「CE」と一致するもの

interview with Shuhei Kato (SADFRANK) - ele-king

 成功したバンドのフロントマンがソロでレコードを作るとき、あるいはパンクを出自にするミュージシャンがその表現を深化させ変化させていくとき、どのような道筋が考えられるのか。そんな正解のない難題に対して、NOT WONKの加藤修平は、エルヴィス・コステロやポール・ウェラーの例を引きながら答えてくれた。加藤によるソロ・プロジェクト、SADFRANKのファースト・アルバム『gel』は、2023年におけるその回答として差し出されている。

 それにしても、SADFRANKの音楽やここでの加藤の表現は、NOT WONKのそれとはまったく異なっている。いま日本で最も忙しいドラマーの石若駿、ゆうらん船などで活躍するベーシストの本村拓磨、そして映画音楽からファッション・ショー、舞台芸術、インスタレーションなどの領域を横断する音楽家の香田悠真の3人を中心にしたバンドの演奏も、印象的なストリングスのアレンジメントもそうだし、なにより加藤は日本語で歌っている。それでも、NOT WONKがこの数年で遂げてきた変化を踏まえると、突飛なものには思えない自然さと説得力がここにはあって、それはNOT WONKのリスナーをけっして拒絶するようなものではなく、むしろ迎え入れる懐の深さと両者の表現を結びつける確信が感じられる。そして加藤は、SADFRANKとNOT WONKとでやっていることはまったく同じだ、とまで言い切ってみせる。

 くるりの岸田繁からthe hatchの宮崎良研、松丸契、んoonのYuko Uesu、NABOWAの山本啓まで、新旧の仲間たちがひとつの点に合流した『gel』は、加藤が新しい海に飛び込んだよろこびが詰められたみずみずしい果実のようでいて、「目の前にどかっと座って歌っている」ような親密な作品でもある。この豊穣な音楽は、どのようにして生まれたのか。加藤にじっくり聞いた。

日本語で歌いてえな、というザックリした欲求があって(笑)。ただ、日本語で歌詞を書いたことは一回もなかったので、どうしたらいいかわからなかったんです。

SADFRANKというプロジェクトのはじまりはいつなのでしょう? 2020年10月11日にリリースしたエディット・ピアフの “愛の讃歌” のカヴァー “Hymn To Love (Hymne à l'amour CM Version)” ですか?

加藤:その前からSADFRANKという名前で、ひとりでライヴをしたことは何度かあったんです。苫小牧でのライヴだったり、jan and naomiが札幌に来たときのサポート・アクトだったり。カヴァーや、ギターを即興で弾くパフォーマンスを僕ひとりでやるときの名前でしたね。それでLevi’sの広告の音楽を担当することになって、“Hymn To Love” をカヴァーしたんです。でもじつは、石若くんや悠真くんと最初にレコーディングしたのはそれより少し前ですね。

ドラムに石若駿くん、キーボードに香田悠真さん、ベースに本村拓磨さん、というのが今回の「コアメンバー」とされています。そのメンバーでセッションをはじめたきっかけは?

加藤:日本語で歌いてえな、というザックリした欲求があって(笑)。ただ、日本語で歌詞を書いたことは一回もなかったので、どうしたらいいかわからなかったんです。それを形にしようと思ったときにパッと思い浮かんだ人たちに声をかけた、というシンプルな流れでした。

NOT WONKで日本語詞を歌うことは考えなかったのでしょうか?

加藤:言われてみたら、NOT WONKでやるイメージは、そのタイミングではまったくなかったですね。そんなわけねえなと。NOT WONKは僕だけのバンドじゃなくて、他のふたり──フジとアキムありきで3人でやっているバンド、というのがまずあって、年々、その気持ちが高まっているんですね。「日本語で歌ってみたい、日本語で表現したい」という気持ちは、もっと私的でプライヴェートな気持ちだという気がしているんです。それをバンドで消化することに、そのときは違和感があって。

石若くん、香田さん、本村さんとの共演経験はあったんですか?

加藤:本村くんはもともとGateballersというバンドをやっていて、その頃から好きで演奏を見ていました。共演したときにちょっと話す程度でしたね。石若くんと悠真くんとは面識がなくて、石若くんは演奏が好きだったから自分からメールしたんです。悠真くんは、当初一緒に制作する予定だったエンジニアの葛西敏彦さんの紹介で知りました。ピアノを弾ける人や自分のやりたいことを音楽的に汲み取ってくれるような人が僕の周囲のバンドマンでは思い浮かばなくて、スタジオ・ミュージシャンに頼むのも違和感があったので、葛西さんに相談したんです。葛西さんの推薦で初めて悠真くんの作品を聴いて、「もう、この人だろう」って感じて。

「僕がUKジャズのつもりで書いた曲を石若駿が叩いたらどうなるんだろう?」という興味がめっちゃあって。

『gel』を聴いていると、石若くんや本村さんはもちろんですが、香田さんの役割は大きいのだろうなと感じました。

加藤:ハーモニー担当みたいな感じで関わってくれたんです。悠真くんはアカデミックな道を通ってきてはいるけれど、音楽に対する姿勢は僕とかなり通じるところがあって。僕は和声の理論とかはまったく勉強してこなかったので、そこをふたりで話し合ってアレンジメントや曲のカラーのつけ方を決めていきました。ストリングス・アレンジを岸田さんにやってもらった曲が一曲ありますが(“I Warned You”)、それ以外の楽器のアレンジは悠真くんとふたりで詰めていったんです。僕がいままで「理由や根拠はないけど、これがいいと思う」と感覚的にやっていたことを、悠真くんに根拠づけしてもらいました。悠真くんは、メンター的な感じでいてくれましたね。やっぱピアニストというか、楽譜を書く人にしかわからない音の見え方があるんだなって、彼の仕事を横で見ていて思いました。

“肌色” や “最後”、“the battler” では、加藤さんがピアノを弾いていますよね。ピアノはもともと弾いていたんですか?

加藤:幼稚園や小学校の頃、教室に通ったことはありましたが、教則本がつまらなくてやめて(笑)。なので、ぜんぜん弾けないんです。SADFRANKをはじめたいと思ったとき、「ピアノを弾けるようになったらいいな」くらいの気持ちで鍵盤を買って、白鍵に「ドレミファソラシド」とマジックで書いて練習をはじめました。ギターを持ちながら和音を探す作業を3年くらい続けましたね。ギターとピアノはそもそも構造的にちがうから、別の考え方をしないといけないんだなって。

このアルバムの曲は、ピアノで書いているんですか?

加藤:ギターで作った曲は3曲目(“I Warned You”)と4曲目(“per se”)くらいですね。そもそも「ギターと距離を取りたい」みたいなことが今回、裏テーマ的にあったんです。それは「ギターが嫌だ」とか、そういうことじゃなくて。自分自身のキャラクターとして「NOT WONKでギターを弾いて歌っている」というのがあるので、「自分の音楽の表現ってそれだけでいいのかな?」と疑問があったんです。なので、普段使っている方法を手放すとか、あるいは「歌わない」とか、そういうことは自分から離れる手段として選んだって感じですね。

個人の表現をするにあたって得意なことを全面化せず、そこから離れて新しいところを開拓した、というのはおもしろいですね。

加藤:そもそも自分は何が得意なのかとか、たいしてわかっていないのかもしれなくて。得意なことを活かそうとすると、楽なことを選択しがちじゃないですか。でも、必ずしも得意なことが楽なこととは限らない。それに、ピアノを弾いてみたら、そっちのハーモニーのほうが好きだった、ということも多かったので。「加藤くんは声がいい」とか「NOT WONKはギターがデカくてかっこいい」とか、他人の印象やイメージを自分で自分に貼り付けちゃうのは危険だな、とも思っているんです。自分を定義しないでやっていくほうが、自分を殺さないで済むかなって。

アルバムの制作に関しては、Bigfish Soundsの柏井日向さんが録音とミキシングを担当していますね。

加藤:NOT WONKの『Down the Valley』を一緒に作ったのも、柏井さんからの「俺にやらせて」という提案がきっかけだったんです。次の『dimen』はイリシット・ツボイさんと主にやったんですけど、一曲(“slow burning”)は柏井さんにミックスしてもらいました。柏井さんは以前から「何かやれることがあったら言ってね」と言ってくださっていたので、その言葉にありがたく甘えさせてもらった感じですね。

サウンド面の印象や音楽的なトライは、NOT WONKとはだいぶちがっていますよね。パンクやロックからかなり離れていますし、ジャズなどの要素が入っています。

加藤:もともと、「これはNOT WONKではできないな」と感じる曲はいっぱいあったんです。でも、「これは3人でやるおもしろさがあるだろう」っていう曲にトライしていくのがNOT WONKの基本理念でもあって。それでもあぶれちゃったものは、ひとりでも活動するようになってからは「SADFRANKでやったほうがいいだろう」と判断したり。あと、メンバーが固まってからは彼らに当て書きした曲もあって、いろいろですね。NOT WONKと差をつけようという気持ちはなくて、アレンジ次第でどっちでもできると思っています。基本的には一緒ですね。

現在のUKジャズやコンテンポラリー・ジャズとの繋がりを感じる曲がありますよね。5曲目の“瓊 (nice things floating)”は石若くんのビートを編集したものだそうですが、マカヤ・マクレイヴンジェフ・パーカーの姿勢に通じるところがあります。

加藤:そうですね。僕、ドラマーがめっちゃ好きなんです。石若くんのプレイって、本人は意識していないでしょうけど、そのへんのドラマーと比べたら圧倒的に勝っちゃうじゃないですか。完全に確立されていて、ああだこうだ言う必要がない。そういうことを考えていたので、「僕がUKジャズのつもりで書いた曲を石若駿が叩いたらどうなるんだろう?」という興味がめっちゃあって。“offshore” は、そういう意図で書いた曲ですね。“瓊” は、そもそも全然ちがう拍子の曲をレコーディングしていて、途中で飽きちゃったので、ちがう曲にしようと思って作った曲です。石若くんのドラムをチョップしたり、キックに音色がついているからキックの音をキーにしたりして作っています。この2曲は、石若駿ありきで作った感じですね。

[[SplitPage]]

ボサノヴァって当時のことを考えると、めっちゃパンクじゃないですか?

先ほどドラマーが好きだとおっしゃっていましたが、どんなドラマーが好きなんですか?

加藤:2018年頃にユセフ・デイズにハマって、ゴスペル・チョップス系のドラマーをインスタとかで超見ていたんです。ジャズ・ドラマーじゃなくても「スネアがめっちゃいい感じにポケットに入ってくる」みたいな人とか、無名でもいいドラマーがいっぱいいるんですよ。それを「この感じさ〜」とか言って、NOT WONKのメンバーに聴かせて曲を作ることもしていました。

SADFRANKには、ユセフ・デイズがやっていたユセフ・カマールのフィーリングを感じました。

加藤:あ〜。ジャズをダンス・ミュージックとして捉えたときの揺らぎ、みたいな……。シャッフル(・ビート)って、そもそも揺らぎじゃないですか。それを、キックを4つにしたり硬くドラムを叩いて人間味を殺したり、そのバランスをうまいことやれる人が好きで。ユセフ・デイズも「最初からサンプリングされたドラム」みたいな感じで叩ける人ですし、そういうフィールがある人が好きですね。ハイエイタス・カイヨーテのドラマー(ペリン・モス)も好きで、ソロ作もいいですよね。

もうひとつ音楽的な面では、『gel』ではストリングスが重要な役割を果たしていますよね。

加藤:ストリングスは、けっこう必然性を感じましたね。(エルヴィス・)コステロがもともとめちゃくちゃ好きで、バート・バカラックと一緒に作ったアルバム(『Painted from Memory』)がすごく好きなんです。ファースト・アルバムから考えたら、彼って信じられないような音楽的な変遷をたどっていますよね。たとえば、ポール・ウェラーがスタイル・カウンシルをやったのもいい例だと思うんですけど。でも、日本の音楽で考えると、売れたロック・バンドのヴォーカルのやつがソロ活動をはじめたら大層なストリングス・アレンジが入っていて台無しになっている、みたいな歴史ってあるじゃないですか。ストリングスってそういう感じでしか使われてこなくて、しかもクラシックの人がJポップを大味に捉えたものが多いので、よかった試しがあんまりないなと思って。でも、コステロとバカラックのアルバムではすごくうまいことやっていて、ちゃんとかっこよくなっているよなって。それで、自分もトライしてみたくなったんです。

なるほど。

加藤:“I Warned You” は、わりと最初のほうに作っていた曲ですね。くるりの岸田さんが「NOT WONK、いいね」と言ってくれて、ライヴに招待してくださったことがあって、札幌のライヴを見に行ったあと、音博(京都音楽博覧会)にも遊びに行って、打ち上げの席で岸田さんとふたりで話す機会があったんですよ。それで「SADFRANKっていうのをはじめるんです」と話したら、「ストリングスのアレンジ、俺やるで!」と言ってくださったので、「じゃあ、お願いします!」と頼んだんです。アレンジメントをする人と作曲者が分かれているっていうのはやってみたかったことでもあったので、このアルバムはわりとストリングスありきで最初からイメージしていました。

ロック・バンドをやっていたやつが急にソロをはじめたと思ったら、バンドではやっていなかった私的なことや優しい音楽に手を出したり、ちょっと色気を出してみたり──そういうのは、いままで繰り返されてきた失敗の歴史だろって僕は感じていて。絶対にそういうことをやりたくなかった。

徳澤青弦さんのカルテットによる演奏もあって、Jポップ的なベタッとしたストリングスとはちがうスリリングで豊穣なものになっていますね。

加藤:そうですね。“Quai” は悠真くんのストリングス・アレンジで、“per se” は基本的に僕がアレンジしました。“per se” のストリングスはNABOWAの山本(啓)さんが入れてくださったんですけど、遠隔で録音していて「思いついたから入れてみたよ」と弾いてくださったのがすごくよかったから、そのまま使っているパートもあります。弦が入っているとはいえ、3曲ともアレンジした人はちがうんですよね。

一方で “最後” にはフィールド・レコーディングやオブジェクト音、ノイズが入っていて、それがかなりおもしろいです。これは、yoneyuさんが入れたものなのでしょうか?

