Home > Interviews > interview with Real Estate (Martin Courtney) - プレイヤビリティと洗練の時代
リアル・エステイトはふたつの車輪で回っている。ソング・ライティングという舵をとるマーティン・コートニーと、その楽曲世界を特徴的なギター・ワークによって拡張するマシュー・モンデナイル。インディ・ファンには、もしかするとモンデナイルのほうが馴染み深いかもしれない。彼のプロジェクトであるダックテイルズは、〈ノット・ノット・ファン〉から〈ウッジスト〉、〈オールド・イングリッシュ・スペリング・ビー〉、〈アンダーウォーター・ピープルズ〉といった、USアンダーグラウンドの2010年代を準備したともいうべきレーベルを星座のようにつなぐ、重要な存在だ。
※みな、あのユーフォリックなギター・アンビエントや、穏やかながら底知れないインプロヴィゼーションに、いちどは耳を奪われたはずである。そこにはブランク・ドッグスやヴィヴィアン・ガールズのようなガレージ・バンドも、ラクーンのようなノイズ・バンドも、サン・アローのようなずっこけダブも、カート・ヴァイルのようなシンガーソングライターも、そして自身が主宰する〈ニュー・イメージズ〉のメデリン・マーキーのようなノイズ・アーティストや、エメラルズのマーク・マグワイヤなどまでを横に並べてしまう幅がある。
しかしあのモンデナイルの音がリアル・エステイトかといえば、そうではない。リアル・エステイトにはコートニーの「ソング」があり、それでこその生活感や物語がある。「水平線はいらない/空の終わりは知りたくない/かすかな景色/ぼくが生まれた場所」(“Had To Hear”)──ひかえめな筆致で描かれるのは、ダックテイルズが幻視させる無辺のユートピアではなく、むしろその真裏にあるような「郊外」、そしてそこで営まれる若くない人間の現実、ぼんやりとした不安、苦く、ときめかず、生活にまみれた恋愛などである。実際のところ、とても地味で、地道な音楽だ。
Real Estate - Atlas Domino/Hostess |
こうしたところが彼らのおもしろいところ。モンデナイルのエクスペリメンタリズムはもちろん逃げ水のごとく魅惑的に輝いているが、あくまでそうした実験性によってではなく、メンバー個々のたしかなプレイヤビリティに支えられて各楽曲を成立させているところが、いまのリアル・エステイトの存在感を一段押し上げている。それぞれの楽曲と演奏はライヴと地続きだ。そして、とても洗練されている。プレイヤビリティと洗練、これはとくに、サード・アルバムとなる今作『アトラス』においてまざまざと感じさせられる特徴だろう。録音はむろんのこと、正式にドラマーを迎え、よりかっちりとしたスタイルが整えられてもいる。タイトなドラミングによって心地よく分節される音、旋律。地に足の着いたセッションが生み出す上質なソフト・サイケ。彼らのたたずまいもアーティストというよりミュージシャンたちの連合という形容がふさわしく、そのつながりにおいてまさしくバンドといえる。ceroや森は生きているや、あるいはミツメなどが多くの人に愛される、いまこそ聴かれるべき音楽ではないかと思う。
本作はリアル・エステイトのキャリアにおいてもとくに落ち着いた作品だが、もっとも長く聴きつづけるアルバムになるはずだ。「この辺りに戻ってくると/嫌でも歳を感じる/昔過ごした家々の前を通り過ぎれば/過去の人々が見える、/……」「ここは昔と変わってしまった/でもあの懐かしい音がする/黄色の町並みを照らす光でさえ/かつてぼくらの町だった時と同じだ」(“パスト・リヴズ”) 変わっていく町の変わらない営み、そうしたものへの視線が鋭く照らしだす、生活という時間の断層。ここには、一瞬を生きるための音楽ではなく、層状に時を重ねていくための音楽が鳴っている。
自分の音楽を理解することに時間を費やさないからな。ただその時に合ったものを書いて、それを生演奏するのみ、だよ。
■これまでのなかでは、はじめのアルバム『リアル・エステイト』(2009年)がもっともトリップ感のあるアルバムだったように思います。よりダックテイルズ的でもあり、あるいはサン・アローのようなバンドとも共通する音楽として聴いていました。しかし、枚数を重ねるごとに、地に足のついたフォーク・ロックへと接近していますね。こうした傾向は、なにかあなたがたの生活などとも結びついたことなのでしょうか?
