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interview with Hot Chip (Alexis Taylor, Felix Martin)

interview with Hot Chip (Alexis Taylor, Felix Martin)

僕たちを、もっといいものと取り換えなよ!

──ホット・チップ(アレクシス・テイラー&フィリックス・マーティン)、インタヴュー

斎藤辰也    電話取材:箱崎ひかり(フェリックス・マーティン)   Jun 24,2015 UP

Hot Chip
Why Make Sense?

Domino / ホステス

Electro-popIndie Rock

Tower HMV Amazon iTunes

 考えすぎてるよね、「意味が必要かい?」なんてタイトル。「僕たちよりいいものと取り換えなよ」とか「燃え尽きる」とか――結成からおよそ15年が経つバンドにそんな穏やかでない言葉を明るく歌われると、ファンとしてはちょっと……。だけど、悩む大人の男たちの姿はちょっとセクシーかもしれない。バンドのいじけたような態度は前作のたくましさの裏返しのようにも思われる。デビューのころに漂わせていた「負けている」意識がアルバムに通底しているとも感じるが、その感覚と、ボーナス・ディスクの“バーニング・アップ”で、放送禁止用語がデビュー作以来ひさびさに(しかもサラッと)歌われていることとは無関係じゃないだろう。一時はキッズを騒がせたポップ・スターも30代半ばにさしかかって、これ以上バンドをどうしていいかわからない、ちょっとムシャクシャしてたってことだろう。自信たっぷりに振る舞っているようにみえて、じつのところ頭の中(In Our Heads)は、悩み(Why Make Sense?)でいっぱいだったと。タイトルは自分たち自身の「意味」を求めて悩んだことを暗に示している。

 前作『イン・アワ・ヘッズ』のアグレッシヴさ(逞しさ)は影を潜め、今作『ワイ・メイク・センス?』のサウンドはバンド史上もっともソフト、スムース、スウィート。仕事で疲れている人間にもやさしい。セカンドのころを思わせるシンセ使いの“クライ・フォー・ユー”や、スティーヴィー・ワンダー節の効いた“スターテッド・ライト(Started Right)”、可愛らしいベース・ラインとモリッシーの曲へのオマージュっぽい歌詞が印象的な“イージー・トゥ・ゲット”。この3曲のファンキーさと無邪気さを聴いて、いっしょに歌っていると心が軽くなる。とはいえ、白眉は冷たくシリアスな“ニード・ユー・ナウ(Need You Now)”――この曲がアルバム最大の聴きどころ。冷たい世界の中で、小さく震える心。ホット・チップの名曲には、いつもそんな心の震えが描かれているように思う。高揚とも焦燥ともつかないアップテンポなビートと、その上を滑るように歌うアレクシスの不安げな声。ホット・チップの持ち味は、この穏やかでない心の「震え」を捉えていることだと僕は思う。

 バンドを後ろから支えてきたフィリックス、バンドの前に立って歌ってきたアレクシス。フィリックスがおおらかにバンドのことを見つめていて安心したので、アレクシスにはもっとパーソナルな音楽との関係について訊ねた。

■Hot Chip / ホット・チップ
ロンドンを拠点に活動する5人組エレクトロ・ポップ・バンド。2000年の結成以降、自主でリリースした「メキシコEP」等が注目され、2004年のデビュー・アルバム『カミング・オン・ストロング』の成功によって世界的な存在へとステージを上げる。これまでに5枚のアルバムをリリース。〈フジロック'10〉でのパフォーマンスなど、ライヴでの評価も高い。曲作りのメインとしてバンドを牽引するのは、アレクシスとシンセのジョー・ゴッダート。今回インタヴューに応じてくれたのは、ヴォーカルのアレクシス・テイラーと、ドラムマシンのフェリックス・マーティンだ。メンバーがそれぞれ活発にソロ活動も行っている。

フィリックス編!

「己であれ」(Be what you are)
──Hot Chip “Why Make Sense?”(2015)

ひさびさの新譜でしたね。時間がかかった理由は何でしょう?

