、DJのワイルドチャイルドなどもフィーチャーされる。スチュワート・マッカラムのメロウなギターや哀愁に満ちたワードレス・ヴォイスが空間を埋める “Spirit Quintet” は、かつてのシネマティック・オーケストラジャザノヴァあたりに代表されるクラブ・ジャズのエッセンスを感じさせる楽曲。実際にリチャード・スペイヴンやスチュワート・マッカラムはシネマティック・オーケストラに在籍していたこともあるので、そうした要素は自然と表れるのだろう。

 “Stellar” では人力ブロークンビーツ的なドラミングを披露し、ナタリー・ダンカンのディープな歌声をフィーチャーした表題曲ではダブステップ的なドラムにより、サブモーション・オーケストラのような世界を導き出す。“Find Peace Within” はブロークンビーツ調のドラムスと、アフロ・ラテン的なパーカッションが絡み合ったグルーヴィーなリズムが特徴だが、これもプログラミングではなく全て生演奏によるもの。“Faders” のドラムンベースでもブロークンビーツでもテクノでもない有機的なビートは、マシンでは出すことのできないスペイヴンのドラムスの真骨頂と言える。プログラミングと生演奏の境界線が曖昧になるアルバムだ。


Tomin
A Willed and Conscious Balance
International Anthem Recording Company / rings

 トミンはフルネームをトミン・ペレア・チャンブリーといい、ニューヨークのブルックリンを拠点に活動するマルチ・プレイヤーである。主に演奏するのはフルート、トランペット、アルト・クラリネットなどで、即興演奏家であり作曲家であると共に、詩人としても活動する。ジャズ・アット・リンカーン・センター・ユース・オーケストラのトロンボーン奏者として出発し、ジャズ、ヒップホップ、パンクなどをミックスしたアーティスト集団のスタンディング・オン・ザ・コーナーの出身者でもある。以前は個人で作品発表をおこなってきたが、今年に入ってからシカゴの〈インターナショナル・アンセム〉と契約を結び、『Flores Para Verene / Cantos Para Caramina』と『A Willed and Conscious Balance』の2枚のアルバムをリリースした。『Flores Para Verene / Cantos Para Caramina』はこれまでの自作曲をまとめたコンピで、全くのひとりで作った作品集となる。エリック・ドルフィー、アルバート・アイラー、チャールズ・ミンガス、マル・ウォルドロン、デューク・エリントン、ローランド・カーク、カル・マッセイなど、彼が影響を受けたジャズ・ミュージシャンたちに捧げた楽曲が収められていた。一方、『A Willed and Conscious Balance』はセプテット編成のグループによる録音で、〈インターナショナル・アンセム〉における正式なデビュー・アルバムという位置づけである。

 バンド・メンバーはニューヨークのミュージシャンとシカゴのミュージシャンが混在し、なかでもベーシストのルーク・スチュワートとドラマーのチェザー・ホームズはイレヴァーシブル・エンタングルメンツのメンバーで、チェリストのレスター・セント・ルイスは故ジェイミー・ブランチのバンド・メンバーとして活動してきた。トミンはジェイミー・ブランチが存命中の2021年にシカゴを訪れ、ジェイミーやエンジェル・バット・ダーウィッドらと共演をするが、そのときにルーク・スチュワート、チェザー・ホームズ、レスター・セント・ルイスやキーボード奏者のティアナ・デイヴィスらと会し、このグループの結成へと繋がった。アルバム収録曲はブッカー・リトル作曲の “Man of Words” とカラパルーシャことモーリス・マッキンタイア作曲の “Humility in the Light of the Creator” を除いて全てトミンのオリジナル曲。“Movement” は軽やかなリズムに乗せてトミンのフルートが優しく奏でられる牧歌性に富む作品。スピリチュアル・ジャズとして語られるフルート奏者のロイド・マクニールの作品を彷彿とさせる楽曲だ。“Life” も疾走感のあるリズムを持ち、エレピの力強い演奏やチェロのスリリングな音色も光る。ストリングスが印象的な点では、ジャズ・ヴァイオリン奏者のマイケル・ホワイトを思い起こさせるところもある。“Humility in the Light of the Creator” はモーリス・マッキンタイアがシカゴのAACM在籍中に発表したデビュー・アルバムのタイトル曲で、シカゴのフリー・ジャズ・シーンに対するトミンなりの敬意の表われとも言える。“Man of Words” の原曲はほぼブッカー・リトルによるトランペットの独奏だが、ここではトミンなりのアンビエントな解釈で再現している。

ele-king vol.34 - ele-king

 1994年、テリー・ライリーがサンフランシスコのテープ・ミュージック・センターにて “In C” を初演してから30年、ジェフ・ミルズは「サイクル30」という究極のミニマル・テクノ作品をリリースした。それから30年後の2024年、ミニマリズムの30周期説に則して同シングルはリイシューされ、テリー・ライリーの“In C” も60周年の記念盤『In C‐ 60thバースデー・フルムーン・セレブレーション・アット・清水寺』を出したばかり。2024年、エレキングが「ミニマリズム」特集をやらない理由はなかったのです。
 もっとも時代のトレンドは「マキシマリズム(てんこ盛り音楽)」であるという主張が、2010年代にはあった。火付け役はカニエ・ウェスト(2010年の『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』)というのが定説になっている。ぼくはアニマル・コレクティヴがビーチ・ボーイズ(『ペット・サウンズ』と『スマイル』)にアクセスしたときだと考えるが、まあとにかく、それからいっきに、いちぶのインディ・ロックにもいちぶのエレクトロニック・ミュージックにもその傾向は受け継がれていったと。近年のUKインディとかOPNとか、ね。
 しかしながら、だからといって「ミニマリズム(引き算の音楽)」がなくなったわけではない。いや、むしろオルタナティヴなインディペンデントなシーンでは、そぎ落としているサウンドが輝いている。たとえば、もしいま「アンビエント」がブームだとしたら、その音楽は「ミニマリズム」に基づいていなければならない。2024年は、ジャズとポスト・パンクとが接続したようなサウンドもひとつの傾向として見られたが、それも「ミニマリズム」に基づいている。「ダブ」は基本、「引き算」から来ている——。

 とまあ、そんなことを思いながら「サイクル30」に則した「ミニマリズム」特集を企画した次第です。自分で言うのもなんですが、面白いですよ。たとえば、テリー・ライリーのインタヴュー記事は過去にいろいろありますが、今回はひとつ、かなり良い話を引き出せたと思います。それは読んでのお楽しみ。
 もちろん、年末号なので「年間ベスト・アルバム」特集です。アルバム30枚をはじめ、ジャンル別ベスト/ライター・チャートがあります。そして毎回お願いしているのですが、どうかこれを「ドネーション(寄付金)」だと思って買っていただけたら幸いに存じます。 レコード店ではすでに発売中、書店発売は25日です(地域によって遅れることもあります)。それでは皆々様、よきクリスマスを。

ele-king vol.34

特集:テリー・ライリーの“In C”、そして、ミニマリズムの冒険

マキシマリズム時代のミニマリズム(野田努)

