ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Tyler, The Creator - Chromakopia | タイラー、ザ・クリエイター
  2. Columns Squarepusher 蘇る00年代スクエアプッシャーの代表作、その魅力とは──『ウルトラヴィジター』をめぐる対話 渡辺健吾×小林拓音
  3. Columns エイフェックス・ツイン『セレクテッド・アンビエント・ワークス・ヴォリューム2』をめぐる往復書簡 杉田元一 × 野田努
  4. Jabu - A Soft and Gatherable Star | ジャブー
  5. Shabaka ──一夜限り、シャバカの単独来日公演が決定
  6. 変わりゆくものを奏でる──21世紀のジャズ
  7. Columns 11月のジャズ Jazz in November 2024
  8. interview with Neo Sora 映画『HAPPYEND』の空音央監督に(主に音楽の)話を訊く
  9. 別冊ele-king 日本の大衆文化はなぜ「終末」を描くのか――漫画、アニメ、音楽に観る「世界の終わり」
  10. Tomoyoshi Date - Piano Triology | 伊達伯欣
  11. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第1回  | 「エレクトリック・ピュアランドと水谷孝」そして「ダムハウス」について
  12. interview with Kelly Lee Owens ケリー・リー・オーウェンスがダンスフロアの多幸感を追求する理由
  13. DUB入門――ルーツからニューウェイヴ、テクノ、ベース・ミュージックへ
  14. Columns Nala Sinephro ナラ・シネフロの奏でるジャズはアンビエントとしての魅力も放っている
  15. Roedeliusu, Onnen Bock, Yuko Matsuzaki ——ハンス・ヨアヒム・ローデリウスとオンネン・ボック、松﨑裕子の3人によるアルバムがリリース
  16. Columns 10月のジャズ Jazz in October 2024
  17. K-PUNK アシッド・コミュニズム──思索・未来への路線図
  18. Ambience of ECM ──創立55周年を記念し〈ECM〉のエキシビションが開催
  19. People Like Us - Copia | ピープル・ライク・アス、ヴィッキー・ベネット
  20. 音楽学のホットな異論 [特別編] アメリカの政治:2024年に「善人」はいない

Home >  Interviews > interview with Derrick May - 語り継がれるもの

interview with Derrick May

interview with Derrick May

語り継がれるもの

──デリック・メイ、インタヴュー

野田 努    通訳:渡辺 亮  写真:小原泰広   Nov 29,2012 UP

俺のコンセプトは、ドラム・マシンの限界に挑戦することだった。ドラム・マシンでどこまでできるのかを見せたかった。しかし"ハンド・オーヴァー・ハンド"ではドラム・マシンに集中するんではなく、メロディや構成で、もうひとつのチャプターを見せるという考えだった。

E王
V.A.(Compiled by DERRICK MAY) - MS00 / BEYOND THE DANCE ~ TRANSMAT 4
ラストラム

Amazon

実は今日、そのことについて訊きたかった。ようやく幻のファースト・アルバムについて訊くことができる(笑)。いままでも訊きたくても訊けなかったからね。1992年にデリックは『イノヴェイター』というベスト盤を〈ネットワーク〉から出している。しかし、本当は、『イノヴェイター』ではなく、あなたのファースト・アルバムが出るはずだった。

デリック:そう、トレヴァー・ホーンとミーティングをしていた。彼は"ハンド・オーヴァー・ハンド"に興味を持ってくれた。デイヴ・ガーン(デペッシュ・モード)もこの曲で歌っても良いと言ってくれた。ビョークも気に入ってくれた。俺の当時のエージェントは、この曲で俺をポップスターにしようと企んでいた。彼らは俺がデペッシュ・モードやビョークのようなポップの一部になることを望んだ。それで俺は、トレヴァー・ホーンとエージェントと喧嘩した。和解できずに終わってしまった。

1992年の『イノヴェイター』のアナログ盤には、"ザ・ビギニング"が入ってないんですよね。なんで、初めてのベスト盤に"ザ・ビギニング"が入っていないのかがずっと引っかかっていましてね。そこで推理したんだけど、"ザ・ビギニング"にはデリックにとっての次のコンセプトが詰まっていた。しかし、UKの音楽業界がそれを理解しなかったってことなのかなと。

デリック:そう、理解されなかった。"ザ・ビギニング"は、リズム・イズ・リズムの最初のアルバムの1曲目に収録されるはずだった。だから『イノヴェイター』には入れなかった。"ケオティック・ハーモニー"、"ザ・ビギニング"、"アイコン"、"ハンド・オーヴァー・ハンド"......それから......。

ロング・アゴー? 

