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James Blake

James Blake

Enough Thunder EP

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野田 努   Oct 03,2011 UP
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E王

 この1年、自分がとくに熱を入れて聴いていたのはチルウェイヴとポスト・ダブステップだから、まあ要するにウォッシュト・アウトとジェームス・ブレイクに代表されるものだったわけだ。もっとも『ジェームス・ブレイク』は、"CMYK"の抜け目のないポストモダン的な展開(周知のように、あの曲は有名なヒット曲のサンプリングを、それとわからせないように使っている)、ないしはそれまでのポスト・ダブステップの文脈を思えば、自分で歌って自分で演奏しているという点において古典的な音楽作品とも言える。まあ、日本は欧米と違って"CMYK"がクラブ・ヒットしたわけでもないので、あのアルバムの文脈はどうでもいいと言えばどうでもいいのだけれど、それでもブリアル以降の展開においてもっとも突出した1枚になったことはあらためて記しておきたい。というのも、それまでダブステップにとくに関心のなかったリスナーが『ジェームス・ブレイク』を聴いたあとにブリアルの『アントゥルー』を聴いたら良かった......などという話も耳にしている。そう考えると、ダブステップのメランコリーな響きも、日本ではむしろこれから新しいリスナーに再発見/再解釈されていくということも充分にありうる。

 「ふたりの愛が壊れるときに君は言った。『私の愛は北極星のようにつねにそこにあるわ』と」......さて、「エナフ・サンダーEP」は、すでに話題となっているジャスティン・ヴァーノン(ボン・アイヴァー)とのコラボレーション曲"フォールズ・クリーク・ボーイ・クワイア(フォールズ・クリーク少年合唱隊)"、ジョニ・ミッチェルの有名な『ブルー』(1971年)の"ア・ケイス・オブ・ユー"のカヴァーほか4曲の新曲、つまり合計6曲が収録されたジェームス・ブレイクのシングルである。『ジェームス・ブレイク』がリリースされたとき、"CMYK"の大ヒットを経験している欧米ではずいぶんと議論が、賛否両論が湧き上がった。たしかに『ジェームス・ブレイク』は、ダブステップ・シーンで有名になったプロデューサーが作ったアルバムとしては好き嫌いが分かれるようなタイプの作品だ。僕のまわりでも好き嫌いがはっきりを分かれたが、仕方がないことだと思う。なにせクセが強いし、誰もがスコット・ウォーカーやジャック・ブレルを好むわけではない。しかし、あれが嫌いだと言っているリスナーにとっても、ジェームス・ブレイクがこのあとどう進むのかは興味津々だ。ブレイクには〈ヘムロック〉レーベルのように帰れる場所があるし、その他方ではよりSSW色を際だたせるということもできる。そうした観点で言えば、「イナフ・サンダーEP」という新作は"ア・ケイス・オブ・ユー"の歌詞の一節に象徴されるだろう。「暗闇のなかで輝いているのかい? 僕を捜しているのなら、バーにいるよ」
 物悲しいピアノと彼のすすり泣くような歌声はまったく相変わらずだが、「イナフ・サンダーEP」に収録された新曲には、彼のひとつの拠り所――UKのアンダーグラウンドなクラブ・シーン――との絆を感じるものがある。最初の曲"ワンス・ウィ・オール・アグリー"で挿入されるベースはまだ大人しいが、"ウィ・マイト・フィール・アンサウンド"ではブレイクは、彼の〈ヘムロック〉での音楽性と『ジェームス・ブレイク』を融合させている。冷たいが躍動感のあるビートと不穏なアンビエントが一体となっている。"ノット・ロング・ナウ"もそういう意味で、ブレイクのエレクトロニック・ミュージックを望んでいるリスナーを満足させるかもしれない。彼のサンプリングの妙技、そして後半に重なるミニマルなブリープ音と床に響くベースライン、そして彼の歌との協奏曲は、見事と言うほかない。ジャスティン・ヴァーノンとのコラボレーションは曲の素晴らしさは、もうみなさんはご存じだと思うので、いま僕がここで書く必要はないだろう。2011年にもっとも輝かしいソウル・ミュージックを挙げると言われれば、これだ。タイトル曲の"イナフ・サンダー"は、ピアノの伴奏だけのエレジーである。

 なお、日本盤として、デビュー・アルバム『ジェームス・ブレイク』にさらに2曲のボーナス・トラック、そしてCD2として「イナフ・サンダーEP」を収録した来日記念盤もリリースされる。

野田 努