インタヴュー テリー・ライリーを訪ねて——“In C”誕生60年(高橋智子)
『In C - 60th バースデー・フルムーン・セレブレーション・アット・清水寺』制作話を今作のプロデューサー、中村周市氏に訊く

テリー・ライリー、60年を越えるその歩み——“In C”以外の重要作品(杉田元一)
アメリカン・ミニマリズムの系譜——テリー・ジェニングス、スティーヴ・ライヒ、フィリップ・グラス(杉田元一)
ラ・モンテ・ヤング——永遠に鳴り続ける始原としてのドローン(松山晋也)
アフロ・ミニマリズム——ブルースにおける反復の文化(緊那羅:デジ・ラ)
「ファンク」は魔法、地球を支配したウィルス(野田努)
カン——いまなお世界中に広がり続けるミニマル・ロックの地下茎(松山晋也)
アンビエントのはじまりにミニマルあり──ブライアン・イーノの呼び水(杉田元一)
パンク・ミニマリズムの究極の境地——ワイアーの探求(イアン・F・マーティン/青木絵美)
サン・ラーの“Rocket Number Nine”に見るミニマルな高揚(野田努)
アシッド・ハウスが切り開いた「ミニマリズム」の行方(野田努)
ヨーロッパの旅——クラフトワークからポスト・パンクを経由してミカ・ヴァイニオへ(野田努)
もうひとつの行き先——マラリア!からカラ‐リス・カヴァーデイルへ(三田格)
ひとかけらの永遠、ヒップホップのミニマリズム──DJプレミア、J・ディラ、アルケミスト(吉田雅史)
アフリカン・ドラムを初めて西欧世界に聞かせたババトゥンデ・オラトゥンジ(三田格)
リスニング術——グリッチからアンビエント/ドリーム・ポップへ(野田努)
Minimal Nation——ミニマリズムのさらなる冒険のご案内(野田努)

非ポストモダン的ミニマリズムに向けて(仲山ひふみ)

2024年ベスト・アルバム30選
2024年ベスト・リイシュー23選
ジャンル別ベスト——テクノ(猪股恭哉)/インディ・ロック(天野龍太郎)/ジャズ(小川充)/ ヒップホップ(高橋芳朗)/ハウス(猪股恭哉)/エクスペリメンタル(ジェイムズ・ハッドフィールド/青木絵美)/ポスト・ハイパーポップ(松島広人) /レゲエ/ダブ(河村祐介)/アンビエント(三田格)

2024年わたしのお気に入りベスト10——24名による個人チャート(青木絵美、天野龍太郎、小川充、小山田米呂、Casanova.S、河村祐介、木津毅、緊那羅:Desi La、篠田ミル、柴崎祐二、杉田元一、高橋智子、髙橋勇人、つやちゃん、デンシノオト、橋本徹、ジェイムズ・ハッドフィールド、二木信、ジリアン・マーシャル、Mars89、イアン・F・マーティン、松島広人、三田格、吉田雅史)

VINYL GOES AROUND PRESENTS そこにレコードがあるから 第5回 「THE CHANGING SAME」レーベルの節目とレコード文化の未来(水谷聡男×山崎真央)
 

C.E presents Josey Rebelle, PLO Man, Rezzett, Will Bankhead - ele-king

 ブランドの発足以来、さまざまなパーティを開催してきた〈C.E〉。その2025年最初のパーティがアナウンスされている。選曲からストーリーのつくり方までそのDJスキルが評判のジョージー・レベルを筆頭に、PLOマン、レゼット、ウィル・バンクヘッドが出演。1月24日はVENTに足を運びましょう。

C.E presents
Josey Rebelle, PLO Man, Rezzett, Will Bankhead

2025年度初となるC.Eのパーティが1月24日金曜日、VENTにて開催。
洋服ブランドのC.E(シーイー)は、2025年1月24日金曜日、表参道VENTを会場にパーティを開催します。
C.Eは、2011年のブランド発足以来、不定期ながらミュージシャンやプロデューサー、DJと共にパーティを開催してきました。
約4ヶ月ぶり、2025年初の開催となる本パーティでは、Josey Rebelle, PLO Man, Rezzett, Will Bankheadを招聘致します。

C.E presents

Josey Rebelle
PLO Man
Rezzett
Will Bankhead

開催日時:2025年1月24日金曜日11:00PM
会場:VENT vent-tokyo.net
料金:Door 3,000 Yen
Advance ticket 2,000 Yen
https://t.livepocket.jp/e/vent_20250124

Over 20's Only. Photo I.D. Required.
20歳未満の方のご入場は固くお断り致します。年齢確認のため顔写真付きの公的身分証明書をご持参願います

■Josey Rebelle
Josey Rebelle(ジョジー・レベル)は、「世界中の一流ダンスフロアを席巻するジャンルの垣根を超えるDJ」(Mixmag)、「UK音楽シーンのヒーロー」(The Face)と評されるロンドン出身のDJ 。
DJ Magの「100 of the World's Best DJs 2022」、BBC Radio 1の「Essential Mix of the Year 2019」、DJ Magの「Best of British Award for Best Compilation 2020」、Resident Advisorの「Mix of the Year 2020」、DJ Magのカバー、DJセット、ミックス、ラジオ番組で毎年恒例の「Best Of」リストに掲載されるなど、数々の受賞歴を持つ。
ダンサー、DJ、サウンドシステム・オペレーターというカリブ海の文化の中で育ち、幼い頃からデッキに親しみ、13歳の頃に兄からハウス、テクノ、ジャングルのコレクションでミックスを教わった。彼女がベッドルームDJからクラブのブースに立つまでの自信を得たのはそれから数年後のことで、数え切れないほどの練習を重ねた上でのこと。最終的には、ロンドンの伝説的なクラブであるPlastic Peopleのレジデントとして、またロンドンの先駆的ラジオ局Rinse FMにおいて10年にわたり毎週番組のホストを務めた。
また、世界で最も象徴的なクラブやフェスティバルで魅惑的なセットをプレイし、フェスティバルのステージからBerghainのメインフロアまで、あらゆる場所でオーディエンスを魅了している。加えて、BBC Radio 1、The Trilogy Tapes、Resident Advisor、The Face、Fader誌に提供したミックスで高い評価を得ている。
2010年にはBoiler Roomの初放送出演し、2020年2月にはDJ Magの表紙を飾った。
2020年、Beats in Space Recordsからリリースされた自身初のコンピレーション・アルバム『Josey In Space』には、彼女の大切なレコード・コレクションの奥底から掘り起こされたエクスクルーシヴ音源や、これまでレコードでしか聴くことのできなかった楽曲の数々が収録されている。『Josey In Space』は、「DJ Mag Best of British Awards 2020」のベスト・コンピレーション賞とResident Advisorのミックス・オブ・ザ・イヤーを受賞した。
自身がティーンエージャーだった頃へ捧げられ、丹念にキュレーションを行った2021年にThe Trilogy Tapesからリリースされたカセットテープに収められたミックスは、ピッチフォーク誌に「ヴィンテージのUKパイレーツラジオを最も忠実に再現した」と評された。
ニューヨーカー誌はこう述べた「ジョジー・リベルは稀有な存在だ」、 「プロデュースではなく(彼女はプロデューサーではない)、デッキにおけるプレイだけで名を馳せるDJだ」。
ソーシャルメディアにおいて存在を示さないジョジーは、長年にわたり選りすぐりの情熱と信憑性に基づいた評価を築くため努力してきた。ノイズから自分自身を切り離し、彼女が最も愛するもの以外に何も必要とされない場所、つまりはDJブースの暗闇に足を踏み入れ、ただプレイすること、それだけにたどり着くために。
www.joseyrebelle.com

