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サブトラクト(SBTRKT)=「引き算」という名義の意味は、以下のインタヴューを読んでいただければわかるように、匿名性にある。作者のキャラや自意識の物語としての作品ではなく、ただそこに鳴っている、聴かれることによって成立する音楽そのものが大切なのだ......という、まさに20年前のDJカルチャーの理念を彼は再度提唱しているわけだ。「素顔」を出さないこと、匿名性にこだわることは、20年前はすごく重要だった。それは「顔」で音楽を売ろうとするロック文化へのDJカルチャーからの批判だった。しかしそうした態度も、いつしか形骸化したのも事実だ。
が、ダブステップの時代では、その匿名の美徳がふたたび持ち上がっている。ブリアルはマーキュリー・プライズの候補になるまで素顔を明かさなかったし、コード9やゾンビーはいまでも顔を見せない。ジェームス・ブレイクでさえも、ジャケでは微妙に素顔をボカしている。そしてサブトラクトは、素顔を隠すためにアフリカの部族のマスクを被っている......まあ、かえって目立つようにも思うのだが......。
サブトラクトはつい先日、待望のファースト・アルバム『サブトラクト』を発表したばかりだ。彼の音楽は、2ステップ、ハウス、テクノ、ジャングルなどが折衷されたモダンなダンス・ビートとソウル・ヴォーカルに特徴づけられる。実にセンスがある人で、ベース・ミュージックの格好いいフックを巧妙に取り入れながら、ブリブリのベースを好む低音愛好家でなくてもアプローチしやすい流暢なダンス・ミュージックを作っている。本サイトでも長らく注目していたひとりだが、そのグルーヴィーな音楽は、先日のフジロックでもずいぶんと好評だったようだ。
なぜアーティストが自分の人生や生い立ちを語るのか、いつも不思議に思っていた。できあがる音楽にそれは関係ない。個人的には、自分のビートで作り出そうとしてる想像の世界の話のほうが年齢や出身地を話すより面白い。
■あなたの音楽からは、ソウルやジャズ、アフロ、ヒップホップ、デトロイト・テクノ、ドラムンベース、あるいはディープ・ハウスなど多くの影響を感じるのですが、プロダクションはどうやって学んだのですか?
サブトラクト:オタク的な答えがいいかなー。それとも......(笑)。僕の場合はただ多くのレコードを聴いたり、DJすることからきてるね。10か11歳くらいのころからいろんなジャンルのレコードを集めだして、だんだんUKハウス、ヒップホップ、R&B、UKガラージのように広がっていったんだ。初めのうちはただ好きなアーティストをコピーすることから始めた。ゴールディーとか尊敬するアーティストの技術をだんだん学んでいくうちに、そのなかでも好きな部分のエッセンスを捉えて音を再現できるようになって、それに自分のオリジナリティを組み合わせて自分流の曲を作ったんだ。
■ジャズやソウルといった音楽を背景に持つあなたが、どうしてダブステップやポスト・ダブステップのシーンと繋がったのか興味があるんですけど。どうしてですか?
サブトラクト:もともとエレクトロは自分のなかでもっとも重要な音楽のひとつなんだ。実際は昔からエレクトロの曲を作ってはいたんだけど、リリースしていなかっただけだよ。自分でも楽器を演奏するから、そういうことをやりたかった時期だったってだけで、いままたエレクトロに戻りたくなったんだ。
僕にとってダブステップは最小限の要素を含んだダンス/クラブ・ミュージックで、そこに音を足すことで方向を決めていけるものなんだ。自由が利くスペースがいっぱいあって、いろんなコンテキストも試せるしね、例えばUKガラージのように変貌することもあれば、テクノの要素を加えるだけでまったく別物にもなる。新しい音楽を作る上でアプローチが豊富に試せるのがダブステップなんだ。
■SBTRKTを名乗った理由を教えてください。
サブトラクト:SBTRKTって名前は、もともと自分で音楽を説明しなくても良いようにっていうアイデアのもとにつけたんだ。音楽が良ければ人はそれを聴いてくれる。なぜアーティストが自分の人生や生い立ちを語るのか、いつも不思議に思っていた。できあがる音楽にそれは関係ない。個人的には、自分のビートで作り出そうとしてる想像の世界の話のほうが年齢や出身地を話すより面白い。要するに自分の作り出す音楽から人としての自分の取り除くという意味でサブトラクト(引き算)なんだ。それは僕がマスクを付けることにも繋がってくるし。新しいアーティストとしてのアイデンティティなんだよね。
■それでは、あなたがマスクをする理由は......?
サブトラクト:SBTRKTの名前の由来の質問の延長線上なんだけど、ただ自分の正体を明かさずに音楽を作りたかっただけだよ。SBTRKTという存在にアイデンティティを与えることもできるし、新しいリリースやDJをするたびに違ったマスクを使ったり、プロジェクトによって変化も与えられるからね。
取材:野田 努(2011年8月07日)
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