フィリックス:そうだね、僕らはいままでだいたい2年ごとのペースでアルバムを出しつづけてきたから、今回は普段より長い時間がかかったと言えると思う。理由はたぶん、『イン・アワ・ヘッズ』の世界ツアーを2年やったから、ツアーが終わった頃には疲れきっていて、次のアルバムのための曲もできていなかったからかな。アルバムを作るのには大抵1年くらいかかるからね。それと、僕らはそれぞれの別プロジェクトに集中する時間がほしかったっていうのもあるよ。僕のバンド、ニュー・ビルドや、ジョーのツー・ベアーズとかもあって、忙しかったのさ。

前作から3年経ちました。おっしゃるように各メンバーのソロが活発でしたし、メンバーも多くなったりなど、モチヴェーションというところでホット・チップとしての録音や活動は以前と変わりましたか?

フィリックス:メンバー? ああ、ロブは10年くらい前からときどき関わっていたけど、ドラムのサラ・ジョーンズは新しく加わったメンバーと言えるかな。そうだね、ある程度変化していると言えるんじゃないかな……たとえばアル・ドイルの作詞やソングライティング面での影響力が大きくなったし、バンドのサウンドにもバンドの変化が表れていると思う。でもそれはホット・チップのこれまでのアルバムにも言えることだよ。僕らはいつもバンドの外で他のプロジェクトをやって、そこからのインスピレーションをまたバンドに持ち帰ってくるんだ。

デ・ラ・ソウルを迎えることになった経緯、録音の様子を教えてください。また、なぜ他の曲ではなく“ラヴ・イズ・ザ・フューチャー”を歌ってもらったのでしょう?

フィリックス:たしかジョーが最初にそのアイデアを思いついたんだ。なにかこれまでのアルバムでやっていない新しいことをしてみたくてさ。それで僕らのレーベルに、彼(ポス)に連絡してもらうように頼んでみたら、彼からいいよって返事がきた。あの曲にした理由は、んー……あの曲がいちばんわかりやすくヒップホップっぽいビートだったし、テンポもちょうどよかったからかな。全体の雰囲気がぴったりだったんだ。他の曲でもよかったんだけど、ポストゥノゥスとのコラボレーションにはあれがしっくりきた。

スクリッティ・ポリッティもアレクシスさんたちと同様、優れたソングライターですね。どんなところに共感しますか? またどの作品が好きですか?

フィリックス:スクリッティ・ポリッティが好きなのはおもにアレクシスだから、僕にはちょっと答えにくい質問だけど……彼はかなりアヴァンギャルドなバックグラウンドからきていて、ちょっと変わった人なんだけど、それでいてメインストリーム・ポップの位置にいるから、僕らは彼に一種のつながりを感じるんだ。かなり非凡で、エキセントリックなイギリス人アーティストだよ……いや、正確に言うとウェールズ人か。

どんなかたちのアートであれ、いいアートっていうのにはユーモアと真面目さは混ざり合って共存しているものだと思うけど、僕らの音楽もそれと同じことだよ。

毎作、洒落た皮肉が隠されていますが、今作最大の皮肉は?

フィリックス:もちろん僕らはいきなり大マジメになったりしたわけじゃないし、今回のアルバムにもたくさん茶目っ気やふざけた要素が入っていると思う、いつも通りにね。でも、皮肉っていうのはどうだろう……。正直、僕らがどういうふうに皮肉と関わってきたかよく分からないな。皮肉っていうと、何かを笑ったり、笑いものにするために何かを引っ張り出してきたり、あるいは自分のやっていることに対して真剣じゃなかったりっていうことを想像する人が多いよね。僕らは遊び心を持っているし、自分たち自身についてそんなにしかつめらしく構えているわけじゃないけど、特別に皮肉っぽいわけでもないと思う。すべてジョークのつもりでやってるわけでもないし。どんなかたちのアートであれ、いいアートっていうのにはユーモアと真面目さは混ざり合って共存しているものだと思うけど、僕らの音楽もそれと同じことだよ。

バンド中、いちばんファンクに影響を受けているのは誰ですか?

フィリックス:たぶんいちばんはアレクシスかな、昔からプリンスやスティーヴィ・ワンダーがすごく好きで、彼らがアレクシスにとっての主なインスピレーション源になっていると思うから。

あなたがたは、無理に若づくりすることもなく、また枯れることもなく、自然に音楽をつくっているように思います。人気バンドとしてのプレッシャーもあるかとは思いますが、どうしてそのようにいられるのでしょう?

