ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Kai Whiston - Quiet As Kept, F.O.G. (review)
  2. Natalie Beridze - Of Which One Knows (review)
  3. Kaitlyn Aurelia Smith - Let's Turn It Into Sound (review)
  4. interview with Strip Joint 新世代ジャパニーズ・インディ、自由を求める (interviews)
  5. TYPE NINE ——ハードなテクノにこだわった〈09recordings〉主催のパーティに注目(読者にTシャツ・プレゼントあり) (news)
  6. Babylon ——伝説のUKレゲエの映画、40年超しに本邦初上映 (news)
  7. Fabiano Do Nascimento / Itibere Zwarg Collective ──ブラジル音楽の新世代ギタリストと、ヴェテラン・ベーシストによる共作がリリース (news)
  8. Kendrick Lamar - “Auntie Diaries” (from 『Mr. Morale & The Big Steppers』) (review)
  9. 七尾旅人 - Long Voyage (review)
  10. R.I.P. Pharoah Sanders 追悼:ファラオ・サンダース (news)
  11. Coby Sey - Conduit (review)
  12. Pharoah Sanders ——ジャズの巨星、ファラオ・サンダース逝く (news)
  13. interview with Danger Mouse デンジャー・マウス、17年ぶりのヒップホップ・アルバムを語る (interviews)
  14. interview with Nils Frahm ポスト・クラシカルのピアニスト、珠玉のアンビエント作品 (interviews)
  15. The Lounge Society - Tired of Liberty (review)
  16. 対談 半世紀を経て蘇る静岡ロックンロール組合 (interviews)
  17. Tribute to Ras Dasher ——CULTIVATOR『VOICE OF LOVE』LPアルバム再発リリース・パーティ開催決定 (news)
  18. Kendrick Lamar - Mr.Morale & The Big Steppers (review)
  19. Loraine James ——ロレイン・ジェイムス、来日決定 (news)
  20. Kamaal Williams ──カマール・ウィリアムス、緊急来日公演が決定 (news)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Toro y Moi- Freaking Out

Toro y Moi

Toro y Moi

Freaking Out

Carpark

Amazon iTunes

野田 努   Oct 13,2011 UP

 トロ・イ・モワ(チャズ・バンディック)は今年発表したセカンド・アルバム『アンダーニース・ザ・パイン』でふたつの方向性を見せている。ひとつはソフト・ロック路線、もうひとつは今回の5曲入りのEP「フリーキング・アウト(ぶっ飛び)」で展開しているディスコへのアプローチだ。
 もっとも「ジェリービーン(マドンナの初期のプロデューサーとして知られるDJ)がイーノといっしょにやった感じだ」と、この新作を喩えていた人がいたように、「フリーキング・アウト」はダフト・パンクの背中を見ているような作品ではない。『コージャーズ・オブ・ディス』で展開したチルウェイヴ感覚は活かされたまま、ダンス・ビートはよりファンキーに変換されている。音の質感は「シューゲイズ+ディスコ・ビート」そのものだと言えるが、ポップスとしての洗練度は高まり、まあ何よりも「フリーキング・アウト」は僕から見たところの80年代ディスコの場末感=あの時代のR&B色がさらに強調されている点が最高に面白いのである。

 それにしてもトロ・イ・モワは音数が多い......という風に、20年ものあいだダンスのミニマリズムに親しんできた耳には感じる。実際の話、装飾性を排除し、機能美を追求するテクノに対して、トロ・イ・モワの音楽はバターやマーガリンがこってり塗られたトーストのようにオーヴァーダブされている。キャッチーなシーケンス、随所ではエフェクトとチョップ、そして何回も重ねられるチャズ・バンディックの声......この音楽はアールデコとしてのローファイ・インディ・ディスコ・ポップとも言えなくもない。
 が、「フリーキング・アウト」が引用しているのは、ヨーロッパのシンセ・ミュージックではない。80年代のブラック・コンテンポラリーの洗練された甘いR&Bスタイルである。言うなれば、最高にちゃらい黒人音楽だ。やるせなさがあふれ出す"オール・アローン"、メロドラマ風の"フリーキング・アウト"、フィルター・ディスコ調の"スウィート"、ハウス調の"アイ・キャン・ゲット・ラヴ"......それらはチルウェイヴ/シンセ・ポップがなんだかんだと拡大して、勢いづいている現在がうながした4曲なのかもしれないが、「フリーキング・アウト」におけるシンセサイザーやリズムマシンは、ニュー・オーダーよりもジャム&ルイスに近い。実際のところ、収録曲でもっとも光っているのは、アレキサンダー・オニール(80年代のブラコンを代表するシンガー)のカヴァー曲"サタデー・ラヴ"なのだ。
 僕はリアルタイムで言えば、この手のポップR&Bとはずいぶん距離を置いていたものだったが、それがこの歳になって......なんということだろう......若い頃の自分に会わす顔がない。しかしこれが時代の風というものだろうか、ラヴ・ミー・テンダーがいまさら都会派のポップスに執着するのと無関係でもあるまい。そういえば15年前に流行ったトランスは、その"ぶっ飛び"の虚無の穴を埋めるかのように、いわばエクスキューズとして、イルカや精神世界を持ち出したものだったが、「フリーキング・アウト」の装飾性はそうした前世代のトリップとは逆の、ある種の下世話さを喚起させる。いまはその下世話さのなかに、若いよろこびとそのエネルギーを感じる。俗物としての恋愛(ロマンス)こそ最高だと言わんばかりだ。

野田 努