Home > Regulars > 巻紗葉インタヴュー・マラソン ロールシャッハ・ノート > #5 eastern youth 吉野寿 後編
誰かのせいで自分はいまこんなふうになってる、こんな目にあっているっていうふうにすり替えようとしてる。その誰かを踏みにじることで俺は救われるんだ、みたいな考え方はすごく情けないことだと思います。
eastern youth 叙景ゼロ番地 バップ |
──震災以降、日本は死を意識するようになったと思うんですよ。でもそこから生まれた焦燥感や虚無感から、悪い意味で「自分の生きたいように生きていく」とか「人よりも自分」とか、まるでタガが外れてしまったような気がします。自分勝手になったというか。では、吉野さんはいまの日本をどのように見ていますか?
吉野:難しいですね。……一言で言うならムカつく。「何言ってんだお前ら、正気かよ」って思うようなことが普通になっていると思います。なんて言えばいいのか……。パンドラの箱が開いちゃいました、みたいな。身も蓋もないような感じになっているなとは思いますよね。
──それはどういった部分に感じるのですか?
吉野:インターネットとかで匿名の発言が表に出ることが増えましたよね。そういうところで、たとえば拝外主義みたいなものを正当化しようとしてるように思うのですよ。「みんな、そう思ってるだろ?」って。それでそこに居場所を見出そうとしている。そんな人が多いように感じます。だから安倍晋三が総理大臣なわけだし。嫌な国だな、腐っとるなと思うわけです。やっぱりみんな余裕がなくなっているんじゃないですか? 俺だって余裕ないけど(笑)。
──ヘイトスピーチなどをする人や、ネトウヨと呼ばれる人たちのことですね。
吉野:江戸時代の身分制度のようなもんですよ。彼らは自分よりも下のものを無理矢理作り出して、自分の人生がうまくいかないことに対する不満、実社会でどうにもならない自分の鬱憤を、自分よりの下みたいなものを踏みにじることで解消しようとしている。自分を認めさせようとしている。そんなふうに思うのです。承認要求みたいな。でも本当は自分自身のうまくいかなさなんてのは、自分で背負っていかなければならんのです。己の人生とがっぷり四つで戦っていかなきゃ打開なんてぜんぜんされないのに、誰かのせいにすることによってそれをごまかしているような気がする。いや逃げようとしている。そんなことして自分の行動や論理が合理化されるとでも思ってるんですかね? 情けない。
──なぜ彼らはそうなってしまったと思いますか?
吉野:俺も彼らがなんでそんなこと言うのか、ハッキリとした理由はわかりません。だけど自分の人生や孤独というものに耐えきれない根性なしであるというのは間違いないですよね。ちゃんと自分の人生を戦ってないというか、(自分の問題を)誰かのせいにして「自分は悪くない」と思っているってことじゃないですか。誰かのせいで自分はいまこんなふうになってる、こんな目にあっているっていうふうにすり替えようとしてる。その誰かを踏みにじることで俺は救われるんだ、みたいな考え方はすごく情けないことだと思います。自分の問題は自分で打ち壊さないと。それができないやつらが多くて、そいつらが差別したりするんでしょうね。だから余計に腹が立つ。
人間は誰しもが一人なんです。最終的には一人なんですよ。
──吉野さんはヘイトスピーチに反対するデモにも参加されているらしいですね。
吉野:みんなそれぞれ事情があるよ。街なんてそれぞれがいろんな事情を背負って、隣り合わせて、小競り合いをしながら関わり合っているんですよ。人間なんて最終的には一人ですからね。その人が死んだら全世界はなくなるのと同義なんですよ。だから一人の人間っていうのは全宇宙と言ってもいいわけですよね。だからこそちがっていて当たり前だし、だからこそおもしろいし、そうやって街はあるべきだと思うんです。人間とはそういうものでしょう。なのに、彼らはひとつの型みたいなものを作り上げて、「自分はそこのメンバーだ」「それが自分のアイデンティティの核だ」と思うことで、自分を認めたがっている。しかもそうじゃないやつらを踏みにじる。「俺はそうだけど/お前はそうじゃない/だからお前はクソだ」「俺は持ってる/お前は持ってない/だからお前はクソだ」。でもね、そんなのは幻想ですよ。幻です。幻みたいなものを信じようとしている。その根性のなさに腹がたつ。国家も民族も全部幻ですよ。人間は誰しもが一人なんです。俺っていう人間、君っていう人間。一人ひとり。それがいっぱいいりゃあ、村にもなるだろうし、街にもなるだろうし、国にもなるだろうけど、最終的には一人なんですよ。一人と一人が関わるからいろんなことが起こってくるけど、結局国だの民族だのってのは幻だと思う。人間はそんなもので割り切れん。人間をなんだと思ってるんだって。舐めやがって、っていう気持ちですよね。
──では最後の質問です。吉野さんにとってレベル・ミュージックとはどんなものですか?
