「Nothing」と一致するもの

ZULI - ele-king

 高い評価を受けたファースト『Terminal』から2年強。近年台頭する新世代のなかでも飛びぬけている感のあるエレクトロニック・プロデューサー、カイロを拠点に活動するズリがフロア・オリエンテッドな新作12インチ「All Caps」を3月12日にリリースする。
 なぜこのタイミングでダンスものを? じつはこれには経緯がありまして……もともとはアルバムの数ヶ月後に発売予定だったそうなのだけれど、なんと機材が盗まれてしまい、録音もおじゃんに。かくして新たにつくりなおされたのがこのEPというわけ。ジャングルやフットワーク、グライムなどから影響を受けた6曲が収録されるそう(“Penicillin Duck” のみ、失われたデータから生き残ったトラックとのこと)。
 レーベルはリー・ギャンブルの〈UIQ〉、マスタリングはラシャド・ベッカー。今年の重要なシングルになりそうな予感。

ZULI
ALL CAPS

Format: 12” / Digital
Label: UIQ
Cat. No: UIQ0012
Release Date: March 12th, 2021
A1 / 01. Tany
A2 / 02. Bassous
A3 / 03. Where Do You Go
B1 / 04. Penicillin Duck
B2 / 05. Keen Demag
B3 / 06. Bro! (Love it)S

Deep Modern Jazz From Japan - ele-king

 ピート・ロックやジェイ・ディー、キング・ブリットなどをフィーチャーした「Beat Generation」シリーズで知られる英〈BBE〉。彼らは日本のジャズのコンピも編んでいて、その第1弾と第2弾は速攻で初回プレスが売り切れてしまったそうだけど、このたび第3弾がリリースされることになった。
「われわれはこのコンピレイションに幅広いスタイルを入れたかった。速弾きのフュージョンで埋め尽くすのはとてもたやすいが、そんなことをしてもおもしろくない。だから、さまざまな異なるスタイルを入れることにしたんだ。ハード・バップ、サンバ、モーダルとかね。松風鉱一と古澤良治郎の “Acoustic Chicken” なんかはフリー・ジャズに接近してる」とは、レーベルのトニー・ヒギンズの弁。
 発売は3月で、CDは2枚組、LPは3枚組となっている。即完するまえに入手しておきたい。

『J-Jazz (和ジャズ)』待望の第3弾が登場!

3/3 on sale
『和ジャズ・ディスク・ガイド』掲載レア盤収録曲多数!

シティ・ポップからニューウェーヴ、ニューエイジに至る様々なジャンルで 近年爆発的な盛り上がりを見せるメイド・イン・ジャパンのミュージック・ ライブラリーの中でも古くから海外で評価の高い、いわゆる「和ジャズ」の激ディープなセレクションでコンパイルし話題となった。

V.A.
J-JAZZ (和ジャズ) VOL.3 - DEEP MODERN JAZZ FROM JAPAN

label : BBE
genre : J-JAZZ / 和ジャズ
format :
 ① CD2 (帯・日本語解説付き国内仕様盤)
 ② CD2 (輸入盤)
 ③ 3LP (輸入盤)
発売予定日 :
 ① 2021.3.3
 ② &③2021.3 上旬予定
価格 :
 ① 定価 ¥3,300+税
 ② 税抜卸価格 ¥2,240 (オープン価格)
 ③ 税抜卸価格 ¥4,080 (オープン価格)

TRACKLIST

●2CD
[DISC 1]
1. Song Of Island - Yasuhiro Kohno (河野康弘) Trio + One
2. Morning Tide - Kohsuke Mine (峰厚介)
3. Kemo Sabe - Masao Nakajima (中島政雄) Quartet
4. Groovy Samba - Hideo Shiraki (白木秀雄) ※CDのみ
5. Song for Hope - Aki Takase (高瀬アキ) Trio
6. Cumorah - Eiji Nakayama (中山英二)
7. Phoebus - Hiroshi Murakami (村上寛) & Dancing Sphinx
8. 1/4 Samba II - Tatsuya Nakamura (中村達也)
[DISC 2]
1. Cumulonimbus - Shigeharu Mukai (向井滋春)
2. Burning Cloud - Ryojiro Furusawa (古澤良治郎) ※CDのみ
3. Planets - Masaru Imada (今田勝) Trio + 1
4. Wolf's Theme - Seiichi Nakamura (中村誠一) ※CDのみ
5. Honey Sanba - Itakura Katsuyuki (板倉克行) Trio
6. Kirisame - Ryusei Tomoyose (友寄隆生) Quartet
7. Black Nile - Hideyasu Terakawa (寺川秀保) Quartet Featuring Hiroshi Fujii (藤井寛)
8. Acoustic Chicken - Koichi Matsukaze (松風鉱一) Trio feat Ryojiro Furusawa (古澤良治郎)

●3LP
A1. Song Of Island - Yasuhiro Kohno (河野康弘) Trio + One
A2. Cumulonimbus - Shigeharu Mukai (向井滋春)
B1. Morning Tide - Kohsuke Mine (峰厚介)
B2. Black Nile - Hideyasu Terakawa (寺川秀保) Quartet Featuring Hiroshi Fujii (藤井寛)
C1. Song for Hope - Aki Takase (高瀬アキ) Trio
C2. Honey Sanba - Itakura Katsuyuki (板倉克行) Trio
C3. Kirisame - Ryusei Tomoyose (友寄隆生) Quartet
D1. Kemo Sabe - Masao Nakajima (中島政雄) Quartet
D2. Phoebus - Hiroshi Murakami (村上寛) & Dancing Sphinx
D3. Planets - Masaru Imada (今田勝) Trio + 1
E1. 1⁄4 Samba II - Tatsuya Nakamura (中村達也)
E2. Cumorah - Eiji Nakayama (中山英二)
F1. Acoustic Chicken - Koichi Matsukaze (松風鉱一) Trio feat Ryojiro Furusawa (古澤良治郎)