MC:ダックテイルズは、マットのもう一つのプロジェクトなんだ。だから彼の音楽にはつねに関連づけられるね。それに、サン・アローのキャメロンは僕たちの友だちだよ。僕たちのサウンドを形容する言葉を探すと、「忠実度」なんじゃないかな? いまはプロのスタジオを使ってレコーディングをしているから、そういったものを避けて通ろうとしてないしね。
■とくに、今作『アトラス』においてはドラムの果たす役割が大きいと感じます。歌ものとしての輪郭が立っていて、新たなリズムやタイム感を獲得し、表現の幅を広げていると思いますが、どうでしょうか?
MC:そうだね。ドラマーのジャクソン・ポリスが僕たちとスタジオ入りしたのは今回が初めてだったしね。今回のドラムが間違いなくいままでのどの作品よりもいいね。
■あなたがたの曲はいずれもオールタイムの名曲のようにも思われ、また、ピカピカの新しい音楽のようにも聴こえます。あなたがたが新しい音楽として人々に受け入れられるとすれば、それはどんなところだと思いますか?
MC:どうだろうね。自分の音楽を理解することに時間を費やさないからな。ただその時に合ったものを書いて、それを生演奏するのみ。そうすることによって新鮮さを保てるんだ。あとは批評家、ジャーナリストの解釈に任せるよ。
■一方で、ヒゲの風貌や“トーキング・バックワーズ”のMVなどは、さながら70年代のシンガーソングライターのようにも見えます。あなたがもっともアイデンティファイする音楽はいつの時代のどんなものなのでしょう?
MC:このアルバムの制作に取り掛かる前、間違いなくありとあらゆる70年代のロック作品に耳を向けてたね。ヒゲは本当にジョークのネタだね……、僕たちの“レット・イット・ビー”を作ってたんだ。
■あなたがたは録音物においても美しいエクスペリメンタリズムを発露させていると思うのですが、ご自身たちの意識としては、ライヴ・バンド、ジャム・バンドであるというふうに考えているのですか?
MC:もちろんだよ。
■では、音楽にとって何がいちばん大切です?
MC:正直であること。あとはたくさんの可能性に目を向けることだね。
ヒゲは本当にジョークのネタだね……、僕たちの“レット・イット・ビー”を作ってたんだ。
■曲づくりの上では、マシューさんのギターとあなたのソング・ライティングとのあいだの絶妙な緊張関係が肝であるように思えますが、おふたりはお互いの特徴や個性をどのように感じているのでしょう?
MC:バンドの一人ひとりが音楽にスペシャルなインパクトを与えているんだ。みんながベストを尽くしてそれを同時に演奏しているときに、最高のモノが出来上がるんだよ。
■“クライム”の教則ビデオ風のMVもおもしろかったですね。洒落たジョークという以上に意図したことがあれば教えてください。
MC:タブの数字を逆再生で見ると、秘密の暗号が解けるかもよ。
■あなたがたの作品にはこれまでにも何度も「サバービア」というモチーフがあらわれていますが、日本人であるわれわれにとっては、それはたとえばガス・ヴァン・サントだったりハーモニー・コリンだったり、映画やコミックなどから間接的にしか接することのない幻想でもあります。あなたがたにとっても、「サバービア」が一種の幻想であったりすることはないのですか?
MC:僕たちにとってサバービアはガス・ヴァン・サントよりもジョン・ヒューズだな。
■非常に乱暴な質問ですが、あなたのなかでは、生活と音楽とはどちらのほうがより優先されるべきものですか?
MC:それは僕が内出血を起こしていて、病院に行くのとステージに立つのとどっちを選ぶかってこと? だとしたら、僕はどんなときでも病院に行く方を選ぶよ。
■ニュー・ジャージーのいまの音楽シーンについて教えてください。
MC:育っていく環境のなかでたくさんのバンドと演奏してきて、まだその友だちが音楽を続けているっていうのはとてもラッキーなことだと思ってる。
■わたし自身、〈アンダーウォーターピープルズ〉や〈ウッジスト〉などのインディ・レーベルを心から尊敬していますが、〈ドミノ〉はあなたたちのステージを確実に世界へと広げるレーベルでもあります。ワールドワイドに活躍するようになってから、自分たちを、とくに「アメリカのバンド」として意識することはありますか?
MC:挙げてくれているレーベルはみな、古き良きユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカから来てるからね。アメリカンであることからは逃れられないね!
■トム・シックとの作業や録音について、どのような感想を持ちましたか? また、新しく学んだことがあれば教えてください。
MC:トムがいちばんだよ。いままでの中で最良のサウンドを持ったアルバムを生み出すのに、本当に手助けしてもらった。いっしょに働くのも楽しかったし、仕事しているあいだ、圧迫される感じもしなかったしね。最高のプロデューサーだし、またぜひいっしょに制作に取り組みたいって思ってるよ。
質問、文:橋元優歩(2014年4月02日)