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Toro y Moi

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Freaking Out

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野田 努   Oct 13,2011 UP
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 トロ・イ・モワ(チャズ・バンディック)は今年発表したセカンド・アルバム『アンダーニース・ザ・パイン』でふたつの方向性を見せている。ひとつはソフト・ロック路線、もうひとつは今回の5曲入りのEP「フリーキング・アウト(ぶっ飛び)」で展開しているディスコへのアプローチだ。
 もっとも「ジェリービーン(マドンナの初期のプロデューサーとして知られるDJ)がイーノといっしょにやった感じだ」と、この新作を喩えていた人がいたように、「フリーキング・アウト」はダフト・パンクの背中を見ているような作品ではない。『コージャーズ・オブ・ディス』で展開したチルウェイヴ感覚は活かされたまま、ダンス・ビートはよりファンキーに変換されている。音の質感は「シューゲイズ+ディスコ・ビート」そのものだと言えるが、ポップスとしての洗練度は高まり、まあ何よりも「フリーキング・アウト」は僕から見たところの80年代ディスコの場末感=あの時代のR&B色がさらに強調されている点が最高に面白いのである。

 それにしてもトロ・イ・モワは音数が多い......という風に、20年ものあいだダンスのミニマリズムに親しんできた耳には感じる。実際の話、装飾性を排除し、機能美を追求するテクノに対して、トロ・イ・モワの音楽はバターやマーガリンがこってり塗られたトーストのようにオーヴァーダブされている。キャッチーなシーケンス、随所ではエフェクトとチョップ、そして何回も重ねられるチャズ・バンディックの声......この音楽はアールデコとしてのローファイ・インディ・ディスコ・ポップとも言えなくもない。
 が、「フリーキング・アウト」が引用しているのは、ヨーロッパのシンセ・ミュージックではない。80年代のブラック・コンテンポラリーの洗練された甘いR&Bスタイルである。言うなれば、最高にちゃらい黒人音楽だ。やるせなさがあふれ出す"オール・アローン"、メロドラマ風の"フリーキング・アウト"、フィルター・ディスコ調の"スウィート"、ハウス調の"アイ・キャン・ゲット・ラヴ"......それらはチルウェイヴ/シンセ・ポップがなんだかんだと拡大して、勢いづいている現在がうながした4曲なのかもしれないが、「フリーキング・アウト」におけるシンセサイザーやリズムマシンは、ニュー・オーダーよりもジャム&ルイスに近い。実際のところ、収録曲でもっとも光っているのは、アレキサンダー・オニール(80年代のブラコンを代表するシンガー)のカヴァー曲"サタデー・ラヴ"なのだ。
 僕はリアルタイムで言えば、この手のポップR&Bとはずいぶん距離を置いていたものだったが、それがこの歳になって......なんということだろう......若い頃の自分に会わす顔がない。しかしこれが時代の風というものだろうか、ラヴ・ミー・テンダーがいまさら都会派のポップスに執着するのと無関係でもあるまい。そういえば15年前に流行ったトランスは、その"ぶっ飛び"の虚無の穴を埋めるかのように、いわばエクスキューズとして、イルカや精神世界を持ち出したものだったが、「フリーキング・アウト」の装飾性はそうした前世代のトリップとは逆の、ある種の下世話さを喚起させる。いまはその下世話さのなかに、若いよろこびとそのエネルギーを感じる。俗物としての恋愛(ロマンス)こそ最高だと言わんばかりだ。

野田 努