〈アケタズ・ディスク〉からのリリースで知られる河野康弘トリオが86年にリリースした激レア中の激レアのプライヴェート・プレスのアルバムのタイトル曲 “Song Of Island” から、サックス奏者、峰厚介の『Mine』〈スリー・ブラインド・マイス〉と同年にリリースされた〈フィリップス〉からの『First』の一曲目を飾る “Morning Tide”、『祭の幻想』と双璧を成す、白木秀雄の人気盤『プレイズ・ボッサ・ノバ』からニコラ・コンテら海外著名DJもピックアップする「Groovy Samba」、中島政雄のファースト・リーダー・アルバムからドナルド・ベイリーのドラムが冴えるスリリング・ジャズ “Kemo Sabe”、高瀬アキの1981年ベルリン録音にして、森山威男、井野信義とのトリオでの名演 “Song for Hope”、“Aya's Samba” が人気のジャズ・ベーシスト中山英二の78年録音 “Cumorah”、杉本喜代志、峰厚介、本田竹曠など錚々たる面子が揃った名ドラマー村上寛の78年作『Dancing Sphonx』のタイトル曲、沖縄のジャズマン、友寄隆生による “Kirisame”、Katsu の活動名で知られる板倉克行の激レア盤『密林ダンス』(邦題)よりタイトル曲、島根のジャズ・スポット DIG でのライヴ録音を収めたサックス奏者の寺川秀保によるウェイン・ショーター “Black Nile”、『Earth Mother』リイシューも話題を呼んだ日本のエリック・ドルフィーこと松風鉱一による中央大学427教室での録音『AT THE ROOM 427』から古澤良治郎オリジナル “Acoustic Chicken” など。今回もグラミー賞ノミニーのカーヴェリーによるリ・マスタリングによる初リイシュー/カルト曲てんこ盛り!

Chiminyo - ele-king

 紙媒体のエレキングで2020年のジャズ・シーンを振り返り、ロンドン勢ではモーゼス・ボイドリチャード・スペイヴンらドラマーによるアルバムをピックアップしたのだが、彼らのように既に名の知られた存在に負けず劣らず気になったのがチミニョである。チミニョは2019年に「アイ・アム・チミニョ」という12インチEPでデビューしたドラマー/パーカッション奏者だが、本名のティム・ドイルとしてはアフロ・ジャズ・バンドのマイシャの一員として活動しており(リーダーのジェイク・ロングがドラマーのため、もっぱらパーカッション奏者として参加)、既にミュージシャンとしてのキャリアはいろいろ積んでいる。
 北ロンドンを拠点に活動していて、トルコ、ギリシャ、ルーマニアなどの民族音楽やジプシー音楽も取り入れたユニークなバンドのドン・キッパーにも参加するほか、エズラ・コレクティヴのサックス奏者のジェイムズ・モリソンらとコズミックなジャズ・ロック~フュージョン・バンドのシカーダ(Cykada)を結成して、こちらも2019年にアルバムを発表した。『アイ・アム・チミニョ』のリリースやシカーダのアルバムによって、2019年頃から注目度を高めていったアーティストである。マイシャのほかにシャバカ・ハッチングス、テオン・クロス、ザラ・マクファーレンなどサウス・ロンドン勢ともいろいろ共演してきており、また2020年はマイシャを通じてスピリチュアル・ジャズのレジェンド的存在のゲイリー・バーツとも一緒にレコーディングをおこなった。

 『アイ・アム・チミニョ』はDJのベン・ヘイズが共同プロデューサーとして関わり、エレクトロニクス・サウンドとチミニョの生ドラムを融合した作品集となっていた。ダブステップ、ベース・ミュージック、ビート・サウンドなどとジャズやエクスペリメンタル・ミュージック、インプロヴィゼーションを結び付けたそのサウンドは、ロンドンのジャズ・ミュージシャンの中でも最先端のひとつで、モーゼス・ボイドやリチャード・スペイヴンのさらに先を行くミュージシャンになるのではないかと予感させた。いろいろいるドラマーの中でももっともエレクトロニクスとの結びつきが深く、タイプとしてはドリアン・コンセプトとも共演するチド・リムに近い印象を持った。また “ダーマ・ボディーズ” というインド音楽を取り入れた演奏もあるが、これなどはドン・キッパーでやっている民族音楽的アプローチを発展させたもので、音楽的引出しの豊富さも感じさせた。2020年は前述のとおりマイシャでのゲイリー・バーツとの共演セッション録音があったが、『アイ・アム・チミニョ』から1年ぶりの録音となるデビュー・アルバムの『アイ・アム・パンダ』を完成させた。

 『アイ・アム・パンダ』はチミニョによるセルフ・プロデュースで、作曲からアレンジまで全て自身でおこなっている。キンクスが設立したことで知られるコンク・スタジオで録音はおこなわれ、レコーディング・エンジニアはジョルジャ・スミス、サンファビンカー・アンド・モーゼス、エズラ・コレクティヴなどの作品を手掛けたリカルド・デミアンが担当。
 チミニョはドラムやパーカッション演奏に加えてピアノとヴォーカル、そしてエレクトロニック・プロダクション全般も手掛け、ほかのミュージシャンとしてはヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ダブル・ベースなどの弦楽器に、インドネシアのスリン、中央アジアのカヴァルなど民族楽器の演奏家も加わっている。そしてゾンゴ・ブリゲイドというアフロ・フュージョン・バンドを率いるガーナ系のラッパーの K.O.G.、アーティスト集団のスティーム・ダウンのメンバーであるブラザー・ポートレイト(ニュー・グラフィック・アンサンブルオスカー・ジェロームのアルバムにも参加していた)、ドン・キッパーの同僚でギリシャとルーマニアがルーツのドゥニャ・ボチックなどがゲスト・シンガーとして参加している。昨今のロンドンの音楽シーンを象徴するようなマルチ・カルチュラルなアルバムである。