■PLO Man
2015年よりACTING PRESSの共同運営及び代表を務める。ソロ、C3D-Eとの共同作品、INTe*raやGlobex、CC Not等のグループとして音楽を発表している。2024年、Doo loreのSnP 500と共にテクノレーベルPinを立ち上げ、SnPLOのEPを2作リリースした。
ヨーロッパ、北米、アジア、オセアニアにてDJを行っており、キャリアはおよそ15年に亘る。ベルリン在住。
2013年から2019年まで、今はなきBerlin Community RadioでPLO Radioのホストを務めた。その後、Lot Radio、Refuge Worldwide、Rinse.fm、IDAなどで番組を担当。現在はロンドンのNTSにてレジデントとしてバイマンスリー番組Drizzle.FMを担当。
DJのレコーディングについては、C.Eからリリースされた2作のテープ、ACTING PRESSとTerraformaから発表されたCDに加え、Youtubeにアーカイブされている。
www.tracksplease.com
soundcloud.com/p_el_oh

■Rezzett
TapesことJackson Bailey(ジャクソン ベイリー)とLukidやRefreshersとしても知られるLuke Blair(ルーク ブレア)の2人組によるRezzett(レゼット)。
2013年に楽曲をYouTubeへアップロードしたのち、Will Bankhead(ウィル バンクヘッド)の音楽レーベルThe Trilogy Tapes(ザ トリロジーテープス)より、歪みが特徴的なテクノとジャングルのEPを5枚リリースし高い評価を得た。
Rezzettは現在のダンス ミュージックにおいて珍しいものでなくなくなった「ローファイ」サウンドのパイオニアと言っても過言ではない。
2018年には前述したThe Trilogy Tapesよりデビュー アルバムをリリースしたのち、突如としてリリースは止まり、時折ライブをおこなうことだけがRezzettがまだ存続している証拠だったが、2023年6月、記念すべきThe Trilogy Tapesのレーベル100番目のリリースとなる2ndアルバム『Meant Like This』を突如リリースし、ライブパフォーマンスを収録したカセットテープ、4曲を収録したEP『Boshly』を発表した。
最新の音源は2024年5月に自主リリースで発売したEP『Puddings』。
rezzett.bandcamp.com/

■Will Bankhead
イングランドのインディペンデント音楽レーベル、The Trilogy Tapes(ザ トリロジー テープス)主宰。
Mo Waxでメイン ヴィジュアル ディレクターを務めたのち、洋服レーベルであるPARK WALKやANSWER、音楽レーベルのPKを経て、2008年にThe Trilogy Tapesを立ち上げる。
Honest Jon's Recordsをはじめとする音楽レーベルのためのスリーヴデザイン、Palace Skateboardsなどの洋服ブランドのグラフィックデザインも手がける。
www.thetrilogytapes.com
thetrilogytapes.bandcamp.com

Wendy Eisenberg - ele-king

 ニック・ドレイクの曲に “River Man” がある。アコースティック・ギターの弾き語りに近い曲だが、何気ない5拍子のリズムと不協和音がジャズを感じさせるという、シンプルだが単純な曲ではない。西東京の自分が住んでいるエリアには、多摩川までに仙川と野川という小さな川がある。自転車を降りて、川沿いを歩いているときに“River Man” を思い出してしまうのは、自分も黄昏れている人間だからなのだろうか。はあ……出るのはため息ばかりだが、音楽のことを考えよう。
 そう、ジャズとフォークだ。年明けにはティモシー・シャラメ主演のボブ・ディランの若き日々を描いた映画が上映されることなので、現代のニューヨークから熱狂的なジャズを我がものとし、雑食性とフリー・インプロヴィゼーションに興じる若き前衛による、冬の空気のように澄み切ったアルバムを紹介したい。
 ウェンディ・アイゼンバーグはギターの名手で、「音楽シーンにおいて、私は女性として扱われ、私の性別は神話化されている。『あなたは女性ギタリスト』だとか、『かわいいから雇っただけ』といった感じで、それに対抗するために私がとった方法は、その楽器をとんでもなく上手に演奏することだった」——とアイゼンバーグは『Tone Glow』のインタヴューで語っている。が、しかしながらこの人物は、自分の技術をひけらかすことよりも音楽のなかの自由を拡張し、思索することに長けている。たとえばアイゼンバーグは、セシル・テイラーあるいはモートン・フェルドマンの領域、レインコーツにロバート・ワイアットあるいはジョアンナ・ニューサム、ときにはジョアン・ジルベルトやエグベルト・ジスモンチへと、そしてデレク・ベイリーとデイヴィッド・シルヴィアンの回路を自由に行き来し、ジョン・ゾーンのレーベルからも作品を出している。ジャズを流暢に演奏しながら、アイゼンバーグにはソングライターとしての側面があって、だからヴォーカリストでもある。詩を書き、歌を歌う。メアリー・ハルヴォーソンとの大きな違いはそこで、ジャズでSSWといえばジョニ・ミッチェルの名前も出てくるだろうが、この人はもっとオルタナティヴに尖っていて、ずいぶんな読書家でもあるアイゼンバーグは音楽を感覚的なものであると同時に思考の契機としても捉えている。