加藤:基本的には僕が全部やっていて、エディットも僕がやっています。yoneyuは札幌のDJなんですけど、ほとんどすべてのアレンジが終わった段階でyoneyuに聴かせて、「この2ミックスに対して、yoneyuのプレイを録ってみて」と投げて、戻してもらったのを僕が再エディットしました。

非楽音を入れる発想は、どこから出てきたんですか?

加藤:“最後” は、曲自体はけっこう前からあって、弾き語りでやったりしていたんですけど、レコーディング自体は制作の終盤にやったんですね。だんだんPro Toolsで普通に録ることに飽きてきて、「せっかくみんなで集まっているのに、デモどおりに演奏するのっておもしろくねえな」と思って。それで一発録りすることにして、歌も演奏も「せーの」で録ったテイクを使ったんです。音楽を作るうえで絶対的なパワーを持っている権威的なもの──小節とかグリッドとかトニックとかキーとか、そういうものから離れたい気持ちがあったんですね。だから、自然とメロディがついてない音が入ってきたり、メロディがついているものとついていないものを並列に扱ったり、そのこと自体が自分にとってわりと大事でした。

自分が何かを受け取ったときの気持ちを再現するためには、必ずしもそれとまったく同じものを作る必要がないと思っているんです。何かを再現することと、何かを写実的に綺麗にデッサンするっていうことは、まったくちがうことだと思っているので。

では今回、ギタリストとしてはどうでしたか? プレイや音色は、ピューマ・ブルーのトーンに近いものを感じました。

加藤:ジャズについてはもう門外漢どころの話じゃないくらい何もわからないし、あまりにも「ジャズ、ジャズ」って言われるのも嫌だな、みたいな感じもありつつ。ただ、録音物としてのロック・バンドの音源があんまりおもしろく感じなくなってきている事実も、自分の中にあるんです。それは、おおよそギターのせいだなって(笑)。というのも、いいギターが録音されている音源って、ギターがはっきり聞こえるんだけど、レンジを食っていないぶん、他の楽器にパワーを割けている側面があるんですね。ビッグ・シーフの新作(『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』)なんかもそうで、アコギも入ってるけど、エレキの音色がじつはピューマ・ブルーの質感に近かったりするんです。そういう音の鳴らし方、エレキ・ギターの置き方、音のスペースの作り方を意識したので、ギターがミッド・レンジをガッツリ食っちゃって他の楽器の音の置き場がなくなる、みたいにはしたくなかったんですね。そういうサウンド・デザインのイメージが、先立ってありました。ギターの録音っておおよそいちばん最後なので、自分で作ったスポットにハマるようにギターを弾いていったっていう感じですね。

あくまでも他の楽器のほうが主役、ということですか?

加藤:う〜ん。とはいえ、最終的にギターが入ってくるよろこびって、かなりデカいんですよ(笑)。だから、重要度ではもしかしたら他の楽器のほうが単純にレヴェルの面で勝っている部分はあるんですけど、画竜点睛として最後に僕のギターを入れておしまい、みたいなところはある。だから、欠かせないパーツではありながらも、あからさまに目立っていたり、大きなレヴェルで入っていたりすることはない。でも今回、ギターは絶対に必要だったと思います。

“per se” は異色な曲で、ボサノヴァがベースになっているじゃないですか。ブラジル音楽は、加藤さんの音楽的なヴォキャブラリーとして持っていたものなんですか?

加藤:なんとなく好きで聴いている音楽がブラジルの音楽だった、みたいなことがけっこうあったんですね。ケイトラナダがガル・コスタをサンプリングしている曲(“Lite Spots”)があるじゃないですか。それで「これがガル・コスタか」と思って聴きはじめたら、かっこよくてハマっちゃったんです。最初は、そういう「どこをサンプリングできるか」みたいな感じで聴いていたかもしれません。でも、シンプルにどんどんハマっていって、ジョアン・ジルベルトやカエターノ・ヴェローゾを聴いたりして。あと、バッドバッドノットグッドのアルバム(『Talk Memory』)にアルトゥール・ヴェロカイが参加していて、そのへんを聴いたのも自然な流れでしたね。それに、ボサノヴァって当時のことを考えると、めっちゃパンクじゃないですか?

当時、既存の音楽に対する「新しい潮流(ボサノヴァ)」だったわけですからね。

加藤:あの軽快さとか優しさとか室内楽的に聞こえる感じとかって、何かに抑えつけられていたからこそのものじゃないですか。それで、小さい音しか出ないガット・ギターと小さい音のドラム、小さい声の歌にみんなが耳を傾けているっていう。そういう音楽の強さみたいなものをめっちゃ感じていて、それを自分でやってみたかったんです。

リリックについてはいかがですか? かなり抽象的に感じましたが、NOT WONKよりも生活感やパーソナルな感覚があると思いました。ラヴ・ソングも印象的で、優しさが通底しているように感じます。

加藤:日本語詞を書いたことがなかったので、どういう詞を書きたいとか、どういう歌を歌いたいとかって、最初はあんまりイメージがなかったんです。でも、“肌色” や “Quai” を作っていたとき、日本語の歌詞とメロディが一緒に出てくることがあって。「この言葉の意味は一体なんなんだろう?」って、出てきたものをあとから考えていきました。嫌な言葉や歌いたくない言葉は、自分から出てこないはずじゃないですか。だから、「なんでこの言葉をいいと思えているんだろう?」と理由を探っていって、「この言葉がいまの自分の考えや気持ちを表現するにあたっていちばん適切な言葉だと思える」という確信をもって歌ったので、個人的にはめちゃくちゃ具体的な歌詞が並んでいると思っています。それが、今回のアルバムの肝でもあるんですよね。ある人が聴いたときに抽象的に思えても、それがすべての人にとって抽象的かどうかは別の話じゃないですか。「ストレートに感じられる」とされる歌詞の意味がわからないっていうことが、むしろ僕はあったりするんです。「メッセージを額面どおりに捉えていいのか、これは?」と思うようなことがあって、言葉とその意味や内容が必ずしもイコールにはならない気がするんです。とはいえ、表現なので、僕が何を伝えたかったかという以上に、聴いた人が受け取った意味のほうが正解だと思う。ただ、僕はこの言葉がいいと思ったし、歌詞を書いたタイミングで思ったことを如実に表すためにはこの言葉が必要だったと感じますね。

当時の感情やその時々の出来事が直接反映されているのでしょうか?

加藤:そうかもしれないですね。でも、内省的なものでもないし、独り言を書いているつもりもなくて。言いたいこと、歌いたいことは、NOT WONKと変わらないかもしれないですね。

「NOT WONKもSADFRANKも元のハートが一緒」(https://twitter.com/sadbuttokay/status/1602985525174218752?s=20)とツイートしていましたよね。

加藤:それは、ありがちな話になったら嫌だなっていうのがあって。ストリングスの話にも似ていますが、ロック・バンドをやっていたやつが急にソロをはじめたと思ったら、バンドではやっていなかった私的なことや優しい音楽に手を出したり、ちょっと色気を出してみたり──そういうのは、いままで繰り返されてきた失敗の歴史だろって僕は感じていて。絶対にそういうことをやりたくなかった、っていうのが先立ってあったんです。NOT WONKでやりたいことのひとつに、自分が最初にパンクを好きになった瞬間の気持ちを再現する、みたいなのがあるんです。それは、過去の音楽を再現するとか、「70sの感じを出したいからギターをこういうふうに歪ませる」とか、そういう話じゃなくて。自分が何かを受け取ったときの気持ちを再現するためには、必ずしもそれとまったく同じものを作る必要がないと思っているんです。何かを再現することと何かを写実的に綺麗にデッサンするっていうことは、まったくちがうことだと思っているので。そういう意味では、今回のSADFRANKのアルバムもNOT WONKの作品と同じなんですね。最初にパンクのライヴを見に行ったときの感覚とか、メガ・シティ・フォーの歌詞の意味を調べていたら「これはまちがいなく俺のために歌っている」って確信したときの気持ちとか──そういうことを再現しようと思ったときに僕がいま使いたかったのが、ストリングスだったり日本語詞だったり歌のない曲だったりピアノだったりしたっていう。だから、NOT WONKのファースト・アルバムで表現していることや、NOT WONKの普段のライヴでギターを爆音で鳴らしていることと、ピアノを優しく弾いて歌うことは、本来の意味では同じなんです。まったく同じことをやっていると思いますね。

いままではミックスで「ギターより下にしてください」なんて言っていたんですけど、今回は「歌っているやつの顔をデカくしてください」というオーダーをしたんです。相手の胸ぐらをつかんでいる感じが出ましたね。

なるほど。では、日本語詞を書くにあたって、何か参考にしたものはありますか?

加藤:それこそele-kingの取材で野田(努)さんにインタヴューしていただいたときに(『ele-king vol.24』)、「加藤くんって好きな日本語の歌詞あるの?」と聞かれたんですけど、答えられなくて(笑)。もちろん、日本語で歌われている曲で好きな曲はいっぱいあるんですよ。当時の所属レーベルだった〈KiliKiliVilla〉の与田(太郎)さんにも「(bloodthirsty)butchersとか札幌のバンドのKIWIROLLとか、なんかあるでしょ」って言われたんですけど、聞かれたときにパッと出てこなかった理由も自分にはそれなりにあるはずだなと思って。なので、butchersやKIWIROLL、あとGEZAN踊って(ばかりの国)もカネコアヤノも中島みゆきも歌詞は大好きだけど、参考にするというより、とにかく彼らと似ないようにしようって気にしていましたね。

日本語詞で歌うことで、宛先が変わった印象はありますか?

加藤:鋭くなった感じはしますね。「お前に言ってます」って感じがある(笑)。NOT WONKの歌詞はもうちょっとレンジが広いような気がするけど、日本語詞は「これで伝わらなかったら嘘だな」という感じがするので。目の前にどかっと座って歌っているような感じがあるんです。

SADFRANKの歌詞は、言葉が生々しいですよね。すっと切り出されものが、そのまま差し出されている感じで。

加藤:自分は意外にそういう人間なんだなって思いましたね。大事なことから話していく、みたいな。せっかちなのかもしれない(笑)。

その意味では、SADFRANKはリスナーにより近くて、加藤さんというひとりの人間の姿が強く表れている感じがします。

加藤:このアルバム、ヴォーカルがデカいじゃないですか。デカくしたいなって思ったんですよ。いままではミックスで「ギターより下にしてください」なんて言っていたんですけど、今回は「歌っているやつの顔をデカくしてください」というオーダーをしたんです。相手の胸ぐらをつかんでいる感じが出ましたね。

ヴォーカリゼーションの面でもストレートに朗々と歌っているシーンが多くて、それが歌の大きさと近さに寄与していると思いました。

加藤:そもそも、これまでと全然ちがうメロディが出てきたんです。それは、たぶん言葉に引っ張られたんだろうなって。いままでNOT WONKでは絶対にできなかったメロディが急に歌えたりとか、ナシにしてきたことがアリになったりとか、そういう裏返しが起こったので、自分は意外に奥深いんだなって思いましたね(笑)。

今後もSADFRANKとしての活動は継続していくんですか?

加藤:まだやりたいことが結構ありますね。NOT WONKでも同じくらいやりたいことがありますし。いままで12年間、苫小牧で、ライヴハウスで偶然出会ったやつらとしか音楽をやったことがなかったので、今回、風呂敷を一気に広げて、これだけすごいミュージシャンたちと音楽を一緒に作れたのはすごくよかったんですよ、やっぱり。でも、フジとアキムがSADFRANKに参加してくれた凄腕プレイヤーたちに比べて劣っているとか、そんなことはまったくなくて。最初はSADFRANKでの制作のフィードバックをNOT WONKに持ち帰れるんじゃないかなって考えていたんですけど、レコーディングを進めていったらフジとアキムのめちゃくちゃいいところを改めて再確認して、「あれはあのふたりにしかできないな」って思った瞬間がいっぱいあったんです。だから、フィードバックっていうよりは、単純に……。

別の表現?