フィリックス:人気の点では、僕らはとてもラッキーなことに、一気にブレイクしたりせず、かなりゆっくり堅実に成長してきたから、それをプレッシャーに感じたことはないよ。僕らの音楽を聴いてくれる人たちがいるっていうことにとても感謝しているんだ、それって当たり前のものではけっしてないからさ。だから、それに圧倒されたり、それが音楽を作るうえで障害になったことはないし、むしろ作ったものを聴いてくれる人たちがいるっていうことはエキサイティングだよ。それに僕らはただ自分自身に正直でいて、なにか本来の自分たちとはちがうイメージを作ったりしたことはないから、そのおかげで若さをキープしようと苦労したりすることもなくすんでいるよ。でも僕らもまだ30代前半から半ばくらいで、まだ年金暮らししているわけでもないし、あと数年は時代遅れにならずにいられるんじゃないかな。

僕らはただ自分自身に正直でいて、なにか本来の自分たちとはちがうイメージを作ったりしたことはないから、そのおかげで若さをキープしようと苦労したりすることもなくすんでいるよ。

「あと数年」?

フィリックス:ははは、いや、ずっとおもしろいことをやりつづけられるアーティストやミュージシャンもたくさんいるし、要はいい音楽を作れるかどうかってことさ。僕の個人的な気持ちとしては、前回の『イン・アワ・ヘッズ』と今回のアルバムは僕らが作った中で最高の作品だと思うから、もしも僕らがこのままおもしろい音楽を作りつづけられるならずっと続けていくと思うし、そうしたら人々にはそれに付きあってもらうことになるね(笑)。

ジミー・ダグラスとの仕事の様子やエピソードを教えてください。

フィリックス:ジミーとの仕事は直接対面でのやりとりはまったくなかったんだ。僕らが彼にトラックを送って、彼がひとりでミックスをしたから、会うことはできなかったよ。でもその成果には僕らみんなとても満足している。

2枚組になった理由は?

フィリックス:正直そのへんについて僕はよく知らないんだ。でも、アートワークについては前回もアルバムのジャケットになった写真を手がけてくれたニック・レルフとのコラボレーションだよ。今回は、誰もが自分だけの色やデザインを持つことがコンセプトになっているんだ。アルバムを買う人みんなが所有する楽しみを感じられるようにしたくてさ。

ホット・チップからダンス・ビートがなくなることはありますか?

フィリックス:うーん……(しばらく考える)、アレクシスはこれまでに自分のソロ名義でいっさいダンスミュージックと関わりのない音楽を何度かリリースしていると思うけど、ホット・チップはこれからもずっとダンス・ミュージックとの何かしらの関わりは持ちつづけると思うよ。僕らのやっていることに欠かせない要素だからね。次のアルバムがいきなり『ホット・チップ アンプラグド』になって、僕らがウクレレを爪弾いてる、なんていうのは想像できないな。ダンスっていうテーマは維持しつづけると思う。

タイトルは誰の提案ですか?

フィリックス:タイトルはもともと曲の歌詞の中で生まれてきたんだ、だから提案というか思いついたのはアレクシスさ。

また、タイトルの問いかけに対するあなたの答えは?

フィリックス:はははは(笑)。あれは、答えがない質問なんじゃないかな。あれが指しているのは、「make senseする(意味を成す、つじつまが合う)必要なんてあるのか?」、「どうして僕らは自分たちのやっていることが道理にかなっていないといけない、と感じてしまうのか?」、「ただ楽しもう、馬鹿なことをしようよ」っていうことだからさ。

いまのロンドンのクラブはどんな様子ですか?

フィリックス:いまのロンドンのクラブ・シーンは、サウンドも多様だし、すごく刺激的でおもしろいDJたちもたくさんいる。行くべきところさえわかっていれば、まだまだイノベーションは起こっているしコミュニティも健在なんだ。ただ、〈プラスティック・ピープル〉が閉店してしまうのは残念だね。僕らにとっても、他のいろいろなアーティストにとっても重要な場所だったから残念だけど、きっとまた新しくおもしろいものが生まれてくると思う。最近たくさんの新しい規制ができて、クラブの運営が難しくなっているんだ。売春やドラッグの取引がクラブ内であったらその責任も負わなきゃならないし、プロモーターやクラブのオーナーにとっては厳しいビジネスだよ。

スリーフォード・モッズはご存知ですか? 差し支えがなければ教えてください。彼らの音楽をどう思いますか?