 音楽は言葉では語れないというミュージシャンに限って言葉で語れるような紋切り型の音楽をやっていることが多い。そもそもそ言葉で語れない音楽を聴きたいから我々はこうして音の海を探索している。そして、紋切り型の音楽に限って音楽を視覚化する(MVを作ったりする)傾向にあるわけだが、この世界には、視覚化しようがない音楽もある。2024年、アイゼンバーグは2枚のアルバムを出している。1枚は『Viewfinder』で、これは彼女のレーシック手術を契機として生まれたソロ作品、もう1枚はサックス奏者のキャロライン・デイヴィスとのコラボレーション作品、まずは前者からいこう。
 『Viewfinder』、カメラで撮影のさいに視覚的に確認するため目で覗く部分のことで、比喩的に言えば「ものごとの視点を決めるもの」、すなわち「世界の見方」のようなことになるのだろうか。作中でもっとも人気のある曲は冒頭の“Lasik”で、これは視力を矯正して見えるようになったはずが治癒にはなっていないという暗喩的な歌詞が歌われている。「自分が愛することもできない物語に向けて/視線を定めているわけにはいかない/さてと、次なるポップショーを観るため/お気に入りのアーティストのチケットを取ろう」。こうしたウィットが、トロンボーンとベース、ピアノの神妙な絡み合いに溶け込んでいる。
 アルバムには、“Two Times Water”のような華麗な室内ジャズがあるいっぽうで、“HM”や“Afterimage”では透き通った空間におけるポスト・パンク的な遊び心があり、作者が言うようにレインコーツの『オディシェイプ』と共鳴しているように思える。これらは個人的にとくに没入できる曲でもあるのだけれど、作中、もっともポスト・パンク的なささくれだった感覚が聴けるのは表題曲の“Viewfinder”だ。スティル・ハウス・プランツとも充分に通じ合う、2024年の喜ばしきオルタナティヴ・ロック・ソングである。
 「ファシズムに対するもっとも真の反抗は複雑なものを作ること」だとアイゼンバーグは信じている。実際我々の感情は複雑で、紋切り型のラヴソングですべてが解決できるほど人生は簡単ではない(少なくともぼくの場合は)。いろんな感情を込めて孤独な魂を歌う深夜のジャズ・ソング“In the Pines”でアルバムは締めくくられるわけだが、アイゼンバーグの世界をもっと楽しみたい人にとっては、今年は嬉しいことにキャロライン・デイヴィスとの『Accept When』もある。複雑なリズムの曲のなかにもギターとサックスの美しいメロディが交錯し、いくつもの素晴らしい瞬間が待っているこのアルバムには独特の温かみがあって、とくにアイゼンバーグのヴォーカルが聴ける冒頭の“Attention”は2024年のベスト・ソングのひとつ。川沿いを歩くには寒い季節だが、最近の乾燥した空気はこの音楽とうまく調和している。ぜひ聴いて欲しい。

Shinichiro Watanabe - ele-king

 来年公開が予定されている渡辺信一郎監督の最新作『LAZARUS ラザロ』。そのオープニング・テーマ曲とエンディング・テーマ曲が発表されている。前者は、今年ひさしぶりのアルバムを発表したカマシ・ワシントンによる “Vortex”。そして後者はなんと、まさかのザ・ブー・ラドリーズの “Lazarus”。90年代、〈クリエイション〉に所属していたブー・ラドリーズはポップなシューゲイズ・バンドとして知られているが、同曲は彼らの比較的初期の人気曲。おそらくそのタイトルから採用されたのだろう。
 なお、あわせて『LAZARUS ラザロ』の最新ヴィジュアルも公開されている。いったいどんなアニメに仕上がっているのか……妄想を膨らませておきましょう。

Acidclank - ele-king

 トラックメイカーにしてシンガーソングライター、そしてモジュラー・シンセの使い手でもあるYota Mori。そのソロ・プロジェクト、Acidclankがニュー・アルバム『In Dissolve』をリリースする。発売は2月5日で、ガムランを用いた曲からジャングル、ドリーム・ポップ、ダブステップまでとりいれた独自のポップ世界が構築されている模様。3月7日にはリリース・パーティ《acidplex (dissolution)》の開催も決定しているので、あわせてチェックしておこう。

Yota Moriによるソロプロジェクト Acidclank、ニューアルバム「In Dissolve」2025年2月5日リリース決定!

Yota Moriによるソロプロジェクト Acidclank が、2025年2月5日(水)ニューアルバム『In Dissolve』をリリースすることを発表。
前半では、ガムランやシンセのミニマルフレーズが織りなす反復とメロディアスな音像が、リスナーを深い瞑想状態へと導く。後半に進むにつれて、ドラムンベース、ドリームポップなど多彩なアプローチを通じて、さらなる精神の深淵へと誘う楽曲展開が待ち受けています。民族音楽、サイケデリックトランス、ミニマルテクノ、エレクトロ、ドリームポップまで、幅広いジャンルの要素を取り入れた本作は、Acidclankの音楽的挑戦を結晶化した実験的な作品。アルバムアートワークもYota Mori自身が手掛け、音楽と視覚が一体となった世界観を構築している。
本作のリリースに伴い、2025年3月7日(金)に渋谷CIRCUS TOKYOにてリリースパーティー『acidplex (dissolution)』の開催も決定。

[リリース情報]

Acidclank 『In Dissolve』
2025.02.05 [CD] / 03.05 [VINYL]
PCD-25459 / PLP-7534
定価:¥2,750(税抜¥2,500) / ¥4,400(税抜¥4,091)
Label:P-VINE

*Pre-order now
CD: https://anywherestore.p-vine.jp/products/pcd-25459
LP: https://anywherestore.p-vine.jp/products/plp-7534

Pre-teaser
https://youtu.be/PaV8ER8exew
https://youtube.com/shorts/4nv79AabfEg

Tracklist:
1. Enigma
2. Hide Your Navel
3. Hallucination
4. Radiance
5. Mantra
6. Remember Me
7. Out Of View
8.Grounding

[イベント情報]
Acidclank 「In Dissolve」Release Party
『acidplex (dissolution)』
日時:2025年3月7日(金)
OPEN / START:18:00 / 18:30
会場:東京・渋谷 CIRCUS TOKYO (https://circus-tokyo.jp/)

[PROFILE]
トラックメイカー/シンガーソングライターであるYota Moriによるソロプロジェクト。 シューゲイザー/クラウトロック/サイケデリック/アシッドハウス/マッドチェスター/ドリームポップにインスパイアされたサウンドで、その活動形態やジャンルを流動的に変化させる。 2021年、2022年には国内最大級のフェス「FUJI ROCK FESTIVAL」にバンドセットとして出演。 2022年のRED MARQUEEステージでのパフォーマンスでは、日本人離れした音楽性・高い演奏力で大きな話題を呼んだ。 2023年からは活動拠点を大阪から東京に移し、サポートメンバーに元NUMBER GIRLの中尾憲太郎氏がベースとして参加するなど、各著名アーティスト達から支持されつつ精力的にライブ活動・リリースを行っている。 また、モジュラーシンセサイザー奏者としての一面も持ち、2023年には国内最大のモジュラーシンセ見本市であるTFoMにソロセットで出演するなど、クラブ、バンドのシーンに関わらず多岐にわたる活動を行う。

