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Susumu Yokota

Susumu Yokota

Kaleidoscope

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野田 努   Oct 01,2010 UP
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 万華鏡を回しながら覗いてみれば、変化する美しい図形のさまざまな鏡像が見える。横田進にとって32枚目となるオリジナル・アルバムは音による万華鏡だ。さまざまな音の断片、さまざまなテクスチャー――アコースティック・ギター、鐘の音、ピアノ、声、ストリングス、ポップ・ミュージック、雑音、などなど――がループして、そして変化していく。ゆっくりと催眠状態を誘うという点で言えば、昨今のチルウェイヴ/グローファイともリンクしそうだが、しかしここにディスコビートはない。ビートそのものがない。スティーヴ・ライヒめいたミニマル・ミュージックのアシッド・ハウス・ヴァージョンというか、ごくごく初期のポポル・ヴーに見られるロマン主義的風景のIDMスタイル的展開というか、アンダーグラウンドなクラブ系としてはこの国で最初に国際的な成功をおさめた横田進による『カレイドスコープ』は、作者にとって久しぶりのアンビエント作品となった。
 
 それはこの20年の、横田進の不変的な資質がよく出ている、とも言える。結局のところ......彼の初期の作品のトランス・テクノにしても、90年代半ばのディープ・ハウスの作品にしても、彼の自主レーベル〈スキントーン〉における実験作にしても、3拍子のテクノにしても、そしてこうしたアンビエントの作品にしても、横田の音楽を特徴づけているのはヒプノティックである種ドラッギーな......要するにまあ、ハンパない強度を持ったエスケイピズムにある。反復とその変化は意識と睡眠のあいだをうまく潜り抜けて、長い距離を走っていくようだ。やがて意識は茫洋として、そしてどんどん遠くなる......。
 これは明らかにトランスを誘発する仕掛けを持った音楽で、作者は立川市にある自宅のベッドルームに佇みながら、世界中にいる彼のリスナーがこのアルバムでうっとりと夢を見ている姿を想像してはほくそ笑んでいるに違いないのである。ヘッドフォンやイヤフォンで聴きながら外を歩けば、見慣れた景色も変色し、歪んで、うまい具合に迷子になれるだろう。このところ"愛""母"といった象徴的なテーマの作品が続いていた横田進だが、『カレイドスコープ』は20年に渡って彼が手掛けてきたトリップ・サウンドの最新版として楽しめるわけだ。
 
 リリース元はここ5年、彼の作品をリリースしているロンドンの〈ロー・レコーディングス〉。アンビエント作品といってもアルバムには短い曲ばかりが16曲収録されている。すべてが3~4分程度の曲で、この手の音楽が陥りがちな冗長さはなく、次から次へと曲が変わる。インストゥルメンタルの曲において曲名はリスナーにとってひとつの重要な手がかりだし、せっかくなのでいくつかの曲名の(僕の勝手な)訳も記しておこう。"あなたの煌めく目""彼女の女らしさ""9枚の花びら""発芽シンフォニー""光合成""ユリは嫉妬をかぎつける""私が目を閉じたとき""二回落ちたあとに""ふたつの空""破壊の寸前の小石""赤い月"......などなど。10曲目の"ユリは嫉妬をかぎつける"では突然「あとで気づいた......」という日本語の声がする。
 「あとで気づいた......」、いったい何に?

野田 努