 ヴォイスとドラム・ビートがシンクロした “アイ・アム・パンダ” でアルバムは幕を開けるが、ドイツのパーカッション奏者兼シンガーであるジョージ・クランツが1980年代にヒットさせたエレクトロ~ガラージ・クラシックの “ディン・ダ・ダ” を思わせるようなはじまりだ。ドリーミーなシンセ空間が広がる “ラン” もエレクトロな質感の楽曲だが、そうした中でドラムが生き物のように自由なビートを刻んでいく。シルキーやスウィンドルなど、ダブステップとジャズ、ライヴ・インストゥルメンタルを結び付けたようなアーティストに近い楽曲である。“パンズ・コール” はワールド・ミュージック調のコーラスや旋律を持ち、ほかのロンドンのジャズ系アーティストにはない個性を感じさせる作品となっている。この曲や “リーチン” に見られるように、チミニョはドラム以外にキーボードの腕前もなかなかのものであり、『アイ・アム・パンダ』は単にドラマーのスキルだけでなく、チミニョの総合的なサウンド・プロデューサーとしての姿を見せてくれるものだ。
 また “ハイアー・トゥゲザー” などに見られるように、ほとんどのドラム・パートがエフェクトをかけたり編集したりして素材として使用されている点も、通常のドラマーのアルバムとは異なっている。クララ・セラ・ロペスの歌をフィーチャーした “ブレッシン” のようなネオ・ソウル調の作品もあれば、ブラザー・ポートレイトのポエトリー・リーディングのバックでコズミックで未来的な風景が広がるジャズ・ミーツ・テクノな “シンキン”、チミニョの演奏する深遠なピアノが印象的なポスト・クラシカル曲の “イントゥ・ザ・サンキス”、K.O.G.のラップでアフリカ音楽とジャズとグライムが出会ったような “シー・ミー”、ドゥニャ・ボチックのヴォイスと共に中央アジアから東ヨーロッパにかけての民族音楽を取り入れ、最後は混沌とした音の渦となって終わる “パンドラ” と、実に幅広く豊かな音楽性も披露している。その実験性や先進性も含めて、現在のロンドンの若手アーティストで筆頭株に挙げられるのがチミニョではないだろうか。

MULBE - ele-king

 バトルMCとして様々な大会で結果を残しながら、D.D.S とのラップ・デュオ、N.E.N としてもアルバムをリリースするなどアンダーグランド・シーンでその存在感を示してきたMULBE。一昨年(2019年)には NITRO MICROPHONE UNDERGROUND の MACKA-CHI がエグゼクティヴ・プロデューサーを務めるミックスCD『MOVE』にてソロ・デビューを果たし、そして、ついにリリースした 1st ソロ・アルバムが本作『FAST&SLOW』というわけだ。

 ラッパーとしての MULBE の最大の魅力であり、大きなアドバンテージとなっているのが、非常に特徴的な彼の声質だろう。喉の奥から絞り出すように発せられるその声は非常に荒々しくザラザラした感触で、一聴してそれと分かる存在感がある。90年代から2000年代にかけてのUSヒップホップと、さらに同時期の渋谷・宇田川町を中心とした日本語ラップシーンの流れなどが MULBE の音楽的な基盤となっていると思われるが、そういったソースを混在させながら作り上げる現行のブーンバップなスタイルのサウンドに、彼の声質は実に見事にマッチし、ガチガチに硬く韻を踏むリリックの世界観をよりドラマティックに演出する。

 ミックスCD『MOVE』と同様に、GRUNTERZ、MASS-HOLE、RUFF といった MULBE 自身とも繋がりの深いプロデューサー勢を中心に構成されている本作であるが、さらに今回が初共演という GRADIS NICE と DJ SCRATCH NICE の参加が作品により深い奥行きを与えている。GRADIS NICE がプロデュースを手がけた先行シングル曲 “STAY HERE” は、コロナによる自粛などがテーマとなっているが、ゲスト参加の MILES WORD (BLAHRMY)と共に世の中の閉塞感そのものをダークなトーンで表現しながら、どんな状況でも決して諦めない、強い不屈の姿勢を見せつける。一方、DJ SCRATCH NICE がプロデュースした “TAKE ME HIGHER” と “REPRESENT ME” はタイトルの通り自分自身が曲の中心にもなっているわけだが、サンプリングのネタ感が全面に出たプロダクションによってエモーショナルな部分がより引き出され、MULBE の特徴的な声質にまた別の彩りを与えている。

 フィーチャリング・ゲストも非常に魅力的なメンツが揃っている本作であるが、盟友 D.D.S (“WHAT WILL BE”)との相性の良さはもちろんのこと、メロウ・チューン “CAN'T KNOCK THE” での B.D. との共演も凄まじく格好良い。そして、AVE WORKS がプロデュースを手がける実にユニークでファンキーな “DO ORIGINOO” における、仙人掌とのコンビネーションは個人的にも本作のピークであり、サウンドとゲストとの組み合わせの絶妙さという意味でも突出している一曲だ。
 他にもイントロではじまり、ゲスト勢のシャウトを集めたスキットを挟んで最後はアウトロで締めるという、一昔前は当たり前であったようなアルバムの曲構成であったり、ときおり出てくるクラシック・チューンからのリリックの引用など、MULBE 本人の頑固なまでのこだわりが様々な箇所に詰まっており、そんな部分にもいちいちニヤリとさせられる。単なる日本語ラップ好きというよりも、ヒップホップが好きな人にこそぜひ聞いてほしいアルバムだ。

Bibio - ele-king

 やっぱりこのころから独特の音響だ。2006年に〈Mush〉からリリースされたビビオのセカンド『Hand Cranked(手まわし)』が、デラックス・エディションとなって15年ぶりに蘇る。レーベルは現在ビビオの所属する〈Warp〉で、おなじく〈Mush〉から出ていたファースト『Fi』(2005年)の復刻(2015年)につづくリイシュー企画となる。
 ぜんまい仕掛けのおもちゃのような「手まわし装置」が奏でるロウファイ・サウンドにインスパイアされた同作は、不完全であることの魅力を引き出そうとしている。最新作『Sleep On The Wing』もそうだったけど、つまり、いまのビビオのスタイルにつながるたいせつな原点のひとつというわけだ。
 デラックス・エディションには、今回初のCD化となる5曲が追加収録され、ビビオ本人によるライナーノーツが付属するとのこと。彼自身が同作をどう思っているのか確認できるのも楽しみだ。
 フォークトロニカの至極の1枚を、いまあらためて。

BIBIO
〈WARP〉との契約のきっかけにもなった〈MUSH〉期の名盤
『HAND CRANKED』が、初CD化音源5曲を追加した
デラックス・エディションとして
セルフライナーノーツ付の紙ジャケット仕様で再発決定!