Acidclank:
https://x.com/ACIDCLANK
https://www.instagram.com/y0ta1993/
https://linktr.ee/acidclank

interview with Iglooghost - ele-king

 2024年の文化的衝撃のひとりに、パリ・オリンピックにおいてレスリング女子76キロ級の金メダルを獲得した鏡優翔がいる。彼女は「kawaii」という文字が描かれたマウスピースを装着して試合に出場し、そして勝利すると手を振り上げて「カワイイ!」と絶叫したのだ。もちろん、柔道において「捨て身技」に分類される、極めてリスキーな(つまり度胸と速度を要する)巴投げで試合を制した角田夏実もすごかった。ただ、彼女のそれは伝統的な意味合い(すなわち男性的想像力の範囲内)でのすごさだ。女子レスリング重量級の選手が人目をはばからず「カワイイ!」と叫んだりするのは、過去にはなかったことで、つまりこれはオルタナティヴであり、歴史的文脈からの堂々たる逸脱だったと言える。
「カワイイ」はいまや世界語で、それは「キュート」の和語ではない。かつて「クール」と呼ばれていたものが「カワイイ」へと変容している。その表象は社会的、感情的、ジェンダー的な文脈ないしは個人によって異なる。語源が「かわいそう」と関連していることから、脆弱性という意味合いも含有している。

 「カワイイ」は物や人本来の性質ではなく、見方の一形態である。つまり、ある物や人を「カワイイ」と呼ぶことで、見る者は共感、親密さ、感情を込めた柔らかな視線を向ける。「カワイイ」という言葉は、見る者について、見られる者と同じくらい多くを語る。
クリスティーン・ヤノ
『ピンク・グローバリゼーション』(2013)

 IDM——いや、近年では“デコンストラクテッド・クラブ”などと括られるハチャメチャなスタイル——と「カワイイ」との出会い、イグルーゴーストのこれまでの作風をこのようにまとめるのはいささか乱暴ではあるが、「カワイイ」は、彼がたびたび比較されるエイフェックス・ツインやフライローになかった趣であることはたしかだ。
 いまからでに遅くはない。2015年の「Chinese Nu Yr」をチェックして欲しい。2017年の楽しいカオス『Neō Wax Bloom』を体験しよう。シュールな「Clear Tamei」に酔い、妖しくも美しい『Lei Line Eon』に進入すべし。眠れない夜は“ᴗ ˳ ᴗ Snoring”を聴きたまえ(坂本龍一へのオマージュあり)。グリッチホップ、IDM、トラップ、クラシック、アンビエント……いろんなものが融合しているエレクトロニック・ミュージックだが、過去の遺産を亡霊扱いすることなく、音楽が醸し出すムードにおいては、おそろしいほど前を見つめている点はソフィーと似ている。だが、ソフィーと違ってイグルーは「カワイイ」……いや、それもいまや過去形とするべきなのだろう。

 そう、ここまでさんざん「カワイイ」と言っておきながら話をひっくり返すようだが、彼の最新作『Tidal Memory Exo』に「カワイイ」はない。イグルーゴーストは変わった。荒々しいレイヴ・ミュージックはイマジナリーではあるが身体的で、グルーヴィーだがダーク、同作の世界観はアートワークが象徴的に表している。ぼくは、当初「カワイイ」がないこの作品世界に動揺し、思わず一歩、そして二歩引いてしまったのだが、しかし聴いているうちにすっかり好きになった。理由は以下のように説明できるかもしれない。『Tidal Memory Exo』の主要成分にはジャングルがある。また、同アルバムのコンセプトには汚染にまみれ荒廃した居住区がある。しかしこの音楽は、たとえばBurialのような空しさや内省、絶望や孤独には向かわない。妙な前向きな活気が漲っている。イグルーゴーストはソフィーや鏡優翔のように、伝統的な想像力から逸脱した新世代なのだ。

子供の頃は毎日のようにテレビで「ムーミン」を観て、マイナーなアニメも早朝の時間帯に放送されていたんだよ。そのイメージを複雑なストーリーラインと組み合わせて表現するのが好きだった

時間作ってくれてありがとうございます。調子はどうですか?

イグルー:いまやっと時差ぼけが治ってきた気がする。せっかく回復したのに、あと2、3日で帰らないといけないけど(笑)。

日本は3回目?

イグルー:たぶん6回目だと思う。

いちばん最初に来たのって?

イグルー:長野のタイコクラブだった。本当にクールだったのを覚えているよ。森のなかで、霧がすごくて。楽しかったな。

それは何年?

イグルー:2018年じゃないかな。

あなたがポケモンとともに育って、日本のポップカルチャーが大好きだったという話はよく知られています。初めて日本に来て自分の目で日本を見たときはどういう印象でしたか?

イグルー:素晴らしかった。空港からバスに乗って東京に行ったんだけど、空港が東京じゃなくて郊外にあるっていうのを知らなくて、最初はバスから見える景色にちょっと戸惑ったんだ。立ち並ぶ高層ビルを想像してたのに何の変哲もない景色が広がっていて、「あ、もしかしたら思ったほど東京ってクレイジーじゃないのかも」って思った。でも東京都内に入った途端、すぐにその景色に引き込まれたんだ。すごく衝撃的な瞬間だったよ。

ところでイグルーの本名は、シーマス・マリア(Seamus Maliah)。この苗字は珍しいんじゃないですか?

イグルー:うん。イギリス人でさえ読み方を知らないんだから(笑)。

あなたが生まれた場所、ドーセット州シャフツベリーは、イングランド南西の海沿いのほうですが、ケルティックな文化があるような変わった場所?

イグルー:いや、そうでもないよ。ストーンヘンジに近いし、そういう古いものがたくさんあるからおとぎ話みたいな雰囲気はあるけど。でも、子供時代を過ごすには退屈な場所なんだ。まわりで何か面白いことが起こってるわけじゃないから。だから、自分の成長期の時間のほとんどはインターネットに費やした。まわりに森しかないから(笑)。

あなたとよく比べられるエイフェックス・ツインもコーンウォール出身で、ドーセット州の西隣です。土着的な何かがあるんじゃないのかな?