加藤:うん。別の表現として生きているんだってわかりましたね。あと、NOT WONKに対する考え方や捉え方がより鮮明になったというか。3人で10年以上ぼんやりやってきてたけど、NOT WONKにはNOT WONKのよさがかなりあるっぽいぞと(笑)。「もうちょっとやれるはずだ」みたいなことが、もっともっと見えてきたって感じますね。

Matt Kivel × Satomimagae - ele-king

 人と人がつながり、点が線になって、新たな関係が生まれていく──カリフォルニアはサンタモニカ出身、現在は(おそらく)テキサス州オースティンを拠点とするギタリスト、2013年のファースト『Double Exposure』がピッチフォークで高く評価されたシンガー・ソングライターのマット・キヴェル。温かなアコースティック・ギター・サウンドで魅せる彼(以前はプリンストンというバンドでも活躍)は、東京のアンビエント・フォーク・シンガー、サトミマガエが『Hanazono』(2021)を出したとき、彼女にコンタクトをとったのだそうだ。どうやらそこから交流がスタートしたらしく……というわけで、USの注目のSSWによる初来日公演と、サトミマガエのパフォーマンスを一度に楽しめる夜がやってくる。5月19日(金)@七針。すでに予約が埋まりつつあるとのことなので、お早めに。

Matt Kivel初来日公演@七針〜共演Satomimagae
カリフォルニア州サンタモニカ出身のギタリスト、シンガー・ソングライターで、かつては双子の兄とバンド、Princetonで活動し、ソロになってからはOESB、Woodsist、Driftless Recordings、Cascineなど様々なレーベルから作品をリリースしてきた才人、Matt Kivelの初来日公演が決定致しました。

共演はSatomimagae。彼女が2021年にRVNG Intl.から『Hanazono』をリリースした際にMattが連絡したことをきっかけに交流が始まったとのことです。

Poster artwork: Glen Baldridge | Poster design: Sterling Bartlett

Matt Kivel ~ Satomimagae

日程:2023年5月19日(金)
会場:七針 (map: https://www.ftftftf.com/#map)
時間:OPEN 19:00 / START 19:30
料金:予約 ¥2,300 / 当日 ¥2,800(ご予約が定員に達した場合は当日券の販売はございません)
※チケットのご予約は以下のご予約フォームからお願い致します。

出演:
Matt Kivel
Satomimagae

予約フォーム:https://www.artuniongroup.co.jp/plancha/top/news/matt-kivel-20230519/


Matt Kivel:
カリフォルニア州サンタモニカ出身のギタリスト、シンガー・ソングライター。双子の兄Jesse Kivelとバンド、Princeton(自分たちが育った通りの名前から)を2005年に結成しLAを拠点に2000年代に活動、並行してガレージ・ポップ・バンドGap Dreamのギタリストも務めていた。そして2011年頃、他のバンド活動を休止し、ソロ活動に専念するようになる。最初の作品は限定生産のカセット・テープだったが、2013年にOlde English Spelling Beeレーベルからリリースされたフル・アルバム『Double Exposure』(日本ではRallye Labelから国内盤化)で本格的に活動を開始した。このアルバムのミックスはBonnie “Prince” BillyことWill Oldhamの弟で、Palace BrothersのメンバーであるPaul Oldhamが手がけているが、翌年には彼と共にレコーディングをし、WoodsのJeremy EarlとJarvis Taveniere等が参加したアルバム『Days of Being Wild』をWoodsistからリリースし、2016年には、美しく生々しい『Janus』と、Bonnie “Prince” BillyやFleet FoxesのRobin Pecknoldとのデュエットを収録した長尺の『Fires on the Plain』という2枚の作品をJoel FordとPatrick McDermottが運営するDriftless Recordingsから発表した。そして彼は西海岸からテキサス州オースティン、さらにはニューヨークと頻繁に移動し、オースティンにて5枚目のアルバム『Last Night In America』制作し、2019年にCascineからリリースした。その後はPyl Recordsから2020年にインストゥルメンタルのアンビエント〜ニューエイジ的作品『that day, on the beach』、2022年には再びBonnie “Prince” Billy等が参加した『bend reality ~ like a wave』を発表し、現在も精力的に活動をしている。


Satomimagae:
東京を中心に活動しているアーティスト。ギター、声、ノイズで繊細な曲を紡ぎ、有機的と機械的、個人的と環境的、暖かさと冷たさの間を行き来する変化に富んだフォークを創造している。
彼女の音楽的ルーツは中学生の時にギターを始めたことから始まる。父親がアメリカからテープやCDに入れて持ち帰った古いデルタ・ブルースの影響もあり、10代の頃にはソング・ライティングの実験をするようになる。その後PCを導入したことで、より多くの要素を加えた曲を作ることができるようになり、彼女の孤独な作業はアンサンブルへの愛に後押しされるようにななった。大学で分子生物学を専攻していた時にバンドでベースを弾いていたことから、様々な音の中にいることへの情熱と生き物や自然への情熱が交錯し、それが彼女の音の世界を育んでいったのである。
この間、アンビエント音楽、電子音楽、テクノなどの実験的でヴォーカルのない音楽に没頭するようになり、聴き方の幅が広がっていった。サンプラーを手に入れ、日本のクラブやカフェでのソロライブを始めた。苗字と名字を融合させた「サトミマガエ」は、彼女の独特のフォークトロニックな考察を伝える公式キャラクターとなった。
初期のアンビエント・フォーク・シンセサイザーを集めたファースト・アルバム『awa』(2012年)は、ローファイ/DIYのセルフ・レコーディング技術を駆使した作品である。2枚目のアルバム『Koko』(2014年)では、彼女は控えめでライヴ感のあるパフォーマンスと、フォークの伝統に馴染んだ温かく牧歌的なエネルギーの冷却を追求した。続いて、『Kemri』(2017)では、より豊かな和音とリズムで伝えられる人間的な感覚に触発されて、この効果をバランスよく調整している。彼女の2作品をリリースしたレーベル、White Paddy Mountainとそのディレクター畠山地平の影響を受けて、スタジオ環境の中でよりコンセプチュアルな方向に進むことができたが、彼女の作曲やレコーディングのプロセスは、自分で作ったものであることに変わりはない。
そしてNYの最先鋭レーベル、RVNG Intl.へ移籍してのリリースとなる『Hanazono』では、URAWA Hidekiのエレクトリック・ギターとバード・コールが加わったことで、子供のような魅力を持つSatomiの微細なヴィジョンが融合している。Satomiの姉であり、アルバムやウェブサイトのすべての作品を担ってきたNatsumiの直感的なビジュアルが、温かみのあるものとクールなもの、手作りと機械で作られたものが混ざり合うというSatomiの夢を、彼女の別世界への窓のように機能する木版画で見事に表現している。
2021年には最新アルバム『Hanazono』に由来する繊細な周辺の花びらの配列である“コロイド”を構築した。自身の楽曲から4曲を選曲しリアレンジした『Colloid』を引き続きRVNG Intl.から発表した。2023年には、2012年にセルフリリースしていたデビュー・アルバム『Awa』のリマスター・拡張版『Awa (Expanded)』をRVNG Intl.よりリリースした。

Todd Terje - ele-king

 少しずつ暖かくなっていきますね。春の予定は決まっていますか? そろそろファースト・アルバム『It's Album Time』から10年が経ちそうですが、きたるゴールデンウィーク、ノルウェイからニューディスコの王者トッド・テリエがやってきます。5月3日から6日にかけ岡山、東京、大阪の3都市を巡回するツアー。今回はDJとしてのプレイです。詳細は下記をご確認ください。

Todd Terje Japan Tour 2023

北欧NUディスコシーンの牽引者、Todd Terje (トッド・テリエ)の来日ツアーが決定!
代表作「Inspector Norse」を始め、「Eurodans」「Ragysh」「Snooze 4 Love」「Strandbar」といったヒット作で知られ、米ローリングストーン誌の「世界のトップDJ25人」のひとりに選ばれた。
アルバム『It's Album Time』収録曲「Alfonso Muskedunder」がテレビドラマシリーズ『Better Call Saul』シーズン3・エピソード3で使用されている。
2020年にはイラストレーター、Bendik Kaltenbornによる短編映画『LIKER STILEN』のサウンドトラックを担当した。

Todd Terje Japan Tour 2023

5.3(水/祝) 岡山@YEBISU YA PRO

DJ: Todd Terje (Olsen Records / from Norway) and more

Open 22:00
Advance 4000yen
早割チケット 3/14(火)10:00~ 3/24(金)23:59まで
一般チケット 3/25(土)10:00~
Door 5000yen
早割 3000yen
※ドリンク代別途要

Info: Yebisu Ya Pro http://yebisuyapro.jp
岡山市北区幸町7-6ビブレA館 B1F
TEL 086-222-1015

5.4(木/祝) 東京@ZEROTOKYO
- B4 Z HALL -


Todd Terje (Olsen Records / from Norway)
SPECIAL SECRET GUEST
CYK


REALROCKDESIGN

Open 21:00
Close 4:30
Advance 4500yen
Door 6000yen

Info: ZEROTOKYO https://zerotokyo.jp
東京都新宿区歌舞伎町1-29-1 東急歌舞伎町タワー B1-B4

5.6(土) 大阪@CLUB JOULE

=2F=
DJ:
Todd Terje (Olsen Records / from Norway)
AKIHIRO (NIAGARA)
SSSSSHIN

PA: Kabamix
Lighting: Gekko Abstract

=4F=
DJ:
SISI (Rainbow Disco Club / Timothy Really)
GUCHI (WALLS AND PALS)
misty
Ashikaga (C2C)
MIYUU

FOOD: KitchenMUMU

Open 22:00
Advance 3300yen
Door 4000yen

Info: CLUB JOULE https://club-joule.com
大阪市中央区西心斎橋2-11-7 南炭屋町ビル2F
TEL 06-6214-1223

Total Info: AHB Production http://ahbproduction.com

<アーティスト詳細>
TODD TERJE (Olsen Records / from Norway)

ノルウェー、オスロ在住のプロデューサー/DJ/ソングライターであるTODD TERJE(トッド・テリエ)。
数々の傑作リエディットでその名を知られ、本人によるリエディットやリミックス作品で構成されたベスト盤的コンピレーション&ミックスCD 『Remaster Of The Universe』がリリースされている。リエディットだけでなくオリジナル作品でもその才を発揮し、「Eurodans」「Ragysh」「Snooze 4 Love」はクラブアンセムとなった。『It’s The Arps』EP収録曲、「Inspector Norse」は世界的ヒット作となり、彼の代表曲である。
2014年、ファーストフルアルバム『It's Album Time』をリリース。ソロライブやフルバンドTHE OLSENSを率いてライブ・アクトとしても活動してきた。
2016年、TODD TERJE & THE OLSENS名義でのカヴァーEP『The Big Cover-Up』をリリース。
2020年、今回のツアーイメージを描いたイラストレーター、Bendik Kaltenbornによる短編映画『LIKER STILEN』のサウンドトラックを担当した。

● Todd Terje アーティストリンク
Web http://toddterje.com
Instagram https://www.instagram.com/toddterje
Facebook https://www.facebook.com/ToddTerje
Youtube https://www.youtube.com/@ToddTerje

Pardans - ele-king

 時代と場所、タイミング、シーンを構成するいくつかの要素。コペンハーゲン・シーンには遅く、サウス・ロンドンのインディ・シーンには早すぎた。デンマーク、コペンハーゲンのバンド、パーダンスはある意味で時代の隙間に入り込んでしまったバンドなのかもしれない。
 アイスエイジ、ロウアーを中心とした暗く激しい熱を帯びたコペンハーゲンのパンク/ポスト・パンクのシーン、工場を改装したリハーサル・スペースであり同時にヴェニューでもあったメイヘムに集まりそこで小さなコミュニティが作られ流れが生まれた。メイヘムにはまたジャズや 〈Posh Isolation〉のカタログに連なるようなエレクトロニクスやエクスペリメンタル・ミュージシャンたちもいて、それがまたここに集うバンドに影響を与えていった。そんななかで学校を卒業したばかりの、少し年下のパーダンスはシーンが移り変わろうかというようなその時期に遅れて参加してそこでアイスエイジ、マーチング・チャーチ直系のエネルギーに溢れるギター・サウンドとジャズを混ぜたような音楽を作ることを目指したのだ。

 バンドを組んで3ヶ月で録音されたという2016年の1stアルバム『Heaven, Treason, Women』はアイスエイジの暴力的なまでの初動と、暴れ回るそれを制御しようとするロデオのようなフリー・ジャズの要素を合わせ持つ狂気の熱を放ったアルバムで、2023年のいま聴くそれはまるでサウス・ロンドンのインディ・シーンの前夜のような音にも聴こえるような瞬間がある。2018年の2ndアルバム『Spit and Image』はそれよりももっと方向を定めたエネルギーを放っていて、マーチング・チャーチをラウンジ・リザーズに近づけたかのような雰囲気を持つ。吹き荒れるサックス、ピアノにヴィオラ、ブラック・カントリー、ニュー・ロードの登場以降のUKの新人バンドたちが即座に頭に思い浮かべ採用するようなこの編成はこのときすでに形作られていたのだ。

 だがそれはあまりに早すぎた。コペンハーゲンの次のシーンに流れが移り、サックスの時代が来るまでにすでに存在していた彼らの音楽は時代の狭間に吸い込まれ隠されてしまったのかもしれない。だからきっと少しやり方を変えて再発見される必要があった。この3rdアルバム『Peak Happiness』で聴かれるパーダンスの音楽はそれまでのアルバムよりもずっとサウス・ロンドンのポスト・パンク・バンドに近い。ジャズのアプローチを少し弱め、ポスト・パンクの要素を前に出し、そこに自ら破滅の道に向かうかのようなロマンティシズムを混ぜ込む。それは似ているけれど異質なもので、退廃的な色気と狂気がその音楽のなかで熟成され醸し出されていく(それはどこか優等生的で、ともすれば頭でっかちと捉えられかねなかったサウス・ロンドンのバンドたちにはなかった魅力だ)。

