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Wolf Eyes

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Wolf Eyes

I Am A Problem: Mind In Pieces

Third Man Records

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倉本諒   Dec 02,2015 UP

 ネイト・ヤング、ジョン・オルソンにギタリストのジェイムス・バルジョーが加わり、3ピース編成の新生ウルフ・アイズとして発表した2013年の『ノー・アンサー/ローワー・フローア』に続く本作はなんとホワイト・ストライプスのジャック・ホワイトのレーベル、〈サードマン(Third Man Records)〉から。

 〈アメリカン・テープス(American Tapes)〉や〈ハンソン・レコーズ(Hanson Records)〉などのミシガン・ノイズ・(ノット・)ミュージック・シーンにおいて、つねにアイコン的存在でありつづけるウルフ・アイズ。アーロン・ディロウェイ、マイク・コネリー、ネイト・ヤングにジョン・オルソン、彼らがアメリカン・ノイズの歴史と言っても過言ではない。カタログ・ナンバーは999番で止まっているが、総リリース数は余裕で1000を超える──ディスコグスで見たら998番が11枚もある!──〈アメリカン・テープス〉を主宰するジョン・オルソンが近年声高に唱える「ノイズは死んだ。われわれはトリップメタルである」とはいったいどういうこっちゃ?

 90年代初頭に田野幸治氏のMSBRに触発され音楽活動とレーベルを開始したオルソンにとって、それらは単なるDIYに根ざした方法論でしかなかった。それは身の回りのガラクタで積み上げる壮大な実験であり、80年代のヨーロッパやフロリダのデスメタル等で盛んに行われたテープ・トレーディングのカルチャーと同様だ。しかしDIYゆえに生まれるミステリーとロマンがそこにはあった。多くの人間はたしかにそれらを「ノイズ」と捉えるかもしれないが、それらは極度に抽象化したロックであったり、フォークであったり、テクノであったり、音楽そのものであったのだろう。
 「誰でも作れるけども唯一の音楽、誰でも作れるが唯一の形。それはコミュニケーション・ツールだ」。ジャック・ホワイトもそういったカルチャーに熱心なファンの一人であり、今回のリリースに繋がったようだ。

 前作の『ノー・アンサー〜』から完全にジャムを止めてソングを奏でるようになったウルフ・アイズ。ネイトとオルソンによる超抽象ブルース・ユニットであるステア・ケース(Stare Case)にジェイムズが加わるような形でいまのウルフ・アイズは成り立っている。ジェイムズのリフを中心としたソング・ライティングの展開、またネイトとオルソンいわく、もはやドラッグや酒でハイになってジャムる年齢ではないことから、自然とコンポジションとメロディが際立つ本作は、なによりもミシガンや中西部のロックを強く感じさせる。オウサム・カラーからネガティヴ・アプローチ、果てはMC5からストゥージスまで……。

 オルソンが自称するトリップ・メタルには正確な定義はない。それは単に彼の美意識に共鳴するものであれば何でもいいわけである。それは過去数年間で多くのノイジシシャンがなんちゃってテクノをプレイすることへの皮肉とも捉えられるし、メディアとツールの発達から生じる現在のアマチュアリズムが、彼がこれまで愛してきた「誰でも作れるけども唯一の音楽、誰でも作れるが唯一の形というコミュニケーション・ツール」という「ノイズ」を殺したということかもしれない。アンダー・グラウンドDIYカルチャーに社会性を与えることはけっして悪いことではないし、ネットを通じて自分の自分による自分のための超一方通行の作品発表を行うことこそ今日的な方法論であることはわかっている。しかし僕はこのアルバムを聴きながらウルフ・アイズがこれまで築いてきた膨大なアナクロの山に思いを馳せている。

倉本諒