ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. ダニエル・ミラーからのメッセージ ──CDやレコードをレコード店のオンラインで買いましょう!! (news)
  2. Politics コロナ恐慌を機に高まった「政府は金を出せ」の声 (columns)
  3. Columns Playlists During This Crisis この非常事態下における家聴きプレイリスト (columns)
  4. Zebra Katz - Less is Moor (review)
  5. Hiroshi Yoshimura ──入手困難だった吉村弘の1986年作『Green』がリイシュー (news)
  6. interview with Little Dragon (Yukimi Nagano) 世界を魅了した歌声、北欧エレクトロニック・ポップのさらなるきらめき (interviews)
  7. R.I.P. Gabi Delgado(ガビ・デルガド) (news)
  8. Columns Pandenic Diary (1) パンデミック・ダイアリー (1) (columns)
  9. R.I.P. Manu Dibango 追悼 マヌ・ディバンゴ (news)
  10. Squid ──ブライトンのポストパンク・バンドが〈Warp〉と契約 (news)
  11. R.I.P. McCoy Tyner 追悼 マッコイ・タイナー (news)
  12. 渡邊琢磨の自主レーベル〈Ecto Ltd.〉が『まだここにいる』のサウンドトラックをフリーダウンロードにてリリース (news)
  13. Caribou - Suddenly (review)
  14. DJ Mitsu the Beats - ALL THIS LOVE (review)
  15. Random Access N.Y. VOl.123 NYシャットダウン (columns)
  16. Moses Boyd - Dark Matter (review)
  17. Battles ──バトルスがオンライン・リミックス・コンテストを開催 (news)
  18. Columns Stereolab ステレオラブはなぜ偉大だったのか (columns)
  19. R.I.P. Genesis P-Orridge (news)
  20. COMPUMAが〈BLACK SMOKER〉からニュー・ミックスCDをリリース (news)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Toro y Moi- Freaking Out

Toro y Moi

Toro y Moi

Freaking Out

Carpark

Amazon iTunes

野田 努   Oct 13,2011 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加

 トロ・イ・モワ(チャズ・バンディック)は今年発表したセカンド・アルバム『アンダーニース・ザ・パイン』でふたつの方向性を見せている。ひとつはソフト・ロック路線、もうひとつは今回の5曲入りのEP「フリーキング・アウト(ぶっ飛び)」で展開しているディスコへのアプローチだ。
 もっとも「ジェリービーン(マドンナの初期のプロデューサーとして知られるDJ)がイーノといっしょにやった感じだ」と、この新作を喩えていた人がいたように、「フリーキング・アウト」はダフト・パンクの背中を見ているような作品ではない。『コージャーズ・オブ・ディス』で展開したチルウェイヴ感覚は活かされたまま、ダンス・ビートはよりファンキーに変換されている。音の質感は「シューゲイズ+ディスコ・ビート」そのものだと言えるが、ポップスとしての洗練度は高まり、まあ何よりも「フリーキング・アウト」は僕から見たところの80年代ディスコの場末感=あの時代のR&B色がさらに強調されている点が最高に面白いのである。

 それにしてもトロ・イ・モワは音数が多い......という風に、20年ものあいだダンスのミニマリズムに親しんできた耳には感じる。実際の話、装飾性を排除し、機能美を追求するテクノに対して、トロ・イ・モワの音楽はバターやマーガリンがこってり塗られたトーストのようにオーヴァーダブされている。キャッチーなシーケンス、随所ではエフェクトとチョップ、そして何回も重ねられるチャズ・バンディックの声......この音楽はアールデコとしてのローファイ・インディ・ディスコ・ポップとも言えなくもない。
 が、「フリーキング・アウト」が引用しているのは、ヨーロッパのシンセ・ミュージックではない。80年代のブラック・コンテンポラリーの洗練された甘いR&Bスタイルである。言うなれば、最高にちゃらい黒人音楽だ。やるせなさがあふれ出す"オール・アローン"、メロドラマ風の"フリーキング・アウト"、フィルター・ディスコ調の"スウィート"、ハウス調の"アイ・キャン・ゲット・ラヴ"......それらはチルウェイヴ/シンセ・ポップがなんだかんだと拡大して、勢いづいている現在がうながした4曲なのかもしれないが、「フリーキング・アウト」におけるシンセサイザーやリズムマシンは、ニュー・オーダーよりもジャム&ルイスに近い。実際のところ、収録曲でもっとも光っているのは、アレキサンダー・オニール(80年代のブラコンを代表するシンガー)のカヴァー曲"サタデー・ラヴ"なのだ。
 僕はリアルタイムで言えば、この手のポップR&Bとはずいぶん距離を置いていたものだったが、それがこの歳になって......なんということだろう......若い頃の自分に会わす顔がない。しかしこれが時代の風というものだろうか、ラヴ・ミー・テンダーがいまさら都会派のポップスに執着するのと無関係でもあるまい。そういえば15年前に流行ったトランスは、その"ぶっ飛び"の虚無の穴を埋めるかのように、いわばエクスキューズとして、イルカや精神世界を持ち出したものだったが、「フリーキング・アウト」の装飾性はそうした前世代のトリップとは逆の、ある種の下世話さを喚起させる。いまはその下世話さのなかに、若いよろこびとそのエネルギーを感じる。俗物としての恋愛(ロマンス)こそ最高だと言わんばかりだ。

野田 努