吉野:俺ねえ、考えたことないんですよ(笑)。「レベル・ミュージックって何?」っていうか。レベルっていうのは闘争のことですよね。闘争って人それぞれちがうと思うけど、俺にとっては生き残ることなんですよ。「冗談じゃねえぞ、殺されてたまるか」ってことです。それだけです。
──ということはeastern youthで歌っていることこそが、吉野さんにとってのレベル・ミュージックであると。
吉野:レベル・ミュージックかどうかはおいといても、闘争の歌であるということは間違いないです。あくまで俺っていう人間がどうにかこうにか生きていくんだっていう。俺は歌を政治闘争とか社会に訴えかけるような「手段」にはしたくないんですよ。そういうことじゃなくて、一人の人間がどうにかこうにか生きていくことがすでに闘争なんだと思うんです。戦わないと生きていけないです。だから、何に向かって戦っているのかわからないけど、わからないけど殺されそうになってるわけです。
俺は歌を政治闘争とか社会に訴えかけるような「手段」にはしたくないんですよ。そういうことじゃなくて、一人の人間がどうにかこうにか生きていくことがすでに闘争なんだと思うんです。
俺はどうして生きてっていいか、どう歩いてっていいかわからないけど、それを掴もうとするのもひとつの戦いですよね。いわゆる社会に対してもの申すみたいな歌が自分の中から自然と出てきて、それが必要だと思ったら歌うかもしれないですけど、基本的に俺にとって曲を作って歌うということはそういうことじゃないんです。「こうやったら世の中よくなるよ」とかを歌にしたくない。「これを買ったら、あなたの人生はもっとよくなりますよ」っていうのと同じでしょ(笑)。
──仮に僕がそういった曲を聴いて鵜呑みにしてしまえば、それは思考停止ということですしね。
吉野:うーん、なんていうか、答えみたいなものは自分でたどり着かないとダメだと思うんですよ。人に答えを提示してもらったって、それは答えにならないんです。だから、自分にとっての答えを探すしかなくて。ただそうするだけ。ただ探し続けていくことだけが大事なんです。たどり着くことが大事かっていうのは俺の問題じゃない。ただ探すだけ。それが目的であって、到達点ではない。というか、到達点はないんです。
──最初から言っていたことと変わらないわけですね。
吉野:そう、シンプルです。でも年々ヴォキャブラリーが崩壊していっている(笑)。口も頭もぜんぜん回らない。信じていた語彙みたいなものも信じられなくなってしまって、バラバラになっているんですよね。昔は「信念」とか「真実」とかってものをもうちょっとは形のある状態で信じていたと思うんですけど、いまはまったく信じてなくて。信念も真実もそんなもんはねえっちゅーんだ、っていうか。本当はあるんだけど、「それは何か?」と言われると「これです」って言えるもんじゃないっていうか。たしかなものは何もないっていうか。歳とったらたしかなものが増えていくのかなって思ってたんだけど、逆で、どんどんどんどん剥がれ落ちていって、なんにもたしかなものがなくなってきたんです。ただ命が一個あるだけで。でもそれが大事なことなんじゃねえかなって。
歳とったらたしかなものが増えていくのかなって思ってたんだけど、逆で、どんどんどんどん剥がれ落ちていって、なんにもたしかなものがなくなってきたんです。ただ命が一個あるだけで。
正しさとかよくわからない。ただ、自分が生きてるように他のやつも生きてるんだっていうのは真実です。それは尊重されるべきだと思う。尊重されるべき人間とされなくていい人間っていうのはいないわけだから。自分が人間として生きていたいのであれば、他の人も人間として生きてることを受け入れないと。そうじゃないと、自分が人間ではなくなってしまう。それはたしかだと思います。そんぐらいしかわかんないです。で、どうしたらいいんだっていうことは、いろんな人がいろんなこと言いますし、自分のバカな頭でなんとか理解しようとしていますけど、やっぱり明確な答えなんてわからんのです。どんどんわからんくなってきてます。でもどうにかこうにか生きたいとは思っています。
■ライヴ情報
極東最前線巡業 ~Oi Oi 地球ストンプ!~
2014年8月30日(土) 渋谷クラブクアトロ
open 17:00 / start 18:00 ¥3,500(前売り/ドリンク代別)
出演:Oi-SKALL MATES / eastern youth
ticket
ぴあ(P:230-946)
ローソン(L:77597)
e+(QUATTRO web :5/17-19・pre-order:5/24-26)
岩盤
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