MOST READ

  1. Campanella - PEASTA (review)
  2. interview with Jeff Mills100年先の人びとへ (interviews)
  3. Gabriel Garzón-Montano - Jardín (review)
  4. Arca──アルカが〈XL〉と契約、4月にニュー・アルバムをリリース、新曲も公開 (news)
  5. yahyel - ──この一風変わった名前のバンドをきみはもう知っているか? ヤイエルが500枚限定の初CD作品をリリース (news)
  6. Clap! Clap! - A Thousant Skies (review)
  7. Columns 映画『サクロモンテの丘』に見るフラメンコのDNA (columns)
  8. Kid Cudi - Passion, Pain & Demon Slayin' (review)
  9. Eccy――エクシー、7年ぶりのフルアルバムが〈KiliKiliVilla〉からリリース! (news)
  10. KANDYTOWN - ──キャンディタウンがついにメジャー・デビュー (news)
  11. interview with IO - KoolBoyの美学 (interviews)
  12. ROCKASEN──これストリートの夢心地かな、ロッカセンの素晴らしい新作が無料配信です (news)
  13. interview with Arca - ベネズエラ、性、ゼンとの出会い (interviews)
  14. Clark──破壊を超えた先の絶景……クラークがニュー・アルバムをリリース (news)
  15. yahyel(ヤイエル)を聴いたか? - ──マット・コルトンがマスタリングを手掛ける“Once”MVが公開 (news)
  16. Visible Cloaks - Reassemblage (review)
  17. interview with Sampha心を焦がす新世代ソウル (interviews)
  18. Dirty Projectors──ダーティー・プロジェクターズが4年ぶりとなる新作のリリースを発表 (news)
  19. interview with Alex Barck (Jazzanova) - ソウル・ジャズ・ハウスへと (interviews)
  20. Arthur Verocai - No Voo Do Urubu (review)

Home >  Reviews >  Album Reviews > James Blake- Enough Thunder EP

Album Reviews

James Blake

James Blake

Enough Thunder EP

Atlas/A&M

Amazon iTunes

野田 努   Oct 03,2011 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加
E王

 この1年、自分がとくに熱を入れて聴いていたのはチルウェイヴとポスト・ダブステップだから、まあ要するにウォッシュト・アウトとジェームス・ブレイクに代表されるものだったわけだ。もっとも『ジェームス・ブレイク』は、"CMYK"の抜け目のないポストモダン的な展開(周知のように、あの曲は有名なヒット曲のサンプリングを、それとわからせないように使っている)、ないしはそれまでのポスト・ダブステップの文脈を思えば、自分で歌って自分で演奏しているという点において古典的な音楽作品とも言える。まあ、日本は欧米と違って"CMYK"がクラブ・ヒットしたわけでもないので、あのアルバムの文脈はどうでもいいと言えばどうでもいいのだけれど、それでもブリアル以降の展開においてもっとも突出した1枚になったことはあらためて記しておきたい。というのも、それまでダブステップにとくに関心のなかったリスナーが『ジェームス・ブレイク』を聴いたあとにブリアルの『アントゥルー』を聴いたら良かった......などという話も耳にしている。そう考えると、ダブステップのメランコリーな響きも、日本ではむしろこれから新しいリスナーに再発見/再解釈されていくということも充分にありうる。

 「ふたりの愛が壊れるときに君は言った。『私の愛は北極星のようにつねにそこにあるわ』と」......さて、「エナフ・サンダーEP」は、すでに話題となっているジャスティン・ヴァーノン(ボン・アイヴァー)とのコラボレーション曲"フォールズ・クリーク・ボーイ・クワイア(フォールズ・クリーク少年合唱隊)"、ジョニ・ミッチェルの有名な『ブルー』(1971年)の"ア・ケイス・オブ・ユー"のカヴァーほか4曲の新曲、つまり合計6曲が収録されたジェームス・ブレイクのシングルである。『ジェームス・ブレイク』がリリースされたとき、"CMYK"の大ヒットを経験している欧米ではずいぶんと議論が、賛否両論が湧き上がった。たしかに『ジェームス・ブレイク』は、ダブステップ・シーンで有名になったプロデューサーが作ったアルバムとしては好き嫌いが分かれるようなタイプの作品だ。僕のまわりでも好き嫌いがはっきりを分かれたが、仕方がないことだと思う。なにせクセが強いし、誰もがスコット・ウォーカーやジャック・ブレルを好むわけではない。しかし、あれが嫌いだと言っているリスナーにとっても、ジェームス・ブレイクがこのあとどう進むのかは興味津々だ。ブレイクには〈ヘムロック〉レーベルのように帰れる場所があるし、その他方ではよりSSW色を際だたせるということもできる。そうした観点で言えば、「イナフ・サンダーEP」という新作は"ア・ケイス・オブ・ユー"の歌詞の一節に象徴されるだろう。「暗闇のなかで輝いているのかい? 僕を捜しているのなら、バーにいるよ」
 物悲しいピアノと彼のすすり泣くような歌声はまったく相変わらずだが、「イナフ・サンダーEP」に収録された新曲には、彼のひとつの拠り所――UKのアンダーグラウンドなクラブ・シーン――との絆を感じるものがある。最初の曲"ワンス・ウィ・オール・アグリー"で挿入されるベースはまだ大人しいが、"ウィ・マイト・フィール・アンサウンド"ではブレイクは、彼の〈ヘムロック〉での音楽性と『ジェームス・ブレイク』を融合させている。冷たいが躍動感のあるビートと不穏なアンビエントが一体となっている。"ノット・ロング・ナウ"もそういう意味で、ブレイクのエレクトロニック・ミュージックを望んでいるリスナーを満足させるかもしれない。彼のサンプリングの妙技、そして後半に重なるミニマルなブリープ音と床に響くベースライン、そして彼の歌との協奏曲は、見事と言うほかない。ジャスティン・ヴァーノンとのコラボレーションは曲の素晴らしさは、もうみなさんはご存じだと思うので、いま僕がここで書く必要はないだろう。2011年にもっとも輝かしいソウル・ミュージックを挙げると言われれば、これだ。タイトル曲の"イナフ・サンダー"は、ピアノの伴奏だけのエレジーである。

 なお、日本盤として、デビュー・アルバム『ジェームス・ブレイク』にさらに2曲のボーナス・トラック、そしてCD2として「イナフ・サンダーEP」を収録した来日記念盤もリリースされる。

野田 努