ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. TOKYO DUB ATTACK 2023 ——東京ダブの祭典で年を越そう
  2. André 3000 - New Blue Sun | アンドレ3000
  3. R.I.P. Shane MacGowan 追悼:シェイン・マガウアン
  4. Galen & Paul - Can We Do Tomorrow Another Day? | ポール・シムノン、ギャレン・エアーズ
  5. Jim O'Rourke & Takuro Okada ──年明け最初の注目公演、ジム・オルークと岡田拓郎による2マン・ライヴ
  6. interview with Waajeed デトロイト・ハイテック・ジャズの思い出  | ──元スラム・ヴィレッジのプロデューサー、ワジード来日インタヴュー
  7. AMBIENT KYOTO 2023 ──好評につき会期延長が決定、コラボ・イベントもまもなく
  8. interview with Kazufumi Kodama どうしようもない「悲しみ」というものが、ずっとあるんですよ | こだま和文、『COVER曲集 ♪ともしび♪』について語る
  9. Voodoo Club ——ロックンロールの夢よふたたび、暴動クラブ登場
  10. Oneohtrix Point Never - Again
  11. 蓮沼執太 - unpeople | Shuta Hasunuma
  12. Bim One Production (1TA & e-mura) Roots / Dubフェイバリット
  13. Columns 11月のジャズ Jazz in November 2023
  14. Columns ノエル・ギャラガー問題 (そして彼が優れている理由)
  15. interview with FINAL SPANK HAPPY メンヘラ退場、青春カムバック。  | 最終スパンクハッピー
  16. FEBB ──幻の3rdアルバムがリリース
  17. Big Boi - Sir Lucious Left Foot: The Son of Chico Dusty
  18. SPECIAL REQUEST ——スペシャル・リクエストがザ・KLFのカヴァー集を発表
  19. yeule - softscars | ユール
  20. 『壊れゆく世界の哲学 フィリップ・K・ディック論』 - ダヴィッド・ラプジャード 著  堀千晶 訳

Home >  Reviews >  Album Reviews > M AX NOI MACH- Raw Elements: 1999-2009

M AX NOI MACH

ElectronicExperimentalIndustrialNoise

M AX NOI MACH

Raw Elements: 1999-2009

Handmade Birds

thrilljockey

倉本諒   Jul 21,2015 UP

 エム・アクス・ノイ・マック(M AX NOI MACH)のこれまで入手困難であった自主制作音源をコンパイルしたディスコグラフィ音源、ロウ・エレメンツ(Raw Elements): 1999-2009がハンドメイド・バーズ(Handmade Birds)より間もなくリリースされる。90年代よりながきに渡り、その多くの時間をフィラデルフィアの地下シーンにてニッツァー・エブにナース・ウィズ・ウーンドを足したようなノイズ・ビートを孤独に制作してきたロバート・フランコとは何者なのだろうか。

 本作に収録されている曲のすべては彼自身が主宰するレーベル、ホワイト・デニム(White Denim)から2010年にリリースされた素晴らしいアルバム『イン・ザ・シャドウ(In The Shadow)』以前にさまざまな場所、フィリー、マサチューセッツ、バロセロナで4トラ・カセットMTRに録り貯められた“粗粗しい素材”である(彼がかつてデュオ編成で活動していたヴェイルド(Veiled)の相方はバロセロナ在住)。圧倒的にノイジーな音像、荒ぶる魂の叫び、鉄槌ビート、しかしこれはノイズ・ミュージックではない。

 ロバートいわく、「俺は自身をノイズ・ミュージシャンだと思ったことなんかないし、自分の音楽をノイズと呼んだこともない。俺の曲はノイズで作られているし、わかりやすく音楽的でもないものが反復リズムで構成されているだけだ。定義としてこれらがノイズというカテゴリーに収まってしまうのかもしれないけども、そう考えれば俺はノイズ・シーンの中では孤独だね」。

 数年前に僕がペンシルベニアのド田舎、アレンタウンのブルース・コントロール邸で弛緩していた際、近所に住んでいたエアー・コンディショニングのマット・フランコ(フランコ姓トリオでロバートと結成されたフランシスコ・フランコはマジ最高、マットとロバートの深い音楽的素養にはまったく驚かされる)や、しばしばフィリーに出かけてはバーズ・オブ・マヤやクロック・クリーナーといったローカル・ミュージシャンたちの家でチルっていた。地元のレコ屋を回れば、弛緩している僕にもフィリーはブルースとロックの町なんだってことがよくわかる。ジャック・ローズへの熱い追悼バイブスも伝わる。だけどもコイツらのように、独自の狂気をそれぞれ異なった形で開花させてしまうバンド/ミュージシャンを育むフィリーの土壌ってなんなんだろう、と弛緩しながらも疑問に感じた。

 「俺がこれらの多くを制作した環境を想像してくれ、夏のフィリー、35度の室温、暗くて狭いアパートの一室からファンで熱気をあまり素行のよろしくないご近所に流しながら自分の生活や経験を曲にしているんだよ。俺のようなフィリーのアンダーグラウンドで活動するミュージシャンはけっして多くはないんだ。だから俺が最初にここに来たころにブッキングなんて大抵は妙なロックバンド、ラップDJ、ノイズ・アクトがごっちゃ混ぜになったイヴェントで客なんか5人くらい、ゴスが一人、ヒッピーのオッサンが一人、学生が一人、ロックンロール野郎が一人、ラップ・ミュージック・ファンが一人って感じさ、いまはそれぞれが増えてきているんだ。アイツらの大半は結局仲間ウチでツルんでるだけなのがムカツくんだけども、俺はそういったジャンルの垣根をブチ壊して混沌化するイヴェントがもっともパワフルだと思うんだ」

 まぁごもっとも。たしかに彼らは狭きシーンと熱いブルースに沸騰させられたのかもしれない。本作のマスタリングを手掛けるアーサー・リズクはエム・アクス・ノイ・マックの来る新譜でもタッグを組む。長年のファンであるアーサー側からの声がかかった頃、ロバートのオープンリールは壊れ、アナログ機材でしか録音したことがない彼はもう今後新たな音源制作の予定はなかったそうだが、アーサーの助けを得た新作も間もなくリリースされるそうだ。そちらも楽しみ。

倉本諒