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Wolf Eyes x Anthony Braxton

Free JazzNoise

Wolf Eyes x Anthony Braxton

live at pioneer works, 26 october 2023

ESP-Disk'

細田成嗣 Oct 23,2025 UP

 〈ESPディスク〉と言えばアルバート・アイラーをはじめ1960年代のアメリカのフリー・ジャズおよびアンダーグラウンドなロックの名盤(奇盤?)を多々残したレーベルとして有名だが、21世紀以降も新録をたびたび世に送り出していることは案外知られていないのかもしれない。たとえば2010年にはイーライ・ケスラーの『Oxtirn』をリリースしているし、米澤めぐみらアメリカ在住の日本人ピアノ・トリオによる『Boundary』(2018年)も〈ESPディスク〉だ。近年活況を呈する韓国のジャズ・アヴァンギャルドからはピアニストのチョン・ウンヘのソロ作『Nolda』(2021年)が出ており、韓国人初の〈ESPディスク〉からのリリースということで現地で話題を呼んだ。そのような歴史ある現在進行形のレーベルから出た2025年の新作の一つがウルフ・アイズとアンソニー・ブラクストンのコラボレーション・ライヴを収めた『Live at pioneer works, 26 october 2023』である。

 ウルフ・アイズは1996年にネイト・ヤングを中心に結成されたアメリカのノイズ系グループ。もともとヤングのソロ・プロジェクトとして始動したが、メンバー変遷を経て現在はジョン・オルソンとのデュオとして活動している。他方のアンソニー・ブラクストンは1960年代後半からキャリアを始め、シカゴのAACM(創造的音楽家たちの進歩のための協会)の初期からのメンバーであり、アルトサックスをはじめ多種類の楽器を扱う演奏家としても作曲家としても膨大かつ独創的な足跡を残してきたレジェンドだ。1994年にマッカーサー財団の「天才賞(Genius Grant)」を受賞したほか多数の賞も受賞している。理論家/教育者としての影響力も大きい。そうした両者がコラボレートするのは今回が初めてではなく、20年前に共演を果たしている。きっかけは2004年にスウェーデンのフェスティバルでブラクストンがウルフ・アイズを聴いたことだったそうで、ライヴ後にブラクストンは彼らのすべてのCD(当時すでに50枚以上は出ていたはずなのだが!)を購入、翌2005年にサーストン・ムーアが企画に関わったイベントでステージを共にし、その模様がアルバム『Black Vomit』として2006年にリリースされた。すなわち今回ESPディスクから出たアルバムは、20年近くの時を経て再び録音作品の制作が実現したことになる。

 正確には『Live at pioneer works, 26 october 2023』が出る前に、ウルフ・アイズが主導するコラボレーション・シリーズの一環として、自主制作で『Difficult Messages Vol. 5 Live in Los Angeles』が2024年にリリースされているが、25分ほどのミニ・アルバムだった。同作の録音が2023年10月4日のロサンゼルス公演で、それから約3週間後の10月26日、ニューヨークの文化センター「パイオニア・ワークス」でのライヴを録音したのが今回のESP盤である。ライヴはパイオニア・ワークスが主催する「False Harmonics」シリーズの第18回として行われ、4組の出演者のうちウルフ・アイズとアンソニー・ブラクストンはイベントのトリを飾った。約20年前の『Black Vomit』が、丁々発止のやり取りだけでなく、微弱な電子音響から耳を聾する轟音、そのノイズの嵐を掻き分けてサックスが浮かび上がるダイナミックな熱気に満ちていたのに対し、新録のESP盤はまさに円熟と呼びたくなる変化を遂げている。そもそも20年前の共演ではウルフ・アイズのメンバーはネイト・ヤング、ジョン・オルソン、マイク・コネリーの3人だったのに対し、コネリーが脱退して(入れ替わるように参加したジェイムス・バルジョーも抜け)、ヤングとオルソンのデュオになったという違いはあるのだが、むしろ音のヴァリエーションはESP盤のほうが豊かに感じるのである。強烈なハーシュノイズ、うねるような電子音、スペーシーなエフェクト音に加え、パイプや電子ノイズがまるでサックスのようなフリーキーな響きを奏でる。そこにブラクストンがソプラニーノ、アルト、さらにバスとサックスを持ち替えながら、時に朗々と、時に素早く、あるいは雑味を交えてフレーズを挟んでいく。場面によってはまるで多重録音された複数のサックスが複層的に絡み合っていくかのようだ。ここにはノイズの海をサックスが泳ぐような構図はないものの、そのことによってかえって、ウルフ・アイズとアンソニー・ブラクストンがさらに一体となっているようにも思うのだ。

 それにしてもブラクストンのサックス演奏は耳を惹きつける。とりわけ今回のESP盤では熱が入る場面も多々あり、唸り声を上げながら息を吹き込む様子には鬼気迫るものを感じた。思えば名盤『For Alto』(1971年)でサックス奏者としての音楽言語を披瀝したブラクストンだったが、近年は演奏家というよりも作曲家/理論家/教育者としての存在感が強かった。実際、今年80歳を迎えたブラクストンを祝してリリースされた8枚組大作アルバム『Trillium X』は彼が取り組んでいるオペラの作品であるし、書籍『Anthony Braxton - 50+ Years of Creative Music』の付属CDである『2 Comp (2023)』もタイトル通りコンポジション作品だった。彼が独自に開発してきた音楽システムを、下の世代のミュージシャンを交えて実践/発展させてきたのが近年のブラクストンの活動の特徴でもあった。あるいは、やはり生誕80周年を記念してサックス奏者スティーヴ・リーマンが捧げたアルバム『The Music of Anthony Braxton』は、現代のジャズ・ミュージシャンが作曲家としてのブラクストンを解釈することに重きが置かれていた。日本でも、新世代を中心とした刮目すべき即興音楽コンピレーション・アルバム『1,000,000 CHARGE OF PSYCHIC YOUTH』に、サックス奏者の山田光が、演歌のようなテーマから始まるブラクストン作曲の “Composition No.77 E” の演奏を寄せていた。そうした状況を踏まえても、今回のESP盤における、声を漏らしながら迫真のパフォーマンスを繰り広げるブラクストンの姿は、演奏家としての現在の彼にあらためて耳を傾けるという意味でも重要だろう。

細田成嗣