イグルー:あまり近くはないけどすごく似ているとは思う。共通点は、まわりに影響されるものがないことだと思う。音楽シーンもないから、作るものが自分流になって奇妙なものが生まれるんじゃないかな。

あなたの作品に『Lei Line Eon』というアルバムがありますよね。これもぼくのフェイヴァリットなのですが、「レイ・ライン」という、古代のマジカルパワーを結ぶラインという説があってそれを題名にしています。こういう神秘的なものへの憧憬というか共感というか、やっぱり生まれ故郷が影響しているのかなと思ったんですけど。

イグルー:たしかにそうだね。70年代から80年代にかけて、イギリスではネオペイガニズムというムーヴメントがあったんだ。ストーンヘンジもその一部だったんだけど、そのときに民間信仰や農村の伝統みたいなものが再び広がった。とくにサブカル系が好きで熱狂的な人たちのあいだでね[*ドルイド教を模倣したザ・KLFもそうで、レイ・ラインはビル・ドラモンドの重要なコンセプト]。ぼくの両親もその一部だったんだけど、そのムーヴメントのなかで、レイ・ラインという魔法のような目に見えない繋がりで場所と場所がつながっている、という考え方があって、ぼくはそれについてよく聞かされて育ったんだ。

ご両親の話が出ましたが、どんな家庭環境で育ったんですか?

イグルー:ぼくの両親はふたりとも音楽が大好きだから、音楽をたくさん聴いて育った。とくに父親は音楽の趣味がすごくクレイジーで、子供の頃は前衛的な音楽をたくさん聴かされたよ。Swansとかね。あと、母はフルートをよく吹いてた。

お父さんは具体的にどんな音楽を好んでいたんですか?

イグルー:最近だとソフィーを聴いてる(笑)。もう60代なのにね[*質者も60代であるが、それを言うと話が違う方向に行きそうだったのでそのまま流しました]。でも、それくらい父親は昔からオープンマインドなんだ。ぼくが子供の頃は、ヘビメタも聴いていたし、エレクトロニック・ミュージックも聴いてたよ。KLFとかね。それ以外にも本当に幅広くいろんな音楽を聴いてたね。

お父さんはレイヴに行ったりしてたんですか?

イグルー:いや、それはあまり。レイヴに行くにはちょっと歳をとっていたと思う[*ということは質者よりも年上ですかね]。でも、行ってはいなかったけどそういった音楽に興味は持っていたし、レイヴ・カルチャーが起きたことをとても嬉しく思っていたよ。

なかなかユニークな家庭環境だったんですね。いつから音楽を作りはじめたんですか?

イグルー:子供の頃からずっと音楽をやりたいとは思っていたんだ。でも、ギターを習いはじめたんだけどうまくできなかった。不器用で、一生懸命やっても上手く弾けなくて。ドラムにも挑戦したけど同じ。身体を動かして奏でる楽器がぼくには向いてなかったらしい。で、9歳か10歳のときにコンピュータを手に入れたんだけど、身体を動かさなくてもコンピュータで音楽を作れることがわかって、それで音楽を作りはじめたんだ。そっちの作り方のほうがぼくにとってはすごく自然だった。

最初に作ろうとした音楽はスタイルで言うと何ですか? ヒップホップ? テクノ?

イグルー:実はガバみたいな音楽を作っていたんだ。昔のスタイルのDAWソフトを使って、とにかくすごく速いブレイクビートを作っていた。出来は最悪だったけど(笑)。でも、それを10歳くらいのときにはマイスペースにあげたりしてたよ。

あなたが15 歳のときにフライローにデモテープを渡した話は有名です。やっぱ最初に影響を受けたのはフライローだったんですか?

イグルー:確実にそう。初めて彼のアルバム『Cosmogramma』を聴いたときは、これはぼくにとって本当に重要な音楽的瞬間だと感じた。あんなに速くて複雑なのに、同時に聴いていたあそこまで楽しい音楽を聴いたのはあのときが初めてだった。

それは何歳のとき?

イグルー:たぶん18歳だったと思う。

自分の作品を公に出したのは、2013年出したカセット作品が最初になるんですか?

イグルー:そうだと思う。当時はまだ自分の声というものが確立されてなかったから、フライローのコピーみたいな感じだったけどね(笑)。でも〈Brainfeeder〉に自分の作品を送るころまでにはそれも変化して、もっと自分らしいものを作れていたと思う。

[[SplitPage]]

初めてフライローの『コスモグランマ』を聴いたときは、これはぼくにとって本当に重要な音楽的瞬間だと感じた。

UKのミュージシャンで好きだった人はいなかったんですか?

イグルー:2013年……あのことのぼくは、LAのアーティストの音楽ばかりを聴いていたんだ。たぶん、UKのシーンから離れすぎていたからかも。イギリスにもクールな音楽がたくさんあることを知らなくて、それに気づいたのはもう少し後になってからなんだよ。気づいてからは、そのユニークさがぼくの音楽作りの大きな助けになったと思うけど。

『Cosmogramma』の時代は、UKではUKガラージがあって、ダブステップがあって、ベリアルみたいな人も出てきて、アンダーグランドでまた新しい動きが出てきたときでした。

イグルー:たぶん、ぼくはちょっと若すぎたんだと思う[*1996年生まれの彼は、2010年は日本でいう中学生]。まだ学生だったし、世代があってなかった。〈プラスチック・ピープル〉もそうだし、そういった音楽や動きに関しては、もっと後になってから知ったんだ。

ちなみに、ぼくがあなたの音楽を聴いたのは2019年の『XYZ』が最初でした。bandcampで、デジタル+CDを購入したんですが、送られてきたCDはチャックの付いたビニールの袋に入っていて、あれって、もろDIY的な手作業でやったんだろうなと(笑)。

イグルー:本当にそう(笑)。

自分のなかで最初に納得がいった作品は何でしたか?

イグルー:〈Brainfeeder〉からリリースされた最初のEP「Chinese Nu Yr」かな。初めてファンとしての視点以上の音楽を作ることができたと思えた。それまでは、自分が好きな音楽があって、そのサウンドを自分でも作ってみたいと思って作品を作っていた。でもあのEPのときは、自分の世界観みたいなものを作品を通して表現することができたと実感できたんだ。

あなたの音楽はいろいろな要素が混ざっていますよね。自分の音楽のコンセプトをどう考えていますか?

