ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Ryuichi Sakamoto | Opus -
  2. interview with Larry Heard 社会にはつねに問題がある、だから私は音楽に美を吹き込む | ラリー・ハード、来日直前インタヴュー
  3. 5lack - 情  | SLACK
  4. Li Yilei - NONAGE / 垂髫 | リー・イーレイ
  5. Larry Heard ——シカゴ・ディープ・ハウスの伝説、ラリー・ハード13年ぶりに来日
  6. interview with Lias Saoudi(Fat White Family) ロックンロールにもはや文化的な生命力はない。中流階級のガキが繰り広げる仮装大会だ。 | リアス・サウディ(ファット・ホワイト・ファミリー)、インタヴュー
  7. interview with Martin Terefe (London Brew) 『ビッチェズ・ブリュー』50周年を祝福するセッション | シャバカ・ハッチングス、ヌバイア・ガルシアら12名による白熱の再解釈
  8. tofubeats ──ハウスに振り切ったEP「NOBODY」がリリース
  9. The Jesus And Mary Chain - Glasgow Eyes | ジーザス・アンド・メリー・チェイン
  10. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第2回
  11. Columns 4月のジャズ Jazz in April 2024
  12. Columns ♯5:いまブルース・スプリングスティーンを聴く
  13. 『成功したオタク』 -
  14. interview with Shabaka シャバカ・ハッチングス、フルートと尺八に活路を開く
  15. 壊れかけのテープレコーダーズ - 楽園から遠く離れて | HALF-BROKEN TAPERECORDS
  16. claire rousay ──近年のアンビエントにおける注目株のひとり、クレア・ラウジーの新作は〈スリル・ジョッキー〉から
  17. Free Soul ──コンピ・シリーズ30周年を記念し30種類のTシャツが発売
  18. ソルトバーン -
  19. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第1回  | 「エレクトリック・ピュアランドと水谷孝」そして「ダムハウス」について
  20. interview with Fat White Family 彼らはインディ・ロックの救世主か?  | ファット・ホワイト・ファミリー、インタヴュー

Home >  Reviews >  Album Reviews > Cloud Nothings- Turning on

Cloud Nothings

Cloud Nothings

Turning on

Carpark Records

Amazon iTunes

橋元優歩 Oct 26,2010 UP

 ディラン・バルディという18歳の青年が率いるクリーヴランドの4人組だ。ディランは2009年に手近な録音機材を用いて自らの音を録りはじめたばかりで、ひとりではライヴができないからバンドを組んで数ヶ月、初めてのショウはリアル・エステイトとウッズのオープニングである。サウス・バイ・サウス・ウエストに出演後ウェイヴスとツアー、タイタス・アンドロニカスやベスト・コーストらとも共演済みと、新人にしてはまったく華々しい経歴を持つ。

 本作は〈カー・パーク〉が以前にリリースされていたEP等を編集したもので、〈スピーカー・トゥリー〉や〈ブリッジ・タウン〉からリリースされていた「ターニング・オン・EP」を本体として〈グループ・タイトナー〉からのシングルや限定カセット・テープ等の音源がまとまっている。列記したバンドと共通して、クラウド・ナッシングスもローファイ、あるいはシットゲイズと呼んでいいだろう。ノイジーでラフなファズ・ポップ。独特の残響感もあり、メロディにはシンプルかつ耳に残るフックがある。バンド・サウンドにおけるミニマリズム、そしてリヴァーブの重用は00年代終わりのインディ・シーンを席巻したが、もちろん彼らにもそうした時代のモードが引き継がれている。

 いまをときめく潮流であるが、個人的にはウェイヴスやベスト・コーストには信を置いていない。先人の残したローファイという遺産の上にあぐらをかいているという印象があるからだ。ウェイヴスが本年リリースの新作においてリヴァーブを外してきたことも、表現者としての向上心からというよりはただ風向きを読んだのだと感じた。シットゲイズをセカンドまでで売り抜けて大儲けしました、というわけだ。

 ディラン・バルディについてはいっさいの計算を感じない。計算なきものを崇拝しすぎるのも問題だが、これは非常に美しいEPだ。結果的にはダン・ディーコンなどを手掛けたプロデューサーがついたようだが、もともとはこのローファイ感も、企図よりは環境の不備から生まれたもののようである。はじめて録音するという高揚感、曲がどんどんできる喜び、演奏する楽しさ、そうしたものが瑞々しく収められている。とくに素晴らしいのがメロディだ。思いきり切なくてメランコリック。そして苦い。ウィーザーの整ったフック、スーパーチャンクの歪みと疾走感、ピンバックのスローコア的憂愁、オーウェンのエモ、そして遠景にビートルズとオブスキュアなロンドン・パンク。成分を分析すれば複数の要素が出てくるが、なにかそんなものではまったく説明のできないディラン・バルディの心が、大きな花瓶のような存在感で息づいている。

 よく13曲もこんなものが作れるものだ。"キャント・ステイ・アウェイク"や"ヘイ・クール・キッド"は言うまでもない。彼のメロディ・センスは"ウォーター・ターンズ・バック"や"ストラミング"などのミディアム・ナンバーにおいていよいよ冴える。それを「泣きメロ」などと呼んで矮小化するのは憚られる。若さのためかもしれないし、ビギナーズ・ラックといった部分もあるかもしれないが、これほどまっすぐなモチベーションを感じる音は久々に聴く。人びとが期待したくなる理由もよくわかる。
 ウェイヴスに足りないのは切なさである。知的でクールな彼らにとってそれはイタいものなのかもしれない。音楽に必須な要素でもない。
 こんなに激しい切なさは、神聖かまってちゃん以来である。

橋元優歩