 夜の出口の見えない暗闇を手探りで進んでいくかのような “Big Summer” のダウナーなビート、サックスが歌いロード・ムービーのようなムードを作る “Warp Speed” はまるでパーダンス版の “Track X” のようで、その半自伝的な曲の中で “Track X” の作曲者たるブラック・カントリー、ニュー・ロードとロンドンの100Club で共演したというツアーの記憶が語られる。薄暗い、嘘がはびこる街で爆弾が爆発する、彼らは曲のなかでそう表現するが、しかしここでの爆発は火の手があがるようなそれとは少し趣が違う。長回しで淡々と描写するようなサウンドのなかに宿る静かな炎。1stアルバムから7年、2ndアルバムから5年が経ち、もう衝動で突き抜けるような感覚はない。それは押し殺された感情のなかにくすぶり続けた青白い情熱みたいなもので、ひんやりとした冷たいナイフを突きつけられているみたいなそんな感覚に陥る。
「ポスト・パンクのシーンをいくつかリサーチしてみたけど/なんの印象も残らなかった」。夜の色が薄くなり朝へと向かう時間の独白みたいにして紡がれる “The Scene” にしても、シーンから外れた疎外感のその裏に俺たちならもっとうまくやれるという暗く静かな意志を感じてしまう(群衆のなかでピッチフォーク・フェスのステージを眺めるというラインは哀しく、そしてとても美しく響く)。

 コペンハーゲン・シーンの最後に現れそこにろくに参加することのできなかった遅れてきたバンド、彼らはその後に起こったサウス・ロンドンのインディ・シーンのバンドたちと比べると年長で積み重ねた時間も過ごした場所も違がっていて、だから共感するところはあってもそれらをとても自分たちのものだと思うことはできなかったのだろう。だがそれゆえに、この音楽のなかにはどこにも属せなかったアウトサイダーの退廃的な美学が息づいている。野望に燃えていた少年時代の燃えさかるような炎ではない静かに燃やされる情熱、タバコとアルコールの匂いのするオープニング・トラック “Cringe City” から、アイスエイジに憧れたかっての自分たちを取り戻そうとしたかのような最終曲 “Mr. Coffee” に至るまで、ここにはくすぶり続けた情熱と暗く輝くロマンが詰まっている。

RP Boo - ele-king

 2年前、貫禄のアルバム『Established!』を送り出したシカゴのフットワークの偉人、RP・ブーが新作をドロップする。題して『Legacy Volume 2』。どうやら2013年発表のデビュー・アルバム『Legacy』の続編という位置づけのようで、2002年から2007年にかけて録音された13のトラックにより構成されているとのこと。映画や日常生活、機械などからインスパイアされた曲が収録されているそうだ。発売は5月12日。

artist: RP Boo
title: Legacy Volume 2
label: Planet Mu
release: 12th May 2023

tracklist:
01. Eraser
02. Heavy Heat
03. Total Darkness
04. Flo-Control
05. Under'D-Stat
06. Say Grace
07. Knock Out
08. Azzoutof Control
09. B.O.T.O.
10. Pop Machine
11. Porno
12. Off Da Hook
13. Last Night

Luminessence - ele-king

 多くのファンを持つジャズ・レーベル〈ECM〉が新たに手掛けるヴァイナル・リイシュー・シリーズ、「Luminessence」。その第一弾としてトランペット奏者ケニー・ホイーラーの『Gnu High』(1976)と、ブラジルのパーカッショニスト、ナナ・ヴァスコンセロスの『Saudades』(1980)が4月28日にリリースされる。
 発売に先がけ、4月21日金曜日、両作のリスニング・イヴェントが催されることになった。案内人は原雅明、会場はアナログ・サウンドに特化した南青山のレストラン&バー BAROOM とのこと。極上のシステムで1音1音を堪能しましょう。

ECMレコーズが、スタートさせる新しいオーディオファイル・ヴァイナル・リイシュー・シリーズLuminessenceを記念し、発売前にリスニング・イヴェントがロンドン、ベルリン、東京の3都市で開催されます。

東京は、南青山のレストラン&ミュージックバーBAROOMにて、4月21日(金)20時より開催。世界同時リリースとなるケニー・ホイーラーの『Gnu High』とナナ・ヴァスコンセロスの『Saudades』の2枚を、アナログ・サウンドに特化したBAROOMの極上のシステムで再生します。ナヴィゲーターは原 雅明が務めます。

日時:2023年4月21日(金曜日) 20:00〜22:00

Navigator: 原 雅明
会場:song & supper BAROOM(バルーム)
東京都港区南青山6丁目10−12 フェイス南青山 1F
https://baroom.tokyo/
Music charge:free

主催:BAROOM
企画:ECM
協賛:ユニバーサル ミュージック(同)
協力:dublab.jp

■Luminessenceシリーズ

ECMのディープなカタログの宝石に光を当てるエレガントで高品質なヴァイナル・シリーズ。このシリーズの特徴は、唯一無二の刺激的な音楽、想像力豊かな演奏、繊細なプロダクション。ECMの音の世界の広さと多様性を強調する録音で、様々なフォーマットのLPがリリースされる予定だ。

クリエイティヴな音楽制作の概念を変えたアルバムや、今やクラシックと呼ばれるようになったアルバムを取り上げており、また長い間廃盤になっていたアルバムや、ヴァイナル初登場となるアルバムもあるとのことだ。ほとんどの作品はオリジナルのアナログ・マスターテープからカットされ、すべてのLuminessence盤はECMの名声を高めた印象的なオリジナル・アートワークを基に追加した新しいパッケージ・デザインで蘇る。
https://youtu.be/rCW6Vx9okho

■作品情報

4月28日発売
ケニー・ホイーラー 『Gnu High』
https://Kenny-Wheeler.lnk.to/Gnu_HighPR


ナナ・ヴァンコンセロス 『Saudades』
https://Nana-Vasconcelos.lnk.to/SaudadesPR

『Gnu High』はトランぺッター、ケニー・ホイーラーのECMデビュー・アルバムで、ピアノのキース・ジャレット、ベースのデイヴ・ホランド、ドラムのジャック・ディジョネットとの見事なカルテットを率いての演奏。このアルバムは、ホイーラーを叙情的な即興演奏家/ジャズ作曲家として世界に知らしめ、その後に影響力を与え、高く評価された作品の基礎を築いた重要な1枚だ。一方、『Saudades』は、ブラジルの打楽器奏者ナナ・ヴァスコンセロスが、オーケストラの中でベリンバウを聴くという夢をかなえた作品で、エグベルト・ジスモンチが弦楽器の編曲を担当し、共同作曲家、サポート・ソリストとして参加したことで実現したもの。ジスモンチとヴァスコンセロスの創造的なパートナーシップは、多くの録音で強調されているが、このように音楽表現が織り成す魔法のようなオーケストラの録音は二度とないだろう。

■情報ページ
https://dublab.jp/show/ecm-luminessence/

YUKSTA-ILL - ele-king

 すでに3枚のフル・アルバムを送り出している三重は鈴鹿のラッパー、YUKSTA-ILL。これまで名古屋を拠点とするレーベル〈RCSLUM〉で培った経験をもとに、先日自身のレーベル〈WAVELENGTH PLANT〉を設立することになった彼だが、早速同レーベルより彼自身のニュー・アルバム『MONKEY OFF MY BACK』のリリースがアナウンスされた。
 セカンド『NEO TOKAI ON THE LINE』のときのインタヴューで「アタマからケツまで構成があって起承転結がある作品を作りたかった」との発言を残している YUKSTA-ILL は、単曲でのリリースがスタンダードになった昨今、1曲単位よりもフル・アルバムに強い思いを抱くラッパーである。レーベル設立の告知と同時に公開された新曲 “FIVE COUNT (WAVELENGTH PLANT ver.)” がまたべらぼうにかっこいい一発だっただけに、ひさびさのフルレングスにも期待大だ。新作『MONKEY OFF MY BACK』は4月5日(水)にリリース。フィジカル盤には盟友 DJ 2SHAN によるミックスCDが付属するとのこと。確実にゲットしておきたい。

三重鈴鹿を代表する東海の雄YUKSTA-ILLが4年ぶり4作目のフルアルバムリリースへ
自身の新レーベル「WAVELENGTH PLANT」からTEASER動画&トラックリストを公開

東海地方から全国へ発信を続ける名古屋の名門レーベル「RCSLUM RECORDINGS」で15年間培った経験・知識を地元三重に還元すべく、今月1日に自らのレーベル「WAVELENGTH PLANT」の設立を発表したばかりのYUKSTA-ILL。
同日より配信されている彼のローカルエリアを題材にしたシングル「FIVE COUNT」から間髪入れず、4年ぶり4作目となるフルアルバム「MONKEY OFF MY BACK」を4/5(水)にリリースする。
全13曲からなる今作にはBUPPON、Campanella、WELL-DONE、ALCI、GINMENが客演参加、トラックのプロデュースをMASS-HOLE、OWLBEATS、Kojoe、ISAZ、UCbeatsが担当。
ブレないスタンスをしっかりと維持しつつ、これまでリリースしてきたフルアルバムとはまたひと味違った世界観、アーティストとしての新境地を感じさせる内容の仕上がりとなっている。
尚、配信と同タイミングでリリースされるフィジカル盤には、YUKSTA-ILL自らホストを務めた地元の盟友DJ 2SHANによる白煙に包まれた工業地帯をイメージしたMIXCD「BLUE COLOR STATE OF MIND」が購入特典として付属される。
レーベルより公開されたTeaser動画、及びアルバム情報は以下の通り。

MONKEY OFF MY BACK Album Teaser
https://youtu.be/dpeE46hW7bU

【アルバム情報】
YUKSTA-ILL 4th FULL ALBUM
「MONKEY OFF MY BACK」

Label: WAVELENGTH PLANT
Release: 2023.4.5
Price: 3,000YEN with TAX
(フィジカル盤購入特典付)

{トラックリスト}
01. MONKEY OFF MY BACK
02. MOTOR YUK
03. FOREGONE CONCLUSION
04. GRIND IT OUT
05. JUST A THOUGHT
06. SPIT EAZY
07. OCEAN VIEW INTERLUDE
08. DOUGH RULES EVERYTHING
09. EXPERIMENTAL LABORATORY
10. TIME-LAG
11. BLOOD, SWEAT & TEARS
12. TBA
13. LINGERING MEMORY

{参加アーティスト}
ALCI
BUPPON
Campanella
GINMEN
WELL-DONE

{参加プロデューサー}
ISAZ
Kojoe
MASS-HOLE
OWLBEATS
UCbeats

【作品紹介】
ラッパーはフルアルバムを出してなんぼだ。
USの伝説的ヒップホップマガジン「THE SOURCE」のマイクレートシステムはフルアルバムでないと評価対象にすらならなかった。
派手なシングルや、コンパクトに凝縮されたミニアルバム、客演曲での印象的なバースも勿論良い。
だが、そのラッパーの力量・器量を計る指針となるのはやはりフルアルバムなのである。

三重鈴鹿から東海エリアをREPするYUKSTA-ILLは、まさにそのフルアルバムにかける思いを強く持つ“THE RAPPER”の一人だ。
自らの疑問が残る思想への解答を模索した1st「QUESTIONABLE THOUGHT」、
NEO TOKAIの軌道に乗った己を篩に掛けた2nd「NEO TOKAI ON THE LINE」、
世間を見渡しながらも自身のブレない精神力を全面に押し出した3rd「DEFY」、
これらはすべて明確なコンセプトの下、起承転結を意識して作り込まれたフルサイズのヒップホップアルバムである。

そんな彼が約4年ぶりにフルアルバムを引っ提げて戻ってきた。
「MONKEY OFF MY BACK」と名付けられた4枚目のフルとなる今作は、
立ち上げたばかりの自身のレーベル「WAVELENGTH PLANT」から世に送り出される。

「疫病の影響で時間は有り余る程にあった。その結果、楽曲は大量生産された。
只、アルバムを意識せず制作を続けていたので、まとまりを見いだすのに苦労した」、とは本人の弁。
しかし度重なる挫折と試行錯誤の末、やがてそれは本人の望むまとまった作品へと形を成していった。
その期間中に経験した、成長した、変化した、様々な出来事が楽曲に色濃く反映されたのは言うまでもない。

日々の葛藤、金銭問題、目を背けたくなるネガティビティをアートへ昇華する。
ローカルに身を置き、バスケを嗜み、嫁の待つ家へと帰り、リリックを書く。何気ない日常の描写すらドラマチックに魅せる。
適材適所に散りばめられた客演陣、そして夢見心地なサウンドプロダクションが、何かを始めるにはうってつけのSEASONに拍車をかける。
長い沈黙を破り2020年から2022年にかけフルアルバム4枚リリースの記録的なランを見せてくれたレジェンドNASの様に。
無二の境地に到達したYUKSTA-ILLが今、リスナーの鼓膜に向けてSPITを再開する。

