ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with bar italia バー・イタリア、最新作の背景と来日公演への意気込みを語る
  2. Ikonika - SAD | アイコニカ
  3. interview with Kneecap (Mo Chara and Móglaí Bap) パーティも政治も生きるのに必要不可欠 | ニーキャップ、インタヴュー
  4. MURO ──〈ALFA〉音源を用いたコンピレーションが登場
  5. Eris Drew - DJ-Kicks | エリス・ドリュー
  6. Masabumi Kikuchi ──ジャズ・ピアニスト、菊地雅章が残した幻のエレクトロニック・ミュージック『六大』がリイシュー
  7. HOLY Dystopian Party ──ディストピアでわたしたちは踊る……heykazma主催パーティにあっこゴリラ、諭吉佳作/men、Shökaらが出演
  8. ポピュラー文化がラディカルな思想と出会うとき──マーク・フィッシャーとイギリス現代思想入門
  9. heykazmaの融解日記 Vol.3:≋師走≋ 今年の振り返り WAIFUの凄さ~次回開催するパーティについて˖ˎˊ˗
  10. Autechre ──オウテカの来日公演が決定、2026年2月に東京と大阪にて
  11. R.I.P. Steve Cropper 追悼:スティーヴ・クロッパー
  12. Jay Electronica - A Written Testimony: Leaflets / A Written Testimony: Power at the Rate of My Dreams / A Written Testimony: Mars, the Inhabited Planet | ジェイ・エレクトロニカ
  13. Geese - Getting Killed | ギース
  14. The Bug vs Ghost Dubs - Implosion | ザ・バグ、ゴースト・ダブズ
  15. ele-king vol. 36 紙エレキング年末号、お詫びと刊行のお知らせ
  16. Nouns - While Of Unsound Mind
  17. Columns なぜレディオヘッドはこんなにも音楽偏執狂を惹きつけるのか Radiohead, Hail to the Thief Live Recordings 2003-2009
  18. DJ Narciso - Dentro De Mim | DJナルシゾ
  19. VMO a.k.a Violent Magic Orchestra ──ブラック・メタル、ガバ、ノイズが融合する8年ぶりのアルバム、リリース・ライヴも決定
  20. 発見の会60+1周年公演『復興期の精神ー近代篇』 - 2025年12月18日〜21日@上野ストアハウス

Home >  Reviews >  Album Reviews > Carl Michael Von Hausswolff- Addressing The Fallen Angel

Carl Michael Von Hausswolff

DroneNoiseSound Art

Carl Michael Von Hausswolff

Addressing The Fallen Angel

Sähkö

Spotify HMV Amazon iTunes

デンシノオト Jan 22,2020 UP

 この『Addressing The Fallen Angel』は、スウェーデンのストックホルムを拠点とするヴェテラン・サウンド・アーティストにして、アート・キュレイターとしても著名なカール・ミカエル・フォン・ハウスウォルフ(1956年生まれ)が、2019年にリリースしたアルバムである。
 「CM von Hausswolff」名義でも知られる彼は80年代から活動を開始し、あの〈sub rosa〉、〈touch〉、〈raster-noton〉、〈iDEAL〉などの錚々たるレーベルからアルバムを発表してきた才人。本作『Addressing The Fallen Angel』はトミ・グロンルンドと故ミカ・ヴァイニオ主宰によるテクノイズ・レーベルの老舗〈Sähkö〉からリリースされた作品だ。
 くわえてカール・ミカエル・フォン・ハウスウォルフは音源作品のみならず、インスタレーション作品も制作し、「ドクメンタ」や「サンタ・フェ・ビエンナーレ」などの国際美術展などに参加している。『Addressing The Fallen Angel』もまたブルックリン「ピエロギ・ギャラリー」、メキシコ「ルフィーノ・タマヨ博物館」、ドイツ「カールスルーエ・アート・アンド・メディア・センター」で展示されたインスタレーション作品の音源化という。

 ハウスウォルフは、「電気および嗅覚などの刺激から、音響に加えて光などを組み合わせることで、観客の感覚を変化させる作品」を制作してきた。ゆえにこの種のエクスペリメンタルな音楽作品の中でも音楽から限りなく離れた音響作品となっている。いわば音の彫刻であり、音響によるアブストラクト・アートである。
 もちろん本作『Addressing The Fallen Angel』もまた極度に削ぎ落された痩せたドローンが持続するサウンドとなっている。テープが経年劣化で変化を遂げていったような音響は、ほかのドローン作家の作品にはないマテリアルな幽玄性とでもいうべきムードを放っている。音の肌理と変化に聴き入っていると、覚醒と陶酔の「はざま」の状態へと導かれていくかのようになる。
 本アルバムにもそのような硬派なサウンドオブジェが2曲収録されている。18分19秒におよぶ1曲め “Addressing The Fallen Angel (part one)” は、ドローン(持続音)に加えてテキストのリーディングが重ねられている。15分4秒ほどの2曲め “Addressing The Fallen Angel (part two)” は、機械的な持続音が次第にノイジーな響きへと変化するトラックだ。2曲それぞれドローンの向こうにラジオのノイズのようなサウンドが微細に重ねられたり、音量を微細に変化させたりするなど、シンプルながら効果的な手法を駆使している。近年の作品ではマニアの評価の高い『Squared』(2015/〈Auf Abwegen〉)や『Still Life - Requiem』(2017/〈Touch〉)に匹敵するテクノイズ/音響作品の傑作といえよう。
 これらのアルバムも含めてハウスウォルフの音響作品は、「無常/無情の世界」というか、「人間以降の荒野」というか、「ヒトのいない世界」というか、とにかく無機質な叙情が漂っている。なかでもテクノイズの総本山(?)〈Sähkö〉からのリリース作である本作『Addressing The Fallen Angel』は、非人間的な世界を感じさせてくれるようなミニマルかつハードコアな音響空間を構築していた。ドローンとノイズ、マシンとヒト、無常と無情の世界。
 その結果、ハウスウォルフのサウンドは、「聴いたはずなのに聴き終わった感覚が希薄」な音響の持続になっているように思えるのだ。何回聴いても聴き終えた感覚が希薄なドローン音響。もしくは音響の記憶喪失。そう、ドローンが永遠に続く感覚とでもいうべきか。だからこそ “Addressing The Fallen Angel (part one)” における「声」の存在が、より際立ってもくる。まるで人間とマシンの対比のように。

 ちなみに2019年のハウスウォルフは、コラボレーションも旺盛だった。ジム・オルークとのアルバム『In, Demons, In!』(〈iDEAL〉)、シガー・ロスのヴォーカル・ギタリストであるヨンシーとのユニット Dark Morph 『Dark Morph』(自主レーベル)などをリリースした。これらのコラボレーションでも彼の「無常/無情の音響世界」が見事に作用している。本作『Addressing The Fallen Angel』と共にぜひとも聴いて頂きたい逸品だ。

デンシノオト