聴く者の記憶や、心に浮かぶ情景に寄り添う心温まるサウンドで、幅広い音楽ファンから支持を集め、国内外のアーティストからも賞賛を集めるビビオの2006年にリリースした2ndアルバム『Hand Cranked』が、3月19日(金)にデラックス・エディションで再発決定! 現在では2010年代の〈Warp〉を代表するアーティストの一人と言っても過言ではないビビオだが、デビュー・アルバム『Fi』から3rdアルバム『Vignetting The Compost』までは、USのインディー・レーベル〈Mush〉から作品をリリースしている。今回再発が決定した2ndアルバム『Hand Cranked』は、2006年にリリースされ、当時からビビオを絶賛していたボーズ・オブ・カナダやクラークも所属した〈Warp〉との契約へとつながった作品である。

今回のデラックス・エディションには、今回初めてCD化となる “Madame Grotesque” “Cantaloup Carousel (1999)” “Firework Owl” “Odd Lips” “The Last Bicycle” の5曲が追加収録され、ビビオ本人によるセルフライナーノーツ付の紙ジャケット仕様となる。

当時持っていたのは、本当に最低限のレコーディング機材だった。手頃なマイクが数本、カセットレコーダー、音声レコーダー、MDレコーダー、手頃なサンプラー、手頃なギター数本、そしてiMacが1台。

デビューアルバム『Fi』に収録された楽曲のいくつかで用いたサンプリングやアレンジの粗削りな手法は、1998年に初めて採用したものだ。それらのトラックを制作した後に思い出したのは、ぜんまい仕掛けの玩具や、メリーゴーラウンドもしくは回転木馬の模型のこと、それから幼い頃に観ていた70年代の子供向けテレビ番組のことで、番組ではそうした玩具や模型が生き生きと動いていた。ループ音源を単純に重ねたサウンドは、いびつで不完全な周期に従っていて、そこには機械的な性質が活かされているだけでなく、有機的で人間味のある質感(その要因の一端は、自分で弾いたギターのサンプリングを手動で起動していたことと、クオンタイズすなわち機械によるタイミングの補正を行わなかったことにある)も表現されていた。そしてクランクを手で回す(hand cranked)装置というアイデアから生まれたささやかな発想が、このアルバムのテーマになった。そうした装置が生み出す素朴なローファイサウンドを再現し、簡素で不完全であることの魅力を引き出したいと思っていたんだ。

──Stephen Wilkinson

本作を聴けば、キラキラ輝くモザイク模様の音像の彼方に広がる光りに包まれた絶対的な安心感、幼少の頃の記憶へと皆を誘うローファイで心に響くメロディーラインはもちろん、サンプリングされた自然音、テクスチャー、カラー、そしてノイズ、そのすべてを通して、ビビオの独特な音世界が、当時すでに完成されていたことがわかるファン必携の一枚。

label: BEAT RECORDS / WARP RECORDS
artist: BIBIO
title: Hand Cranked (Deluxe Edition)
release date: 2021/03/19 FRI ON SALE

国内盤CD
ボーナストラック追加収録/解説書封入
BRC-664 ¥2,200+税

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11683

TRACKLISTING
01. The Cranking House
02. Cherry Go Round
03. Quantock
04. Black Country Blue
05. Marram
06. Aberriw
07. Zoopraxiphone
08. Dyfi
09. Ffwrnais
10. Woodington
11. Above The Rooftops
12. Snowbow
13. Maroon Lagoon
14. Overgrown
Bonus Tracks
15. Madame Grotesque
16. Cantaloup Carousel (1999)
17. Firework Owl
18. Odd Lips
19. The Last Bicycle

Kenjyo chiba and YUASA - ele-king

 エレクトロニック・ミュージックのプロパーではない作家の作ったエレクトロニック・ミュージックというのに、かねてより目がない。元々はひとりの楽器演奏家として、あるいは生楽器を抱えたバンドマンとして活動をスタートさせた人たちのするエレクトロニック・ミュージックというのは、グリッド感覚やループ等を自明のものとしない構造にしても、コンボ的奥行き感をおもわせるミックスにしても、あくまでそれが彼/彼女らにとっては「トラック」でなく「ソング」であるということの徴が、どこかしらに片鱗として残されているように思うのだ。いかにダンス・ミュージック志向であっても、また、マシナリーな律動に貫かれていようとも、どこかでソングであること(イコール「ポップ」であること)へ開かれているような……細野晴臣もそうだし、私にはときにKLFの音楽も、そう思えてくるときがある。

