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The Last Poets

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The Last Poets

Understand What Black Is

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小川充   Jun 12,2018 UP

 去る6月4日、アメリカの黒人詩人にしてミュージシャンのジャラール・マンスール・ナリディンが74歳で死去した。近年は癌のために闘病生活を送っていたそうだが、彼はラスト・ポエッツの創設メンバーであり、ライトニング・ロッドなどの名前を使い、ラップのゴッドファーザーと呼ばれてきた伝説の存在である。盟友のアビオダン・オイェウォレやウマー・ビン・ハッサンら、ラスト・ポエッツの現メンバー3人も追悼のコメントを述べていたのだが、その少し前の5月にラスト・ポエッツが新作『アンダースタンド・ワット・ブラック・イズ』をリリースしたばかりというのも奇遇だ。
 音楽は喜びや悲しみなど人間のさまざまな感情を表現するものだが、ラスト・ポエッツはそのなかでずっと怒りを表現し続けてきた。アメリカおいては故ギル・スコット・ヘロンはじめ、ニューヨークのラスト・ポエッツ、カリフォルニアのワッツ・プロフェッツという、ポエトリー・リーディングやスポークン・ワード、いわゆる詩の朗読を楽器演奏に乗せてきた黒人アーティストは、白人中心のアメリカ社会において黒人たちの怒りを代弁する存在だった。公民権運動が盛んだった1960年代に活動を開始した彼らは、人種差別はじめ戦争や政治腐敗、マス・メディアの偏向報道などの社会問題をテーマに怒りの声を発し、黒人の自由や解放、社会進出やアイデンティティを一貫して説いてきた。彼らのスタイルや思想は後のラップの先駆けとなり、昨今の「ブラック・ライヴズ・マター」にも繋がっている。このなかでラスト・ポエッツは、1968年のハーレムで過激思想の活動家であるマルコムXの誕生日にあたる5月19日に結成され、そして今年で活動50周年を迎えた。

 彼らの過去を振り返ると、ジミ・ヘンドリックスからマイルス・デイヴィスをプロデュースしてきたアラン・ダグラスのもと、過激に怒りをぶちまけるスポークン・ワードをフリー・ジャズ調の演奏に乗せた『ディス・イズ・マッドネス』(1971年)、名ドラマーのバーナード・パーディーをフィーチャーし、ジャズ・ファンクと詩の朗読の融合した傑作『ディライツ・オブ・ザ・ガーデン』(1977年)、ビル・ラズウェルと組んでエレクトロ・ヒップホップ~ラップ・スタイルに挑んだ『オー・マイ・ピープル』(1985年)と、時代によってじょじょにスタイルを変えてきた。
 1980年代後半から1990年代前半にかけては、レア・グルーヴ~アシッド・ジャズのムーヴメントによってイギリスで再評価され、ガリアーノなどは明らかにラスト・ポエッツのスタイルに影響を受けていたと言えるし、サイレント・ポエッツも『ワーズ・アンド・サイレンス』(1994年)で共演している。『オー・マイ・ピープル』以降はたびたびビル・ラズウェルと共同制作を行っており、ブーツィー・コリンズとバーニー・ウォーレルというPファンク勢、およびヒップホップの始祖のひとりであるグランドマスター・メリー・メルと組んだ『ホーリー・テラー』(1993年)、ファラオ・サンダースとパブリック・エネミーのチャックDと組んだ『タイム・ハズ・カム』(1997年)をリリースする。
 その後も客演やライヴ活動はいろいろと行っており、コモンの『ビー』(2005年)でカニエ・ウェストとともに“ザ・コーナー”にフィーチャーされていたのだが、『タイム・ハズ・カム』を最後にアルバムは途絶えていた。『アンダースタンド・ワット・ブラック・イズ』はそれから21年ぶりの復帰作であり、50周年アニヴァーサリー・アルバムでもある。

 アルバム・リリース時のインタヴューでアビオダン・オイェウォレは、「ブラックというのは単なる色ではなく、白も含めたすべての色の根源である。すべての人類はひとつの種族から生まれたものである」と述べており、それがアルバム・タイトルの『アンダースタンド・ワット・ブラック・イズ』に込められたメッセージである。
 ラスト・ポエッツが生まれた1968年当時は、キング牧師の暗殺などによって黒人の怒りが頂点に達していた頃で、アビオダンらも銃を手に取り、黒人を制圧しようとする白人の殺戮の衝動に駆られたという。ただし、実際には彼らは言葉という銃弾で、社会を糾弾していった。それがラスト・ポエッツの原点であり、今回のアルバムでも“ハウ・メニー・バレッツ”という曲に引き継がれている。“レイン・オア・テラー”はフランス革命時の恐怖政治を捩ったもので、「アメリカ国家はテロリストだ」と断罪している。
 サウンド面を見ると、『タイム・ハズ・カム』はじめ1990年代のラスト・ポエッツはジャズ・ラップ~ヒップホップに寄せたスタイルだったが、『アンダースタンド・ワット・ブラック・イズ』はダブ/レゲエ寄りのアルバムとなっている。制作はロンドンで行われ、プロデュースを務めるのはマッド・プロフェッサーからホーリー・クックなどを手掛けるプリンス・ファッティと、過去にそのプリンス・ファッティと組んでダブ・アルバムも作っているベン・ラムディン。ベン・ラムディンはノスタルジア77名義で数々のジャズ作品もリリースしてきたのだが、『アンダースタンド・ワット・ブラック・イズ』の演奏には彼の周辺のジャズ系ミュージシャンが多くフィーチャーされており、トゥモローズ・ウォリアーズ出身のジェイソン・ヤードから、レゲエ勢ではマックス・ロメオやジャー・シャカらと仕事をしてきたウィンストン・ウィリアムズなども参加している。
 ルーツ・レゲエやアフロ・ダブ、ナイヤビンギにジャズのフレーヴァーを織り交ぜたもので、往年のダブ・ポエットのリントン・クウェシ・ジョンソンの作品から、近年ではザラ・マクファーレンの『アライズ』やサンズ・オブ・ケメットの『マイ・クイーン・イズ・レプタイル』あたりとの共通項も見い出せる。レベル・ミュージックの象徴であるレゲエと、ラスト・ポエッツががっぷり四つに組んだアルバムである。

小川充