Home > Interviews > interview with Takkyu Ishino - 2010年のテクノ・クルージング
昔さ、ホルガー・ヒラーが言ってたじゃん。「下らないことばかりを集めると、スーパー陳腐なものができあがり、言葉の裏にある本当の意味が見えてくる」って。あれと同じで、自分の感覚的な部分を次から次へと構築していくと、自分も意識していなかった自分が投影できるっていうかさ。
石野卓球 / CRUISE Ki/oon |
■よく昔から「インプットがなければアウトプットがない」という言い方をしていたけど、今回のインプットは何?
石野:毎週やっているDJかな。逆にそれ以外はない。それをなるべく出したいと思ったんだ。DJは毎週やっているんだけど、そのフィードバックに関してはこのところやっていた縛りがある仕事ではなかなか出せないことだったから。意図的に出さなかったんだけど。それ(毎週のDJからの影響)だけで作るってことはやってなかったからさ。
■毎週DJやっているんだよね。すごいよ。
石野:仕事だからね。
■仕事でもあり、楽しみでもあるんじゃない?
石野:でも、"毎日"会社行ってる人のほうが偉いと思う。
■ハハハハ。
石野:だって、俺は"毎週"だからね。
■でも、仕事として割り切ってやっているというよりも、楽しみもかねてやっているんでしょ?
石野:でも、そのどっちかってもんでもないよ。現場によるね。行ってみて、「あ、今日は仕事を忘れよう」ってときもあるし、「あ、今日は半分仕事かな」っていうのもあるし。100%仕事っていうのはないけどね。そういうのは(オファーを)受けないからさ。ケース・バイ・ケースだよね。基本的には楽しんでやっているけど、遊びだとは思ってないっていうかさ(笑)。100%仕事とも思ってないけどね。だから、まあ、幸せですよ。
■いまは活動の場は日本がメインでしょ?
石野:そうだね。海外のブッキング・エージェンシーで、アンディっていたんだけど。
■アンディ、覚えているよ。
石野:そうそう、彼が辞めちゃってさ。で、その頃はちょうど電気での活動がはじまった頃だったから、どっちにしても(海外に)行く暇がなかった。あと、リリースがないのに無闇に行ってもなあというのもあった。昔はけっこう経験として選ばずに行くっていうのがあって、それこそ0泊3日みたいなのもあったんだけどさ(笑)。いまは新しいエージェンシーと話をしている最中で、また行くようになるとは思うんだけど。
■いずれにせよ、毎週末、どこかしら行ってるんだね。
石野:そうだね。先週は沖縄に行ったあと〈AIR〉やって、あとは逗子もやって、で、今週はフジロックだね。
■DJとしては当たり前というか、ホントにそういうライフスタイルなんだね。
石野:1週間区切りだよね。そのほうがいい。週末DJやって、日曜日休んで、月曜日には戻す。昔はずっと(時間帯が)ずれっぱなしだったんだけど、いまは月曜日には無理してでも午前中に起きる。それが心地よい。
■健康的だねー。
石野:いままでだと、スタジオに夕方行って、夜中から朝までやって、というのが多かったんだけど、今回は昼にスタジオに行って、夕方には帰ってくる。
■規則正しんだね。
石野:そのほうが集中できるっていうかさ。で、家で聴いて、次の日にやることをまとめておくっていうか。そのほうが時間も無駄にならない。夜中にやっているとどうしても......閃くこともあるんだけど、閃きを追求し過ぎて、本末転倒になるっていうかさ(笑)。
■ハハハハ。
石野:けっこうあるよ。夜中の2時ぐらいに「おし、閃いた!」って、そうすると夜中の3時に終わるわけにはいかないからさ、5時や6時ぐらいまで作業するじゃん。でも、自分が何を探していたのかもわからなくなるっていうかさ(笑)。そういうのがなっくなったっから、何かすっきりした。
■スタジオに入る前には、もうなんとなく青写真はあったの?
石野:うん、BPMはだいたいこれぐらいでとか、歌モノはなしとか、そのぐらいのぼんやりしたものはあったね。過剰に装飾しないとか、あとは削ぎ落としすぎて無愛想にならないとか。方向としてはね、自分が毎週末DJやって、レコードも買っているし、それらから受けている影響がいちばんでかいからさ、黙っていてもそれが出てくるじゃない。それを具現化していくっていうかさ。
■現場から吸収したものが出ているっていうのは、現場のエネルギーみたいなもの、あるいはもっと具体的な音楽性に寄ったもの?
石野:言葉にするのが難しいんだけど......たとえば、すげー疲れていて、DJブースに入って「あー、今日は大変だなー」と思っていても、ブースのなかで前のDJのビートを聴いててさ、で、DJ代わったときにはすんなり入れちゃったりするんだよね。慣れというかさ。で、そのときの次にかけるレコードも自ずと決まってくる、それがノっている感じというかさ(笑)。
■その感覚みたいなもの?
石野:うん、コンピュータの前に座ると、そうしたフィジカルな部分が削ぎ落とされちゃって、いっかい頭のなかで翻訳しちゃうんだよね。それをなるべくなくすためにスタジオで立ってやるとかさ(笑)。
■なるほどね(笑)。
石野:なるべく気分がノっているうちにスタジオに入るとかさ。夕方に入ると、そこからまたエンジンがかかるまでに時間が必要だったりさ。早めに起きて、スタジオに行くと、ちょっと気分がノったまま(作業に)入れるんだよね。
■なるほど。
石野:だから、フロアのエネルギーってわけじゃないんだよね。もっと自分の内面的な問題というか。
■なんかね、石野卓球らしいリズムのクセがすごく際だっているし。
石野:それがないと困るんだけどさ。
■そうなんだけど。
石野:手癖は黙っていても出てくる。黙っていても出てくる手癖を大切にしたというかさ。昔さ、ホルガー・ヒラーが言ってたじゃん。「下らないことばかりを集めると、スーパー陳腐なものができあがり、言葉の裏にある本当の意味が見えてくる」って。あれと同じで、自分の感覚的な部分を次から次へと構築していくと、自分も意識していなかった自分が投影できるっていうかさ。そうすると「俺の手癖ってこうか」みたいなことがわかる。
■メリー・ノイズと一直線に繋がるものを感じましたよ(笑)。
石野:モチベーションのところではあんま変わってないっていうかさ。お金になるかならないか、まわりに巻き込んでいる人たちの人数が増えたとか、それぐらいの違いで、モチベーションは変わっていないからね。
■声ネタの使い方とかさ。
石野:そこはどうかな(笑)? 自分では何とも言えないけどね。実はさ、最近、(自分が10代の頃に作っていた)カセットをハードディスクにアーカイヴ化したんだよね。いちばん笑ったのが、ニュー・オーダーの"586"のカヴァーのデタラメ英語ぶり(笑)。
■ハハハハ。
石野:あれはすごかった(笑)。
文:野田 努(2010年8月05日)