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5lack

Hip Hop

5lack

Title

高田音楽制作事務所

大前至   Jan 31,2022 UP

 USのラッパー、6lack と名前が類似しているということから、ネット上で100%言いがかりなパクり騒動→アジア人差別にまで発展してしまうという由々しき事態が今年に入ってから勃発した 5lack だが(詳しくは「5lack 6lack」で検索してみてください)、その問題とは無関係に、2021年の日本のヒップホップ・シーンを代表するこのアルバムが紹介されていなかったということで、編集部側の強い要望もあり、遅ればせながらレヴューさせていただきます。

 前作『この景色も越へて』から約1年ぶり、昨年4月にリリースされたソロ通算8枚目のアルバム『Title』。光が射す海辺の景色を用いた前作から一転して、本作はブラックホールのような黒い闇がジャケットに描かれており、このヴィジュアルが象徴しているようにアルバム全体にあまり派手さはなく、トーンとしては少し重めで落ち着いている。ただ、この重さは決して気が滅入ってくるような陰鬱なものではなくて、どこか心地良さを与えてくれるものであり、ときには神々しさまで感じさせる。それはリリックに関しても同様で、ヒップホップ的なセルフボースティングやマネートークなども含めて実に様々なトピックを扱いながら 5lack の目線は一定しており、そこには彼がいままで通ってきた人生からいまの生活にいたるまで等身大の姿が反映されている。本作のリリース日は新型コロナの第3波の直後で、世の中がまだまだ混乱している状況で、無理に明るくポップに振り切るわけでもなく、かといってダークな部分を強調するわけでもない本作の温度感は、あのタイミングに絶妙にフィットしていたようにも思える。

 これまでのアルバムと同様に本作も 5lack 自身がメイン・プロデューサーを務めており、一曲目の “Uz This Microphone” からドラムとシンプルなウワモノで構成されたトラックの上で、シャープなフロウとライムに乗せて自らがマイクを握るまでのストーリーをスピットする。この曲やあるいは ISSUGI をフィーチャした「稼がな」などは最上級にストレートなヒップホップ・チューンなのだが、アルバム全体で言えばトラックのスタイルの振れ幅は驚くほど広い。“五つノ綴り” ではオルガン(パイプオルガン?)のコードを軸にしたトラックがまるで讃美歌のような佇まいで、一方、“Nove” ではアコースティックギターの音色で奥行きのある透明感溢れるサウンドを聞かせる。“現実をスモーク” ではピアニカのメロディなどを交えたレゲエ・チューンを披露し、ラストの “つかの間” にいたってはギターとドラムで構成されたミニマルなトラックの上でラップではなく歌声を披露している。これだけ音楽的な幅広さがありながらも、声質、フロウも含めて一聴してそれとわかる 5lack のヴォーカルが乗ることで 5lack にしか表現しえない世界が見事に完成している。もちろん彼の表現の音楽的な豊かさはいまにはじまったことではないが、今回はその枠がさらに別次元へと切り開いたかのような大きな可能性すら感じる。

 また、本作には前出の ISSUGI の他に PUNPEE、YENTOWNの kZm、クレジットは無いが “近未来 200X” に GAPPER をフィーチャしており、さらにプロデューサーとしてはUS勢ふたり(brandUn DeShay、Willie B)に加えて BudaMunk がトラックを提供している。ゲスト参加曲はいずれも秀逸な出来で、例えば “Betterfly” での BudaMunk のトラックとの相性の良さは群を抜いているし、“Bad End” での kZm とのコラボレーションは良い意味で異質な輝きを放っている。そんな中でやはり注目は Kendrick Lamar や Schoolboy Q、J. Cole といったビッグネームの作品を手がけてきた Willie B がプロデュースを手がけて、実兄である PUNPEE が参加した “己知らぬ者たち” だろう。兄弟だからこその親しさと緊張感が入り混じる独特な距離感がありながら、PSG 時代とは異なる、アーティストして共に大きく成長したふたりの存在感が溢れる一曲に仕上がっている。

 ちなみに 5lack は昨年10月から『白い円盤Series』というタイトルでシングル・リリースを行なっており、現時点(2022年1月末)で5作目まで発表されている。作品のトーンとしては本作の延長上にある楽曲が揃っているようにも感じるが、この流れの中でさらに彼の次作がどのような形になるのか非常に楽しみだ。

大前至