【YUKSTA-ILL PROFILE】
三重県鈴鹿市在住、その地を代表するRAPPER。
バスケットボールカルチャー、SHAQでRAPを知り、何よりALLEN IVERSONからHIP HOPを教わる。
「CLUBで目にしたRAPPERのダサいライヴに耐えきれずマイクジャックをした」
「活動初期のグループB-ZIKで制作したデモを鈴鹿タワレコ内で勝手に配布しまくっていた」
という衝動を忘れることなく、スキルの研鑽と表現の追求、セルフプロモーションを日々重ねる。
2000年代後半はUMB名古屋予選で2度の優勝を果たし、長い沈黙と熟考を経てMCバトルへの参戦を2022年末より解禁。
地元で「AMAZON JUNGLE PARADISE」と称したオープンMICパーティーを平日に開催。
”RACOON CITY”と自称する地元の仲間達と結成したTYRANTの巻き起こしたHARD CORE HIP HOP MOVEMENTはNEO TOKAIという地域を作り出した。
そのトップに君臨するRC SLUMのオリジナルメンバーであり最重要なMCとして知られている。
RC SLUMの社長ATOSONEと共に2009年に「ADDICTIONARY」と題されたMIX CDをリリース。
立て続けに2011年にはP-VINE、WDsoundsとRC SLUMがコンビを組み1stアルバム「QUESTIONABLE THOUGHT」をリリース。その思考と行動を未来まで広げていく。
2013年にはGRADIS NICE、16FLIP、ONE-LAW、BUSHMIND、KID FRESINO、PUNPEEと東京を代表するトラックメーカーとの対決盤EP「TOKYO ILL METHOD」をリリース。YUKSTA-ILLのRAPの確かさを見せつける。
NEO TOKAIの暴風が吹き荒れたSLUM RCによるモンスターポッセアルバム「WHO WANNA RAP」「WHO WANNA RAP 2」を経て、2017年には2ndアルバム「NEO TOKAI ON THE LINE」、
2019年にはダメ押しの3rdアルバム「DEFY」をP-VINE、RC SLUMよりリリース。さらなる高みへと昇っていく。
OWLBEATS、MASS-HOLEとそれぞれ全国ツアーを敢行し、世界を知り、自身をアップデートしていく。
RAPへの絶対的な自信があるからこそ出来るトラック選び、時の経過と共にそこへ美学と遊び心が織り込まれていく。
ISSUGI, 仙人掌, Mr.PUG, YAHIKO, MASS-HOLEと82年のFINESTコレクティブ”1982S”のメンバーとしてシングル「82S/SOUNDTRACK」を2020年にリリース。
世界を覆ったコロナ禍の中「BANNED FROM FLAG EP」「BANNED FROM FLAG EP2」を2020年にリリース。ラッパーとは常に希望の光を灯す存在である。
2021年には自他共に認めるバスケットフリークであるRAMZAと故KOBE BRYANTに捧げる「TORCH / BLACK MAMBA REMIX」を7インチでリリースし、NBA情報誌「ダンクシュート」にも紹介される。
さらに同タッグはシングル「FAR EAST HOOP DREAM」をリリース。B.LEAGUEへの想いを放り込んだ、HIP HOPとバスケットボールの歴史に残るであろう1曲となっている。

”tha BOSS(THA BLUE HERB), DJ RYOW, KOJOE, SOCKS, 仙人掌, ISSUGI,
Campanella, MASS-HOLE, 呂布カルマ, NERO IMAI, BASE, K.lee, MULBE, DNC,
BUSHMIND, DJ MOTORA, MARCO, MIKUMARI, HVSTKINGS, BUPPON, Olive Oil,
RITTO, TONOSAPIENS, UCbeats, OWLBEATS, DJ SEIJI, DJ CO-MA, FACECARZ,
LIFESTYLE, HIRAGEN, ALCI, ハラクダリ, ILL-TEE, BOOTY'N'FREEZ, HI-DEF, J.COLUMBUS,
BACKDROPS, DJ SHARK, TOSHI蝮, GINMEN, MEXMAN, DJ BEERT&Jazadocument, and more..”

HIP HOPだけでなくHARD CORE BANDの作品にも参加。キラーバースの数々を叩きつけている。

2023年、自らのプロダクションWAVELENGTH PLANTを設立。鈴鹿のビートメーカーUCbeatsのプロデュースでリリースしたシングル「FIVE COUNT」に続き、約4年ぶりとなる4枚目のフルアルバム「MONKEY OFF MY BACK」をリリースする。
その目の先にあるものを捉え、言葉を巧みに扱い、次から次へと打ち立てていく。YUKSTA-ILLはまだまだ成長し続ける。

HP : https://wavelengthplant.com
Twitter : https://twitter.com/YUKSTA_ILL
Instagram : https://www.instagram.com/yuksta_ill/
YouTube : https://www.youtube.com/@wavelengthplant

U.S. Girls - ele-king

 ミーガン・レミーはふざけている。いや繰り返し聴いていると一周まわって大真面目なようにも思えるし、描かれるモチーフはつねにシリアスな社会風刺を含んでいるが、何よりも音自体のあっけらかんとしたユーモア感覚が遊戯性を強調しているのだ。近年の彼女のスタイルはジャンルのクリシェをあえて大げさに引用しミックスするもので、20世紀のアメリカの大衆音楽への郷愁と皮肉を同時に立ち上げつつ、それ以上に反射的に笑える。いまや〈4AD〉とサインして以降のポップなイメージが強いため初期のU.S.ガールズのハチャメチャなローファイ音楽は忘れられがちだが、当時よく言われていたのは「意味がわからん」ということだった。で、現在レミーが探求している思いきりキャッチーなポップ音楽にも「意味がわからん」ところがあり、そこがたまらなく痛快だ。

 8作目となる『Bless This Mess』はディスコやエレクトロ・ファンクの色がやけに強く、ダンスフロアを志向したと思われるアルバムだ。奇しくもパンデミック初期(2020年3月)にリリースされることでセッションの喜びを喚起するようだった前作『Heavy Light』に対し、ダンスの現場が復活していることとタイミング的にリンクしていると言える。イメージとして80年代の音をを引っ張り出していることから感覚的にはビビオの最近作『BIB10』のような無邪気さがあるが、U.S.ガールズの本作の場合レミーがパンデミック中に双子を妊娠・出産した経験が反映されているので、そうした人生の慌ただしい変化が大げさなダンス・サウンドにどうやら表現されているようだ。
 引き続き夫のマックス・ターンブルと共同プロデュースで、ホーリー・ゴースト!のアレックス・フランケル、ジェリー・フィッシュのロジャー・マニング・ジュニア、コブラ・スターシップのライランド・ブラッキントン、マーカー・スターリング、ベイシア・ブラット、そしてベックと多彩なコラボレーターが集まっているものの、全体を貫くファンキーなトーンを統率しているのはあくまでレミーそのひとだろう。ゆったりしたテンポのシンセ・ファンク “Only Deadalus” で幕を開けると、続く “Just Space for Light” ではゴージャスなコーラスを引き連れて眩いステージ・ライトを一身に浴びる。前作がデヴィッド・ボウイ的なら本作はプリンス的で、グリッターでセクシーなファンクやR&Bを参照して妖しく弾けてみせる。子どもを産んだばかりの母親がスパンコールをつけたドレスを着てフロアで踊り出したら世間体を気にする人びとはぎょっとするだろうが、もちろんレミーはそんな窮屈な規範をものともせず、ミラーボールのもとで輝いてみせるのだ。やたらキレのいいパーカッションが鳴らされるエレクトロ・ハウス “So Typically Now” はロボット・ダンスが目に浮かぶ直角的なシンセ・リフだけで可笑しいのに、ソウルフルなコーラスが現れると大仰な盛り上がりとともに腹を抱えずにはいられない。

 ただ、その “So Typically Now” がCOVID-19以降の住宅問題をモチーフにしているように、あくまで生活に根差した政治性が含まれているのがU.S.ガールズの神髄でもある。資本主義に対する異議申し立てはそこここに発見できるし、また、フェミニストして母になったレミーはあらためて「母性」に押しつけられた負担や性役割について想いを巡らせている。80年代R&Bのパロディのように妙にキラキラしたバラッド “Bless This Mess” はタイトル・トラックということもあって示唆的だ。アートワークで妊娠した腹を囲む正方形はインスタグラムの投稿のようで、添えられた言葉は「この混乱を祝福せよ」。すべてがSNSで消費される風潮に対する皮肉と、こんな時代に親になることの不安や混乱が入っているのだ。
 それでも、性規範が根強く残っている現代を風刺する “Tux (Your Body Fills Me, Boo)” がタキシードの視点から不満を語るという突飛な設定になっているように、レミーの社会批評はユーモアをけっして忘れない。しかも激ファンキーなディスコ・ナンバーで、だ。レミーは回転しながら手を叩き、「あんたの身体がわたしを満たす、ブー!」と歌う。やっぱり、ふざけているとしか思えない。けれどもその悪戯心は、メチャクチャな時代を生き抜くための武器なのだ。
 スマートフォンの振動を思わせるサウンドで始まる “Pump” は、そこに太いベースラインが入ってくればたちまち愉快なダンス・チューンとなる。慌ただしい生活も殺伐とした社会も、遊び心さえ忘れなければダンスと笑いの種になる。「何も間違ってない/すべてうまくいく/これはただの人生なんだから(“Futures Bet”)」──そして、けっして捨てられないオプティミズム。U.S.ガールズのひょうきんな音楽はいま、冷笑に硬直しそうなわたしたちをまずは踊らせ笑顔にするところから始めようとしている。

Main Source - ele-king

 VINYL GOES AROUNDから新たなアイテムの登場だ。今回は90年代ヒップホップを代表する金字塔、当時のニューヨークの熱気を伝えるメイン・ソースのファースト『Breaking Atoms』(1991年)がボックスセットとなって蘇ることになった。本編の2LPに加え、アルバムの顔とも言える “Looking At the Front Door” やあのナズの世界初登場曲 “Live At The Barbeque” などを切った、4枚の7インチが付属する(すべてピクチャー・ヴァイナル仕様)。ナンバリング入りの限定商品とのことなので急ぎたい。

MAIN SOURCEの伝説のファースト・アルバム『Breaking Atoms』がついにBOXセットになって発売!

90’sヒップホップ最高峰の名盤として今でも語り継がれているMAIN SOURCEのファースト・アルバム『Breaking Atoms』の2LPと4枚の7インチを収めたBOXセットがVINYL GOES AROUNDから発売されます。『Breaking Atoms』は言わずと知れた “Looking At The Front Door” や “Just Hangin’ Out” 等のヒップホップ・クラシックを生んだ名盤中の名盤!
またここに収録の名曲を組み合わせた7インチもそれぞれ4枚カット! これら全てがピクチャー・ヴァイナル仕様。特製のBOXにまとめて販売します。
今回も超限定(ナンバリング入り)での販売となりますのでお早めにお買い求めください。

Includes...
・Breaking Atoms 2LP
・Live At The Barbeque / Large Professor 7"
・Looking At The Front Door / Snake Eyes 7"
・Just A Friendly Game Of Baseball / Vamos A Rapiar 7"
・Fakin' The Funk / He Got So Much Soul (He Don't Need No Music) 7"

VGA-5011
MAIN SOURCE
BREAKING ATOMS - PICTURE DISC BOX

¥18,000
(With Tax ¥19,800)

*Free shipping within Japan for purchases over 10,000 yen.
※1万円以上のお買い上げで日本国内は送料が無料になります。

*Exclusively until April.3 2023.
※期間限定受注生産(~2023年4月3日まで)

*The products will be shipped in late April 2023.
※商品の発送は 2023年4月下旬ごろを予定しています。

*Please note that these products are a limited editions and will end of sales as it runs out.
※限定品につき無くなり次第終了となりますのでご了承ください。

