ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. 別冊ele-king 日本の大衆文化はなぜ「終末」を描くのか――漫画、アニメ、音楽に観る「世界の終わり」
  2. Bonna Pot ──アンダーグラウンドでもっとも信頼の厚いレイヴ、今年は西伊豆で
  3. Black Midi ──ブラック・ミディが解散、もしくは無期限の活動休止
  4. Neek ──ブリストルから、ヤング・エコーのニークが9年ぶりに来日
  5. Nídia & Valentina - Estradas | ニディア&ヴァレンティーナ
  6. アフタートーク 『Groove-Diggers presents - "Rare Groove" Goes Around : Lesson 1』
  7. Seefeel - Everything Squared | シーフィール
  8. 原 雅明
  9. Columns ノルウェーのオイヤ・フェスティヴァル 2024体験記(後編) Øya Festival 2024 / オイヤ・フェスティヴァル 2024
  10. ゲーム音楽はどこから来たのか――ゲームサウンドの歴史と構造
  11. ele-king cine series 誰かと日本映画の話をしてみたい
  12. Columns ノルウェーのオイヤ・フェスティヴァル 2024体験記(前編) Øya Festival 2024 / オイヤ・フェスティヴァル 2024
  13. interview with Conner Youngblood 心地いいスペースがあることは間違いなく重要です | コナー・ヤングブラッドが語る新作の背景
  14. Loren Connors & David Grubbs - Evening Air | ローレン・コナーズ、デイヴィッド・グラブス
  15. Gastr del Sol - We Have Dozens of Titles | ガスター・デル・ソル
  16. interview with Sonoko Inoue ブルーグラスであれば何でも好き  | 井上園子、デビュー・アルバムを語る
  17. Columns Nala Sinephro ナラ・シネフロの奏でるジャズはアンビエントとしての魅力も放っている
  18. John Carroll Kirby ──ジョン・キャロル・カービー、バンド・セットでの単独来日公演が決定
  19. Columns ノエル・ギャラガー問題 (そして彼が優れている理由)
  20. みんなのきもち ――アンビエントに特化したデイタイム・レイヴ〈Sommer Edition Vol.3〉が年始に開催

Home >  Interviews > interview with Hokuto Asami - フォーエバーヤング!

interview with Hokuto Asami

interview with Hokuto Asami

フォーエバーヤング!

──浅見北斗、ロング・インタヴュー

二木 信    Sep 30,2014 UP

 浅見北斗はいい男である。情熱的で、反抗的で、ファニーで、色気があり、自分が「かっこいい!」と感じたバンドやミュージシャン、音楽にすさまじい熱量の高さで対峙する。この、Have A Nice Day!というオルタナ・ロック・バンドのリーダーにして、〈SCUM PARK〉という東京のアンダーグラウンド・パーティの首謀者が、このインタヴューで「インディペンデント」「コミュニティ」「ムーヴメント」といった、これまでの人生で何百回目にし、耳にし、口にしてきたかわからない手垢のついた、ときとして空虚さをはらむことばを迷いなく発語するとき、それらのことばが瑞々しい生気を与えられ、キラキラと輝き出すように思えた。

 筆者は、〈SCUM PARK〉と、音楽クルー〈音楽前夜社〉の主宰者であり、そのクルーのメイン・バンド、GORO GOLOのリーダーであるスガナミユウが〈新宿ロフト〉で主催する入場無料パーティ〈歌舞伎町Forever Free!!!〉でHave A Nice Day!のライヴを何度か目撃している。ステージ上で汗だくの、意外にも筋肉隆々の浅見は、パンキッシュなニューウェーブ・サウンドに乗せて、「フォーエバーヤング!」という歌詞を、ダンスフロアで巻き起こるモッシュピットの渦にガソリンを注ぐようにくり返し放り込んでいた。

 パーティ全体のクラウドの熱狂とそれぞれの出演者の個性的なライヴの風景とともに、とくに筆者の脳裏に焼きついたのは、浅見の、クレイジーでありながらもクールなステージ・パフォーマンスだった。混沌とした集団のなかで、このヴォーカリストは静かに異彩を放ち、その姿は美しくもあった。そうか、あの踊りはゴリラステップというのか……。ともあれ、直感的に、「この男に話を訊いてみたい」と思い立ち、あるライヴ後、機会があればインタヴューをさせてほしいと依頼したのだった。筆者が、浅見が『FRESH EVIL DEAD』というコンピレーションの監修をしていると知ったのは、その数週間後である。


V.A.
Fresh Evil Dead

Pヴァイン

HardcoreJuke/FootworkElectronicPunk

Tower HMV Amazon

 ここで紹介する『FRESH EVIL DEAD』は、〈SCUM PARK〉、〈歌舞伎町Forever Free!!!〉、そしてそのふたつのパーティの起源となっている、ジューク/フットワークのパーティ〈SHIN-JUKE〉周辺のバンド、トラックメイカー、DJ、ラッパー、パフォーマーらの楽曲を集めたものだ。監修者は浅見とスガナミユウと、〈SHIN-JUKE〉の主催者という顔の他に〈オモチレコード〉のCEO/新宿ロフトの副店主という顔を持つ望月慎之輔である。

