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Le1f

Hip Hop

Le1f

Tree House

self-released

SoundCloud

竹内正太郎   Dec 06,2013 UP

 あるいはこれを、ヒップ気取りたちによるクリシェと呼ぶ向きもあるだろう。アフロ・フューチャリズムの最新ヴァージョン……を騙ったフェイクだとかなんとか。そう、ニューヨークのアンダーグラウンド・ヒップホップ、『ピッチフォーク』が言うところの「クィア・ラップ」のシーンは、ミッキー・ブランコとリーフという得難いタレントを輩出しつつも、むしろそのわかりやすいイメージ──ニューヨーク、ゲイ、黒人、ラップ──のキャッチーさゆえにか、いまだに決定的なバズを迎えていない。
 あらためてな話になってしまうが、これは、例えば小林雅明氏が本誌の紙版『vol.8』号で書いているような「高度な作品性を兼ね備えたものも多いミックステープが、フリーダウンロードであることにもありがたみなど感じさせないほど供給過多な状況」の弊害だと思われる。こうした無限供給に近い状況は、ヒップホップの多様化を下支えするとともに、その消費の高速化にも拍車をかけている。高速化どころか、それは空虚化と言ってもいいのかもしれない。クィア・ラップの色さえも、それは軽く呑み込んでしまうのだ。
 もちろん、ミックステープの軟派な利用者のひとりとして、僕も偉そうなことを言える立場ではない。しかしあらためて今年を振り返ったとき、胃袋に縫い付けられた鉛のようにズシリとのしかかってきたのは、<UNO NYC>からリリースされたミッキー・ブランコのEP『Betty Rubble: The Initiation』であり、リーフの二枚のミックステープ、『Fly Zone』と『Tree House』だった。少なくとも「黒人音楽の現在2013」を考える時、ニューヨークのアンダーグラウンドは輝いていた。それも、とても禍々しく。真夜中のための、二重生活者のための、そしてアンダーグラウンドのための音楽が、間違いなくそこにあった。

 ドローント・ラップ。欧米の一部批評筋ではそう呼ばれている。とくに、リーフの2013年2作目となる本作『Tree House』は目立って異質だ。手短に言うなら、ここには宇宙とディストピアが同時に拡がっている。
 いまになって振り返れば、最初のミックステープ『Dark York』は、〈Fade to Mind〉の気鋭・Nguzunguzuらがプロデュースしていることで知られているが、それはディジー・ラスカルやM.I.A.を高校生の頃に聴いたという世代感覚がストレートに発揮されたアグレッシブな内容だった。それがここに来て、ビートはよりテンポ・ダウンし、ラップも含めてムードは終始ダウナー。ビート・プロデュースはほぼ全曲で異なるトラックメイカーが務めているが、雰囲気は共振しており、重厚でありながらドローン風に浮遊するシンセウェイヴ、地底から響いてくるような遠くも重いベース、そしてそこに、キックよりもハットやスネアが強調されたトラップめいたビートが合わせられる。一般にヒップホップと言って想像する音からすれば、これはもはや、アンビエント・ミュージック。が、限られた音のなかにあっても、シンセのうねりまで含めたトラック全体のグルーヴとしては不思議とバウンスさせてしまうのだから、各トラックメイカーたちの手腕はもう見事としか言いようがない。
 少しだけ紹介しておくなら、今年『Contact』という怪物のようなアルバムをリリースしているシカゴのThe-Drum、一作目からの付き合いにして、EP『LIQUID』を共同でリリースしているBoody、ニューヨークの注目株・Shy Guy、アメリカ生まれの日本育ちだというCybergiga、そして、3曲入りのEPのみの形式に限定して作品を配信しているLAのカッティング・エッジなネット・レーベル<TAR>からは、LAのDEに加えてUKのAeirs TVが参加し、コズミックなクローサー・トラックにして本作のベストのひとつ“Cry Bb”にビートを提供している。確かに、二木信の言うとおり、「インターネットの大海原には、Arcaに匹敵する才能はゴロゴロ転がっている」というのは間違いではない。あとは、それを誰がどう編むか、だ。
 そういう意味では、そもそもがArcaとのタッグで知られたミッキー・ブランコの作品に、<Hippos in Tanks>のGatekeeperや、ハイプ・ウィリアムズのライブ・ドラマーでもあるGobbyが参加してきたことには触れておくべきだろう。そしてもう一人、この界隈における重要人物を挙げるなら、ボルチモアのRICK RABがプロデュースした“Blood Oranges”に参加しているシンガー/ソングライター、Ian Isiahだろう。“M1NDFVCK”(http://vimeo.com/64564103#)がとにかくクラシックだが、ミッキー・ブランコともメロウなR&B“Ace Bougie Chick”で共演しているほか、アンダーグラウンドのスーパーグループ、Future Brownのアルバムにも参加予定。本人名義でも、スィートなデビュー・アルバム『The Love Champion』が<UNO NYC>からリリースされている。

 ではそろそろ、本人らのコメントを引用しつつ、冒頭の話に戻ろう。

「ゲイ・コミュニティのラッパーたちが世間の注目を浴びるのは、やはり素晴らしいことだと思う。でも、“ゲイ・ラップ”というのはジャンルではない、ということをよく理解してもらう必要がある。自分が何者であるか、というだけのことで音楽のスタイルを定義されたくないんだ。あくまでも自分が作った音楽で判断してほしい。ミックステープ『Dark York』には21もの楽曲が収められていたけど、同性愛のことをテーマにしたのはたった5曲だよ」──リーフ(『インタビュー』マガジンでの発言から

 あるいはミッキー・ブランコは、「自分の活動が(集客を前提とした)パフォーマンスである、ということをみんなよく考えるべきじゃないかな」とけん制した上で、自らの音楽を「ライオット・ガールとゲットー・ファビュラスの激しい衝突」と切れ味よく説明する。あるいは、「自分としてはただグラム・ロックをやっているつもりなんだけどね」とも(すっかり書きそびれてしまったが、クィア・ラップのシーンはミュージック・ヴィデオがどれもラディカルで、シーパンクとの共振性もたびたび指摘されている)。
 そして、詩の朗読者ないしはパフォーマー上がりのミッキー・ブランコとは対照的に、もともとトラックメイカーとして出発しているリーフは、(本人曰く)すぐにゲイのそれと分かってしまうイントネーションに当時は自信が持てず、これまでにもラッパーとして音源をリリースする機会もあったそうだが、見事に「何も起こらなかった」という。であればこそ、このような発言が出てくるのも頷けるかもしれない。「自分はエイリアンなんだって感じるよ。少なくとも、ゲイ・ラッパーなんだって言われるよりはね」
 これをアフロ・フューチャリズムの最新ヴァージョンと呼ぶのは、あまりにベタだろうか。そうかもしれない。だが、例えばアルカのミックステープ『&&&&&』の評で紹介したディストロイド的な感性、つまりインダストリアルとアンビエントとグライムを激突させてしまうセンス、あるいは本作で展開されている異形のドローントラップにしてもそうだが、それらアンバランスで宇宙的/異次元的な(それこそクィアな)ビートの鳴りを、自らのミュータント的なイメージに引き付けてしまう大胆さが、ここにはある。自分の英語力の無さを開き直るようで申し訳ないが、懇切丁寧な歌詞の翻訳集をとても待ってはいられない。ミュータント・エンジェルたちの美しいトリップに酔ってしまえ。

竹内正太郎