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How To Dress Well

合評

How To Dress Well- Total Loss

Weird World/ホステス

Nov 06,2012 UP 北中正和、木津 毅、北中正和、木津 毅、北中正和、木津 毅、北中正和、木津 毅 E王
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性の揺らぎのR&B 文:木津 毅

E王 How To Dress Well
Total Loss

Weird World/ホステス

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 昨年の爆音映画祭の目玉、『THIS IS IT』の爆音上映を観に行くべきだったとつくづく後悔している。この世を去ったことによってスクリーンのなかで生き生きと華麗に踊ることを許されたマイケルが、立体的な音を手に入れたときに文字通り飛び出してくる様を目撃できたはずである。通常の上映を観た僕の記憶には、モニターで音を聴くのに慣れないマイケルが「いつも生の音を聴くように言われていたから」と説明するときの悲しい横顔があるばかりだ。マイケルの幽霊はしかしスクリーンのなかで踊り続け、時折そこから飛び出してくる。これからもそうだろう。

 ブリアルがR&Bの亡霊たちを呼び覚ました後、それらは後続のアーティストが生み出す様々な音にも憑依していったが、ノイズやドローンを出自とするハウ・トゥ・ドレス・ウェルのゴーストリーなR&Bはそれらと地続きでありながらも、ポップスへの関心を他のアーティストよりもちらつかせていたために新種の奇形として生み出されていた。彼、トム・クレルの新作『トータル・ロス』はそのポップス趣味をより前に出した作品になっており、得意のアトモスフェリックな音作りになっている"ランニング・バック"などはマイケル・ジャクソンの亡霊が漂っているようだ。
 ......が、たまげたのは続く"&イット・ワズ・U"である。指を鳴らす音がリズムを刻めば、ファルセットでクレルが妙に明るいメロディをシンコペートさせる。ダークウェイヴの霧は晴れている。そこに入ってくる、簡素なストンプ・ビート......下手したら、マライア・キャリーの生霊も取り憑いているのではないか。僕は思わず、必要以上にこのトラックばかりをリピートする......かつてMTVで「ヘビーローテーション」と呼ばれた行為のように。何しろクレルはここでダンスしているのである。それはフロアでのダンスでも、もちろん祭の踊りでもない。ステージの上でのダンスであり、80年代末から90年代半ばのMTVのPVのなかのそれである。
 とはいえ、『トータル・ロス』がクレルによるポップス解釈に終始しているかといえばそんなことはない。とくに前半に顕著なダークなその音には、たしかに彼が通ってきた場所の痕跡が残されているからだ。けれども『ラヴ・リメインズ』で過剰にまぶされていたノイズや音の割れは消えている。本作においてもっともストレートな成果は"コールド・ナイツ"のような、より音がクリアにゴージャスになった、ムーディなトラックに見て取るべきだろう。病的なモチーフも彼らしい??「きみの幽霊を連れて帰って一緒に休めば/君をもっと運命的存在にできる」。あるいは、前作の暗さが穏やかに消えていくことを印象づける"トーキング・トゥ・ユー"のとろけるようなトーチ・ソング以降の流れ、"シー・イット・ライト"の壮大な聖歌そして"オーシャン・フロア・フォー・エヴリシング"のアンビエント・ポップのスウィートな響きは、ハウ・トゥ・ドレス・ウェルのことをもはやウィッチ・ハウスなどといったタームでは説明できない領域にいることを鮮やかに証明している。『ラヴ・リメインズ』はホリー・アザー『ウィズ・U』の横に並べられただろう。が、本作と『ヘルド』の間にはかつてよりも微妙な距離が生じている。そんななか、"&イット・ワズ・ユー"は本作では......クレルのトラックでは、異色だと見なすのが妥当なのだろう。

 だが、アルバムを貫いているのはまさにハウ・トゥ・ドレス・ウェル、「華麗な着飾り方」という感覚であるように思う。去勢されたようなファルセット・ヴォイスと、セクシャリティの所在が曖昧なラヴ・ソング。"&イット・ワズ・ユー"で歌う相手は、フランク・オーシャンのそれと同じく「ボーイ」である。"トーキング・トゥ・ユー"で血管が切れそうな高音で歌うとき、人称は女性のものを借りている(「あなたは私を誰よりも愛してくれたわ、ぼうや」)。ただ、オーシャンのラヴ・ソングが切実な告白であったのに対し、クレルのそれはどこか衣装を借りてきているようなのである。ここにあるのは、クイアな感性である。クレルはジャネット・ジャクソンのバラッド"アゲイン"のカヴァーも披露しているが、それはアントニー・ハガティがビヨンセの"クレイジー・イン・ラヴ"をカヴァーするのと......は少し違うかもしれないが、ジェームズ・ブレイクがジョニ・ミッチェルを歌うのや、オーウェン・パレットがライヴで好んで(それこそ)マライア・キャリーの"ファンタジー"を演奏するのと、もしくはパフューム・ジーニアスが新しいヴィデオでアメフトのユニフォームとハイヒールを同時に身に着けているのと、そう遠くない振る舞いではないかと感じるられるのだ。そこにあるのは、男性性が消えていくことへの抗いがたい快感だ。
 ハウ・トゥ・ドレス・ウェルはここで、喉仏を失った男として恐ろしく感傷的なバラッドを歌い上げ、セクシャリティの非常にマージナルな地点へと肉薄している。なんて奇妙にねじれた、そして魅惑的なラヴ・ソング集なんだろう。自由と呼ばれるものの定義はさまざまだろうが、いち部の感性の鋭い男性アーティストは、自らに内在する性の揺らぎにそのヒントがあるのではないかと探っているように見える......これまでよりも、それは自然なやり方でなされている。そしてその鍵はいま、間違いなくR&Bにある。


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