 『FRESH EVIL DEAD』には、現在の東京で、局地的に異様な熱気を帯びているアンダーグラウンド・パーティ・シーンの記録としての意味合いも付与されているものの、すべての収録曲が楽曲そのものとしてユニークでおもしろい。その詳細については、浅見がインタヴューのなかで、凄まじい情報量とともに酔狂に語ってくれている(この男は酒を飲まないのだが、それもまた興味深い)。このコンピは、浅見の情熱の結晶のようなものなのだろう。リンクをあれこれと貼りたい衝動にも駆られたが、濃密さが薄れると判断して、あえて最小限におさえた。この記事を読むみなさんは、独自にディグる方たちだと思う。

 前半はコンピの楽曲について、そして後半は、〈SCUM PARK〉を通じて浅見が考えるパーティやインディペンデント、コミュニティやムーヴメントとは何なのか? ということが浮き彫りになってくるようなグルーヴィーなトークとなった。スガナミユウも同席しておこなった、浅見北斗のロング・インタヴューをお送りしよう。

これまでの〈SCUM PARK〉フライヤー・デザインには、2010年以降のインターネット・アンダーグラウンドと、まさに“SCUM PARK”としか呼びようのない彼らのパーティのリアリティが象徴的に表れている。


われわれのシーンはべつに新しくはないし、新しい音楽をやっているわけでもないんです。だから、“新鮮な死霊のはらわた”というタイトルは“腐敗している新鮮な状態”という意味合いを込めてつけた。

やはり最初は『FRESH EVIL DEAD』の中身の話から訊いていきたいと思うんですけど、まず、このタイトルにしたのはなぜですか?

浅見北斗(以下、浅見):最初はタイトルにすげぇ悩んだんですけど、『死霊のはらわた』から取ったんですよ。われわれのシーンはべつに新しくはないし、新しい音楽をやっているわけでもないんです。いわゆる最先端なことをやっているとかではない。ジュークの人たちともやっているけれど、〈SCUM PARK〉そのものは新しくはなくて、だから、“新鮮な死霊のはらわた”というタイトルは“腐敗している新鮮な状態”という意味合いを込めてつけた。すげぇ矛盾してるんだけどね。それと、あの映画は、サム・ライミがインディペンデントで撮った映画というのもあった。さらには〈SCUM PARK〉に集まるクラウドやフロアを指してるタイトルでもあります。オール・ピーク・タイムな不死身のフロア。〈SCUM PARK〉は出演者だけじゃなくてそこに集まるクラウドが作る強烈な雰囲気がめちゃくちゃ重要なパーティーなんで。
 最初はいまの東京のベース・ミュージックとかオルタナのいちばん新しいものって感じでまとめようとしたんだけど、そんなことをわれわれがやって意味があるのかな? っていうのも若干あって、コンピがうまくいくかさえ不安だったんですよ。そういうことをやってる人たちは他にいるだろうし。最終的に〈SCUM PARK〉をそのまま音源化した格好になりましたね。〈SCUM PARK〉で人気のある曲を選んだりしました。

たとえば、NATURE DANGER GANG(以下NDG)の“BIG BOOTY BITCH”とかですか?

浅見:あの曲を俺たちは“デカケツ”って呼んでるんですけど(笑)。あとは、ハバナイ(Have A Nice Day!)の“フォーエバーヤング”。

“フォーエバーヤング”は〈SCUM PARK〉のアンサムでしょ!

浅見:アンサムでしょ! って(笑)。あとはチミドロの“わんにゃんパーク”とか、実際にそんなにライヴでやったりはしないけど、Gnyonpixの“Dive to The Bass (remix) feat. Y.I.M & Have a Nice Day!”とかね。昨年、〈オモチレコード〉でGnyonpixがCDを出すときに、俺とGnyonpixでボーナス・トラックをつけようってなって、ラップのところだけY.I.Mにやってもらった。リリースしたとき、わりかし評判がよかったし。

ということは、既発曲がかなりある?

浅見:既発曲がかなり多い。新しく曲をちょうだいって言ってもらったのは、Glocal PussysとHarley&Quinかな。あとはRAP BRAINS。RAP BRAINSは彼らの大量にある未発表曲のなかから選んだ感じだけど。だから、〈SCUM PARK〉とか〈SHIN-JUKE〉に遊び来ていて、音源もチェックしている人は知ってる曲が多いと思う。Bandcampやフリーで落とせるヤツもたくさんあるから。チミドロの“わんにゃんパーク”はフリーで落とせるし、いくつかそういう曲がある。要するにマスターピースを集めたんですよ(キリッとした表情で)。

おおおぉ。

浅見:みんなが知っている「あの曲ね」っていう曲のなかでも、「俺がこの曲がほしい」って曲を集めてる。だから、みんなの印象はそれぞれ違うかもしれないけど、このコンピのトラックリストが出たときに、よく遊びに来ている人は、「これはわれわれのアンセムだ」って言ってくれたし、俺もそういうつもりで作った。

スガナミさんはコンピの制作に関して、ディレクションをしました?