デリック:いや、あれは違......、いや、そうそう、イエス、イエス、イエス! 俺は......、本当にUKの音楽業界が嫌いだ。本当に大嫌いだ。本当に、本当に、だいっきらいだ! "ハンド・オーヴァー・ハンド"は一発録りだったな。たった1回で録った。心を込めて作った。

こうして、時期がズレながらも、当時の曲が発表されて、デリックの幻のファースト・アルバムの正体がじょじょに露わになってきているというのも面白いね。相当にメランコリックなアルバムだったんだなと思いますが。

デリック:そうだよ。そういうことだ。まあ、パズルだな。

インナー・シティがヒットしていた頃なんで、UKの音楽業界がリズム・リズムにヒットを求めるのもわからなくはないんですが、そんなにも考えに大きなギャップがあったんですね。

デリック:80年代の話から話そうか。俺とホアン・アトキンスとケヴィン・サンダーソンの3人は、(バーミンガムの)〈クール・キャット〉レーベルのニール・ラシュトンとディストリビューション契約を結んだ。俺らのレコードのUKやヨーロッパでの流通は、すべて〈クール・キャット〉が拠点となってやっていた。やがてケヴィンはインナー・シティとして〈ヴァージン〉と契約したが、俺は依然として〈クール・キャット〉だった。〈クール・キャット〉は大手の〈ビッグ・ライフ〉と契約していたから、〈トランスマット〉の作品はすべて〈クール・キャット〉~〈ビッグ・ライフ〉経由で流通していた。最初に揉めたのは、〈トランスマット〉の作品が、結局、〈ビッグ・ライフ〉傘下でしか流通しなかったということにあった。

デリック・メイがやりたかった音楽性が理解されなかったとか、そういうのが原因ではなかったんだ?

デリック:それは大いにある。ニール・ラシュトンは俺の音楽性をディレクションしはじめて、どんどん意見を言うようになった。たとえば"アルセム(R-Theme)"、これがリズム・イズ・リズム名義で出なかったのは、〈クール・キャット〉が気に入らなかったからだ。なぜ俺が好きな曲を自分のレーベルから出せないんだろう、俺はそう思った。〈ビッグ・ライフ〉は......、ヤズ(Yazz)っていただろう? ポップ・シンガーの女の子で、ああいうのを出したがっていた大手メジャーだ。最初〈クール・キャット〉は、〈ビッグ・ライフ〉からリズム・イズ・リズムのアルバムを出すつもりでいた。それで最初に"ザ・ビギニング"の12インチ・シングルのUK盤がリリースされた。しかし、〈ビッグ・ライフ〉は"ザ・ビギニング"を嫌った。〈ビッグ・ライフ〉は、"ザ・ビギニング"は完成度が低いと言ってきたんだ。

それは怒るよね。

デリック:アルバムのタイトルは『ザ・ビギニング・オブ・ジ・エンド』だった。〈ビッグ・ライフ〉は〈クール・キャット〉に圧力をかけてきて、そして俺と〈クール・キャット〉の関係も悪くなってしまったんだよ。

あのドラム・マシンをよりパーカッシッヴのように扱うのが、"ザ・ビギニング"のコンセプトだったと思うけど、その後の"アイコン"、"スエーニョ・ラティーノ"もそうだったし。

デリック:その通りだよ。あのときの俺のコンセプトは、ドラム・マシンの限界に挑戦することだった。ドラム・マシンでどこまでできるのかを見せたかった。そのリリースを終えたあとに、そして"ハンド・オーヴァー・ハンド"ではドラム・マシンに集中するんではなく、メロディや構成で、もうひとつのチャプターを見せるという考えだった。

そのパーカッションのコンセプトはどこから来たんですか?

デリック:俺は当時3つのドラム・マシンを使っていた。909と808、それから727と626も使っていた。基本は909と808を同期させて、スウィング・パターンのループを少しずつ変化させながら、独特なうねりを出すことを考えていた。いまでこそ簡単にできることだけど、当時は複雑な構成だったと思うよ。ドラム・マシンによるバウンシーな感覚を表現したかったんだ。
 俺は高校時代から、ホアン・アトキンスと一緒に毎日のように909で遊んでいたんだよ。パーティに909を持って行って、パーティを盛り上げる楽器のひとつとして、909を使った。ジェフ・ミルズがまだ909の存在を知るずっと前の話だぜ(笑)。ジェフがDJで909を使ったりするのは、誰のアイデアから来ていると思うよ?

はははは。〈ミュージック・インスティテュート〉?

デリック:いや、だから高校生時代からやっていたから。ジェフにこんど会ったら訊いてくれよ。その909のアイデアについて。

高校時代から知り合いだったの?

デリック:18歳の頃から知っているよ。

ザ・ウィザード。ジェフはもう有名なDJだったでしょう。

デリック:有名だったよ。ジェフは俺よりもつねに有名だった。ジェフはランDMCのようなポップな選曲もしていたからね。

取材:野田 努(2012年11月29日)

1234

INTERVIEWS