 本作『Devotions~concoction of sutras and sou』は、プログレッシヴ・ジャズ・バンド WUJA BIN BIN のメンバーであり、鈴木慶一やケラリーノ・サンドロヴィッチ、原田知世、くるり、堂島孝平……等々他大勢のレコーディング/ステージで、トロンボーン奏者として八面六臂の活動をおこなってきた湯浅佳代子が、エレクトロニック・ミュージック作家として取り組んだ最新ミニ・アルバムである。
 これまでも、鈴木慶一や KERA からの影響を感じさせるシアトリカルかつポップなブラス・ミュージック集である初作『「How about this??」-妄想劇伴作品集-』、初期シンセサイザー音楽へのオマージュ溢れるコズミックなセカンド・アルバム『MONORITH~fictional.movie.soundtrack.2』(傑作!)をソロ作品としてリリースしてきた彼女だが、今回の新作はなんと、静岡県は河津町の禅寺栖足寺の千葉兼如住職とコラボレートしたダブルネーム作品となっている。この千葉氏、もともと自身でもサックスを操るミュージシャンらしいのだが、本作ではその腕を披露しつつも、本職たる経の読み上げをメインとして加わっている。
 そもそも、なぜこの異色の組み合わせが発足したのかを説明しておくと、それは、今般の時節柄が大きく関わっているという。深い不安に囲まれるコロナ禍おいて、にわかに心身の具合を崩してしまう人たちが続出していることは御存じの通りだが、そうした状況へ、お経と音楽によって安寧を届けようというふたりの篤心が、このプロジェクトの発端となっているのだ。まず昨年7月に、(本作にも収録された) “Devotions ~般若心経Hannyasingyou~” のMVが先行してアップされ、8月には単曲でデジタル・リリースされた。栖足寺の須弥壇をプロジェクション・マッピングで演出した鮮烈な映像や、本職による般若心経とドープかつポップなエレクトロダブ風のサウンドが合一したトラックが一部で話題となり、爾来海外リスナーにも騒がれていた。もしかすると、「あー! あの曲ね」という読者もおられるかもしれない。
 それにしても、このインパクトはものすごい。千葉氏は、コロナ前から栖足寺本堂で毎週末鮮やかなライティングを伴った演奏会をおこなっていたようだ。そうきくと、ここ数年で大きな話題となった、福井市の浄土真宗本願寺派照恩寺の住職:朝倉行宣による「テクノ法要」を思い出すが、メディア・アーティスト川村健一によるヴィジュアルとともにあちらがより均整の取れたエレクトロニカ的な音楽性を特徴としているとすれば、こちらはもっと荒削り、というか、もっと「インディー」的かつプリミティヴな肌触りを持っているような……いうなればこれは……野趣溢れる経と自生の電子音のマリアージュというべきか。

 実をいうと、「テクノ法要」より以前から、お経と電子音楽の組み合わせというのはすごく新奇なものというわけではない。90年代のヒーリング・ミュージック(筆者提案のタームでいう「俗流アンビエント」)のブームから、プロによる読経とアンビエント・テクノ的なトラックを合体させたお手軽な癒やし系(トリップ系?)CDというのは、いま全然話題に上らないだけで、結構あったりするのだ(中には、サンバとお経を合体させた異常にアッパーなCDもあったりする)。そう考えるなら、本作もそういった伝統の上にあると思われる。しかしながら、ああした「商品」っぽいCDたちと本作を決定的に隔てているのが、「奏でること/読み上げること」への、ひたむきなほどの献身だろう。湯浅の操る電子音にしても、アナログ・シンセを含む実機を扱うことによって紡ぎ出され、その響きはあくまで太く、筋肉質だ(彼女が吹くトロンボーンやユーフォニアムももちろんそう)。土屋雄作(バイオリン)、宮川剛(ドラム)という生楽器演奏の活躍もごく効果的で、とくに、生ドラムのスポンテニアスなプレイは素晴らしいし、千葉兼如のサックスを交えたホーンのジャズ・ロック的なアンサンブルも面白い。そして、主役たるお経も、その声は朗々としてハリがあり、ヴォイス・コントロール(という語を読経に対して使って良いものなのかどうかわからないが)も、実に音楽的だ。
 個人的なベストは、④“INORI ~Traverse across the universe”。禁欲的なリフレインが敷かれた中で、マニ・ノイマイヤーやヤキ・リーベツァイトを思わせる生ドラムと、電子音が跳ね回るこれから思い起こすのは、やっぱり『ゼロ・セット』だったりする(もしコニー・プランクが喜多郎をプロデュースしたら……というような世界といったらわかりやすだろうか)。他にも、鈴木慶一からの影響を感じさせる③、現代版和レアリックな⑤、アブストラクトな和ブレイクビーツ⑥など、全編通して面白い。

 ずばり、異色作。これはやはり、スマートな編集感覚を内在化したエレクトロニック・ミュージックの器用者にはつくることができない世界だと感じる。特定のジャンルを想起させる指示的な要素があったとしても、全体に漂っているのは、シンセサイザー等の電子音楽と初めて相対したあの時代のイノヴェーターたちが実践したような、「まずは音を出してみよう」という未整理の興味からくる、湧き上がる悦びのようなものだ。それはもしかすると、すぐれた仏教者が朗々と経を上げるときに抱くであろう法悦のようなものとも、どこかで似ているのかもしれない。

Sleaford Mods - ele-king

 最新作『Spare Ribs』がUKチャートの4位を獲得したスリーフォード・モッズ(アナログ盤のチャートでは1位)。そのことからも彼らの人気っぷりがうかがえるが……そう、イギリスでは『ガーディアン』がジェイソンに「好きなTV番組は?」「好きな小説は?」「好きな食べ物は?」と尋ねる記事まで出るくらいのスターなのだ。他のメディアでも彼らは大人気である。
 さて、アルバムから3本目となるMVが発売日の少しまえに公開されていたのを報じそびれていたので、紹介します。曲は “Nudge It”。レーベルメイトにあたるメルボルンのバンド、アミル・アンド・ザ・スニッファーズのヴォーカリスト、エイミー・テイラーが客演している。

 この曲で歌われているのは階級制度にたいする不満と、もうひとつ、労働者階級のことをわかったつもりになって語る、労働者階級じゃないひとたちへのフラストレイションだ。「想像してみてくれ。自分に限られたオプションしか残されていなくて、今週どうやってやり切るかもわからない。住みたくもないジメジメしたアパートの窓から外を見ると、気取った奴らが写真撮影してるんだ。“クールな建物じゃん。俺らは君らの痛みがわかるよ” ってね」と、ジェイソン・ウィリアムソンはコメントしている。
 スリーフォード・モッズは、リアルだ。

最新作『Spare Ribs』から新曲「Nudge It」MV公開!

