ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. インディ・シーンに広がるヴァイラル・マーケティング
  2. Xylitol - Blumenfantasie | キシリトール
  3. オールド・オーク - THE OLD OAK
  4. interview with Dolphin Hyperspace ジャズの時代、イルカの実験 | 話題のドルフィン・ハイパースペース、本邦初インタヴュー
  5. Cornelius ──コーネリアスが動き出した! 新シングル「夢寝見」がリリース
  6. heykazmaの融解日記 Vol.6:⁺˚⋆。°卯月⁺˚⋆。° No!! WAR
  7. interview with D.L 俺のディグったものすべてがファンキーになる  | D.L、Dev large、ブッダ・ブランド
  8. ボカロが世界に与えた衝撃 一億回再生の意外な背景
  9. KENNY DOPE JAPAN TOUR 2026 ——ケニー・ドープ、9年ぶりの来日決定です
  10. Felix Kubin Japan Tour 2026 ——ドイツの音響ダダイスト、フェリックス・クビンが来日
  11. Whitney Johnson, Lia Kohl & Macie Stewart - Body Sound
  12. Boards Of Canada ──ボーズ・オブ・カナダ、13年ぶりのアルバムがリリース
  13. R.I.P. Afrika Bambaataa 追悼:アフリカ・バンバータ
  14. Roedelius - Tape Archive Essence 1973-1978  | レデリウス
  15. Raja Kirik - Sengkala | ラジャ・キリック
  16. Dolphin Hyperspace ──凄腕エレクトリック・ジャズの新星、ドルフィン・ハイパースペース
  17. Wendell Harrison with the Tribe Jazz Ensemble ──スピリチュアル・ジャズの巨匠、〈Tribe〉のウェンデル・ハリソンがファラオ・サンダースを演奏する注目盤
  18. ele-king vol.36 特集:日本のシンガーソングライター、その新しい気配
  19. interview with Adrian Sherwood 愛とソウルと、そしてメロウなダブ・アルバム | エイドリアン・シャーウッド、インタヴュー
  20. FESTIVAL FRUEZINHO 2026 ──気軽に行ける音楽フェスが今年も開催、マーク・リーボウ、〈Nyege Nyege〉のアーセナル・ミケベ、岡田拓郎が出演

Home >  Reviews >  Album Reviews > Wavves X Cloud Nothings- No Life For Me

Wavves X Cloud Nothings

Wavves X Cloud Nothings

No Life For Me

Ghost Ramp

bandcamp iTunes

橋元優歩   Aug 05,2015 UP

 数年来のローファイ・ブームの大立役者のひとり、ウェイヴスのネイサン・ウィリアムスと、その盛り上がりが最高潮に達し、シーンが熟した頃合いに現われた3ピース、クラウド・ナッシングスのディラン・バルディ。ネイサン・ウィリアムスがバルディを迎えるかたちで生まれたというこのコラボレーション・アルバムは、なんとなく互いが互いの資材を持ち寄ってセッションした、というようなネガティヴさとは無縁で、そこには「ウェイヴスがディラン・バルディをドライヴさせたらどうなるか?」というような、ほとんどプロデュース意識に近いものを感じる。と思っていると、実際、本作はネイサンによる兄弟ユニット、スウィート・ヴァレーによるプロデュースだとの触れ込みがあった。

 とはいえギミックはなし。ここで展開されているのは両者による順当な足し算と掛け算だけだ。誰もがとくに目新しさはないと判ずるだろうが、しかし同時に、誰もがその日の半分を“ノー・ライフ・フォー・ミー”のなかのワン・フレーズに支配されて過ごすことになるだろう。

 9曲20分強。2分足らずの胸ときめかせるガレージー・ポップ・パンクの列を縫って2本の線が走る。このコラボレーションのメカニズムをもっとも明瞭に示すのは“ハウ・イッツ・ゴナ・ゴー”だろうか。ウェイヴスらしい歪みを加えてノイジーに掻き鳴らされるギター、ポストパンク調に展開されるヴァース、それが途切れたかと思うと、ダークウェイヴ調のシンセが空間を柔らかくゆがめる──ここまではウェイヴス印だ──瞬間、バルディのヴォーカルがなんともナイーヴに入ってくる。ノイズは突如として凪ぎ、4度繰り返される短いフレーズはこの上なく印象的に耳と記憶に残される。頼りないほど優しげな声、そして2小節だけで爆発的に発揮されるそのメロディ感覚……。ネイサンは彼の宝が何であるのか、本当によくわかっている。

 つづく“カム・ダウン”も同じパターンで、コーラス部分にフィーチャーされたバルディがミニマムな小節の中でマックスな働きをみせる。もっともこれは、イントロやコード進行などにクラウド・ナッシングスのキャラクターを感じさせるが、そのよい意味で垢抜けない(本当に、よい意味でしかない!)音を、ネイサンやドラムのブライアン・ヒルがタイトで洗練されたかたちに引き締めている。スラっとしたクラウド・ナッシングスが聴けようとは。

 異色と言えば“アンタイトルドⅡ”だろうか。アルバム全体におけるインタールードのようなもので、スペーシーなアンビエント・トラックだ。大して凝ったものではないが、かつてノー・ファイとかシットゲイズなどと呼ばれた2010年代式ローファイ哲学の先にこんな表出があるかと思えば感慨深い。濁った水に沈殿するゴミや澱のように不透明な、しかしそのようなものを透過してくる光の美しさ、眩しさ──。

 そして、そこからは怒涛のようにバルディのターン。“ナーバス”の切ない疾走感。基本的にはリフレインだけが前半の彼の仕事だったが、ここでは彼を抑制していた手綱が話されてここぞと走り回っている。彼のソングライティング力……というよりはフレージング力、メロディメイカー気質というべきだろうか、その威力を思いきり感じられる曲であり、ここから先はどの曲もぶっちぎる展開。しかしこれだけ彼に全面的に役割を開放するのはこの曲だけかもしれない。

 胸いっぱいのショート・トラックに敬意を表して、印象に残る短文を、と思ったが筆者には無理だった。短く青く激しい嵐が通りすぎたあと、わたしたちの心象からはひととき影送りの空のような鮮烈なイメージが去らないだろう。バルディのワン・フレーズとは、そういう種類のものだ。
 フィジカルのリリースはアナログのみで10月の模様。

橋元優歩