イグルー:ぼくにとって大切なのは音楽とヴィジュアルを結びつけること。ぼくにとってヴィジュアルは音楽と同じくらい大切だし、作っていて楽しいものなんだ。だからいろいろ実験してみるんだよ。ジャケ写にこのイメージを使ったら音楽がどう感じられるだろう、とかね。イメージによって感じ方も変わると思うから。その逆もあるし。ぼくにとってはそのふたつは強くリンクしているんだ。

最新作『Tidal Memory Exo』は大好きで、今年のベストな作品のひとつです。

イグルー:ありがとう。

でも最初聴いたときには動揺したんですよね。音楽もヴィジュアルも、それまでのあなたの「カワイイ」[*通訳の原口さんがこれを“キュート”と訳されたのを聞いて、「いや、違うんです」と言おうかと思ったが、話が面倒になるので止めました]がない。おそらくファンも、なぜイグルーは「カワイイ」を捨てたんだ!? と思ったことでしょうね(笑)。

イグルー:(笑)今回作品を作っているときに住んでいた場所が、イギリスのマーゲートっていう場所だったんだけど、すごく暗い場所で、空がいつも灰色だったんだ。雨もずっと降っていたし、近くに海もあるけど、水は茶色だし、ぜんぜん綺麗な海じゃなくて(笑)。その環境のなかでイマジネーションを働かせて生まれたストーリーが反映されたからだと思う。あの環境の影響は大きかった。

いまイギリスはかなり悲惨な場所だと思うし、どんどん寂しい孤立した場所になってきてしまっている。その様子は、間違いなく今回の作品に反映されていると思うね。ぼくの音楽も、どんどんダークになってきているから。

〈Brainfeeder〉時代の数年間、あなたは帽子を被った「kawaii」アイコンをヴィジュアルにして、作品にもドリーミーなフィーリングがあった。いま振り返って、あの当時のあなたがやろうとしていたことは何だったのでしょうか? 

イグルー:あれは、子供の頃に目にしていたメディアの影響が強かったんだと思う。インスピレーションは間違いなくそれ。子供の頃は毎日のようにテレビで「ムーミン」を観て、日本ではあまり人気がなかったであろうマイナーなアニメなんかも早朝の時間帯に放送されていたんだよ。ぼくは、そのイメージを複雑なストーリーラインと組み合わせて表現するのが好きだったんだよね。見た目はかわいくてシンプルなのに実は秘密がある、みたいな。あのイメージの影には宗教的なストーリーのような複雑なストーリーが隠れている。それをデジタルで表現してラップトップのなかで命を与える、みたいなことをやりたかったんだ。

その「カワイイ」路線は2010年代からずっと続いていました。それはそれですごく良かったし、ぼくは2021年の『Neō Wax Bloom』だって大好きですが、新作を聴いたときは、あなたの内面で何か起こったのか!? と思いました(笑)。

イグルー:最初にキャリアをスタートさせた頃は、最初のアイディアにとらわれてしまっていた部分があると思う。しばらくは、その同じアイディアをこのまま広げ続けないといけないのかなと考えていた時期もあった。でも本心は、リリースするレコード全てで新しい世界を表現して、まったく異なる作品を作りたいと思っていたんだ。でも、前はそうやって作品を分けるということが少し怖かった。でもいまは、気持ち的にそれができるようになったし、自分にとってすごく新鮮なんだ。やっていてすごく心地いいしね。

今回のアルバムは、不法占拠して、不法のパーティがあって、不法のラジオがあって、ゴミや廃品が流れ着いたような場所から発信する、みたいなストーリーがあるけれど、そこには何か政治的な意味はあるんですか?

イグルー:それを敢えて意識したわけではないんだけど、もしかした政治と繋がっている部分もあるかもしれない。解釈はリスナーのみんなに任せたいからあまり詳しくは言わないけど、自分が住んでいた街があまり綺麗な場所じゃなかったんだよね。汚くて重苦しい感じでさ。例えば、水も汚染でいっぱいだったり。説明するのは複雑だから省くけど、そこにはブレグジットも関係していたりするんだ。いまイギリスはかなり悲惨な場所だと思うし、どんどん寂しい孤立した場所になってきてしまっている。その様子は、間違いなく今回の作品に反映されていると思うね。ぼくの音楽も、どんどんダークになってきているから。

これは質問ではなく感想なんだけど、最後の曲“Geo Sprite Exo”がとくに好きです。あのトラックは本当にすごいと思います。

イグルー:ありがとう。

今回のアルバムが〈LuckyMe〉からリリースされることになった経緯を教えてください。

イグルー:〈LuckyMe〉は元々ぼくが大好きなレーベルだったんだ。ぼくは、あのレーベルは本当に特別だと思っている。自分が発見していいなと思うエレクトロニック・ミュージックには必ず〈LuckyMe〉が関わっているし、エレクトロに限らず、それ以外の音楽にも影響を与えているレーベルだと思うから。

自分からアプローチしたんですか?

イグルー:お互いって感じかな。ぼくも最初に持っていたアイディアを彼らに見せて、彼らもすでにぼくのこれまでの作品を気に入ってくれていたからね。

日本に来たとき、J-PopのCDを買っていますか?

イグルー:うん。今回もミニ・カラオケCDを買ったよ(笑)。名前はわからないけど、グラフィックデザインが好みだった。子供の歌なんかも好きなんだ。イギリスでは絶対見つけられないような作品を買うのが好きなんだ。そういう作品はインスピレーションを与えてくれるから。

去る5月、ロレイン・ジェイムズが来日した際に彼女と少しだけ喋って、最近でお気に入りのアルバムは何? って聴いたら、あなたの作品を挙げてたんだよね。

イグルー:(嬉しそうに)クレイジーだね。ぼくも彼女の音楽が大好き。彼女は天才だと思う。

彼女も東京に来ると必ず渋谷のタワレコで日本の音楽を買うんです。

イグルー:そうなんだね。

次の作品はどこからいつでるか決まってるんですか?

イグルー:いま作っているところなんだけど、今回の滞在でもインスピレーションをもらって、それを新しい作品に反映させられたらなと思っているんだ。クレイジーに聞こえると思うけど、日本の建築現場にすごくインスパイアされて(笑)。乗り物がイギリスと違うんだよ。あの乗り物の名前ってなんだっけ? ショベルカーだ(笑)。日本のショベルカーの見た目が本当に好きなんだ。その見た目を音にしてみたいんだ。馬鹿げてると思われるかもしれないけど(笑)。

(笑)それはシングル?

