ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Lucrecia Dalt & Aaron Dilloway - Lucy & Aaron (review)
  2. Abstract Mindstate - Dreams Still Inspire (review)
  3. interview with Jeff Mills + Rafael Leafar 我らは駆け抜ける、ジャズとテクノの向こう側へ (interviews)
  4. Marisa Anderson / William Tyler - Lost Futures (review)
  5. There are many many alternatives. 道なら腐るほどある 第6回 笑う流浪者、あるいはルッキズムに抗うための破壊 (columns)
  6. Cleo Sol - Mother (review)
  7. Columns 「実用向け音楽」の逆襲 ──ライブラリー・ミュージックの魅力を紐解く (columns)
  8. 地点×空間現代 ——ゴーリキーやドストエフスキー、ブレヒトや太宰の作品を連続上映 (news)
  9. Lucrecia Dalt - No Era Sólida (review)
  10. Wolf Eyes - I Am A Problem: Mind In Pieces (review)
  11. Tirzah - Colourgrade (review)
  12. Lawrence English - Observation Of Breath (review)
  13. P-VINE & PRKS9 Presents The Nexxxt ──ヒップホップの次世代を担う才能にフォーカスしたコンピがリリース (news)
  14. interview with BADBADNOTGOOD (Leland Whitty) 彼らが世界から愛される理由 (interviews)
  15. Columns Electronica Classics ──いま聴き返したいエレクトロニカ・クラシックス10枚 (columns)
  16. Little Simz - Sometimes I Might Be Introvert (review)
  17. Politics 消費税廃止は本当に可能なのか? (1) (columns)
  18. Saint Etienne - I've Been Trying To Tell You (review)
  19. Soccer96 - Dopamine (review)
  20. There are many many alternatives. 道なら腐るほどある 第3回 映画『金子文子と朴烈』が描かなかったこと (columns)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Candy Claws- Hidden Lands

Candy Claws

Candy Claws

Hidden Lands

Twosyllable

Amazon iTunes

三田 格   Aug 12,2010 UP
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 喜多郎も住んでいる米コロラド州から若き8人組による2作目(かな?)。アルバム・スリーヴからも推測できるように最初から最後までロジャー&ハマースタインを思わせる50年代風シネマ・ミュージックで貫徹され、どこをとっても甘ったるいことこの上ない。エールのようなそこはかとない厭世観もなく、エレクトロニクスを控えめにしたジェントル・ピープルの生演奏ヴァージョンとでも(マイ・スペースのリストにはアイザック・アシモフにカール・セーガン、ボブ・トンプスンにブライアン・ウイルスンの名前も散見)。

 とにかく100%夢見心地。そうとしかいえない。リチャード・M・ケッチャムの絵本か何かをイメージしたものだそうで、「知られざる暮らし」を表現しようとしたものだという。おそらくはこんな場所や生活があればいいなあとか......そういうことで、アメリカの現状からすれば逃避以外のものでもない。ただし、完成度は高いので音楽的には逃げ切っているといえる。別名義ではパンクなどもやっているらしいので(ケイヴ・ウーマン、ファイアー・ブリーサー、グレート・ルーム・ヴィクトリアン、サワー・ボーイ・ビターガールなど)、これだけを聴いて呆れた若者たちだということも適わないというか。

 考えてみれば、ゼロ年代は、対テロ戦争に監視社会、移民の暴動に大恐慌や大量失業と続いた最悪の10年だったので、反対にこれだけ桃源郷に対する思いが強く出てくることは自然だし、最悪を描写することだけがポップ・ミュージックではないともいえる(そのような気持ち=向上心があることを「動物化」に対する「人間」といい、それを食い物にしているのが江原とか勝間とか)。それこそ「シャングリ-ラ」というのもそうやって1933年にジェイムズ・ヒルトンが創作した概念で、世界大戦から逃れたくて生み出されたものだったわけだし。いまとなっては、♪夢でキス、キス、キス~とかになってますけれどー。

 ヴァン・ダイク・パークスやウォール・オブ・サウンドなど細野晴臣が参照し続けたサウンドをベース3割り増しで再現しつつ、ノスタリジック一辺倒にならない手際も実にお見事。甘ったるい音の処理はケヴィン・シールズがア・クワイエット・リボルーションのプロデュースを手掛けたパターンを思い出す。『裏』ではなく、『アンビエント・ミュージック 1969-2009』に2010年の項を追加するとしたら、間違いなくこのアルバムがエントリーです。

三田 格