https://vga.p-vine.jp/exclusive/vga-5011/

interview with Sleaford Mods - ele-king


Sleaford Mods
UK GRIM

Rough Trade / ビート
※ウィットに富んだ歌詞対訳付き

RapElectronicPost Punk

beatink.com

 いまのぼくがスリーフォード・モッズを愛し聴いているのは、UKの労働者階級に特別な共感があるわけでもなければ、今日のUKの政治的惨状を理解しようと思っているからでもない。そんなこと知ったこっちゃないし──というか、このおよそ10年ほどの我が国たるや、UKのことを案じるほどの余裕をかましている場合ではないのだ。ここ日本から見たら英国なんて腐っても英国であってはるか天上。かつてザ・クラッシュが歌ったセリフを借用して返してやろう。あんたら英国が悲惨だとしたら俺ら日本はどうなるのかと。
 ぼくのスリーフォード・モッズへの愛は、パンクへの愛だ。パンクの魅力のひとつはウィットに富んでいることにあるが、スリーフォード・モッズにはウィットがある。ウィットというのは “賢くて面白い” ことで(つまりバカにウィットはない)、セックス・ピストルズはウィットの塊だった。これにぴったり意味の合う日本語はおそらくないが、忌野清志郎にはウィットがあった。もちろん優れたブラック・ミュージックには優れたウィットの使い手が数多く存在し(その代表をいまひとり挙げるならジョージ・クリントンで、ぼくはサン・ラーもウィットの名人だと思っている)、一流のウィット使いはメタファーやダブル・ミーニングを巧みに多用する。スリーフォード・モッズのジェイソン・ウィリアムソンもメタファーとダブル・ミーニングの達人だ。『UK GRIM』=「悲惨なUK」もしくは「UKグリム(グリム童話、狼=資本主義に襲われる赤ずきんちゃん=庶民)」、あるいはまた、 “GRIM” に “E” を足して「グライム=汚れ」。
 スペシャル・インタレストもそうだが、パンク・ロックはそして、最悪な社会状況をネタにしながら最高にクールな音楽がこの世界にはあるという夢のある話をいまも保持している。深刻な現実があってタフな人生がある、が、それに打ち勝つことができるかもしれないという素晴らしい可能性、自分が自分自身であることを強調し(だからこの音楽は早くから女性や性的マイノリティに受けた)、この社会のなかで生きることを励ます音楽、それがパンクでありスリーフォード・モッズの本質である。
 というのも、彼らはマイブラやブラーやレディオヘッドよりも若いのに、彼らだけが “中年” と言われ続けている(ビートインクの過去の宣伝文句を参照されたし)。しかしながらこれは、ジェイソンとアンドリューがそれだけ苦労してきたことを意味している。つまり彼らは、人びとから無視されている報われない人たちの気持ちをより理解する能力を持っている可能性が高いということの証左でもあるのだ。また、スリーフォード・モッズの快進撃からは、こうしたロックやパンクやラップやエレクトロが、昔のように、若者だけの特権ではなくなったということもあらためて認識させられてしまう。彼らがブレイクしたのは40を過ぎてからだが、スリーフォード・モッズのサウンドと言葉は、笑えるがシリアスで、誰もそれをやっていなかったという意味において“新しかった” し、クリエイティヴだった(クリエイティヴであることを放棄していなかった)のである。これは人生論としても意味があるだろう。
 だから彼らの最新アルバムとなる『UK GRIM』は、こういう怒った音楽が21世紀にも生まれているのだという、年老いた元パンクにありがちな郷愁めいたところで評価する作品ではない。だいたい、アルバム冒頭を飾る表題曲の寒々しいベースが刻まれ、ビートが発動し、ジェイソンのラップが絡みつくと、もう居ても立ってもいられずにジャンプするしかないのだから。チキショー、なんて格好いいんだ。もっともアルバムは3曲目にとんでもない殺し屋を用意している。挙動不審で逮捕されたくなかったらドライ・クリーニングのフローレンスをフィーチャーした曲、 “Force 10 From Navarone” を間違っても渋谷を歩きながら聴かないことだ。これはザ・フォールの“トータリー・ワイアード” やPiLの “アルバトロス” のような、冷たいからこそ炎が燃えるタイプの曲で、希望を持てずに政治不信に陥っている民衆の醒めた感性と確実にリンクしている。アルバムはほかにも良い曲が目白押しで、 コニー・プランク&DAFを彷彿させる“Right Wing Beast(右翼の野獣) ” や トライバルなリズムを使った“Tory Kong(保守党コング) ” といった賢く笑える題名をもった曲もあれば、メロディアスなピアノを挟み込んだニュー・オーダー風の “Apart from You”、シンセ・ポップとオールドスクール・ヒップホップの中間にあるような“Rhythms of Class” も面白い。とにかくアンドリュー・ファーンは、最小の音数で、しかしヴァラエティに富んだサウンド作りに腐心し、それはかなりの確率で成功している。

 今回の取材にはサウンド担当、アンドリュー・ファーン(ステージ上で、静かに立ちながらボタンを押している男である)にも参加してもらった。彼の登場はエレキングでは初めてなので、エディットは最小限にとどめて掲載することした。彼らの誠実な人柄が見えると思うし、10年前と変わらない彼らのアティチュードもたしかめることができるはずだ。最初のほうではファッションについても話している。ジェイソンが服を好きな話は有名だが、アンドリューのTシャツ趣味にも前々から興味があったのだ。
 インタヴューを最後まで読んでいただければわかるように、国としては英国のはるか下にいる日本だが、同じように政治に絶望している人びとにとっての打開策においては、意外と共通し共有しうるヴィジョンがあるようで、そのこともまた、国も言語も違えどスリーフォード・モッズを好きになれる理由なのだろう。UKはお前の声なんか聞いちゃいないと、アルバムの冒頭でジェイソンは繰り返しているが、そこは日本もまったく同じ。たとえそうでも、スリーフォード・モッズとはこういうことなのだ──窮地に追い込まれても思い切りジタバタしよう、諦めずに言うことだけは言っておこう、で、楽しもうと、それはおそらく健康に良い。そう思いながら、今日もジタバタしよう。

だからアンドリュー、お前ははじめから、最初からモノにしてたんだと思う。俺たちの初期の写真から最近のものまで眺めてみても、お前は一貫してぴったりハマってた。お前の服装センスは生き残った、みたいな(笑)。

今年はちょうど、『Austerity Dogs』を出してから10年になるんですよね。その後スリーフォード・モッズ(以下、SM)は評価され、ファンを増やし、あなたがたの生活も音楽へのアプローチもだいぶ変わったと思いますが、新作『UK GRIM』を聴いて、SMのパッションも怒りもまったく変わっていないことに感銘を受けました。自分たちではそのあたり、どう思いますか? 

ジェイソン:あー……とにかく、自分たちのやってることが相当に気に入ってる、ってのがあるんじゃない? 俺たちはなんであれクズなことは絶対にやるつもりがないし……それだと、俺たちの場合はとにかくどうしたって機能しないんだ。俺たちが興味を掻き立てられる何かである必要があるし、かつ、自分たちもその上にしっかり足を据えて立てるものじゃなくちゃならない。ってのも、そうじゃなかったら、不愉快なものになるだろうし、俺たち自身にとってもあんまり良くない何かに変わってしまうわけでさ。でも、俺にとって運が良かったことに、「良い作品を作りたい」って点に関して、自分と同じくらい目先が利いてて鋭く、かつパッションのある――俺は自分はそうだと思ってるんだけど――そういう人間に出会うことができたんだよね。だから、そんな俺たちふたりが合わされば自分は心配する必要はない、ってのかな……要するに、アンドリューは標準以下な質のものには一切我慢しないし、うん、とにかく彼は妥協しないんだ。というわけで、それがあるから、すごくうまくやれてるっていう。

アンドリュー:(うなずきつつ)もうちょっと「誰のお口にも合う」ようなアルバムを作っていたとしたら、きっと俺たちは自分たち自身にがっかりしちゃうんじゃない?

ジェイソン:ああ、だと思う。でも、そうは言いつつ――アンドリュー、お前も以前に言ってたけど、本当に良い作品が生まれるのには、アルバムごとにある程度の運の良さも伴うものだ、って点もあるんじゃない? またも素晴らしい歌を書けて俺たちはすごくラッキーだな、と思うし。実際、これらはグレイトな楽曲群だし、俺たちは今回のアルバムを本当に誇りに思ってる。それはすべての曲に言えることであって。

アンドリュー:うん。

ジェイソン:でもまあ……どうなんだろうな、自分でもわからない。とにかくハード・ワークと固い決意の産物じゃないかと俺は思うけどな……。

アンドリュー:うん、それだね。そうは言っても、はじめのうちは幸運にも恵まれたよな、じゃない?

ジェイソン:たしかに。

アンドリュー:俺たちのはじまりの時点ではツキがものを言った。ただ、なんというか、俺たちのいる音楽の世界――っていうか、これはどのメディア(媒体)形態でもそうなんだけど――いったんドアが開いてなかにさえ入れれば、他の連中よりももっと多くの機会に恵まれるようになる、そういう世界で俺たちが生きているのは事実なわけで。

ジェイソン:うんうん。

アンドリュー:悲しい話だけど、現実はそうなんだよね。

ジェイソン:まあ、そういう仕組みだからな。

アンドリュー:ああ。で、誰であれあのドアを抜けることができた奴は、ドアを潜った際の自分にあったもの/それまでやっていたことを維持する必要があると思うけど、残念ながら多くの人間がそれを棄てているよね。で、音楽産業に吸収されてしまう、というか。

ジェイソン:その通り!

アンドリュー:それをやったって、良いことはなんにもないよ。だから、それでクソみたいなアルバムを作ることにして、でもやっぱり失敗したから、デビュー時にもともとやっていたことに立ち返りました、なんてバンドもなかにはいるわけで。自分を曲げずに頑張り続けなくちゃ(笑)!

ジェイソン:だな、自分を通さないと。

不平だらけ。ほんとブーたれてる。で、ほんと、いまってそれくらい悲惨なことが余りに多過ぎだしさ……しかも、この状態はまだこれからも続くと俺は思う。

アンドリューさんは主にビート/音楽面を担当していますが、SMにとってのこの10年で変わったこと変わらなかったこととは何だと思いますか? あなた自身の機材やギアはどう変化しました?

アンドリュー:ああ、毎回、少しずつ変わってるんだ。思うに、過去10年くらいの間に、音楽作りのためのテクノロジーは以前よりずっと安価になったし、ちょっとしたギアもあれこれも比較的買いやすくなって。だから、何か新しいガジェットを購入したら、それが自分にとって音楽をもっと作るインスピレーションになる、という。それはやっぱり、使えるお金がいくらかあるところの利点だよね、対して以前の自分は全然お金がなかったから。昔はジェイルブレイク済みのiPad(※jailbreak=脱獄。基本iOSを改変し使用できるアプリや機能を拡張すること)を持ってて――

ジェイソン:ハッハッハッハッ!

アンドリュー:(笑)おかげで、無料のキーボードだのシンセだののソフトウェアを全部使えてさ。それって良いよね。何か新しいものを作り出すために、別に多くは必要ないってことだから。
ジェイソン:ああ、それは必要ない。

せっかくの機会ですし、アンドリューさんに訊きたいことがほかにいくつかあるんですが、まずはあなたのTシャツの趣味について質問させてください。

アンドリュー:(苦笑)オーケイ!

ジェイソン:(爆笑)

坂本:(笑)。たとえば今日は「HARDCORE」とロゴの入ったTシャツでかっこいいですが、これまでピカチューであるとか――

アンドリュー:(笑)うん、あのピカチューTはまだ持ってる!

坂本:シンプソンズ、はたまたディズニーのパロディTであるとか、いつもユニークなTシャツを着ていますが、どんなこだわりがあるのでしょうか? 

アンドリュー:(笑)まあ、単にヴァイブってことだよ! とにかくパッと見て、「これはイエス」、「これはノー」、そのどっちかに分かれるしかないっていう(苦笑)。だから、別にギャグとして笑えなくたっていいんだし……要はファッションと同じ話というのかな、「これ、自分は着るだろうか、それとも?」ってこと。うん、基本的にはそれだけ。

坂本:なるほど。

アンドリュー:まあ、たまには背景にちょっとしたストーリーが含まれることもあるけどね……。あ、たとえば、いま話に出たディズニーのパロディT(※「Walt Disney」のお城のロゴを「Want Drugs?」に書き換えたもの)、あれは色んなTシャツを作ってるイタリア人男性の製作したもので、彼は俺にああいうおふざけTをたくさん送ってくれるんだよ。でも、それにしたって、俺がいつもある種の類いのTシャツを着てるからなんだろうしね、うん(笑)。

ジェイソンさんは服装にこだわりがあると思いますが、アンドリューさんのファッション・センスに関してどのような意見をお持ちでしょうか? たまに「こいつ、いったい何着てるんだ?」と思ったりしませんか?

アンドリュー:ブハッハッハッハッ!

ジェイソン:ああ、たぶん、若い頃の俺だったらそう思ってただろうな。若いとほら、まだもうちょっとナイーヴで、頭が悪いもんだし――

アンドリュー:うん。

ジェイソン:――それでこの、「バンドってものはこういうルックスであるべき」云々の概念でガチガチなわけで。

アンドリュー:だよな、うんうん。

ジェイソン:でも、思うに、俺たちも歳を食うにつれて――だから、誰でもある程度の歳になると、「人間は人間なんだし」ってことになるんじゃない? 歳を重ねて何かが加わるっていうか、要するにアンドリューはアンドリュー自身でいるだけなんだし、彼が彼以外の他の誰かになろうとしたって意味はない。同じことは俺にも当てはまるし、自分以外の誰かになろうとは思わないな……そうは言いつつ、俺自身もアンドリューの服装センスからちょっといただいてきたんだけどね。確実に、以前よりも少しカジュアルな方向に向かってる。近頃の俺は、もっとショーツを穿くようになったし。

坂本:たしかに。

アンドリュー:でもさ、ショーツ着用って、それ自体がデカいじゃん? 

ジェイソン:ああ。

アンドリュー:ハイ・ファッションの息の根を止めたのが、実質、スポーツウェアだったわけで……。

ジェイソン:ああ、基本的にそうだよな。だからアンドリュー、お前ははじめから、最初からモノにしてたんだと思う。俺たちの初期の写真から最近のものまで眺めてみても、お前は一貫してぴったりハマってた。お前の服装センスは生き残った、みたいな(笑).。

アンドリュー:(笑)うん。

ジェイソン:お前は見事にやってのけた。

アンドリュー:アッハッハッ!

坂本:(笑)

ジェイソン:いやだから、俺だって、写真のなかでいくらでも自前のデザイナー・ブランド服を着て気取ってポーズを決められるけど、ほかの連中もみんなその手のルックスだと、「それって違うだろ」と思うし。っていうか、ちょっとアホっぽい見た目だよな。

アンドリュー:ああ。

ジェイソン:そうは言ったものの――昔だったらたぶん買う金のなかったような洋服を買うのは、やっぱり躊躇するだろ、お前だって?