イグルー:リリースするならEPとしてかな。レーベルはまだ決まってないけど。

以上です。どうも、お時間ありがとうございました。残りの滞在を楽しんでってください。

イグルー:こちらこそありがとう。


 対面取材はやはりいい。その人の雰囲気を知ることができる。イグルーは「カワイイ」人だったし、とても優しそうな人に思えた。それがいちばんの収穫だ。ぼくは彼と話して、ますますファンになった。よし、これからもイグルーゴーストを聴くぞ。

イグルーゴーストの『Tidal Memory Exo』は、最近ヴァイナル盤もリリースされた。

Dennis Bovell - ele-king

 UKレゲエにおけるイノヴェイター、デニス・ボーヴェル。ジャマイカと同じく、旧イギリス植民地、西インド諸島の西の端にある珊瑚礁の島、バルバトスにて1953年に生まれ、1965年に家族の移住とともに12歳のときに彼はサウス・ロンドンの地に降り立った。いわゆる非ジャマイカのカリブ系の「ウィンドラッシュ世代」であり、デニスが音楽を手がけた、UKブラックの若者とサウンドシステム・カルチャーを描いた映画『バビロン』の主人公たちとほぼ同じか、もしくは少しだけ上の世代と言えるだろう。1971年にバンド、マトゥンビを結成し、来英するジャマイカン・アーティストやディージェイのバックを務めつつ、自らの楽曲も発表、UKレゲエの礎を作っていくことになるのだが、もうひとつ彼の重要な活動の場としてサウンドシステムの運営があった。今回、本稿のテーマとなる、〈Warp〉傘下の〈Diciples〉からリリースされる、彼の1976年から1980年の作品をまとめた『Sufferer Sounds』は、彼が運営していたJah Sufferer Soundsystemからとられている(「Sufferer」とは植民地・人種主義の文字通り「受難者」として、ジャマイカのゲットーの人びとが自らを呼ぶ言い方だ)。
 彼は1970年代初頭よりJah Suffererを運営しつつ、マトゥンビとは別にさまざまな音源制作も手がけていく。まずは自身が活動するサウンドシステムの “スペシャル” の需要がありつつ、彼の場合、1970年代の後半に関わったマテリアルの数々を考えると、それだけに留まらない猛烈な創作意欲が垣間見られる。その原動力のひとつに、「UKのレゲエ」を地元UKのシーンに認めさせるというものがあったようだ。当時のUKのサウンドシステムで重宝されていたのは「本場」ジャマイカのレゲエであって、彼らが欲しがっていたのはジャマイカの名プロデューサーたちがUKに持ち込むダブプレート(未発表、もしくは特別な別ミックスのテスト・プレス盤、ないしはそのマスター・テープ)だった。こうした状況のなかで、彼はさまざまなサウンドを試し、ダブ・ミックスの技を、そしてさまざまな音楽に対するアイディアを磨き、当時シーンに自分たちの力量を認めさせていった。そのなかのひとつにラヴァーズ・ロック・レゲエ=ミリタントなレベル・ミュージックではなく、ラヴ・ソング中心のポップな流行歌としてのレゲエもあると言えるだろう。
 また彼の通り名とも言えるブラックベアード、4thストリート・オーケストラや『Sufferer Sounds』にも収録されているアフリカン・ストーンなど、匿名性の高い名義を使い、場合によってはあえて海外でプレスし逆輸入、ジャマイカ盤のようにいわゆるドーナッツ盤(センターホールがラージホールになっている)にするために、わざわざカッティング・マシンで穴まであけて、あたかもジャマイカのアーティスト、盤であるかのように偽装までしていた。また彼は基本的にはベーシストとして知られているが、じつはギター、ドラム、キーボードを操るマルチ・インストルメンタリストでもあって、レコーディング・エンジニアとして多重録音で楽曲を制作、さらにそれをダブ・ミックス、ときにはそうしてできた音源を、自身のシステムでその晩にプレイするためにダブプレートのカッティングすらした。おそらくセッション・ミュージシャン費を浮かせたい意図もあったとは思うが、演奏のニュアンスからアレンジからコントロールする狙いもあったのではないだろうか。
 本国ジャマイカのダブ音源は基本的に歌入りのオリジナル・ヴァージョンの、演奏家の意志がほぼ介在しないリミックス・ヴァージョンであったが、デニスの場合は、純然たるダブ・ヴァージョンのためのレコーディングもおこなっていた。アレンジからダブ・ミックスありきで作られることもあったのではないだろうか、そこからまさに特別な、キラーなダブが生まれたことは想像に容易い。ちなみに、こうした『Sufferer Sounds』で見られるデニスの仕事のなかから、ダブの手法が極まった作品として、1980年の2枚のダブ・アルバムをあげておこう。UKで初めてダブ・アルバムを流通させたウィンストン・エドワーズ(ジョー・ギブスのいとこ)のレーベルからリリースされた、オーソドックスなレゲエのリズムながら手数の多いダブ・エフェクトが楽しめる『Winston Edwards & Blackbeard At 10 Downing Street - Dub Conference』と、さまざまな音響的な仕掛けや演奏も含めて、単なるダブ・アルバムから一歩踏み込んでダブを表現として昇華させた『I Wah Dub』の2枚だ。
 ロイド・ブラッドリー『ベース・カルチャー』に掲載されているインタヴュー(「16 : 俺たちのルーツ」収録)によれば、デニスはある種のフォーマット化されたジャマイカのリズム(バニー・リーのフライング・シンバル~ロッカーズ・スタイル、スライ&ロビーによるステッパーなど)をはねのけるUK独自のリズムの創出を目指しもした。そのひとつが、その後、ラヴァーズ・ロック・レゲエの代名詞ともなるジャネット・ケイの “Silly Games” のリズム・デリヴァーだという。アスワドのアンガス・ゲイをドラマーとして起用し、ハイハットとスネアがエレガントに進む、デニス言うところの「スティックラー(こちょこちょくすぐる)・リズム」(上記インタヴューにて発言)は、たしかに大きくジャマイカのリズムを変えるまではいかなかったが、UK生まれの独特のレゲエのスタイルとしてのラヴァーズ・ロック・レゲエの最大のヒット曲となり、代表曲となった(『Sufferer Sounds』には、アンガスのジェントルなタッチのドラムも堪能できる未発表のダブ “Game Of Dubs” が収録されている)。

 1970年代のこうした彼のサウンドに対するトータル・プロデュースとアンダーグラウンド・サウンドシステム・シーンの実験は、演奏が人力である点を除けば、そのまま現在のダブステップ・アーティストがDAWでやっていることとあまり大差がないことがわかるだろう。『Sufferer Sounds』は、まさにこうした地下の先鋭的な音楽の実験のドキュメンタリーとなっている(デニス本人が語っているライナーノーツも必読だ)。1970年末になるとこうしたサウンドの実験とその手腕が、LKJとの共闘などUKレゲエ・シーンの重要作を経て、ジャンル外の人びとにも注目され、ザ・スリッツやザ・ポップ・グループ、さらには坂本龍一の作品などを手がけることになり、国際的な評価にもつながっていく。
 そういえば、デニス・ボーヴェルのコンピが〈Disciples〉からというのは以外な感覚もしたが、レゲエ史というよりも、ダブをひとつ、現在につづくエレクトロニック・ミュージックの手法とすれば、つまりUKのアンダーグラウンドに存在したある種のエレクトロニック・ミュージックの埋もれていた重要な実験であり、そう考えればこれまでのレーベルの方向性とも合致すると合点がいく。

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467