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interview with ROTH BART BARON

interview with ROTH BART BARON

アンユージュアルなふたり

──ロットバルトバロン、インタヴュー

橋元優歩    写真:小原泰広   Apr 22,2014 UP

ROTH BART BARON - The Ice Age
Felicity

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 よく伸びるファルセット、管と弦の美しいアンサンブル、おだやかなエレクトロ・アコースティック。そして澄んでつめたい空気のにおいや、どこか異国的な風景をたずさえたフォーキー・ポップから、このユニットのとらえがたいサイズが見えてくる。2008年に結成された東京のデュオ、ROTH BART BARON。2人組だが音はバンドの想像力をもって広がる。そしてそれがなぜかとてもUS的なエッセンスをもっていることに、おそらくは誰もが不思議な驚きを覚えるだろう。ボン・イヴェール、フリート・フォクシーズ、あるいはアイアン・アンド・ワイン……USインディ、それも豊かにアメリカーナを鳴らすバンドたちの音が、けっして猿真似ではなく、しかし強烈な共通点をもってたちあがってくる。

 目黒に生まれ育ったという彼らが、なぜこんな音楽性を持っているのか、そして今作キー・モチーフでもある氷河期とはなんなのか。日本固有の土着性からも、「ガラパゴス」的な発想やおもしろみからももっとも遠い、大柄でおおらかなスタイルの楽曲の謎を解くべく、まだ寒さののこる春先の渋谷にてROTH BART BARONに向かい合った。本当に東京ネイティヴだというのに、そして、いたって普通のたたずまいのふたりなのに、渋谷の高架下やビル群や駐車場のネオンなどにはどうも馴染まない気がする。ライヴ活動を活発化させたのもわりと最近で、当然ながらライヴ・シーンから浮上してきたわけでもなく、そうした人脈図にも組み込まれていない。〈フェリシティ〉が謳うように、そこには本当に「二人ぼっち」の存在感がある。
もしかすると、彼らは彼らふたり自身の──ROTH BART BARONの──ふるさとや原風景を求める旅の途上にあるのかもしれない。USと書いたが、それはもちろん本来のUSとは異なるものだし、そもそも彼らはUSらしさをねらっているわけではない。強いていえば、どこでもないものがたまたまUS的なものと結びつくかたちで表れているというだけだ。歴史からも土地からも切り離されたところで、まるで言葉やイメージをひとつずつ覚えていくかのように紡ぎ出されていく楽曲=ROTH BART BARONの物語。インタヴューの後、「氷河期」というのはそのゼロ地点でもあるかのように、いよいよ白く輝くように感じられた。想像や空想はまだまだ膨らむ。

ROTH BART BARON
中原鉄也(drums/piano) Tetsuya Nakahara
三船雅也(vocal/guitar) Masaya Mifune

2008年結成、東京出身の2人組ロックバンド。2010年に自主制作によるファーストEP「ROTH BART BARON」、2012年にはセカンド EP「化け物山と合唱団」をリリース。日本の音楽シーンだけに留まらず、SoundCloudをはじめとする音楽系SNSサイトから多くの賞賛コメントを受けるなど、海外での評価も高い。2014年1月には初となるNYツアーを成功させる。

もしかしたら僕たちは、氷河期がやってきてももう絶えることができないのかもしれない……そこに克服とかパワーを見るか、絶望を見るか。(三船)

今作は『ロットバルトバロンの氷河期』ということで。曲の中にも、窓の外に氷河期が来ているという描写がありますね。これは予言のようなものなのか、それとも、そうなってくれればいいのにというような一種の願望だったりするんでしょうか?

三船:そうだな、どちらもですね。どちらか、ではない。来るかもしれない/来たらいいのに/もしかしたらもう来ているのかもしれない……現在、過去、未来、すべて入っているというか。

三船さんから出てきたイメージなんですか?

三船:そうですね、以前の『化け物山と合唱団』(2012年)をつくっていた頃から、少しずつ発想していたものではあります。「氷河期」っていうものがずっとあったなあ。それを「何かにならないかな」ってずっと泳がせていましたね。

すごく大振りな言葉──喚起力というか、物語性も強い言葉ですよね。カタストロフィとしての氷河期、いちど世の中をリセットしてしまいたいというような意味合いが含まれていたりしますか?

三船:ぜんぜんないわけではないと思いますけどね。でも、聴く人がそれぞれ「氷河期」っていう言葉をどうイメージしてくれるのか。そのプロセスが大事だと思っています。自分自身も、音楽を聴いたり絵を見たりしたときに、それに接して自分なりの答えを出したという経験がとてもよいことだったと感じるから。そのためのスペースを残しておきたいとは思います。だから、とくに「リセット」にかぎったイメージではないですね。そこまで世の中を嫌ってはいないです(笑)。

ははは、たしかに。音からはヘイトみたいなものは感じないです。とはいえ、現実の世界に対する限りない違和感が核にあるんじゃないかなってふうには思いますけど、どうですか?

