Home > Interviews > interview with Matthewdavid - 僕たちの愛の世界
Matthewdavid In My World Brainfeeder / Beat Records |
マシューデイヴィッドはロサンゼルスの空のような男だ。僕がどれだけくだらないことを喋ろうが、いくら現在の音楽マーケットに悪態をつこうが、いつでも穏やかで、真摯なまなざしを向けながら人の言葉をひとつひとつ丁寧に咀嚼し、紳士的に自分の見解を述べる。そのたたずまいはつねに涼しげ、本当にメガ・爽やかな男であり、時折あれ? 軽く後光差してない? と思ってしまうほどの輝くポジティヴ・オーラで、語りかけるものの身を包んでしまう。それでいて完全に超変人。
本作『イン・マイ・ワールド』の完成直後、彼から受け取ったデータを初めて通しで聴いたとき、僕は愕然とした。近年にないほどの深い感動をおぼえた。いったいどうなってるんだ? どうやったらこれだけポップでありながら最高にドープなソングライティングができるんだ? 彼にしか創ることができない最高のレコード。結婚と娘の誕生によってかけがえのない家族を得た彼が人生のひとつの集大成として完成させたこのレコード。彼の過去の膨大なアンビエント・ワークスの中で僕がしばしば垣間みてきた彼の人生の苦悩や不安、葛藤──僕が体験したことのない人生の山なみを乗り越えた先に広がる光と闇が渾然一体となる遥かな宇宙、それをマシューデイヴィッドは愛で包み込もうとしている。控えめに言っても最高傑作、僕の今年度最高のレコードだ。
インタヴュー中に登場するマシューの奥さんであるディーヴァ・ドンペ(Diva Dompe)は、かつてブラック・ブラックやポカホーンテッドなどでバンド活動をおこない、現在はディーヴァ(DIVA)としてLAを拠点にソロ活動をおこなうアーティスト。マシューとの結婚、娘のラヴ誕生後も滞ることなく積極的にライヴ・パフォーマンスや、自らが主催する瞑想プログラムなどをおこなっている。不定期ではあるが彼女も〈ダブラブ〉でヒーリング・プログラム、「イアルメリック・トランスミッションズ(Yialmelic Transmissions)」のホストをつとめている。
■Matthewdavid/マシューデイヴィッド
フライング・ロータス主宰〈ブレインフィーダー〉の異端児にして、自らも時代性と実験性をそなえるインディ・レーベル〈リーヴィング〉を主宰するLAシーンの重要人物。非常に多作であり、カセット、ヴァイナル、配信など多岐にわたるリリースを展開。2011年に〈ブレインフィーダー〉よりデビュー・フル・アルバム『アウトマインド(Outmind)』を、2014年に同レーベルよりセカンド・アルバム『イン・マイ・ワールド』を発表した。
たぶん、君は僕の「幸福の涙」にチャネリングしちゃったんだと思うよ。
■やあマシュー、またこういったかたちでインタヴューができて本当に光栄だよ。はじめに正直に言わせてくれ。『イン・マイ・ワールド』を聴いて泣いたよ。ここ数年でもっとも感動したレコードのひとつだと言っていい。
MD:ありがとう。じつは最近泣き虫なんだよ。このアルバムの制作中もよく泣いていたから、たぶん、君は僕の「幸福の涙」にチャネリングしちゃったんだと思うよ。
■「幸福の涙」にチャネリング!!!! 何かスゴいねそれ。でも僕も大袈裟な言いまわしかもしれないけど、このレコードを通してマシューの人生と、それに照らし合わせた僕の人生を追体験させられたよ。
MD:共感してくれたみたいだね。それこそ僕が成し遂げたいことのすべてさ。アートのかけらが無機質な社会を貫き、全人類が共有可能な感情レヴェルの最深部を掘りおこす……この音楽はまだまだ、ぜんぜん、抽象的なんだよ。まだ相当難解だし実験的なんだけど……。僕はこのイカレたスタイルで、もっとポップな音楽を制作するようユル~く試そうと思うんだ。より広いオーディエンスへ向けていくことも重要だしね。
■うん。間違いなく共感した。極論を言えば、すべての人間は一生の間、人生経験や内面世界を誰とも完全に共有することはできないんだけど、僕らは他者の人生経験や内面世界を自分たちのそれと照らし合わせることで誰の人生や感覚でも共感できる。そういう意味でこのレコードはすんごいスムーズだと思うんだよね。『イン・マイ・ワールド』は抽象的で難解なエクスペリメンタルとポップの完璧なバランスの上に成り立っている。そのバランスの支点にシュッと人が入り込めるようになってるってゆーか……
MD:そうさ! これは解放なんだよ! 僕が求めているのは解放なんだ! 僕らはしばしば僕らのマインドが解放を求めていることに気づけないんだ。僕はこのアルバムをひたすら外へ向かってゆく魂の表現に感じている。すごいダイレクトなんだよ、何も後ろには抱えないで前に向かってく感じ。これがリスナーの解放に働きかけるんだ、ちょうど僕がこれを制作していたときに体験したように。僕は人々がもっと寛容でオープン・マインドなっていくように感じるんだ、すべてにたいして。すべてが癒えるのさ。
もし誰かがこのレコードを試しに聴いてみてフィーリングがあまり合わなかったり、好きになれなかったりしてもだよ、それでもそこにはリスナーへの影響があって成立するある種のポジティヴ&ヒーリングがあるんじゃないかって感じているんだ。それが僕のゴールなんだよ。
マスタリングとミックス・ダウンをしているときに僕のベイビーが生まれたんだよ。僕は最後の手を加えて構成を形作った。
■解放だね。ジャケも全裸だしね! 勝手な感想なんだけど、『イン・マイ・ワールド』は非常にストーリー性に富んだ作品に思えるんだ。スーパー・スイートなラヴ・ソングで幕が開けたと思ったらさまざまな感情が押し寄せてきて、気がついたら壮大な精神の旅へ向かっている。最終的には生命と芸術的欲求の根源、宇宙のはじまりまで遡ってまた帰ってくるみたいな……
MD:そうさ! これらの曲で物語を編むのはマジで大変だったんだよ! 正直に言うと当初の予定でははじめから終わりまでの流れはこうじゃなかったんだ。だけどアルバム制作が最終段階に入ってさ、マスタリングとミックス・ダウンをしているときに僕のベイビーが生まれたんだよ。僕は最後の手を加えて構成を形作った。
取材:倉本諒(2014年7月03日)