フィリックス:ああうん、知っているよ。彼らはポストパンク/ヒップホップみたいな感じのバンドで、あまり他にはないサウンドを持っているよね。要はかなりクレイジーなサウンドだけど、彼らは他の人がどう思うかは気にしないみたいだ(笑)。けっこうパンクで、現代のイギリスでの生活がいかに腐ってるかみたいなことを、放送禁止用語満載で歌っててさ。彼らはクールだよ、とても頭が良い人たちなんだと思うな。

今回僕らはいままでにないほど時間をかけて、納得のいくサウンドを追求したし、僕にとってはこのアルバムは僕らがいままでに作ったなかで最高のアルバムだと思っているから、満足しているといえるね。

フェリックスはテクノやハウスがお好きだと思いますが、チープなサウンドだった初期から比べ、ホット・チップはどんどんバンド・サウンドが強くなっています。今回のアルバムについて、フェリックスとしてはサウンド面で満足していますか?
じつはもっと別のアイディアがあったりしませんか?

フィリックス:うーん、そのとおり僕はテクノやハウスが好きだけど、もともとそういう音楽がバンド自体にとってすごく大きな影響を与えているわけではないんだ。ライヴのときにはよりダンスっぽい面が出てくるかもしれないけど。ただジョーやアレクシスにとっても、昔のハウスはこれまでずっとインスピレーションになっていたと思うけど、今回彼らはテクノやハウスよりも、自分たちのルーツであるヒップホップやR&Bに戻りたかったんだ。サウンド面についていえば、今回僕らはいままでにないほど時間をかけて、納得のいくサウンドを追求したし、僕にとってはこのアルバムは僕らがいままでに作ったなかで最高のアルバムだと思っているから、満足しているといえるね。

ニュー・ビルドはフェリックスが舵を切っているバンドかと思いますが、次作の構想はありますか?

フィリックス:いろいろとプランはあるよ。いちばん最近は僕らの曲“プア・イット・オン(Pour It On)”のビデオを作ったんだけど、とても気に入っている。だからちょうどそこでいったんピリオドを打って、しばらく休みをとるいいタイミングになったんだ。でも僕とアルはスタジオを共有していて、いつも次のニュー・ビルドのアルバムがどんな音になるかについて話をしているよ。ある程度、自分たちを新しく作り替えるようなものになると思う、これまでとはちがったサウンドや、いままでやったことのないことに挑戦したいんだ。次のアルバムができるまでに時間はかかるかもしれないけど、まちがいなく活動を続けてはいく予定だよ。僕らはまだ自分たちがどんなバンドなのかはっきり定まってはいないと思うから、まだ具体的にどうやるかはわからないけど、いったん白紙に戻して新しいことをやるつもりさ。

今後のフェリックス自身の野望を教えてください

フィリックス:野望か……答えるのが難しいな、僕は音楽においては自分が想像したよりもはるか先に到達してしまった感じがするから、そんなに野望っていうものはないような気がする。何かちがうことをしたいなとは思っているし、作曲をしてみたり、音楽以外のこともやってみたいと思っているよ、僕個人的に思っているだけだけどね。ホット・チップとしては、おもしろい音楽を作って世界中を旅しつづけられるといいな。それって素晴らしいことだし、それ以上に望めることなんてそんなにたくさんないよ。いまもツアーをしているし、日本でのショウはまだ何も具体的に決まっていないけど、決まるといいな。できるとしたら、今年の終わりか来年のはじめになると思う。

質問作成・文:齋藤辰也(2015年6月24日)

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Profile

斎藤辰也/Tatsuya Saito斎藤辰也/Tatsuya Saito
破られたベルリンの壁の粉屑に乗って東京に着陸し、生誕。小4でラルク・アン・シエルに熱狂し、5年生でビートルズに出会い、感動のあまり西新宿のブート街に繰り出す。中2でエミネムに共鳴し、ラップにのめり込む。現在は〈ホット・チップくん〉としてホット・チップをストーキングする毎日。ロック的に由緒正しき明治学院大学のサークル〈現代音楽研究会〉出身。ラップ・グループ〈パブリック娘。〉のMCとKYとドラム担当。

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