ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Cornelius - Refractions | コーネリアス
  2. This Is Lorelei - The Singer in My Band | ディス・イズ・ローレライ
  3. RYUICHI SAKAMOTO + SHIRO TAKATANI AMBIENT KYOTO - TOKYO -
  4. Dusty - Dusty & Friends / Commodo - Deep Harbour ft. Alfa Mist / Untold - False Vacuum
  5. Rough Trade ──50周年イベント開催を祝し、恵比寿KATAにポップアップが出現
  6. Columns Dennis Bovell デニス・ボーヴェルひさびさの新録は無類のカヴァー集
  7. Columns P-VINE 50th Anniversary Interview Pヴァイン50周年対談
  8. interview with Wendell Harrison 音楽の楽園=デトロイトから、ウェンデル・ハリソンがファラオ・サンダースとサン・ラーの思い出を語る
  9. 鷲巣功
  10. interview with Toshimaru Nakamura 世界を魅了する、類い稀なる電子音響 | ──中村としまる、待望の初期ベスト盤リリースと超ロング・インタヴュー
  11. 別冊ele-king パンク50周年記念号──それは何だったのか、何でありえるのか
  12. ele-king vol.37 ボーズ・オブ・カナダ大研究/サイケ&ドリーミー特集
  13. Lambchop - Punching the Clown | ラムチョップ
  14. Fishmans ——京都でフィッシュマンズ写真展とトークイベントのお知らせ
  15. Open Mike Eagle & Kenny Segal - DOOMED! | オープン・マイク・イーグル、ケニー・シーガル
  16. AMBIENT KYOTO ──2027年春、レイ・ハラカミの展示が決定
  17. Crack Cloud ──カナダのインディ・バンド、クラック・クラウドの来日公演が決定
  18. 未来マニア──エレクトロニック・ミュージック・ガイド
  19. Betty Hammerschlag ——マニア受けしていたZ世代のe-girlシンガーが、実は中年のおじさんだったニュース
  20. R.I.P. Miru Shinoda 追悼:篠田ミル

Home >  Reviews >  Live Reviews > James Blake

James Blake

James Blake

@なんばHatch
Oct 15, 2011
文:木津 毅   写真:Teppei   Oct 18,2011 UP

 ブリアルの『アントゥルー』において、デジタル処理され歪められたR&Bヴォーカルは「幽霊のような声」だと評されたが、あれは本当に幽霊の声だったのだと思う。歌と言うよりは、悲鳴や泣き声のようにさえ聞こえたおどろおどろしく物悲しいその声たち。"ニア・ダーク"、"ゴースト・ハードウェア"、"ドッグ・シェルター"、それに"ホームレス"といったタイトル......。生霊なのか死者の霊なのか、シャマランや黒沢清が描いたような都市の内側のすぐそばで漂う幽霊たちの悲鳴を、あのアルバムは拾っていたのだろう。いまでこそダブステップはあらゆる方向に広がりを見せているが、ヴァリアス・プロダクションやブリアルの名によってそのジャンルが広まったとき、こんな風に呼ばれていたのをいまでも思い出す――「レクイエム・フォー・レイヴ・カルチャー」と。
 ジェイムス・ブレイクの"CMYK"で漂っていた声は、完全にそこから地続きで響いたものだった。けれどもそのトラックはケリスとアリーヤを「ネタ」にしていたことが後で話題になり、それらはメインストリームのR&Bが冒険的だった時代の記憶をも「亡きもの」に仕立てたという意味でより複雑な様相を示していた。そしてデビュー・アルバムでブレイクはよりシンガーソングライター的なアプローチで彼自身の歌とエモーションを披露したが、それでもそこにあった「声」は......『アントゥルー』の世界の住人のひとりになりすますかのように加工され、その個体性をぼやかしていたのだった。

 東京はソールドアウトになったというジェイムス・ブレイクの来日公演。大阪では豪華なアーティスト陣が顔を揃えたイヴェント、SATURNのいちアクトとして登場することになった。
 ふたりのメンバーを連れてステージに登場したジェイムス・ブレイクは、写真で見る以上に線の細い、いまだ大学生風情の青年だった。だがシンセの前に座ってその口を開けば、そこからアントニー・ハガティのような深く穏やかなソウル・ヴォーカルが漏れ出してくる。すぐにそこに加わる、生ドラムの打撃を機械に通して増幅されるビート......"アンラック"だ。低域の音圧が想像以上に強く、曲のビートは音源よりも強烈に叩きつけられる。ミニマルでありつつ、ランダムにも聞こえる複雑なパーカッションが、腹にずしずしと直接的にぶつかってくる。だが、恐らくそこにいた誰もが息を呑まずにいられなかったのは、彼自身の声だ。中性的でいてアンニュイで、独特のヴィブラートがかかることでどこか不安定に震えるその声。続く"アイ・ネヴァー・ラント・トゥ・シェア"では冒頭その場でサンプリングされた歌がループされ、彼自身によってコーラスが奏でられたが、それは湧き上がった歓声を押し黙らせるような迫力と緊張感を孕んでいた。だがその声は例によって極端なまでに加工されて歪められ、重々しい低音が少ない音数で地鳴りのように響くなかを浮遊する。ダブステップ譲りのへヴィなビートと、機械と人間の間を行き来しつつ発声される物悲しげなヴォーカル。それは本当に初めて体験する音楽だった。
 その音楽の幅を見せつけたのが中盤だ。"リンディスファーネ"は、孤独に震えるような歌声がそれでもギターの優しげな調べと寄り添い、ライヴ中もっとも穏やかな時間をもたらした。そして単音のシークエンスが繰り返されるとひときわ大きな歓声が上がる。"CMYK"だ! ビートは音源よりもはるかに強調され、驚くほどダンサブルでパワフルなものとして再現される。ケリスのヴォーカル・サンプルだけでなくブレイク自身の歌もそこに加わり、終盤は紛れもなくダンス・ミュージックとしての高揚を生み出していた。"リミット・トゥ・ユア・ラヴ"ではメランコリックなメロディを存分に歌い上げた後、そこにいる誰の腕も上がらないような暗く重たいダブに突入する。"クラヴィアヴェルク"はそのおどろおどろしさや禍々しさでこそ、オーディエンスを引き込む――低音が地を這う。
 ライヴはあっという間に終わりを迎える。素朴に感謝の言葉を述べたあと、最後に披露された曲は"ザ・ウィルヘルム・スクリーム"だった。メロウなメロディが繰り返され、曲が進むにしたがってパーカッションのリヴァーブは深くなり、シンセの和音が重なっていく――水中に深く潜っていくように。「僕は、僕の愛なんて知らない」――ビートがやんだ時に感じられた眩しさは、たしかにゴスペルのそれだった。

 初めて直に聴くその歌声は、まるで救いを求めるように悲しい響きをしていた。そしてそれは機械を通して加工されることで、目の前でジェイムス・ブレイクその人の元すら離れて、孤独な、忘れられた魂がすすり泣く声になっていく。もしこれを、ダブステップの後に来るべき現代のゴスペル、ソウル・ミュージックだと呼ぶのなら――それは、鎮魂歌だ。
 ブリアル以降の最良の成果がジェイムス・ブレイクであり、彼のあまりに特別な才能を目の当たりにする体験であったことは間違いない。けれどもそれは同時に、彼を通してたくさんの幽霊たちの魂と交信するような、そんな畏れを覚える夜でもあった。

(※写真は10月12日の恵比寿リキッドルームでのライヴ模様です)

文:木津 毅