アンドリュー:うん、そこだよなー。

ジェイソン:多くの面で、お前はいまやいっぱしの、ファッションの今後の雲行きを予想していく予報官なんだしさ。

アンドリュー:ああ。でもそれをやるのは、時間が経つにつれて、ややこしくなっていくよな。

ジェイソン:うん、(苦笑)予想するのは確実にむずかしくなっていく。そこは、お前もちゃんと考えないと。だけどさ、心配しなくちゃいけないのはかっこいいスニーカーを履いてるかどうか、その点だけに尽きるような時点にまで達したんだから、それってかなりナイスじゃない? ハッハッハッ!

アンドリュー:たしかに、その通り(苦笑)。

アンドリューさんは、Extnddntwrk(extended network)名義でずっとソロ活動もしています。アンビエントやエクスペリメンタル、最新作ではジャングルもやっていますが、こちらのほうのコンセプトもせっかくの機会なので教えてください。

アンドリュー:いや、これといったコンセプトはなくて、完全に自己満足でやってる。思うに00年代あたりって、エレクトロニカのシーンもまだ揺籃期だったんだよな。なかでもとくに、98年〜01年の時期。俺も軽く関わったあの当時のシーンには、誰でもやれる家内工業めいたところが少しあったし、日本もきっとそういう状況だったんだろうと思う。

坂本:ええ。

アンドリュー:ところが、その、いわばポスト・エイフェックス/ポスト・オウテカ的なヴァイブを備えたシーンもいったん終わりを迎えたわけで……もちろんそのシーンはいまも存在してるけど、あの当時の方がはるかに人気が高かった。だからなんだ、さっき言った家内工業的なノリで、俺がアルバムを1枚出したのも。でもまあ、とにかくそういうことだし――かなり「ポスト・エヴリシング」な感じ、ってことなんじゃない? 自分の見方はそれだな。ポスト・アンビエントに、ポスト・あれこれに……で、俺からすれば本当に、それらすべてをひとつにまとめたのがエレクトロニカだ、そう思うから。あれはダンス・ミュージック界の一部を形成していた、ダンス以外の色んな音楽、ブライアン・イーノ等々を聴いていた人びとのことだからさ。とにかく、俺はほかとはちょっと違うことをやろうとしているだけなんだ、(ハウス/テクノの)四つ打ちビートから離れていこうとしながら。

ジェイソン:うんうん。

アンドリュー:その意味ではドラムン・ベースの果たした役割も大きかったよ。ドラムン・ベースは素晴らしい。さっきジャングルを指摘されたけど、俺のパートナーがクリスマス・プレゼントにロニ・サイズのヴァイナル盤を贈ってくれて。

坂本:それは良いですね!

アンドリュー:うん、ただし、アナログ再発されていないから中古盤だったんだ。要するに言いたいことは、あの頃はああいう実に素晴らしいアルバムがコマーシャル面でも成立可能だったんだな、と。すごくクールな作品だけど、それにも関わらず誰もがあれを聴くことになったし、ああいう作品が「ドア」を通り抜けて人びとに達したわけ。で、当時あの手のエレクトロニック・ミュージックを作っていた連中の夢がそれ、何か実に驚異的な作品をやってのけ、それを多くの人びとに届けることだったんだと思う。ほかにもたくさんいるよね、ポーティスヘッドやマッシヴ・アタックといったバンドが、多くの耳に音楽を届けてみせたんだから。

ドライ・クリーニングのヴォーカル、フローレンス・ショウが登場する “Force 10 From Navarone” は最高にクールでしたが、このコラボはどういう経緯から実現したのでしょうか?

ジェイソン:ドライ・クリーニングは2021年の『Spare Ribs』向け英ツアーでサポートを担当してくれてね。俺は彼らの出したデビュー・アルバム(『New Long Leg』)にかなり魅かれたし……俺たちふたりとも、「彼らは本当に興味深いな」と思ったわけ。で、アンドリューが“Force 10 From Navarone”の音楽パートを送ってきたとき、俺もすぐに「おっ、これは良いな」とピンときたし、曲のアイディアをまとめていくうちにフローレンスに参加してもらったら良さそうだなと思いついて。そこで彼女に興味はあるかな?と打診してみたところ、ラッキーなことに彼女もやる気だった、という。あとはご存知の通り。

アンドリュー:ああ。

ジェイソン:うん、あれは俺にとっても、アルバムのなかで抜きん出たトラックのひとつだね、間違いない。

彼女の無表情な歌い方はとてもユニークですが、SMはドライ・クリーニングのどんなところが好きなのでしょうか?

ジェイソン:やっぱり、フローレンスのヴォーカルが俺は大好きだな。でも、バンドの側も素晴らしい。

アンドリュー:だよね。

ジェイソン:ほとんどもう、相当ミニマルなものに近いというか……要するに余計なあれこれでゴタゴタしてないっていう。

アンドリュー:たしかに。

ジェイソン:あのバンドの連中は全員、かなりミニマルなプレイヤーだよな。

アンドリュー:それに、多くの面でかなりオリジナルなバンドでもあるし。

ジェイソン:うんうん。

アンドリュー:いやだから、音楽スタイル云々で言えば色んな影響を受けているだろうけど、こと「現在のシーンで何が起きているか」って点から考えれば、彼らはほんと、突出した存在っていうか。

ジェイソン:ああ、同感。

アンドリュー:フローレンスはもちろんだけど、それだけじゃなく、音楽そのものもね。

ジェイソン:たしかに。だから、彼らはすべてを兼ね備えてるバンド、それは間違いない。

[[SplitPage]]

もうちょっと「誰のお口にも合う」ようなアルバムを作っていたとしたら、きっと俺たちは自分たち自身にがっかりしちゃうんじゃない?


Sleaford Mods
UK GRIM

Rough Trade / ビート
※ウィットに富んだ歌詞対訳付き

RapElectronicPost Punk

beatink.com

『UK GRIM』は、前作『Spare Ribs』に較べて「怒った」アルバムだ、という印象なのですが――

ジェイソン:ああ、うんうん。

今作におけるジェイソンさんの怒りは、イギリスに住んでいないぼくたち日本人にとっても共有できることが多いです。

アンドリュー:グレイト!

で、あなたは基本的にイギリスのことを書いていますが、しかしSMはドイツなどイギリス国外にもファンがいます。日本にだって熱狂的なファンがいます。なぜ言葉が大きな位置を占めるSMの音楽が、イギリス国外/非英語圏でも受けるのか考えたことがありますか?

ジェイソン:あー……どうなんだろ、俺にもどうしてかわからないけど、結局は「音楽」ってことじゃない? 俺たちの音楽には違うタイプのスタイルが色々と混ざってるし、もしかしたらそれらが聴き手にも少し聴き馴染みのあるものに感じられる、とか? さっきアンドリューも話していたように、エレクトロニカも多く残響してる音楽だし、アンビエントやサウンド・スケープ的なものもあり、なんでもありだしね。ああ、それにパンクも混じってる。

アンドリュー:とは言っても、それって「だからじゃないか」と推量するしか俺たちにはできないことだよね。

ジェイソン:うん、その通りだ。

アンドリュー:それに、(非英語圏でも)英語を話す人はたくさんいるんだし。

ジェイソン:たしかに。

アンドリュー:かつては大英帝国があったわけで、それで俺たちイギリス人は、人々に――

ジェイソン:――みんなに英語を話すよう強制した、と。

アンドリュー:そうそう(笑)。

ジェイソン:ハッハッハッハッ!

前作はわりと歌っていましたが、今回はラップがほとんどです。それというのも、怒りが前面にでているアルバムだから、というのもあると思うのですが、いかがでしょうか? 

ジェイソン:うん。まあ、正直、ふたつの要素が組み合わさってる。『Spare Ribs』を書いてた頃、俺は背中を痛めていたせいで鎮痛薬をたくさん服用してたし、それにロックダウン期でもあった。だから、どうしたって普段より少し大人しくなるってもんだし、ほとんどもう、一種の発育不全みたいな状態になったというか。で、そのふたつの要素が合わさったことで、あのアルバム(『Spare Ribs』)収録曲の多くはかなり……とは言っても、アンドリューの作った音楽部そのものは、部分的には『UK GRIM』と同じくらいアップテンポなものだったとはいえ、ヴォーカル面で言えば、俺はいつもより少し退いて力を緩めたっていうのかな、いやほんと、あの頃はかなり(薬の副作用/COVID他の)ショックで打ちひしがれていたと思うし……。

アンドリュー:いつもより少しこう、メランコリックな時期だった、っていうか。

ジェイソン:イエス、その通り。ほんと、そうだったよな、じゃない?

アンドリュー:内省的になった。

ジェイソン:そうそう、あれは自分の内側に目を向けた時期だったし、思うに――それゆえに、「あの時期」の俺たちにしか書けなかったであろう、そういうアルバムになったんじゃない?

アンドリュー:うんうん。

ジェイソン:だからあの時期にふさわしい内容だったと思う。でも『UK GRIM』、これは「ポスト・パンデミック」なアルバムだし――うん、とにかく、これらの楽曲を書いていた頃の俺はものすごく怒ってたっていう(苦笑)。

アンドリュー:アッハッハッハッハッ!

坂本:(笑)。でも、「ジェイソンはいつも怒ってる」って印象があるんですよね。過去に、SMは「UKでもっとも怒れるバンド」という形容を捧げられたこともありますし。

アンドリュー:(苦笑)。
ジェイソン:(爆笑)。

なのでお訊きしたいんです。ジェイソンは、もちろん私人として/プライヴェートでは幸せな方だと思いますが――

ジェイソン:ああ、その通り。

アンドリュー:うんうん。

こうやって、ステージや音楽表現において常に情熱的で、ド迫力で、怒りを持続されるのは、すごく疲れるし、たいへんなことだと思います。ジェイソンさんは、怒り続けるのに疲れたりはしないのですか? 

ジェイソン:いや、それはない。ノー。というのも、俺はその在り方は「正しい」在り方だと思うから。フィーリングってことだし、だから疲れはしない。まあたまに、毎晩立て続けにギグをやるのに、ちょっと消耗させられることはあるけどさ。

アンドリュー:ああ、ツアー自体は疲労することもある。

ジェイソン:とはいえ――

アンドリュー:いやだから、それはある意味、俺たちがイギリス人だってことなんじゃないの(苦笑)?

ジェイソン:(笑)だな! たしかに。俺たち、いっつも不満たらたらな連中だし……。

坂本:(笑)

アンドリュー:「ここんとこずっと、ブーブー文句ばっか言ってるな、俺」みたいな(笑)。

坂本:メソメソ泣き言と文句ばかり垂れている、と。

ジェイソン:(笑)その通り! 不平だらけ。ほんとブーたれてる。

アンドリュー:ハッハッハッ!

ジェイソン:(苦笑)で、ほんと、いまってそれくらい悲惨なことが余りに多過ぎだしさ……(真顔に戻って)しかも、この状態はまだこれからも続くと俺は思う。

アンドリュー:うん。

ジェイソン:このまま続いていくだろうな。でも、ある程度までは、俺たちも以前の状態に戻りつつある。だから……このアルバム(『UK GRIM』)がいつもよりやや怒りの度合いが強いのはたぶん、俺たちは去年、ギグ/ツアー生活に一気に引き戻されたから、というのもあるかもしれないよ? ものすごく慌ただしいスケジュールをこなしたし、このアルバムのなかの怒りやフラストレーションの多くは、もしかしたら、多忙なツアーで消耗したことから来たエネルギーでもあったのかも? まあ、俺にはわからないけど……。

坂本:なるほど。いや、とかく日本人は、文化/慣習として怒りを忘れがちな「水に流そう」な民族なので。

ジェイソン:ああ、そうだろうね。

坂本:一種の東洋哲学でしょうし、そんな我々からすると、あなたみたいに怒りの火を絶やさず燃やし続けるのは疲れないのかな、と思うわけです。我々も、あなたから学んだ方がいいのかも……?

ジェイソン:(爆笑)ブハッハッハッハッ!

坂本:いや、「水に流そう」も良いことだと思うんですが、そうやって忘れてしまうと、同じ過ちを繰り返すことにもなりますし。

アンドリュー:うん。

ジェイソン:でもさ、そうやって水に流すほかないんじゃない? 昔、アンドリューがよく言ってたように、「俺たちが(歌のなかで言っていることを)ストリートで実際に行動に移したら、きっと逮捕されるだろう」ってこと。

アンドリュー:その通り。

ジェイソン:だから、ノーマルな日常生活の場面では、他の人びとと同じように落ち着いていることは大事だと俺は思っていて。というのも、俺は暴力はなんの解答にもならないと思うし――独善的になるだとか、言葉の暴力で罵るだとか、そういうのはとにかく答えじゃないだろう、そう思うから。だけど、「レコードのなかで」であれば、現実よりももうちょっとファンタジーを働かせることが許されるわけで。

アンドリュー:その通り。

坂本:作品のなかでの表現、ということですしね。

ジェイソン:うん、表現ってこと。だから俺としても、歌詞の面でああやって色いろと実験するのはかなり好きだし、それをやるのは全然OKだと思う。で、それって……俺たちがやってるのって、そういうことじゃないかな? 「これ」といったルールは、別にないんだし。

アンドリュー:ああ。要は、セラピーってことだよ。

ジェイソン:うん! たしかにそうだ。

アンドリュー:だから、あれをやるのはお前にとっては一種のセラピーだし、と同時におそらく、それを聴くリスナーにとってのセラピーにもなっている、と。

ジェイソン:ごもっとも、その通り。

アンドリュー:胸のなかにたまってる思いを吐き出してスッキリする、という。

ジェイソン:だね。

アンドリュー:それに、いまはほんと、そういう音楽って多くないし。

ジェイソン:ない、ない。

前進していくための唯一の道は、小さな空間を、ちょっとした余裕を自分に与えることだと思う。自分自身に、自分の家族に、自分の周囲のコミュニティに、息をつけるちょっとした余裕/小空間をもたらすこと。ここを生きていくには、それしかないと思う。

ジェイソンさんが政治的なことを歌詞に込めるとき、リスナーにどんな期待を抱くのでしょうか? リスナーにもそのことを気づいて欲しいから? 考えて欲しいからとか?

