ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Klara Lewis - Opening | クララ・ルイス
  2. R.I.P. 鷲巣功
  3. interview with Kinnara : Desi La 「アートによって、私は世界に満足できるようになりました。アートが、私の孤独の多くを壊してくれたのです」 | ──緊那羅:デジ・ラ、インタヴュー
  4. 別冊ele-king パンク50周年記念号──それは何だったのか、何でありえるのか
  5. sibasi kyoto ──京都のレコード喫茶/カルチャー・スペース「しばし」が展覧会シリーズを始動、初開催はテリー・ライリーのオーディオ・インスタレーション
  6. Cornelius - Refractions | コーネリアス
  7. Kim Doeon - SLAPSTICK | キム・ドオン
  8. interview with Wendell Harrison 音楽の楽園=デトロイトから、ウェンデル・ハリソンがファラオ・サンダースとサン・ラーの思い出を語る
  9. Dusty - Dusty & Friends / Commodo - Deep Harbour ft. Alfa Mist / Untold - False Vacuum
  10. ele-king vol.37 ボーズ・オブ・カナダ大研究/サイケ&ドリーミー特集
  11. Factory Floor - JPN  / Carter, Tutti, Void - Transverse | ファクトリー・フロア
  12. This Is Lorelei - The Singer in My Band | ディス・イズ・ローレライ
  13. YUKINO INAMINE + AKIO NAGASE ──琉球ダブ・ダンス・サウンドに注目
  14. 鷲巣功
  15. Columns 内田裕也さんへ──その功績と悲劇と
  16. Columns P-VINE 50th Anniversary Interview Pヴァイン50周年対談
  17. RYUICHI SAKAMOTO + SHIRO TAKATANI AMBIENT KYOTO - TOKYO -
  18. Lambchop - Punching the Clown | ラムチョップ
  19. 対談 半世紀を経て蘇る静岡ロックンロール組合
  20. Tohji - angel

Home >  Reviews >  合評 > Holy Other- Held

12

自己憐憫さえも愛らしい砂糖菓子へ 文:三田 格

E王 Holy Other
Held

Tri Angle

AmazoniTunes

 キリスト教社会におけるホーリー=聖なる存在は、唯一神というぐらいで、アザー=もうひとつの存在はありえない......し、他の多くを示唆するような修飾表現もないということは多神教をイメージさせるものでもないし......。タイトル曲とともにシングル・カットが予定されている「ラヴ・サム1」のように暗く、激しい感情が渦巻いている曲を聴いていると、安直に思い浮かぶのは、ツァラトゥストラが開祖だとされるゾロアスター教のような善悪二元論の悪(=好戦的なダエーワ)のことで、仮定の上に立って話を進めていくと、ゾロアスター教というのはイラン高原の北東部を起源とする宗教であり、イスラム教に蹴散らされてきた過去もあったりするため、背後からそれを狙い撃ちしているような不穏さを嗅ぎ取ることもできなくはない。実際、彼(女?)のデビュー・シングル『ウイ・オーヴァー(=全員、終了)』は明らかにイラン高原をヴィジュアルに使用していて(スコットランドのような標高ではない)、その佇まいはノイズのレコードにも等しい。曲も何かマントラを唱えているようだし(カップリングは『ウィズ・U』に採録された「ユア・ラヴ」)。

 とはいえ、フードを被ったままライヴをやり、いまだに実名を明かさないことに宗教的な背景が潜んでいるわけではないだろう。ネットを介したインタヴューはけっこう受けているようだし、〈トライ・アングル〉というレーベルそのものがいわば宗教コレクティヴと化している側面もあるだろうし(〈トライ・アングル〉のリリースにはKKKをイメージさせるものもあったりして、僕にはとうていわからないけれど、倉本諒によればそれは単にパロディとして使われているだけということもあるらしい。こういうセンスを正確に把握することはとても難しい)。

 いずれにしろホーリー・アザーというユニット名が正しくウィッチ・ハウスのイメージを踏襲するものであることは間違いない。『ヘルド(=開催)』で追求されている価値観は非キリスト教的なイメージに救いを求め、リヴァーブの深さや重いベースによって(仮想の)共同体意識を強くすること。それはつまり、『ジーザス・キャンプ』であらわになったキリスト教右翼がアメリカ人口の3分の1(=約8000万人)に達したといわれるゼロ年代前半のアメリカで否応もなく隆盛を誇ったドゥーム・メタルがここへきてモーション・シックネスメデリン・マーキーのような優しいドローンに変化したことと並行して起きた現象ともいえ、ドローンが継承されるのではなく、下部構造をダンス・ミュージックに置き換えたことでいわばドゥーム・ハウスとして成立したものがウィッチ・ハウスと呼ばれるようになったと解してもいいのではないだろうか。アレイスタ・クローリーの小説がイサドラ・ダンカンの描写から始まったように、希薄な身体性によって欺かれた世紀末の闇が再びダンス・カルチャーを侵食し出したのである(ガイ・リッチーが『シャーロック・ホームズ』をスチーム・パンクとして再生させたことも記号的には符号が合う)。

 そして、ドゥーム・メタルにはなかった徹底的な甘ったるさがホーリー・アザーのサウンドをエソテリックな秘境へと導いていく(ジェイムズ・ブレイクハウ・トゥ・ドレス・ウェルがレイディオヘッドなら、ホーリー・アザーやココ・ブライスはアラブ・ストラップだと言い換えてもいい)。捉えどころのないメランコリーのなかに、それを楽しむ甘美さが入り混じり、自己憐憫さえも愛らしい砂糖菓子へと変えていく。どこにもトゲらしきものはない。落ちていたのは1本の髪の毛。いくらでも自分のなかに逃げ込むことができる。人生には時としてこんな魔法が必要だろう。チルウェイヴというのがダフト・パンクとレイディヘッドの合体にしか思えなくなってきた昨今は、とくに(ああ、またしてもポップの魔法が解けていく......)。


文:三田 格

»Next 竹内 正太郎

12