Home > Reviews > Album Reviews > Da Lata- Birds
1990年代半ばのアシッド・ジャズやクラブ・ジャズのムーヴメントの中で、サンバやボサノヴァなどブラジル音楽が人気を博した時期があった。1960~1970年代の古い音源をDJが発掘してプレイする一方、実際にブラジル音楽やラテン・ジャズなどを演奏するバンドやユニットも現われた。そのほとんどがいまは活動していないのだが、代表格のダ・ラータは現在も地道に活動をおこなっている。
ダ・ラータはDJのパトリック・フォージとミュージシャン/プロデューサーのクリス・フランクを中心としたユニットで、バトゥというバンドを母体に1994年頃から活動している。ダ・ラータの特徴はブラジル音楽とアフロビートをミックスさせた点で、それが純粋なブラジル音楽を演奏するバンドとの大きな差異となっていた。パトリック・フォージのDJとしての嗅覚や音楽知識に裏打ちされ、ダ・ラータはアフロビートだけでなく様々なタイプの音楽を結び付けていき、2000年前後のウェスト・ロンドンのブロークンビーツ・シーンともリンクした活動をおこなっていた。
2000年にファースト・アルバムの『ソングス・フロム・ザ・ティン』をリリースし、2003年にはセカンド・アルバムの『シリアス』を発表するが、その後はクリスが別のプロジェクトで活動するため、ダ・ラータは一時休止状態となる。そして2011年に再始動し、2013年にリリースした『ファビオラ』ではこれまでのロンドンのミュージシャン以外にも、ミゲル・アトウッド・ファーガソンやリッチ・メディーナなどを招いている。いままでの路線に加え、ロックやフォーク、レゲエやタンゴなどさらに多種の音楽を取り入れており、全体的によりグローカルなテイストを感じさせるアルバムとなっていた。
『ファビオラ』と続くシングルのリリースとライヴ活動の後、ダ・ラータは再び休止状態となってしまっていたのだが、2019年に自身のレーベルからシングル「オバ・ラタ」を発表して復活し、そして6年ぶりとなるニュー・アルバム『バーズ』を完成させた。
ウェスト・ロンドンのブロークンビーツ・シーンからの長い付き合いとなるヴァネッサ・フリーマンとベンベ・セグェのほか、ブラジル人でグラヴィオラというバンドでシンガーも務めるルイス・ガブリエル・ロペス、セネガル出身でアフリカの民族楽器も操るディアベル・シッソコーという『ファビオラ』の参加者、そして新たにシンガー・ソングライターのサイレン・リヴァーズ、イタリア出身で現在はロンドンで活動するシンガー/ピアニストのエイドリアン・ヴァスケス、新進R&Bシンガーのリチャード・コリンズなどが参加している。演奏はマイク・パトゥー(キーボード、シンセ)、トリスタン・バンクス(ドラムス)、ジェイソン・ヤード(サックス)などダ・ラータの常連ミュージシャンに加え、かつてアウトサイドの名義で活動し、インコグニートでも演奏してきたマット・クーパー(エレピ、シンセ)、アシッド・ジャズ時代にガリアーノなどで演奏し、〈ブギー・バック・レコーズ〉を運営してきたアーニー・マッコンヌ(ベース、ドラムス)などのヴェテランが参加している。
レゲエ/ダブ調のロウなファンク・ビートの “メンタリティ” でアルバムは幕を開ける。ディアベル・シッソコーによるアフリカンなヴォーカルが妖しいムードを運んできて、続くミステリアスな雰囲気の “ダカール” へと受け継がれていく。“オバ・ラタ” と共にシングル・カットされた曲で、クリスがセネガルへ旅行したときに断食などを伴うイスラム教のラマダーンの儀式を体験し、それがモチーフとなった曲だ。
親しみやすいメロディの “スウェイ” はブラジリアン・メロウ・ソウルといった趣で、ウェスト・ロンドンの歌姫だったヴァネッサ・フリーマンが歌う。サイレン・リヴァーズが歌う “メモリー・マン” も同系の曲で、ダ・ラータらしいボッサ・ジャズのリズムにフルートやギターが哀愁を帯びたメロディを奏でる。“トゥ・B” はさらにアコースティックな質感のフォーキー・ブラジリアンとも言うべき曲で、エイドリアン・ヴァスケスのスキャットは大御所のジョイスのそれを彷彿とさせる。
リチャード・コリンズのしっとりとした歌で始まる “ルナー・ヴュー” は、途中からリズム・セクションが加わってメロウ・フュージョン調の演奏となっていく。故リンデン・デヴィッド・ホールを思わせるシルキーなファルセットのリチャードの歌声と洗練された演奏が楽しめる曲だ。“サンダー・オブ・サイレンス” は往年のダ・ラータらしい1曲。サンバのリズムにジャズ・ファンク、ブギー、ブロークンビーツなどの要素を混ぜ、ヴァネッサ・フリーマンと共にウェスト・ロンドンの歌姫だったベンベ・セグェの歌やジェイソン・ヤードのサックスがフィーチャーされる。
シングル曲の “オバ・ラタ” もダ・ラータ得意のアフロビートで、ヨルバ語のコーラスと妖しげなシンセがアクセントとなる。“ホリークウッド・パーク” はクリスが全て楽器演奏をおこなったインスト曲で、カリンバ(親指ピアノ)の音色がアフリカの土着的な風景を連想させる。タイトル曲の “バーズ” はルイス・ガブリエル・ロペスの歌とギターで綴るフォーキーなバラード。しっとりとしたムードでアルバムは締め括られる。
アフロ・サンバやMPBなどブラジル音楽を土台に、アフロビートからソウル、ブロークンビーツなど様々な要素を混ぜていくスタイルはダ・ラータがデビュー当時からずっと貫いているもので、今回のアルバムでもそれは変わっていない。流行や時代の流れなどとは無関係のところで、息の長い活動を続けているダ・ラータらしいアルバムと言えるだろう。
小川充