Home > Interviews > interview with Alex Barck (Jazzanova) - ソウル・ジャズ・ハウスへと
誰かが“ニュー・オーダーに触発されたみたいだと言ったんだ。それには全く気付かなかったのだけれど、もしかしたら人生のある時期に吸収したものが、知らず知らずのうちに出てきたのかもしれない。僕はニュー・オーダーのアルバムを全部持っているからね。
![]() Alex Barck Reunion Sonar Kollektiv/Pヴァイン |
■“Oh Africa”のアフリカ・テイスト、“Move Slowly”でのレゲエやフォークのテイスト、“Why & How”でのゴスペルなど、ルーツ・ミュージックの要素とエレクトロを融合させたアルバムだと思います。このような融合はジャザノヴァのときからやっていましたが、それは自然と生みだされたのですか?
AB:人はそれぞれに音楽の歴史を持っているよね。初めに両親のコレクションを聴きながら育って、僕のようにコレクターになったら、たくさんの音楽をひたすら聴いていくんだ。いつも思うのは、幾つかのアイデアはそうしたレコード・コレクションに基づいているということ。そして、その幾つかは直接的な影響を及ぼす。例えば“Spinning Around”では、僕の好きなディスコ/ブギーのレコードのなかから、アフィニティの“Don’t Go Away”をサンプリングした。こうした直接的なものとは別に、もっとさりげないもので内面から出てくる影響がある。例えば誰かが“Atmosphere”を聴いて、ニュー・オーダーに触発されたみたいだと言ったんだ。それには全く気付かなかったのだけれど、もしかしたら人生のある時期に吸収したものが、知らず知らずのうちに出てきたのかもしれない。僕はニュー・オーダーのアルバムを全部持っているからね。
だから、自分で意識できる直接的な影響と、どこから来たかわからない無意識下の影響がミックスされたのが、このアルバムだよ。実を言うと僕の場合、曲の作りはじめは最終的にどんな曲になるのかわかっているわけではないんだ。曲作りをどんどん進めていって、ある時はこっちへ、別の時には全く違う方向へ行ったりもすることもありうる。大袈裟かもしれないけど、ひとつの曲について200通りのアレンジを作ったんだ。音楽制作でどこへ行くかを自分で決められるというのは、とても素晴らしいことだと思う。それが今回のアルバム制作の中で楽しかったことだよ。ジャザノヴァのようにたくさん人がいると、意見を譲らないといけない時もある。だけど今回は自分で決断が出来るし、音楽自体が方向性を決めることもあるんだ。
■曲の面白さという点では、「Reunion」は11分を超す大作で、フィールド・レコーディングを取り入れたり、プログレのような展開があったり、とても実験的で意欲的な作品です。この曲のアイデアはどこから生まれたのですか?
AB:この曲はとても特別なものだ。レユニオン滞在の最後の1週間に作ったもので、「さよなら」という意味のこもった曲なんだ。実際の島から最も影響を受けた曲でもある。初めに島の美しさ、パラダイス的な側面があって、次にサイクロンや火山といった生々しい自然の側面が現れる。そういった島全体を表現したかったんだ。日の出、昼の時間や風景、サイクロン、波、サメなどを一緒にしたんだ。幸運なことに、ドイツのプログレ・バンドのポポル・ヴーが1975年に作った『Aguirre』のなかから、ドラム・ソロを使う許可をもらった。前に彼らの曲のリミックスを手掛けたんだけれど、予算がなかったから、代わりに『Aguirre』のドラムのトラックをもらうように頼んでいて、それが今回に生きた。この曲のふたつ目のパートにそのドラムが使われているんだよ。僕の妻はいつもはハッピーでメロウな曲が好きなんだけれど、この曲を聴くと島のイメージが浮かび上がってくるということで、アルバムではこれが彼女の一番のお気に入りなんだ。
■“Reset”はホット・チップや2ベアーズのジョー・ゴダード、“Don't Hold Back”はディスクロージャーなどを彷彿とさせる部分があります。最近はスピード・ガラージから、ポスト・ダブステップのようなベース・ミュージックを通過した新世代のハウス・サウンドが大きな影響力を持っています。あなたもこうした若い世代のアーティストに触発されることもありますか?