スリーフォード・モッズの最新アルバム『Spare Ribs』は、2021年1月15日(金)世界同時リリース。日本流通盤CDには解説書が封入される。アナログ盤は、通常のブラック・ヴァイナルに加え、数量限定クリア・グリーン・ヴァイナルが同時発売。各店にて予約受付中。

label: BEAT RECORDS / ROUGH TRADE
artist: Sleaford Mods
title: Spare Ribs
release date: 2021/01/15 FRI ON SALE

国内使用盤CD
 RT0197CDJP ¥2,000+税
CD 輸入盤
 RT0197CD ¥1,900+tax
LP 限定盤
 RT0197LPE (Clear Green Vinyl) ¥2,600+tax
LP 輸入盤
 RT0197LP ¥2,600+tax

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11535

Bicep - ele-king

 こいつはめでたい。先日リリースされたバイセップのニュー・アルバム『Isles』が、なんと、UKチャートの2位にランクインしている。そう、彼らはUKでは1万人規模の公演を即完させるビッグなグループなのだ。

 そのバイセップの新作が「島」をテーマにしているところは興味深い。タイトルの「島々」とは、彼らの故郷たるアイルランド島と、現在拠点を置くグレイトブリテン島を指しており、そこには複雑な感情が込められている。ベルファスト生まれのデュオにとってイングランドはべつの島であり、べつの国なのだ。
 かつて地元にシャインというクラブがあったこと、そこでロラン・ガルニエがDJをしたこと、同郷の先輩デヴィッド・ホルムズがシュガー・スウィートというクラブをやっていたこと──それらが彼らにとっていかに大きなことだったか、ふたりは「アイリッシュ・タイムズ」紙に語っている。緊迫した宗教問題を背景に持つ北アイルランドにおいて、特定のコミュニティに属さないクラブという場へ足を運ぶことは、ある種の解放でもあったと。
 また同紙で彼らは現在のコロナ禍についても、じぶんたちが2009年の金融危機のときに出てきたことを振り返りながら語っている。いわく、アーティストは互いに助けあい、互いに親切であらねばならない、と。この、クラブが満足に役割を果たせない時代において、バイセップのダンス・ミュージックがチャートの上位に食いこんだことは、とても大きな意味をはらんでいるだろう。

 2月26日にはオンラインでのライヴ配信が予定されている。下記よりチェック。

UKチャート初登場2位獲得!
ディスクロージャーに続く新世代UKダンス・アクトの大器、
バイセップの最新作『Isles』は現在発売中!
2月26日には貴重なオンライン・ライブ配信も開催!

UKダンス・ミュージックの新たな大器、ここに登場 - ele-king

近未来的な音色は我々の耳と脳を揺さぶるだろう - MUSIC MAGAZINE

次代のスタジアム級ダンス・アクトがルーツを見つめ表現力を格段に向上 - bounce

UKガラージからIDMまで内包、多様に広がるダンス音楽 - Pen

ブログからスタジアムへ──フリー・シェア時代のバイセップ成功物語 - Mikiki

逆境に立ち向かうためのダンス・ミュージック - Mikiki

北アイルランドのベルファスト出身でロンドンを拠点に活動するマット・マクブライアーとアンディ・ファーガソンから成るユニット、バイセップ。UKで1万人規模の公演を即完させる人気を誇る、今最も注目を集める彼らの最新作『Isles』がUKチャート初登場2位を獲得! 伝説のブログ "FeelMyBicep" から始まった彼らのキャリアだが、今やディスクロージャーに続く、新世代UKダンス・アクトの中心であり、名実ともにアンダーワールドやケミカル・ブラザーズといったスタジアム級のアーティストにも肩を並べるであろうトップ・アーティストとして世に認められる形となった。

Bicep - Isles
https://bicep.lnk.to/isles

本日より、代官山 蔦屋書店にてバイセップとブラック・カントリー・ニュー・ロード(Black Country, New Road)のアルバムリリースを記念し、〈Ninja Tune〉コーナーが登場! 両作品の新作展示に加えて、今週末からは〈Ninja Tune〉のレーベルグッズが店頭に並ぶ予定となっている。

期間:2月1日~2月18日
https://store.tsite.jp/daikanyama/

また、彼らは2回目となるオンライン・ライブ配信、"Bicep Global Livestream”を日本時間の2月26日19:30より公開する予定となっている。配信では過去作に収録されている曲のリメイク版や、最新作『Isles』に収録された楽曲のエクステンデッド・バージョンなどが披露される予定。前回同様、スクエアプッシャーのアートワークやビデオを手がける Black Box Echo によるビジュアルを楽しむこともできる。

日時:2月26日(金) 19:30~ (日本時間)
チケット:https://bit.ly/35C5WIn

更に、リリースを記念して現在彼らのアートワークからのインスピレーションを得た "Isle Album Filter" がインスタグラムで公開中!
https://www.instagram.com/ar/1259988877720444/

2年に及ぶ制作期間を費やした『Isles』は、2017年のデビュー・アルバム『Bicep』から表現力を発展させ、さらにベルファストで過ごした若き日から10年前にロンドンに移るまでの間に彼ら自身の人生と音楽活動に影響を与えてきたサウンド、経験、感動をより深く追求しており、その期間に彼らが触れてきた音楽の幅広さが、アルバムの極めて多彩な音を形成している。ふたりとも、ヒンディー語の歌声が遠くの建物の屋上から聞こえてくることや、ブルガリア語の合唱曲の断片が通りすがりの車から耳に届いてくることや、ケバブ屋で流れるトルコのポップ・ソングの曲名がわかるかもしれないとわずかに期待しながら Shazam を起動することが楽しかったと述べる。一方で、故郷を離れて過ごす時間は、自分たちが島を渡り今の場所にたどりついたことについて、より深く考える機会にもなったという。

待望の最新作『Isles』は発売中! 国内盤CD、輸入盤CD/LP、カセットテープ、デジタルで発売され、国内盤CDには解説が封入、ボーナストラックが収録される。また、輸入盤LPは通常のブラックに加えて、限定のピクチャー盤、さらには国内盤CDと同内容のボーナストラックが収録された3枚組のデラックス盤が発売されている。

label: Ninja Tune / Beat Records
artist: Bicep
title: Isles
release: 2021/01/22

国内盤CD、輸入盤CD、輸入盤LP(ブラック)、限定盤LP(ピクチャー盤)、カセットテープ商品ページ:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11475