ジェイソン:ふむ(考えている)。

坂本:人によっては「ミュージシャンは政治的なコンテンツを扱う必要はない。こちらをエンターテインしてくれればいい」という考え方の持ち主もいますし。

アンドリュー:いや、それは本当だよ。別に政治について歌う「必要」はないんだしさ。

坂本:はい。でもあなたたちの場合、政治を取り上げずにいられないんじゃないですか?

アンドリュー:(苦笑)。

ジェイソン:それは避けられないよね。だからまあ、こちらとしては人びとが楽しんでくれればいいな、と願うしかないわけで。そうした内容が聴き手のなかに議論等の火花を起こすか否か、そこは俺はあまり気にしちゃいない、というか……いやもちろん、俺たちの歌を聴いて、人びとがより広い意味での社会構造に対して疑問を抱き始めてくれたとしたら、嬉しいことだよ! というのも、それをやってる人間の数は充分多くないと思うし。ただ、それと同時に思うのは――俺たちとしては、とにかく人びとが自分たちの音楽を気に入ってくれればいいな、と。というのも、これをやって俺たちは生計を立ててるんだし。

アンドリュー:うん。

ジェイソン:だから、別の言い方をすれば――俺たちはこの仕事を心からエンジョイしながらやっているし、聴き手の皆さんもお楽しみいただけたら幸いです、そういうことじゃないかと。

イギリスの労働者階級/文化のポジティヴな面、あなたが好きな面について話してください。

アンドリュー:……うーん、それは答えるのがタフな質問だな。

ジェイソン:むずかしい質問だ。

アンドリュー:……(笑)皆無!

坂本:いいとこなし、ですか? そんなことはないでしょう(笑)。

アンドリュー:ハッハッハッハッハッ!

ジェイソン:あんま多くないな。俺は、洋服は間違いなく良いと思うけど。

アンドリュー:うん。いや、だから……(軽くため息をつく)話しにくいことだよね、ってのも、イギリスの労働者階級ってかなり独特だから。

ジェイソン:ああ、ユニークだ。

アンドリュー:で、英国人であるがゆえに、それを(客観的に)語るのは自分たちにはあまり楽なことじゃないんだと思う。というのも、自分たち自身のことなわけで。

ジェイソン:うん、うん。

アンドリュー:俺は、ヨーロッパに行くたび、その違いにもっと気づかされる。たとえば、ヨーロッパ各国ではヴァイブがどれだけ違うか等々。それで、イギリスはかなりユニークなんだな、と思ったり。

坂本:なるほどね。

アンドリュー:でも、イギリス国内にいると「それが当たり前」になっちゃうわけで。

ジェイソン:それに、いまの俺たちは、厳密な意味での「労働者階級の環境」っていう概念とはコネクトしてないんじゃないか、みたいに思う。

坂本:ああ、なるほど。

ジェイソン:それくらい、俺たちはとにかく多くの意味で、自分たちの小さな世界のなかに存在している、と。でも……そうは言っても、俺はやっぱりいまも、ワーキング・クラスの服装/ユニフォームは好きだよ。それと、労働者階級の人びとが中流階級の人からどれだけかけ離れているか、両者の間の隔たりがいまだに実に大きいか、というところも。

アンドリュー:うん。

ジェイソン:で、労働者階級の人たちをリスペクトの念と共に扱うって点には、本当に意識的でなくちゃならないんだ。ってのも、多くの場合、人びとは労働者階級を見下していると思うから。彼らの使う言葉が違う、装い方が違う、やってる仕事の職種が違う、所有品が違う、たったそれだけの理由でね。だけど、だからって、労働者階級を動物扱いしていいってことにはならないだろ? それくらい明確な階級間の隔たりが存在してるってことだし、でも労働者階級の面々だって、中流階級人と同じように、その「構造」の範疇内で生きているんだよ。だから実は(本質的には)違いはないし、とにかくコンテンツに差があるだけ。その提示の仕方が違う、という。

アンドリュー:なるほど。

ジェイソン:だけど、見た目が違うからって、彼らはイコール動物だ、ってわけじゃないだろ?

アンドリュー:それは絶対ない。

ジェイソン:うん、そんなことはあり得ない。それってすごく単純な意見だろうけど、絶対に憶えておく必要のあるものだと思う。

『UK GRIM』を聴いていると、イギリスでは物事が本当に深刻で重くなっているんだな……と感じます。

ジェイソン&アンドリュー:うん。

一方で、日本も物価が上がって深刻な状況になりつつあるし、イギリスでここ最近ずっと騒がれている「Cost of Living Crisis」が起きています。

ジェイソン:そうなんだ……でもさ、日本の政治家はどうなの?

ただし日本は、イギリスとはかなり違います。というのも、我が国にはイギリスの労働党のような大きな野党がないので、さらに深刻だったりするんです。与党に絶望している人たちが支持したい野党がないんです!

ジェイソン:オーケイ、そうなんだ。

対してイギリスは、ここしばらくの間で労働党の支持率が上がっていて、少なくともまだ一種の希望があるかな、と思います。で、こうした先行き不安な現実のなかを庶民はどう生きていったらいいと思いますか? 

アンドリュー:……かなりでかい質問だな!

坂本:ですよね、すみません……。

アンドリュー:(笑)

ジェイソン:前進していくための唯一の道は、小さな空間を、ちょっとした余裕を自分に与えることだと思う。自分自身に、自分の家族に、自分の周囲のコミュニティに、息をつけるちょっとした余裕/小空間をもたらすこと。ここを生きていくには、それしかないと思う。というのも、ほんと、それ以外の誰にも頼れないような状況だからさ。いや、たぶん、これまでもずっとそうだったんだろうけど、いまはとにかく、状況がさらにタフになってるじゃない? だから、苦痛を軽減してくれるちょっとした緩衝ゾーンは自分自身、各自の内側から出て来るんじゃないか、と。その人自身の姿勢から生まれる、そういうことじゃないかな。うん、それしかないんじゃないかと思う……ってのも、いまは国家にも頼れないし、っていうか、他人の多くも頼りにできないし。それくらい、生活がハードになってるってことだよね。で、その状況はすぐに変わらないだろうな、と俺は思う。

ここ数年、UKからは新手の魅力的なインディ・バンドが出てきました。ドライ・クリーニングもそうですし、シェイム、キャロライン、ブラック・ミディなどなどがいます。ただ思うのは、そうしたインディ・ロック・バンドの多くは中流階級出身ですし、その手の音楽のファン層も中流階級が占めている印象です。そこを責めるつもりはないのですが、ただインディ・ロックは、かつては(ザ・フォールからニュー・オーダーやオアシスまで)もっと労働者階級の子たちのものだったのではないか? とも思います。そうではなくなってしまった現状については、どう思っていますか?

ジェイソン:――正直、労働者階級の人びとはグライムにハマってるんじゃないかと思うけど?

坂本:ああ、たしかにそうですね。

アンドリュー:だよな。

ジェイソン:グライム、あるいはUKヒップホップと言ってもいいけど、そっちに移ってる。俺の実体験から言えば、労働者階級の面々はラッパーになりたいって傾向の方がもっと強いよ。

アンドリュー:ほんと、そう。インディ・ロックはそれよりもっと中流階級向け、みたいな(苦笑)? でも、さっきも話に出た労働者階級って話で言えば、いまのイギリスはかなり変化した、というところもあると思う。もうちょっとアメリカっぽくなってきてるって意味でね。それくらい、もっと様々な階級のレヴェル/細かい隔たりができてきてる、という。いまはロウワー・ミドル・クラス(やや低級な中流。いわば、労働者階級あがりで中流に達しつつある層)もあるし……。

ジェイソン:うん。

アンドリュー:で、そこはアメリカも同じで、あの国じゃ人によっての経済/収入面での異なる区分が10個くらいあるわけでさ。で、それに似たことが、イギリスでも起きつつあるんじゃないかと俺は思う。

ジェイソン:うん、アンドリュー、それは大きいよ。

アンドリュー:だからって労働者階級が存在しなくなる、ってわけじゃないし、いまでもいるんだよ。ただ、貧困線にはまだギリギリ達していないものの、それでもお金が全然ない、という人びとはいるわけでさ。うん……。

ジェイソン:うん……妙な状況だよな。だけど、さっきの君の指摘、インディ・ロックが労働者階級のものではなくなっている、というのは当たってると思う。でも、いまのインディ・ロックって正直、あんま先進的じゃない、ほとんどそんな感じじゃない? もちろん、そうじゃない連中もいるけど……。

アンドリュー:ちょっとレトロな感じだよね?

ジェイソン:うん。多くのバンドのやってることは、あんまりプログレッシヴとは思えない。

アンドリュー:エルヴィスっぽく聞こえる。

ジェイソン:エルヴィスか(苦笑)。

最後の質問です。いま手元に自由に使える500ポンドがあったら何を買いますか?

アンドリュー:そうだな……。

ジェイソン:500ポンドあったとしたら? たぶん、俺が買うのは……んー、なんだろ? 正直、思い浮かばない。だから銀行に預金する。ってのも、いま、自分が何を買いたいかわからないし、必要なものはぜんぶ買ったと思うし。

アンドリュー:ハッハッハッ!

ジェイソン:だから、預金する!

(笑)わかりました。アンドリューさんは?

アンドリュー:(笑)貯めないで使うんだとしたら、たぶん俺は、実は必要のない余計なものを買っちゃうだろうなぁ。いや、ここんとこずっと、Polyendが気になってチェックしてて。

ジェイソン:へー、そうなんだ。

アンドリュー:あれは一種のガジェットみたいなもんで、トラック・シークエンサー機能とかが付属してて。たしか450ポンドくらいだから、ちょうどいい値段かな。

ジェイソン:それ、買うつもりなの?

アンドリュー:いやいや、別に必要じゃないんだってば! でも、気になってついチェックしちゃうんだ。で、眺めながら「別に欲しくないし、自分には必要ないだろう……」ってブツブツつぶやいてるっていう。

ジェイソン:クハッハッハッハッ! スクロールする指が止まらない、と(笑)

アンドリュー:いやー、だから、商品レヴューとかあれこれ読んで、「ああ、こりゃ結構なプロダクトだな」と思いつつ、でも「自分には必要ないか……」と考えあぐねる、その手の商品だってこと。

ジェイソン:(笑)

アンドリュー:でも、プレイステーション・ポータブルの端末は、CeXで中古で買った(※CeXは中古のPC/ゲームソフト/DVD等をメインで扱う英テック系チェーン)。

ジェイソン:へえ、どんな具合? 良いの?

アンドリュー:いや、まだ届いてないんだ。オンラインで通販したから、明日届く予定。あれはもう入手できないんだけど(※PSPは2004年に発表され、2014年に日本国内出荷終了)、「ビートレーター(Beaterator)」ってアプリが使えるんだ。あれはロックスター・ゲームスとティンバランドが2007年に合同開発したアプリ(※実際の発表は2009年)で、ミュージック・シークエンサー等の機能が収まってる。

ジェイソン:(笑)ナ〜イス! それ、かなり良いじゃん?

アンドリュー:値段は140ポンドくらいだったはず。でも、プレイステーション・ポータブルがイギリスで最初に発売された2005年頃は、自分には手が出ない値段だったんだよ。発売当時は、どうだったんだろ、500ポンドくらいしたんじゃない? でも、こうして中古の端末を140ポンドでゲットしたし、ゲームも色いろついてくる、と。オールドスクールな楽しさを満喫できるよ、これで。

ジェイソン:っていうか、良い楽しみ方だよ、それは。

坂本:もう時間ですので、このへんで。今朝は、お時間を割いていただいて本当にありがとうございます。

ジェイソン&アンドリュー:こちらこそ、ありがとう!

坂本:『UK GRIM』はとてもパワフルなアルバムで、大好きですし――

ジェイソン:ありがとう。

アンドリュー:どうも!

 なお、日本がいまどんな政治的な状態にあるのかをわかりやすく理解するために、エレキングでは『臨時増刊:日本を生きるための羅針盤』を刊行した。『UK GRIM』を聴きながらその本を読んでいただけたらこのうえなく幸いである。とくに巻頭の青木理氏の話は、安倍政権以降の日本がいったいどうなっちまったのかをじつにわかりやすく解説している。立ち読みでもいいので、チェックして欲しい(たのむよ)。
また、今回の取材も例によって坂本麻里子氏の通訳を介しておこなわれたわけだが、『UK GRIM』の日本盤には、ジェイソン・ウィリアムソンのウィットに富んだ言葉を、彼女がみごとな日本語に変換した訳詞が掲載されていることもここに記しておく。これを読むためにCDを購入する価値は大いにある。

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448