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U.S. Girls

Indie Pop

U.S. Girls

Bless This Mess

4AD / ビート

木津毅 Mar 17,2023 UP

 ミーガン・レミーはふざけている。いや繰り返し聴いていると一周まわって大真面目なようにも思えるし、描かれるモチーフはつねにシリアスな社会風刺を含んでいるが、何よりも音自体のあっけらかんとしたユーモア感覚が遊戯性を強調しているのだ。近年の彼女のスタイルはジャンルのクリシェをあえて大げさに引用しミックスするもので、20世紀のアメリカの大衆音楽への郷愁と皮肉を同時に立ち上げつつ、それ以上に反射的に笑える。いまや〈4AD〉とサインして以降のポップなイメージが強いため初期のU.S.ガールズのハチャメチャなローファイ音楽は忘れられがちだが、当時よく言われていたのは「意味がわからん」ということだった。で、現在レミーが探求している思いきりキャッチーなポップ音楽にも「意味がわからん」ところがあり、そこがたまらなく痛快だ。

 8作目となる『Bless This Mess』はディスコやエレクトロ・ファンクの色がやけに強く、ダンスフロアを志向したと思われるアルバムだ。奇しくもパンデミック初期(2020年3月)にリリースされることでセッションの喜びを喚起するようだった前作『Heavy Light』に対し、ダンスの現場が復活していることとタイミング的にリンクしていると言える。イメージとして80年代の音をを引っ張り出していることから感覚的にはビビオの最近作『BIB10』のような無邪気さがあるが、U.S.ガールズの本作の場合レミーがパンデミック中に双子を妊娠・出産した経験が反映されているので、そうした人生の慌ただしい変化が大げさなダンス・サウンドにどうやら表現されているようだ。
 引き続き夫のマックス・ターンブルと共同プロデュースで、ホーリー・ゴースト!のアレックス・フランケル、ジェリー・フィッシュのロジャー・マニング・ジュニア、コブラ・スターシップのライランド・ブラッキントン、マーカー・スターリング、ベイシア・ブラット、そしてベックと多彩なコラボレーターが集まっているものの、全体を貫くファンキーなトーンを統率しているのはあくまでレミーそのひとだろう。ゆったりしたテンポのシンセ・ファンク “Only Deadalus” で幕を開けると、続く “Just Space for Light” ではゴージャスなコーラスを引き連れて眩いステージ・ライトを一身に浴びる。前作がデヴィッド・ボウイ的なら本作はプリンス的で、グリッターでセクシーなファンクやR&Bを参照して妖しく弾けてみせる。子どもを産んだばかりの母親がスパンコールをつけたドレスを着てフロアで踊り出したら世間体を気にする人びとはぎょっとするだろうが、もちろんレミーはそんな窮屈な規範をものともせず、ミラーボールのもとで輝いてみせるのだ。やたらキレのいいパーカッションが鳴らされるエレクトロ・ハウス “So Typically Now” はロボット・ダンスが目に浮かぶ直角的なシンセ・リフだけで可笑しいのに、ソウルフルなコーラスが現れると大仰な盛り上がりとともに腹を抱えずにはいられない。

 ただ、その “So Typically Now” がCOVID-19以降の住宅問題をモチーフにしているように、あくまで生活に根差した政治性が含まれているのがU.S.ガールズの神髄でもある。資本主義に対する異議申し立てはそこここに発見できるし、また、フェミニストして母になったレミーはあらためて「母性」に押しつけられた負担や性役割について想いを巡らせている。80年代R&Bのパロディのように妙にキラキラしたバラッド “Bless This Mess” はタイトル・トラックということもあって示唆的だ。アートワークで妊娠した腹を囲む正方形はインスタグラムの投稿のようで、添えられた言葉は「この混乱を祝福せよ」。すべてがSNSで消費される風潮に対する皮肉と、こんな時代に親になることの不安や混乱が入っているのだ。
 それでも、性規範が根強く残っている現代を風刺する “Tux (Your Body Fills Me, Boo)” がタキシードの視点から不満を語るという突飛な設定になっているように、レミーの社会批評はユーモアをけっして忘れない。しかも激ファンキーなディスコ・ナンバーで、だ。レミーは回転しながら手を叩き、「あんたの身体がわたしを満たす、ブー!」と歌う。やっぱり、ふざけているとしか思えない。けれどもその悪戯心は、メチャクチャな時代を生き抜くための武器なのだ。
 スマートフォンの振動を思わせるサウンドで始まる “Pump” は、そこに太いベースラインが入ってくればたちまち愉快なダンス・チューンとなる。慌ただしい生活も殺伐とした社会も、遊び心さえ忘れなければダンスと笑いの種になる。「何も間違ってない/すべてうまくいく/これはただの人生なんだから(“Futures Bet”)」──そして、けっして捨てられないオプティミズム。U.S.ガールズのひょうきんな音楽はいま、冷笑に硬直しそうなわたしたちをまずは踊らせ笑顔にするところから始めようとしている。

木津毅