3枚組デラックス盤商品ページ:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11477

tracklist:
01. Atlas
02. Cazenove
03. Apricots
04. Saku (feat. Clara La San)
05. Lido
06. X (feat. Clara La San)
07. Rever (feat. Julia Kent)
08. Sundial
09. Fir
10. Hawk (feat. machìna)
11. Light (Bonus Track)
12. Siena (Bonus Track)
13. Meli (I) [Bonus Track]

R.I.P. Sophie - ele-king

野田努

 スコットランド出身のエレクトロニック・ミュージッシャン/DJのソフィー(Sophie Xeon)が2021年1月30日、事故によって亡くなった。アテネの自宅で満月を見るため手すりに登った際、バルコニーから滑り落ちたという。没年34歳。なんということか。
 ソフィーの並外れた才能はひと言で言い表すことができるだろう。オウテカと〈PCミュージック〉の溝を埋めることができるおそらく唯一の存在だったと。トランス・ジェンダーの彼女は10年代におけるクイア・エレクトロニカ(アルカないしはロティックなど)を代表するひとりでもあったが、同時にヴェイパーウェイヴと並走していた、“楽器としてのPC” を使う世代によるエレクトロニック・ポップ・ダンス・ミュージックにおけるもっとも前衛的なアーティストでもあった。
 アンダーグラウンドにおける彼女の最初の名声は、グラスゴーのダンス・レーベル〈Numbers〉のシングルから来ている。「Bipp」は東京でも話題になったEPで、この過剰な人工的音響、甲高い女性ヴォーカル、遊び心たっぷりのべたべたにキャッチーすぎるメロディのレイヴ・ポップ・ソングは、当時はダブステップ以降のハウスやテクノに力を入れていた同レーベルのなかでは言うまでもなく浮きまくっていた。また、もうひとつ初期の代表曲 “Lemonade” にいたっては、もう、狂った機械によるポップスの再利用ないしは早送りしたR&Bによるダンス・ミュージックと言えばいいのか、ポップスの楽しい解体と言えばいいのか……、後に彼女はアヴァン・ポップと括られもするが、レイヴからラップ/R&Bを吸収した〈PCミュージック〉世代によるキャンプ趣味の入ったバブルガム・ポップのもっとも急進的な展開であったことはたしかだった(聴き方によってはエイフェックス・ツイン風にも聴ける)。その最初の成果はシングルを集めた彼女の最初のアルバム『Product(製品)』(2015)となっている。
 続く2018年の『Oil Of Every Pearl's Un-Insides』はポップと電子音楽の実験がみごとに交流する娯楽性豊かなエレクトロニカ・ポップ作品で、彼女の世界的な評価をものにした正式なデビュー・アルバムだが、そのなかの代表曲のひとつにマドンナの(80年代半ばのリリース時は伝統主義的な男から批判された曲) “マテリアル・ガール” のリフを使った “Immaterial” があるように、彼女の音楽には男性中心社会への批評も含まれていたのだと思う。とはいえJポップにもアプローチしたのは、それが一概にフェミニンな文化とは思えない日本人としては複雑な思いも正直あるけれど、土台を持たない根無し草なところはソフィー作品と共通するのかも……、いや、彼女にはダンス/レイヴ・カルチャーがある。
 だとしても、そのイマジネーションはひとつのスタイル、ひとつのカテゴリーに収まるようなものでもなかった。10年代の若く新しい感性を象徴する存在だったし、まさにこれからが期待されていた人だけに、本当に残念でならない。

小林拓音

 追悼の声が鳴りやまない。最初に訃報を伝えたのは〈PAN〉だった。以降リーフルニスガイカアルカジミー・エドガーといった彼女とコラボ経験のあるアーティストはもちろん、批評家サイモン・レイノルズが「コンセプトロニカ」というくくりで彼女と並べて論じたホーリー・ハーンダンチーノ・アモービリー・ギャンブル、さらにはRP・ブーマイク・パラディナスフライング・ロータスハドソン・モホークニコラス・ジャーズリザ・ブラック・ドッグジェイリンイグルーゴーストエンジェル・ホパテンまで、数え切れないほどの音楽家たちがそれぞれの想いを吐露している。これほどアンダーグラウンドから愛されたポップ・スターはそうそういないのではないだろうか。
 そう、彼女はスターだった。ソフィーの音楽が持つキャッチーさは多くの大物たちをも惹きつけ、2013年の “BIPP” や翌年の “Lemonade” のヒット以降、彼女はマドンナやチャーリー・XCX、カシミア・キャットやヴィンス・ステイプルズといったメインストリーム陣営のプロデュースを手がけていくことになる。対象はJポップにまで及び、きゃりーぱみゅぱみゅのために曲をつくったりもしていたらしい(未発表)。それら大きめの仕事のなかでとくに印象に残っているのは、安室奈美恵&初音ミクの “B Who I Want 2 B” だ。擬似デュエットのために空間を調整しながら、ピキピキとバッシュのようなエフェクトで疾走感を演出していくさまは、いま聴いても唸らされる。
 このころまでのソフィーはまだ素性を明らかにしていない。匿名的ないし記号的なスタンスで活動していた彼女は2017年の “It's Okay To Cry” で初めて自身がトランス女性であることを公表。そのセクシュアリティは2018年のファースト・アルバム『Oil Of Every Pearl's Un-Insides』において全面展開されることになる。
 以前この作品のレヴューを書いたときは、テーマよりもサウンドのほうに引っぱられていた。トレードマークだった「バブルガム・ベース」の衣装を脱ぎ捨てアヴァンギャルドなテクノ~エレクトロニカの手法をふんだんに導入、モノマネに陥らぬよう独自に改造を施しながら、しかしポップな部分も大いに残存させた『Oil Of~』が、彼女のベストな作品であるという認識はいまでも変わらない。その圧倒的な音の強度は今日でも他の追随を許さない。
 ただ、あらためて聴きなおしてみて、このアルバムが持つコンセプトにももっと注目すべきだったと反省している。タイトルからして意味深だ。「すべての真珠の内側じゃない部分(=外側)の油」とは、いったいなんなのか? ひとはたいてい、見た目ではなく内面を重視すると、口ではそう言う。けれども外の油こそ、真珠を輝かせるものなのではないか──そんなメッセージとしても受けとれる。スコットランドはとくに保守的だとも聞くが、内と外とで異なる性を生きねばならなかった彼女にとってそれは、非常に切実な問題だったにちがいない。
 サード・シングルとなった “Faceshopping” では、「わたしの顔はショップの正面/わたしの顔は実店舗の正面玄関/わたしのお店はじぶんが向きあう顔/じぶんの顔を買うとき、わたしは本気」と、謎めいたことば遊びをとおして、アイデンティティの問題と消費社会の問題が同時に喚起される。この曲のMVではNYのドラァグ文化から影響を受けた目のくらむような光の点滅が多用され、型にはめられた彼女の顔が粉砕される。この、ことばと映像(=油)が共犯して音(=真珠)の射程を広げるありさまは、総合芸術的な試みとも言えるだろう。
 このようにサウンドの冒険とセクシュアリティの表出、深いコンセプトを一緒くたにして、メインストリームめがけてぶん投げたこと。それが『Oil Of~』の要であり、ソフィーの独創性なわけだけど、もうひとつ忘れてはならないポイントがある。随所で顔を覗かせる、レイヴ・カルチャーの断片だ。
 翌年リリースされた同作のセルフ・リミックス盤もぜひ聴いてみてほしい。ことばは相対的に後景へと退き、フロアを意識した機能的なビートが導入され、さまざまな電子音が縦横無尽に空間をかけめぐっていく。ミックスCDのごときシームレスな展開も含め、これは、『Oil Of~』がそのテーマを展開するために縮減させていた、ダンス・カルチャーにたいする敬意の表明だろう。ここには総合芸術としてのコンセプトロニカから切り落とされる、躍動と快楽がある。彼女の敬愛するオウテカがどれほど尖鋭的な試みを為そうとも、けっしてダンスから離れようとはしないのとおなじだ。
 たしかに、オウテカとの奇妙な巡りあわせに想いを馳せるといたたまれない気持ちになってくる。つい先日、長い長いときを経てようやく念願のリミックスがリリースされたばかりだったのだから。生前に完成型を聴けたことがせめてもの救いかもしれない……と思う一方で、しかしヒーローからの贈り物を受けとった直後に、月を眺めようとして落下死するというのは、物語としてあまりにできすぎではないだろうか。

