Home > Interviews > interview with Phew - The Diva in The Underground
彼女の15年振りのソロ・アルバムは、全曲カヴァー曲となっている。時代の大きな流れに背を向けて、ときには苛立ちや失意を表してきた彼女が、カヴァー曲を歌うことで、いまま で表現してこなかった領域に侵入しているようにも思える。そしてその作品、『ファイヴ・フィンガー・ディスカウント(万引き)』は、素晴らしい力強さと大らか さを持っている。
Phew / ファイヴ・フィンガー・ディスカウント(万引き) BeReKet / P-vine |
■ところで、ソロ作品ということで言うと、1995年の『秘密のナイフ』以来なんですね。
Phew:そうですね。
■で、通算5枚目となるんですね(1981年の『Phew』、1987年の『View』、1992年の『Our Likeness』、1995年の『秘密のナイフ』)。
Phew:え、そうなの? あ、そうか、そうですね。
■で、15年振りなんですよね。
Phew:そうですね。
■で、15年振りのソロ・アルバムがカヴァー・アルバムなったことが興味深いんですけど。先ほども話したように、フューさんの独自性の強い言語センスはフューさんの音楽の一部としてずっとあったと思うんです。でも、カヴァーって他人の言葉を歌うじゃないですか。
Phew:ただね、カヴァーはずっとやりたかったんです。他人の言葉で歌うっていうのを。自分で歌詞を書いてメッセージを届けるということではなくて、いち歌手として音楽をやりたいというのがあったんですよ。
■もうちょっと具体的に言うとどういうことなんですか?
Phew:自分で歌詞を書くと、どうしてもメッセージ性が出てきてしまう。いまの時代、顔の見えない人たちに向けてメッセージを吐くというのは、私にとってちょっと難しい。それをやるには慎重にならざる得ない時代っていうのかな。
■それは何でなんですか?
Phew:世のなかの風潮っていうのかな、言ったものが勝ち、やったものが勝ちみたいな、人の評価を得たものが勝ちみたいな、それに対する反抗......というわけでもないんですけど、ミュージシャンとして敢えて黙っていたい。
■言ったものが勝ち、というのは昔からありませんでした?
Phew:昔からあるんですけど、その傾向がね......、ネットを観察しているとものすごいスピードで......気が変わるのがすごく早い(笑)。だから、そのなかに乗り込んでいく気はないってことですね。そこまでの強いものがないんです。逆に言えば、そこまで強いものをいま大きな声で言うっていうのは、すごく恐いことだと思うんです。顔が見えている相手に、どんどん話していくことは逆にいまやりたいことなんです。見えない相手にいまそれはできない。だから......なんかもう、ものすごい小さいレヴェルの話なんですけど(笑)。
■いえいえ(笑)。
Phew:世のなかの風潮に背を向けたいんです。いっぽうで、目に入る人たちとのコミュニケーションはすごく大事。そこをいまの出発点に置きたい。このアルバムに関わったすべての人たち、ミュージシャン、絵を描いてくれた人、デザインをやってくれた人......すべての人たちが個人の繋がりで、説得ではなく共感をもってやってくれたんですね。それが誇りというか、出発点というか、それで自主制作というか。
■背を向けるというのは、いかにもフューさんらしいというか。いまのお話は今回の選曲には関係しているんでしょうね。
Phew:かもしれないですね。
■好きな曲といえば、まあ、キリがないんでしょうけど、今回は選曲も興味深いんですよね。ただ好きな曲を並べたわけではないと思いますが、どんなコンセプトで選曲されたのでしょうか? ポップスというコンセプトはあったんですか?
Phew:「言葉が届く歌」というのが選ぶときの基準でしたね。
■ある時代のものが多いですよね。加藤和彦関係、寺山修司が2曲、永六輔、中村八大というのも目につきますね。
Phew:たぶん............
■はい。
Phew:批評性のようなものを感じ取られたかと思いますが......って、いま言おうとしたら固まってしまった(笑)。
■ハハハハ。それは松村正人による素晴らしいライナーノーツに書いている通りなんですね。
Phew:それはもう、音楽を通して感じてもらえればと思っています。ミュージシャンが言葉で言ってしまのは良くないかなと思います。
■松村正人が書いていますが、アーカイヴ化に対する批評性?
Phew:はい、そんなたいそうなものではないですけど、まあ、多少は(笑)。
■古い歌の力を証明したかったというのはあるんですか?
Phew:歌でこれだけ風景が変わるってことはやってみたかったですね。もちろん音楽の力もあるんですけど。歌と音楽でこれだけ風景を変えられるってことはやってみたかったですね。
プレスリーの曲はときどきライヴでやってたんです。これはいつか録音しておきたいなというのがありました。"Thatness and Thereness"に関してはすごく好きな曲だったんですよ。あの曲はデニス・ボーヴェルのミックスで、ダブで、だったら、それが21世紀に違うアプローチでできないかなと思ったんです。なんて言うか、21世紀の風景を作れないかなと。
■アルバム・タイトルの『万引き』という言葉はカヴァー集というところに起因していると思うのですが、いろんな言葉があるなかでなぜそれを万引という言葉で表したのですか?
Phew:レコーディングの合間に雑談していたとき、ジム(・オルーク)が「英語で可愛い言葉がある」って、で、「5本の指のディスカウント(five finger discount)、万引き」って。「あ、それアルバム・タイトルにいただき!」って。
■なるほど(笑)。そういえば、選曲という観点で言えば、坂本龍一さんの"Thatness and Thereness"とプレスリーの"Love Me Tender"の2曲が特殊というか、浮いていると言えるんじゃないでしょうか?
Phew:浮いてるかなー。
■音楽的には浮いていませんが、選曲ということで言えば、発表された時代とか違うじゃないですか。
Phew:なるほどね。プレスリーの曲はときどきライヴでやってたんです。これはいつか録音しておきたいなというのがありました。"Thatness and Thereness"に関してはすごく好きな曲だったんですよ。あの曲はデニス・ボーヴェルのミックスで、ダブで、だったら、それが21世紀に違うアプローチでできないかなと思ったんです。なんて言うか、21世紀の風景を作れないかなと。石橋英子さんがドライヴ感のあるピアノを弾いてくれたおかげで、とても面白くできたと思います。最初はドラムも入っていたんですけど、それを抜いて、自分でつまみもいじったりして。
■なるほど。それで......しつこいかもしれませんが、他の8曲が60年代の曲であるのに対して、その2曲だけが違うというのはどうしてなんですか?
Phew:ああ、それは......、もう、いつかやってみたいと思っていたんでしょうね。年代に関しては、特別なこだわりは、あまりなかったです。
■音楽性に関しては、フューさんはどの程度仕切っているんですか? あらかじめ方向性なり全体像は決まっていたんですか?
Phew:曲によりますね。"世界の涯まで連れてって"は「せーの」ではじめた完全なセッションでベーシックを録音して、山本精一のギターや向島ゆり子さんのヴァイオリンは後からダビングしました。
文:野田 努(2010年9月28日)
10.1 (fri) Shibuya CLUB QUATTRO
OPEN 18:00 START 19:00
3,300YEN (adv.drink fee charged@door)
Phew
with
石橋英子(p)、ジム・オルーク(b,syn)、向島ゆり子(vl)、山本精一(g)、山本達久(drs)、山本久土(g)
Special Guest:七尾旅人