スガナミユウ(以下、スガナミ):基本、浅見さんに一任しましたね。相談や微調整はしたけど、決めるのは浅見さん。監修者が3人いるんで、マインドはひとりが持っていないと力強さが出ないと思った。

このコンピでジュークがひとつの要になってますよね。異なるジャンルを結びつける重要な媒体になっているというか。

浅見:NDGの“Legacy Horns (JINNIKUMAN JUKE EDIT)”とかね。この曲はシカゴのDJ Torchのアルバム(『Legacy Horn EP』)を〈Booty Tune〉が出すときに、D.J.APRILがNDGにリミックスを依頼したんですよ。完成したのを聴いたら、ラップまで乗っかっていたというね(笑)。リミックスって普通、歌までは乗っけないでしょ! それをヤツらは勝手にラップまで乗っけてきたんだけど、DJ Torchのアルバムに入って無事にリリースされた。

よく遊びに来ている人は、「これはわれわれのアンセムだ」って言ってくれたし、俺もそういうつもりで作った。(浅見)

監修者が3人いるんで、マインドはひとりが持っていないと力強さが出ないと思った。(スガナミ)

すごいいい話じゃないですか。Have A Nice Day!(以下ハバナイ)の“Kill Me Tonight Remix (Feat. EQ Why)”もジュークですね。

浅見:そう!! これについてはぜひここで語りたい!!

思いっきり語ってください!

浅見:EQはシカゴのヤツで、トラックスマンの弟子かRP・ブーの弟子でさ。

『Bangs & Works vol.2』にも彼の曲が3曲収録されてますよね。

浅見:そう。そのときはたしかT-Whyって名義だった。ヤツはトラックスマンの次世代として期待されていたんだけど、TEKLIFEクルーのなかでいろいろあったらしく。よくわからないけど、なにか問題を起こして、鼻つまみ者になったらしいの。まあそれはいいんだけど、要はシカゴのローカルの若手みたいなヤツで、俺もEQの存在は知ってた。で、俺は去年の4月か5月に“Kill Me Tonight”の原曲をSoundCloudにアップしたんですよ。そうしたら、すんげぇ評判が悪かった。メンバーから、「ぜんぜんこの曲よくない」って言われて。みんなはいつも、俺が曲を作ると、だいたい持ち上げてくれるんだけど、そのときは誰も持ち上げてくれなくて。

それはショックだ。

浅見:そうしたら、EQが「この曲いいね! データちょうだい!」って、SoundCloud上でコンタクトしてきて。日本人が誰も反応してくれないのに、シカゴのヤツが反応してくれて、「マジかよ!」って、すげぇうれしくなって。それで、「データをあげるから、リミックスしてくれ」って頼んだら、最初は「リミックスすると金がかかるけど、大丈夫か?」って感じだったんだけど、なんやかんやで作ってくれた。タダで。

そのやり取りは、お互いを直接知らない状態で、誰かを介してとかでもなくおこなわれたんですか?

浅見:そう! だから、シカゴのフットワークと東京が邂逅したんだって、すっげぇ感動した。EQがなにに反応したのかはわからないけど……、「Kill Me Tonight」ってフレーズに反応したのかな。

これはなかなかキザなフレーズですねぇ。

浅見:「今夜、俺を殺せ!」ってことなんだけどね。

わかります(笑)。

浅見:アルファベッツに“今夜殺せ”って曲がありますけどね。「今夜殺せ/鳥の餌になれ」ってね。まあ、そこから来たわけではないけどね。

で、GORO GOLO の“SUMMER HITS Boogie Mann Remix” には、ジュークの日本独自のポップな展開というか、多様性を感じますよね。

浅見:この曲をリミックスした Boogie Mannは〈SHINKARON〉っていう横浜のジュークのレーベルのトラックメイカーで、〈SHINKARON〉にはFRUITYってヤツもいて、みんな若くて、お洒落で、生意気(笑)。FRUITYに“フォーエバーヤング”のリミックスを作ってもらったんだけど、ほら、リミックスって原曲を超えてなくて、「原曲のほうがいいじゃん」っていうのが多々あるけど、そのリミックスはちがった。FRUITYはバランス感覚が良くて、優秀なんですよ。〈SHINKARON〉ってみんな優秀なのよ。キャッチーなところを残して、ポップ・ミュージックとして楽しめるラインで上手いことできる。ジュークのなかの若い世代で、そういうことが自然にできる人たちだね。

取材:二木信(2014年9月30日)

12345

Profile

二木 信二木 信/Shin Futatsugi
1981年生まれ。音楽ライター。共編著に『素人の乱』、共著に『ゼロ年代の音楽』(共に河出書房新社)など。2013年、ゼロ年代以降の日本のヒップホップ/ラップをドキュメントした単行本『しくじるなよ、ルーディ』を刊行。漢 a.k.a. GAMI著『ヒップホップ・ドリーム』(河出書房新社/2015年)の企画・構成を担当。

INTERVIEWS