Cabaret Voltaire - ele-king

 未曾有の事態のなかでまずはサウンドとして強度のある、しっかりした音楽を生み出すこと、それはやはりそれなりに人生経験を積んだ者だからこそ為しえることなのかもしれない、と昨年、26年ぶりに放たれたキャブスのアルバム『Shadow Of Fear』を聴いて思った。じっさいリチャード・H・カークは下記のように、制作はコロナ禍によってさほど影響を受けなかった、と語っている。
 そのすばらしい快作につづいて、EP「Shadow Of Funk」が2月26日にリリースされる。さらに、3月26日と4月23日には2枚のドローン作品が控えているというのだから精力的だ。いずれも『Shadow Of Fear』と関連する作品だという。大ヴェテラン、リチャード・H・カークは止まらない。

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 473 474 475 476 477 478 479 480 481 482 483 484 485 486 487 488 489 490 491 492 493 494 495 496 497 498 499 500 501 502 503 504 505 506 507 508 509 510 511 512 513 514 515 516 517 518 519 520 521 522 523 524 525 526 527 528 529 530 531 532 533 534 535 536 537 538 539 540 541 542 543 544 545 546 547 548 549 550 551 552 553 554 555 556 557 558 559 560 561 562 563 564 565 566 567 568 569 570 571 572 573 574 575 576 577 578 579 580 581 582 583 584 585 586 587 588 589 590 591 592 593 594 595 596 597 598 599 600 601 602 603 604 605 606 607 608 609 610 611 612 613 614 615 616 617 618 619 620 621 622 623 624 625 626 627 628 629 630 631 632 633 634 635 636 637 638 639 640 641 642 643 644 645 646 647 648 649 650 651 652 653 654 655 656 657 658 659 660 661 662 663 664 665 666 667 668 669 670 671 672 673 674 675 676 677 678 679 680 681 682 683 684 685 686 687 688 689 690 691 692 693 694 695 696 697 698 699 700 701 702 703 704 705 706 707 708 709 710 711 712 713 714 715 716 717 718 719 720 721 722 723 724 725 726 727 728 729 730 731 732 733 734 735 736 737 738 739 740 741 742 743 744 745 746 747 748 749 750 751 752 753 754 755 756 757 758 759 760 761 762 763 764 765 766 767 768 769 770 771 772 773 774 775 776 777 778 779 780 781 782 783 784 785 786 787 788 789 790 791 792 793 794 795 796 797 798 799 800 801 802 803 804 805 806 807 808 809 810 811 812 813 814 815 816 817 818 819 820 821 822 823 824 825 826 827 828 829 830 831 832 833 834 835 836 837 838 839 840 841 842 843 844 845 846 847 848 849 850 851 852 853 854 855 856 857 858 859 860 861 862 863 864 865 866 867 868 869 870 871 872 873 874 875 876 877 878 879 880 881 882 883 884 885 886 887 888 889 890 891 892 893 894 895 896 897 898 899 900 901 902 903 904 905 906 907 908 909 910 911 912 913 914 915 916 917 918 919 920 921 922 923 924 925 926 927 928 929 930 931 932 933 934 935 936 937 938 939 940 941 942 943 944 945 946 947 948 949 950 951 952 953 954 955 956 957 958 959 960 961 962 963 964 965 966 967 968 969 970 971 972 973 974 975 976 977 978 979 980 981 982 983 984 985 986 987 988 989 990 991 992 993 994 995 996 997 998 999 1000 1001 1002 1003 1004 1005 1006 1007 1008 1009 1010 1011 1012 1013 1014 1015 1016 1017 1018 1019 1020 1021 1022 1023 1024 1025 1026 1027 1028 1029 1030 1031 1032 1033 1034 1035 1036 1037