Home > Reviews > Album Reviews > kZm- DISTORTION
東京のヒップホップシーンのなかでもスタイリッシュかつ不良性などの面で独特な存在感を放つクルー、YENTOWN。そのメンバーであるkZmが、同じくYENTOWNのChaki Zuluをトータール・プロデューサーとして迎え、前作『DIMENSION』から約2年ぶりにリリースした2ndアルバムが本作『DISTORTION』だ。
一見、ユーモラスなナレーションによってアルバムはスタートするが、“Distortion=歪み”というタイトルが示す通り、やはり一筋縄ではいかない。イントロの中で一気に音像が歪み、続くエレキギター全開の“Star Fish”によって景色は一変する。前作の時点でもトラップなどハードなヒップホップを軸にしながらも、一方で歌を披露したり、幅広い表現を行なってきたkZmであるが、本作はその延長上というよりも、時空さえも歪めて別次元へと到達しているかのようだ。YENTOWNのMonyHorseや前作にも参加した5lack、BIMに加えて、今回はLEX、Tohji、Daichi Yamamotoといった現/新世代を代表する錚々たるラッパー勢であったり、加えて小袋成彬やRADWIMPSの野田洋次郎のようなサプライズとも言えるメンツもゲストに迎え入れたりと、このラインナップだけでも実に刺激的だ。
さらに各ゲストの個性を最大限に引き出した上で、ストレートでハードなヒップホップから、アコースティックな曲調であったり、ハウス全開なダンストラックであったりと、曲ごとのカラーも実に多彩でいながら、いずれの曲も非常にレベルが高い。
また、大雑把に言うと、前半部分がラップを軸としたハードなスタイルで、後半は歌も多めになっていたり、比較的しっとりとした流れになっているのだが、kZmのラッパーとしての表現と、シンガーとしての表現の差異が実に興味深い。例えば、ラップと歌の両方を行なうアーティストは他にも多数いるが、彼の場合はそういったアーティスト達とも若干テイストが異なる。しかし、ラップと歌の間に違いがありながらも、それぞれが表裏一体で強く繋がっているようでもあり、その感覚はなんとも不思議だ。
これだけの様々な要素をひとつのアルバムのなかでしっかりとひとつの筋を見せているのは、kZm本人とそしてトータール・プロデューサーであるChaki Zuluの手腕に依るところが大きいに違いない。実際、Chaki Zulu以外にも海外からKenny Beatsであったり、国内からも多数のプロデューサーが参加しているのだが、それぞれの曲の質感の作り込みであったり、あるいは曲順も含めた構成などもあるだろうが、ひとつの作品として見事に統一されたパッケージングになっており、アルバムトータルとしては純粋にめちゃくちゃ格好良い。
そして、個人的には本作におけるサウンド面の幅広さやエッジの効いたビートの質感、ヴォーカル表現の巧妙さなどが、トラップ以降の、次に日本のヒップホップが進むであろう方向性というものが強く感じられ、2020年のひとつのターニングポイントとして重要な作品になるようにも思う。
大前至