Home > Reviews > Album Reviews > Pardans- Peak Happiness
時代と場所、タイミング、シーンを構成するいくつかの要素。コペンハーゲン・シーンには遅く、サウス・ロンドンのインディ・シーンには早すぎた。デンマーク、コペンハーゲンのバンド、パーダンスはある意味で時代の隙間に入り込んでしまったバンドなのかもしれない。
アイスエイジ、ロウアーを中心とした暗く激しい熱を帯びたコペンハーゲンのパンク/ポスト・パンクのシーン、工場を改装したリハーサル・スペースであり同時にヴェニューでもあったメイヘムに集まりそこで小さなコミュニティが作られ流れが生まれた。メイヘムにはまたジャズや 〈Posh Isolation〉のカタログに連なるようなエレクトロニクスやエクスペリメンタル・ミュージシャンたちもいて、それがまたここに集うバンドに影響を与えていった。そんななかで学校を卒業したばかりの、少し年下のパーダンスはシーンが移り変わろうかというようなその時期に遅れて参加してそこでアイスエイジ、マーチング・チャーチ直系のエネルギーに溢れるギター・サウンドとジャズを混ぜたような音楽を作ることを目指したのだ。
バンドを組んで3ヶ月で録音されたという2016年の1stアルバム『Heaven, Treason, Women』はアイスエイジの暴力的なまでの初動と、暴れ回るそれを制御しようとするロデオのようなフリー・ジャズの要素を合わせ持つ狂気の熱を放ったアルバムで、2023年のいま聴くそれはまるでサウス・ロンドンのインディ・シーンの前夜のような音にも聴こえるような瞬間がある。2018年の2ndアルバム『Spit and Image』はそれよりももっと方向を定めたエネルギーを放っていて、マーチング・チャーチをラウンジ・リザーズに近づけたかのような雰囲気を持つ。吹き荒れるサックス、ピアノにヴィオラ、ブラック・カントリー、ニュー・ロードの登場以降のUKの新人バンドたちが即座に頭に思い浮かべ採用するようなこの編成はこのときすでに形作られていたのだ。
だがそれはあまりに早すぎた。コペンハーゲンの次のシーンに流れが移り、サックスの時代が来るまでにすでに存在していた彼らの音楽は時代の狭間に吸い込まれ隠されてしまったのかもしれない。だからきっと少しやり方を変えて再発見される必要があった。この3rdアルバム『Peak Happiness』で聴かれるパーダンスの音楽はそれまでのアルバムよりもずっとサウス・ロンドンのポスト・パンク・バンドに近い。ジャズのアプローチを少し弱め、ポスト・パンクの要素を前に出し、そこに自ら破滅の道に向かうかのようなロマンティシズムを混ぜ込む。それは似ているけれど異質なもので、退廃的な色気と狂気がその音楽のなかで熟成され醸し出されていく(それはどこか優等生的で、ともすれば頭でっかちと捉えられかねなかったサウス・ロンドンのバンドたちにはなかった魅力だ)。
夜の出口の見えない暗闇を手探りで進んでいくかのような “Big Summer” のダウナーなビート、サックスが歌いロード・ムービーのようなムードを作る “Warp Speed” はまるでパーダンス版の “Track X” のようで、その半自伝的な曲の中で “Track X” の作曲者たるブラック・カントリー、ニュー・ロードとロンドンの100Club で共演したというツアーの記憶が語られる。薄暗い、嘘がはびこる街で爆弾が爆発する、彼らは曲のなかでそう表現するが、しかしここでの爆発は火の手があがるようなそれとは少し趣が違う。長回しで淡々と描写するようなサウンドのなかに宿る静かな炎。1stアルバムから7年、2ndアルバムから5年が経ち、もう衝動で突き抜けるような感覚はない。それは押し殺された感情のなかにくすぶり続けた青白い情熱みたいなもので、ひんやりとした冷たいナイフを突きつけられているみたいなそんな感覚に陥る。
「ポスト・パンクのシーンをいくつかリサーチしてみたけど/なんの印象も残らなかった」。夜の色が薄くなり朝へと向かう時間の独白みたいにして紡がれる “The Scene” にしても、シーンから外れた疎外感のその裏に俺たちならもっとうまくやれるという暗く静かな意志を感じてしまう(群衆のなかでピッチフォーク・フェスのステージを眺めるというラインは哀しく、そしてとても美しく響く)。
コペンハーゲン・シーンの最後に現れそこにろくに参加することのできなかった遅れてきたバンド、彼らはその後に起こったサウス・ロンドンのインディ・シーンのバンドたちと比べると年長で積み重ねた時間も過ごした場所も違がっていて、だから共感するところはあってもそれらをとても自分たちのものだと思うことはできなかったのだろう。だがそれゆえに、この音楽のなかにはどこにも属せなかったアウトサイダーの退廃的な美学が息づいている。野望に燃えていた少年時代の燃えさかるような炎ではない静かに燃やされる情熱、タバコとアルコールの匂いのするオープニング・トラック “Cringe City” から、アイスエイジに憧れたかっての自分たちを取り戻そうとしたかのような最終曲 “Mr. Coffee” に至るまで、ここにはくすぶり続けた情熱と暗く輝くロマンが詰まっている。
Casanova.S