ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Adrian Sherwood 愛とソウルと、そしてメロウなダブ・アルバム | エイドリアン・シャーウッド、インタヴュー
  2. interview with Cameron Picton (My New Band Believe) 元ブラック・ミディのキャメロン・ピクトン、新バンドにかける想い | ──初のアルバムを送り出したマイ・ニュー・バンド・ビリーヴ
  3. dublab.jp ──LA発ネット・ラジオの日本支局、公式サイトを全面リニューアル
  4. Shuta Hasunuma Double Philharmonic Orchestra ──蓮沼執太、活動20周年記念として総勢41名の大編成によるコンサートを実施
  5. ボカロが世界に与えた衝撃 一億回再生の意外な背景
  6. Robert Johnson ──オリジナルSP盤から起こしたロバ―ト・ジョンスンの12作が10インチでリイシュー
  7. DADDY G(MASSIVE ATTACK) & DON LETTS ——パンキー・レゲエ・パーティのレジェンド、ドン・レッツとマッシヴ・アタックのダディ・Gが揃って来日ツアー
  8. There are many many alternatives. 道なら腐るほどある
  9. NordOst ──ついに松島広人による単独公演、5月8日はFORESTLIMITへ
  10. Laurel Halo - Midnight Zone (Original Soundtrack to the Film by Julian Charrière) | ローレル・ヘイロー
  11. Mamas Gun - Dig! | ママズ・ガン
  12. Stones Throw ──設立30周年記念日本ツアー開催、ピーナッツ・バター・ウルフ、ノレッジ、マインドデザイン、ミチが来日
  13. KENNY DOPE JAPAN TOUR 2026 ——ケニー・ドープ、9年ぶりの来日決定です
  14. Masaaki Hara ──熊本の喫茶店ENDELEA COFFEE京町にて『アンビエント/ジャズ』著者、原雅明によるトーク・イベント
  15. Columns Thundercat 来日を控えるサンダーキャット、その新作が醸し出すチルなフィーリングについて
  16. 別冊ele-king J-PUNK/NEW WAVE-革命の記憶
  17. interview with Ego Ella May ジャズとネオ・ソウルの邂逅 | エゴ・エラ・メイ、インタヴュー
  18. Interview with Tomoro Taguchi パンクって……何をやったらいいかわからない人、若い人たちにヒントと引き金を与えてくれた音楽であり、考えさせる音でしたね。
  19. Moemiki - Amaharashi
  20. Nondi_ - Nondi... | ノンディ

Home >  Reviews >  Album Reviews > James Blake- The Colour In Anything

James Blake

ElectronicR&B

James Blake

The Colour In Anything

ユニバーサルミュージック

Tower Amazon iTunes

木津毅   Jul 05,2016 UP

 “CMYK”、ないしはポスト・ダブステップ時代からジェイムス・ブレイクがどうして自分の名前を名乗ったのかがずっと気になっていた。ブリアル『アントゥルー』からの連続性を強調するのであればもっと匿名性の高い名義にしただろうし、何よりその音自体があるひとりの人間固有の作家性が示されているようには聞こえなかったからだ。デビュー作『ジェイムス・ブレイク』の時点で彼はすでにはっきりと歌い手であり、なるほどその意味では個人の表現ではあるわけだが、その声には極端にエフェクトが――「ゴーストのように」――かけられていた。ヒップホップとダブステップとR&BとソウルとハウスとゴスペルとIDMがありながらそのどれでもなく、ジョニ・ミッチェルからアリーヤの時代までワープできるその自在さは同時に掴みどころのなさでもあった。言葉にはパーソナルな感情がこめられているようだが抽象度が高く、それを歌う声は過度にへしゃげているときも多い。さまざまなものの間を足をつけずに浮遊する存在としての「ジェイムス・ブレイク」。気がつけばそれは、ビヨンセにまでたどりつくほど滑らかに浸食していった。

