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Fuck Buttons

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黒田隆憲   Nov 18,2013 UP

 ファック・ボタンズのライヴを初めて観たのは08年、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインをヘッドライナーに迎え、ニューヨーク州モンティセロにておこなわれた〈All Tomorrow's Parties NY〉の2日目だった。その年リリースされたばかりのファースト・アルバム『ストリート・ホーシング』を引っさげてのステージ。ところ狭しと並べられたシンセやエフェクターの前で、向かい合わせとなったアンドリュー・ハンとベンジャミン・ジョン・パワーが、お互いの繰り出すフレーズに呼応しながらインプロヴィゼーションも交えつつ、リアルタイムでサウンドスケープを構築していく。その、緊張感と多幸感が入り交じったようなパフォーマンスは、音源で聴いたときよりも格段にインパクトがあり、あっという間に夢中になったのを覚えている。そんな彼らのライヴ観たさに2年後の〈ATP NY〉にも足を運び、翌11年には待望の初来日公演も目撃した。あれから2年、アルバムとしては前作『タロット・スポート』から実に4年ぶりとなる、彼らのサード・アルバムが本作である。

 ファーストではモグワイのギタリストであるジョン・カミングスと、モグワイが主宰するレーベル〈ロック・アクション〉に所属するバート・チンプのティム・セダーがレコーディング・エンジニアとして起用され、スティーヴ・アルビニ率いるシェラックのボブ・ウェストンがマスタリングを担当するという、まさに「英米ノイズ番長お墨付き」のサウンドを展開。続くセカンドでは、彼らに惚れ込んだアンドリュー・ウェザオールをプロデューサーに迎え、元々ファック・ボタンズが内包していたシューゲイザー的な要素やダンス・ミュージック的な側面を際立たせることに成功し、シンプル且つエッジの効いたサウンドへと進化していった。その後、ベンジャミンがソロ・プロジェクト、ブランク・マスを始動させたり、アンダーワールドが音楽監督を務めたロンドン五輪の開会セレモニーで“サーフ・ソーラー”と“オリンピアンズ”が起用されたりと、本体以外の部分での話題が多かったが、その間、自らの拠点となるスペース・マウンテン・スタジオをロンドンに設立するなど着々と準備を進め、前2作から一転、セルフ・プロデュースによってようやく完成させたというわけだ。

 セカンドで焦点を一旦グッと絞り、自らのもっともコアな部分を研ぎ澄ませた彼らだが、ここにきて再び意識を開放し、様々な要素を貪欲に取り込んでいるのがわかる。ファースト収録曲“リブズ・アウト”の流れを汲むような、ボアダムス直系のトライバルなビートが復活した“ブレインフリーズ”で幕を開け、ライヴにおけるコラージュ、あるいはアクション・ペインティング的なインプロヴィゼーションをそのまま真空パックしたかのごとき“イヤー・オブ・ザ・ドッグ”へと続き、セカンド収録曲“ラフ・スティーズ”のヒップホップ路線をさらに突き詰めた“ザ・レッド・ウィング”から、ダブステップ的ビートをトリガーにしてインダストリアルな音色を鳴らしたような“センチエンツ”に進み、そして、『BGM』~『テクノデリック』時代のYMOが21世紀にアップデートしたような“プリンス・プライズ”と、曲ごとに色合いを大きく変えていく。本作クライマックスは、やはり10分越えの“ストーカー(Stalker)”“ヒドゥン・XS”だろう。とりわけ最終曲“ヒドゥン・XS”は、コード進行といい「静謐」と「騒擾」をダイナミックに行き来する構成といい、モグワイとの強烈なシンクロニシティを感じる。そういえば、ファック・ボタンズとモグワイはダブルヘッダーでのツアーをおこなったこともあるが(〈ロック・アクション〉からスプリット・シングルも出ている)、さぞかし凄まじいライヴだったに違いない。

 ファーストで引き出しを開放し、セカンドで自らの本質を掴んだ彼らは、再び混沌の闇へと身を投げた。そこから生み出されたこれらの楽曲が、ライヴでは一体どのように轟くのだろうか。再び彼らのパフォーマンスを観る機会が訪れることを願って止まない。

黒田隆憲