AB:実は最近のハウス・サウンドが大好きなんだ。ベースを重視する方向に向かっていて、とてもいいと思う。ディスクロージャーに関しては、本当に初期から追いかけていて、いつかビッグな存在になるだろうと思っていたけど、ここまでになるとは思わなかったよ。ディスクロージャーは僕たちのシーンにとってとても重要な存在だと思う。彼らは良いビートと良いプロダクションで良質のポップなハウス・サウンドを生み出して、アルバムはNo.1を取ったわけだからね。若い人たちを僕らの世界に招き入れて、よりディープでより面白い世界へと導く存在だと思う。ディスクロージャーやジョー・ゴダードはその扉を開いたんだ。
■このアルバムはハウス的なスタイルの曲が多いですが、例えばジュークとかチルウェイヴになど他のスタイルにも興味を持ったりしますか?
AB:これはいつも変わらないことだけれど、良い音楽であれば何でも興味を持つよ。僕たちのシーンの良い面として、ボーダーレスに何でもチェックするというところがある。フェスティヴァルで誰かほかのシーンの人に会ったとして、彼らは僕たちの音楽を知らないけれど、僕らは彼らのことを知っていることがよくあるんだ。ただ、クラブ・ジャズだけじゃなくてね。
例えばトロ・イ・モアの新しいアルバムはとても素晴らしいと思うよ。思うに最近の若い子たちはジャンルを必要としていないんじゃないかな。もしそれがい曲であれば、彼らはiPodにダウンロードするだけなんだ。でも、逆に言えば音楽があまりにも溢れすぎているから、彼らにはガイドが必要だと思う。そうした点でたぶん僕たちの世代のジャズDJが、彼らにとって一番良い選曲者になれると思う。僕たちはどんなジャンルも新旧も問わず何でもチェックしているからね。この20年間で僕たちは音楽を俯瞰的にみる術を培ってきたから。僕たちの選曲者としての存在価値は、今後どんどん重要になっていくはずだよ。
■ボーダーレスという話について、今回のイベントに同じくブッキングされたフォルティDLやコアレスといったアーティストは、いろいろな音楽的要素や柔軟性を持っていて、まさにボーダーレスなアーティストの新世代だと思います。こうした若い世代の活躍についてどう思われますか?
AB:フォルティDLやコアレスは未来の音楽と言うより、次のシーンの予感をはらんだ現在の音楽なんだと思う。彼らのような存在はいつも興味深い。日夜音楽作りに関わっているなかで、一番大事なのはいつもそこに未来があることなんだ。もし、ただ過去を振り返っているままだったり、未来に興味を無くしてしまったら、終わりだと思うし、退屈だ。僕はドイツでふたつのラジオ番組を持っているけど、いつも新しいものが入ってくるという意味でとても大切なことなんだ。もし、毎日同じものをかけなければならなかったら、気分が悪くなるよ。もちろん僕にも好みや価値観があるから、新しければ何でも良いというわけではないけれど。
いまはベース・ミュージックをはじめ、イギリスから起こるムーヴメントの影響が強いけど、僕にとってはずっとドイツのシーンよりも面白いものだった。いつもUKから来る2ステップやブレイクス、ダブステップ、レゲエに夢中になっていたんだ。ドイツに住んでいて、周りにはドイツの音楽があって、いくつかは良いものもあったけれど、過去も現在も総じてUKのシーンに惹かれることが多いね。
■ベルリンやその周辺のシーンはいまどのような感じですか? スキューバやモードセレクターが活躍しているようですが。
AB:ベルリンのシーンは、実はベルリンの人によって作られているわけではないんだ。現在のシーンの90%はベルリンで生まれ育った人ではなく、外から来た人たちによってつくられているんだ。スキューバもイギリスから来たわけだしね。だから、モードセレクターは地元が生んだほとんど唯一のアーティストかもしれない。でも、世界中からあらゆる影響が持ち込まれているわけだから、それは決して悪いことではない。巨大なメルティング・ポット状態なんだ。以前はただベルリン生まれのサウンドだけだったのだけれど、いまは国際的になった。だから、例えば素晴らしいソウル・シンガーや面白い音楽を作っているキッズに街で会える機会がある。良い方向に変化していると思う。人は増え続けているし、音楽的には良いことだと思う。
取材・文:小川充(2013年11月08日)