三船:ああー。

ストレートに世界を愛しているわけではないというか。

三船:ストレートには愛してないかもしれないけど、違和感というものはみんな持っているんじゃないですか。通奏低音のようにノイズが鳴っているという感じがします。

なるほど。今作はそれをなんとなく感覚的に盛り込んでみました、という感じではなくて、しっかりと三部展開がとられていますね。「氷河期」はその中心にある、すごく重要なイメージだと思います。それで、もうちょっと掘り下げてお訊きしたいんです。『ドラえもん』の劇場版みたいな──

三船:『ドラえもん』(笑)?

はい(笑)、そういうファンタジックなのどかさもなくはないと思うんですけど、もうちょっとシリアスなものじゃないかなあと。このなかの、世界との距離感というものは。詩的な飛躍の強さというか。

三船:うーん、そうだなあ……。

たとえば、あったかい時代じゃないですよね、氷河期というのは。生命が絶えたりもして。

三船:うん、「氷河期」っていうと、たとえば恐竜が絶滅した理由なんじゃないかと言われたり、何かが絶えてしまうんじゃないかというイメージはありますよね。生命が栄える印象はないかもしれないけど、でも、いまは氷河期なんじゃないかという学者さんもいて。

へえー!

三船:周期的に氷河期というものはやってきている、って。でもふつうにみんな生きているわけで、もしかしたら僕たちは、氷河期がやってきてももう絶えることができないのかもしれない……そこに克服とかパワーを見るか、絶望を見るか。そんなふうに空振ってる言葉としてもおもしろいなって思います。

絶えることができないのかもしれないと! すごい、人類規模の一大叙事詩じゃないですか。

三船:ふと、そんな環境の中に身を置いたらどうなるのかなあ、とか思って。このあいだもすごい大雪が降りましたよね。僕ら、これを外国に行って録ってきたんですけど、向こうに行くずっと前から「『氷河期』みたいなタイトルにしようか」っていうことを言ってたんです。そして帰ってきてみれば、何十年ぶりの寒波が来ていた(笑)。

おお、たしかに(笑)。すごい雪でしたよね。

三船:アメリカでも数十年に一度の大寒波に襲われて髪も凍るし、車は氷柱をつけて走っているし、帰国後にも日本で大雪に見舞われていちばんにやったことが雪かき。メンバーに「お前がそんなタイトルにするからだ!」って言われたんですよ。あのときは東京じゃないみたいな量の雪が降っていて……。「すみません!」って言いましたけどね(笑)。なんだか連れてきちゃったみたいで。

ははは。氷河期を連れてきちゃったんですね。

三船:公園とかへ行くと、子どもたちは狂ったように遊んでいましたけど……。

狂ったように(笑)。そうでしょうね。あの規模だとちょっとした祝祭感がありましたよね。

三船:そう、その祝祭感──子どもじゃなくなると薄らいでいくものかもしれないけど、でも僕たちはまだ遊べるかもしれない、そんな意味も(アルバムには)あったかもしれませんね。ほんと、大人からすれば雪かきを台無しにするような遊びをしているわけですけれども。



三船雅也

ああ、それは重要なお話ですね。中原さんは「氷河期」についてどうです?

中原:「真っ白」っていうイメージがあるし、それを含めて、この先につづく道筋が見える……ばーっと白い視界のなかに道が延びている感じなんです。だから、ファースト・アルバムということもあるし、自分では「道」という意味合いを感じていました。それにさっき三船も言ったように、それぞれの人が感じるためのスペースがあるなって。

道であったり、三船さんだったら生命の蠢きのようなものであったり、閉塞性とは逆の感じなんですね。

中原:閉ざされたイメージはとくにないですね。

三船:でも、まあ、「就職氷河期」とか言うしね。すごくキャッチーな言葉だし、氷河期のイメージも画一的だけど、でもその言葉をいちばん最初に考えた人のなかには、そういう「氷河期」があったってことだよね。

中原:人によってイメージがそれぞれある、というところだと思います。

三船:真っ白だしね。

なんか、時代は細部へ細部へと意識を尖らせる方向に向かっていて、なかなか「氷河期」のように大振りでファンタジックな表現は成立させづらいと思うんですよね。

三船:以前はポッケにメモ帳を入れて、アイディアを書き留めていましたけどね。あるときさらさらと、手が止まらなくなってできあがったりするんですよ。詞については、そういうときの感覚を信用しているかなあ。ラーメン屋であんまりラーメンがおいしくなかったっていうような感想も、きっと詞のなかに出てきていると思います。

ははは。でもラーメン屋のラーメンがおいしくなかった、という些末な日常表現はあまりされないじゃないですか? 「あるある日常」ではないし、そういうところから少し遠いところで書かれているというか。

三船:そうですね、なんだろうなあ。ミシェル・ゴンドリーとかスパイク・ジョーンズとか、扉を開けるとちがう世界に行っちゃったりするじゃないですか。ああいう飛躍の仕方を今回の作品はしているなって思います。普通の生活シーンはすごくリアリティに富んだセットなんだけど、突然、ダンボールの世界に行っちゃうとか、ああいう感じです。


取材:橋元優歩(2014年4月22日)

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