ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Tohji - angel (review)
  2. Haruomi Hosono ──細野晴臣のドキュメンタリー映画が公開 (news)
  3. Kali Malone - The Sacrificial Code (review)
  4. Undefined ──注目のダブ・ユニットがUSの〈ZamZam Sounds〉から初のリリース (news)
  5. There are many many alternatives. 道なら腐るほどある 第8回 電車の中で寝転がる人、ボルタンスキーの神話 ――2019年8月11日に見たものの全て (columns)
  6. New Order ──すでに話題のニュー・オーダー来日情報 (news)
  7. Battles ──バトルスが新作を引っさげ来日 (news)
  8. Calexico / Iron & Wine - Years To Burn (review)
  9. Inoyama Land & Masahiro Sugaya ──イノヤマランドと菅谷昌弘の編集盤が、スペンサー・ドーランのレーベルからリリース (news)
  10. Ninjoi. - Masayume (review)
  11. アナキズム・イン・ザ・UK 第20回:ヤジとDVとジョン・レノン (columns)
  12. Laura Cannell - The Sky Untuned / Laura Cannell, Polly Wright - Sing As The Crow Flies (review)
  13. Solange - When I Get Home (review)
  14. Tunes Of Negation ──音楽にまだ未開の領域はあるのか、シャックルトンの新プロジェクトがすごい! (news)
  15. interview with Yutaka Hirose よみがえる1986年の環境音楽 (interviews)
  16. Tohji ──いま若い世代から圧倒的な支持を集めるラッパーが、初のミックステープをリリース (news)
  17. interview with South Penguin サイケデリック新世代が追い求める「美しさ」とは (interviews)
  18. interview with Vityazz インスト・バンドをなくしたい (interviews)
  19. Craig Leon, Jennifer Pike - Bach to Moog (review)
  20. R.I.P. Ras G (news)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Heavy Hawaii- Goosebumps

Heavy Hawaii

AmbientDream popLo-FiPsychedelicSurf

Heavy Hawaii

Goosebumps

Art Fag

Amazon iTunes

橋元優歩   May 23,2013 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加

 ここはタブーのない世界ですよ、というところに連れて行かれたら、われわれは、じゃあ思い切りタブーを犯してやろうと考えるだろうか? そう考えられる人はむしろ大物というか、将来何か偉業を成し遂げるかもしれない。多くの人は、たぶん、ただ弛緩するのではないかと思う。「やってはいけないことがない」→「よかったあ」である。タブーのない世界はただちに「無法地帯」を意味しない。......ヘヴィ・ハワイとはそんな場所のことであるように感じられる。このサンディエゴのデュオは、奇妙なリヴァーブを用いながら安心して弛緩できる空間を立ち上げてくる。

 あまりにもキャンディ・クロウズな"ウォッシング・マシーン"からはじまるこの『グースバンプス』は、彼らの初のフル・アルバム。最初のEP『HH』がリリースされたのが2010年で、キャンディ・クロウズの『ヒドゥン・ランド』も同年だから、なんとなく髪の色のちがう双子のように感じられる。ドリーム・ポップというマジック・ワードが、まさに多彩な方向へと実をつけた時期だ。これまでも散々書いてきたところなので詳細は割愛するが、それはベッドルームが舞台となり主戦場となった数年でもある。三田格が『アンビエント・ミュージック 1969-2009』に1年遅れで収録できなかったことを悔やんだキャンディ・クロウズが、おとぎ話のようにフィフティーズの映画音楽を参照したのに対し、ヘヴィ・ハワイはビーチ・ポップからネジを抜き去る。前者を浮遊と呼ぶなら、後者は弛緩。ふわふわとぐにゃぐにゃ。どちらも似たプロダクションを持っているが、音色は対照的だ。

 もともとは4人ほどの編成で活動していた彼らは、ウェイヴスのネイサン・ウィリアムスらとともにファンタスティック・マジックというバンドを結成していたこともあり、〈アート・ファグ〉からリリースしている背景にはそうした人脈図も浮かび上がる。ガールズ・ネームズとスプリットをリリースしたりもしている。レトロなサーフ・ロックをシューゲイジンなローファイ・サウンドで翻案し、ときにはポスト・パンク的な感性もひらめかせながら2000年代末を彩った一派のことだ。そのときもっとも新しく感じられたサイケデリック・ムードである。シットゲイズと呼ばれた音も彼らと共通するところが大きい。ヘヴィー・ハワイの弛緩の感覚は、ただしくこの系譜に連なるものであることを証している。
 ただし、いかなる様式化も拒みたいというようにぐにゃぐにゃしている。"ファック・ユー、アイム・ムーヴィング・トゥ・サンフランシスコ"や、"ボーン・トゥ・ライド"のように軽快な2ミニット・ポップをスクリューもどきに変換してみたり、ボーイ・リーストリー・ライク・トゥの皮をかぶったパンクス・オン・マーズといった感じの"ボーイ・シーズン"、幻覚のなかで出会うペイヴメントと呼びたい"フィジー・クッキング"などをはじめ、隙間の多いアリエル・ピンク、ピントの合わないユース・ラグーン、ちゃんとしてないザ・ドラムス、ザ・モーニング・ベンダース......いくらでも形容を思いつくけれども、とにかくユルんでいるからそのどれでもないという、ある意味で強靭なボディだ。

「あんまりマジにビーチ・ボーイズ・リスペクトとか言うなよ」という、2010年当時のビーチ・ポップ・モードに対するひとつの回答であるかもしれない。カユカス(Cayucas)のような、ザ・ドラムスやザ・モーニング・ベンダースらからほとんど更新のない音を聴いていると、彼らの骨を一本一本抜いていくようなヘヴィ・ハワイの音の方が間違いなくリアルだ。少し90年代のハーモニー・コリンを思わせるジャケットは、ぼんやりとしたエフェクトや図像を好むドリーミー・サイケのアートワークとは対照的に、クリアな視界のまま夢を見るという矜持があるようにも感じられる。そう思って眺めれば、ここでエフェクトではなく消化器でモヤを張って作られているバリアには、ここ最近というよりはナインティーズ的なフィーリングが顔をのぞかせているとも思われてくる。まあ、ぜんぶ筆者の妄想の域だけれども。

橋元優歩