 『オーヴァーグロウン』、そして本作『ザ・カラー・イン・エニイシング』とアルバムを重ねて想像されるのは、ブレイク自身が「ジェイムス・ブレイク」とは何かを探求しているのではないかということだ。『ジェイムス・ブレイク』にはある種の幼児性や思春期性が刻まれており、『オーヴァーグロウン』でははじめて発見した愛が描かれていたが、『ザ・カラー・イン・エニイシング』ではさらにか弱くも生々しいコミュニケーション欲求が歌われている……ようだ。ビヨンセのようにはっきりと自分の立つ場所が決まっているわけではない、帰属する場所が曖昧で内向的な白人青年による、自らの内面と愛を巡るソウル・ミュージック。それをブレイクはここでモダン・ソウルと名づけている。

 全体としては、前作に続きよりシンガーソングライター的な側面を前に出し、また声にかかるエフェクトもずいぶん減ってはいるが、曲数の多さもあって中心がどこにあるのかが断定しづらいアルバムだ。“レディオ・サイエンス”のすすり泣くようなピアノとねじれてやってくるシンセ、“ポインツ”の地を這う低音とシンプルなようで歪んだリズム感覚、“タイムレス”のどこか強迫観念的なリフ……。トラックの方法論としてはこれまでのスタイルの延長にあるが、リック・ルービンの共同プロデュースによるところもあるのかプロダクションがこなれている。ジェイムス・ブレイクだけのオリジナリティを深めていった結果の作風なのだと思うが、しかしそもそものスタイル自体に掴みどころがないため、ピアノ弾き語りのバラッド“F.O.R.E.V.E.R.”にアルバムがたどりつく頃には聴いているこちらも地面に足が届かない感覚を覚える。そしてそれがゆえの、そこはかとない不安と安堵を行き来する心地、それがジェイムス・ブレイクを聴くことなのだと思える。

 事前にはカニエ・ウェストとの共作が噂されていたが、結果として参加しているのがフランク・オーシャンとボン・イヴェールだというのはアルバムにとって自然な成り行きだったのではないだろうか。きわめて折衷的なゴスペルをやっているという点ではカニエも共通しているが、カニエ的な虚勢のおもしろさではなく、自身の率直な弱さのなかになんらかの美を探っているのがオーシャンでありジャスティン・ヴァーノン(ボン・イヴェール)であり、ブレイクだからだ。ヴァーノンが参加した“アイ・ニード・ア・フォレスト・ファイア”の、メランコリックだが同時に晴れやかでもあるモダン・ゴスペルは、このふたりだからこそ作れた静かなアンセムだろう。

 もう少し曲数を絞ってタイトなアルバムにすることもできたとは思う。だが、ブレイクは自身の探究の、その混沌をも正直に提示したかったのではないか。この複雑で抽象的な愛の歌のコレクションは、ラヴ・ソング自体が定型化していくことを拒絶しているようだ。何かに熱狂するのでもない、どこに行けばいいのかわからない、彷徨える「現代の魂」たちがそれでも抱えるエモーションを、ブレイクは自分のなかに探し続けている。

 その意味でアルバムのもっとも美しい瞬間は、彼自身がエモーショナルな声を存分に聴かせるタイトル・トラックと……ラスト3曲だ。“モダン・ソウル”のよく響くピアノとアンビエントの音響、シンプルなリズムがじょじょに絡みあって、時空がねじ曲がっていくようなバラッドはブレイクのスタイルのひとつの完成形だ。「この優しい世界」と控えめに告げながらダビーな音響に溺れていくようなR&B“オールウェイズ”、そしてラストの“ミート・ユー・イン・ザ・メイズ”……「迷路のなかであなたと会おう」。アカペラで重ねられる声はまたしてもエフェクトがかけられ、まがいもののコーラスとしてゴスペルを奏でている。だがそれもまた、アイデンティティが混乱した時代や場所から発せられる真摯な歌にちがいない。

木津毅